ジャーナル「集団力学」
Online ISSN : 2185-4718
ISSN-L : 2185-4718
日本語論文(英語抄録付)
「高齢期」の喪失
政府世論調査のテキスト分析から
竹内 みちる
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2010 年 27 巻 p. 158-174

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抄録

 いつまでも老いることのない高齢者----「何歳になっても現役」というように、往年と変わらぬ存在としての高齢者。その一方、寝たきりの高齢者。周りの人にケアしてもらわなければ、明日をも生きられない高齢者。我々の持つ高齢者に対するイメージは、現在、この2つに分極化している。我々は、いつから、このような単純で貧困なイメージしかもてなくなったのだろうか。現実の高齢者は、より多様で固有の生を生きているのではないだろうか。本研究は、上記のようなパターン化した「高齢者」の意味を再検討し、そこに欠落している可能的意味を探ろうとするものである。さらに言えば、かつては存在したにもかかわらず、ここ半世紀の中で消滅した「高齢者」の意味を再発見し、その現代的意義を考察しようとするものである。
 本研究の方法的特徴は、政府機関が実施した世論調査の質問票をテキスト分析の俎上に載せた点にある。特に、本稿の中で扱った世論調査の内でも、1954年の世論調査は、高齢化が注目を浴びるはるか以前、高齢者が政策的課題として本格的に組み込まれる以前に実施されたものであり、極めて重要な分析対象である。
 本稿では、まず、本研究の目的と方法を述べた上で、上記の1954年調査を分析し、それ以降急速に消滅していった「高齢者」概念を指摘した。すなわち、1954年の世論調査では、高齢者は、他の世代とは異なり、「自らの来たりこし道を振り返り、来たるべき死を直視する」存在であったことを指摘した。次に、その概念が、いかなる「高齢者」概念によって代替されたのかを、同じく高齢者を調査対象とした1960年代以降の調査票を分析しながら明らかにした。最後に、より積極的に、「来たりこし道をふりかえり、死を直視する」高齢期を再発見することの現代的意義について論じた。

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© 2010 財団法人 集団力学研究所
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