1999 年 81 巻 3 号 p. 169-177
岩手県鴬宿地方のミズナラーヒバ林におけるヒバ稚樹の伏条繁殖クランプの出現状態とその更新パターンについて,アイソザイム変異をもとに検討した。変異分析は5酵素種6遺伝子座によりなされ,全サンプルを通じて66種類のMLG(multilocus genotype)を得た。尾根部の稚樹のMLGグループでは,同一MLGの稚樹がランダム分布するグループと集中分布するグループがあった。斜面部では,同一MLGの稚樹が集中分布するグループがほとんどすべてであり,伏条繁殖クランプが分布の単位になっていると考えた。斜面部の立木についても,同一MLGの立木が数本ずつまとまって分布するグループが多かった。しかし,同一MLGの立木と稚樹との間には,明らかな分布重なり合いは認められなかった。これらの結果から,斜面部林分でのヒバの更新には伏条繁殖クランプが大きく関与したことは明らかで,更新過程ではクランプ内のごく小数の稚樹が立木へと成長し残りはすべて枯死するパターンが多かったと考えた。