教育心理学研究
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鈴木・ビネー知能検査の地域差による検討
都市と農村の児童の知的発達の比較を中心とし
江川 亮
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1969 年 6 巻 1 号 p. 28-40,63

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抄録

1都市と農村の児童群 (各群とも小学校4年から中学校3年まで各学年25名) に鈴木治太郎氏の「実際的個別的知能測定法」を実施しその両群の比較を学年別に得点でみると, いずれの学年も都市群が優れ, 農村群が劣るのを明らかに認めることができる。この得点という全体的な表示での比較差異は, いわば量的な差異といえる。
2項目の通過・非通過を検討することによつて両群各々の心的な機能を明らかにすることから, この検査での上の量的な差異の妥当性を吟味しようとするのが本研究の目的である。量に対する質の検討ということができよう。手続きは両群から39点から57点の間に分布する得点者を抽出し, 得点間隔3点で7段階に区分し, 群別段階別に標本を集めた. 検討の結果, 各段階ともいずれの項目, あるいはいずれの項目類型にも両群間に明らかな差異が認められず, また両群の項目通過の相関もきわめて高い値を示した。なお通過率の上昇, 相関傾向等によつてこの検査の両群における内的整合度の高いことを知ることができた。最終通過項目が同一の標本で集めた場合も結果は同様であつた。
3上の結果より各群の特定の心的な機能の差異は, a項目群, b項目群と名付けた二類型にやや見出されるといえるにすぎなく, 明確な差異傾向を示すことができなかつた。
4したがつてこめ検査では, 得点をいわゆる知能の全体的な表示とするとき, その同一水準は心的な機能のそれをも規定できるということを推論でき, 得点の低位は, 量とともに質のそれをも記述しうることを明らかにすることができる。5以上から, この検査は問題とその方法の見本が都市に偏することなく抽出されていて環境条件の相異する両児童群の共有の尺度としての信頼性をもつといえる。この見本性についての不安は標準化が都市中心であることに帰せられ, 多くの検査と同様にこの検査について注意を要する点として指摘されていた。
6都市農村の分類は, 二つの環境類型化であつて, それら各々を構成する特殊的因子を捨象したいわば平均的な類型化である。著者はその特殊的因子, すなわちそれぞれの地域社会における階層類型 (29類型) を見出し, それらに帰属する児童がいかなる精神発達の段階秩序をもつか, あるいはまたそれらの段階秩序が都市から農村への移行的連続の過渡形態としていかなる類型をその間に挿入しうるかという検討を通じ, それら知能の差を生ぜしめる環境的要因の考察を試みようとした。そして「生活の差を, その生産手段の所有状態, 労働力の存在形態の差異」 (6) でとらえ, それにGoodenough (2) の分類を加味した階層類型と, この検査で測定される知能はきわめて密接に (F0=6.72) 関係するのを見出すことができた。以上における分析の詳細は省略するが, この類型化も公式的形式的類型であるというそしりをまぬかれえない。量を規定する質, その質を制約している枠組すなわち環境的要因を見出すという一連の研究がなされなければ, なんら教育の実践に貢献するものになりえないと思う。その直接的実質的な環境要因を明らかにすること, そこに心理学における階層化の目的が存すると思うが, 隣接諸科学の知見の組識的な協力をえて心理学的に抽象される環境類型が把握されなければならないと思う。

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© 日本教育心理学会
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