教育心理学研究
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幼児における不定数量語の意味の測定I
隈江 月晴
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1969 年 8 巻 2 号 p. 106-111,134

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抄録

従前め諸方法とちがつた, 新らしい方法を採用することによつて, 就学前幼児を被験者としての意味測定を試みた。従来用いられていた意味測定法の幼児への適用がほとんど困難であるのに対して, この方法では, ある一定数のオハジキの入つた容器の中から「多く」, 「少なく」etc.取り出すという手続きの簡易さのゆえに, かかる幼児にも十分適用できるという長所をもち, しかも質問紙法などとちがい, 行動を通して, 操作的に意味を決定するという点に意義がある。
容器内のバッノグランド数としては100,200,300の場合が取上げられ, 刺激語には「非常に多い」, 「多い」, 「多くも少なくもない」, 「少ない」, 「非常に少ない」の5語, 実際のテストには生活年令4才, 5才, 6才の幼稚園児各30名, 計90名が被験者として用いられた。この実験の主要な問題はバックグランド数, 刺激語, 年令の3条件のそれぞれの変化によつて得点 (取り出された数) にどのような変化がみられるかということである。
結果ならびに考察から次の諸点が結論された。
1) 幼児においてはこれらの語の意味は必らずしも非多〉多〉多少〉少〉非少の順に受取られるとは限らない。しかし「多い」の意味と「少ない」の意味とは反対の意味をもつた語として彼等にも正しく受取られていると認められる。「多くも少なくもない」は幼児にとつて親しい語ではないが, この語の意味も正しく受取られていると思われる。
2) 一般的にいうならば, バックグランド数の増大とともに得点も増加する。しかし個々の年令別にいえば, バヅクグランド数が増加しても, その増加の効果は5つの刺激語すべてを通じて等しくはない。すなわち「非常に多い」, 「多い」, 「多くも少なくもない」の場合にのみ得点増加がみられる。しかして一方の2倍, 3倍の増加に対し, 得点増加はそれに正比例はせず, さらにまた, とり出された数の, バックグランド数に対する比率からいえば, 同一語に対する得点の比率はいずれの刺激語にあつても, バックグランド数の増大とともに顕著に低下する。
3) 被験者の得点の順位はバックグランド数および刺激語を通じて変わらない。
4) すべての幼児について「非常に多い」, 「多い」および「多くも少なくもない」の得点が極めて低い。しかし年令とともにそれらの得点も高くなる傾向がある。これらのことは, 少なくとも幼児においては, 定数概念の発達と不定数概念の発達との密接な関係を暗示する。
5) 他の条件が等しいならば, 「非常に多い」と「多い」, 「非常に少ない」と「少ない」の場合を除き, 各刺激語の意味のあいだが年令とともに分化していく。
6) 「非常に」なる副詞は, よしそれが幼児にとつて意味をもつものであるにしても, それは極めて弱い程度の意味しかもつていない。

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© 日本教育心理学会
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