2003 年 51 巻 2 号 p. 154-164
本研究の目的は, 幼児の知的リアリズム描画に関する理論を検討することである。視点係留説 (Ingram, 1985) に基づくと, 幼児が対象の部分的に遮蔽された面から描き始めると, そこが正面となるように視点を係留する結果, そこから見える他の遮蔽部位も描画することになる。その場合, 知的リアリズム描画は, 可視面から描き始めた場合よりも現われやすいと予想される。一方, 対象の典型的見え (Freeman, 1980) や既知情報を他者に伝える傾向 (情報伝達説, 例えば田口, 2001) は視点の影響を受けるとは仮定されていないので, 知的リアリズム描画の生起比率はどこから描き始めても同程度になるはずである。そこで, 幼児を部分的に遮蔽された面から描く遮蔽面条件 (18名, 平均5歳8ヶ月) と可視面条件 (19名, 平均5歳8ヶ月) に割り当てた。実験の結果, 知的リアリズム描画の生起比率は遮蔽面条件の方が有意に大きく, 視点係留説の有効性が示唆された。