抄録
認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する薬物療法について述べた。薬物療法を施行する前に,BPSDの多くは非薬物療法で改善するため,まずは非薬物療法を十分に行うことが重要である。その結果,改善が得られない場合に薬物療法が行われる。薬物療法では安全性への配慮が最も大切であり,副作用によって認知機能や身体機能の低下を来さぬよう注意する。本稿では,うつ,アパシー,幻覚,妄想,興奮,易刺激性,せん妄などの薬物療法についても例示した。アルツハイマー型認知症の治療薬であるドネペジルは,認知機能改善のみならず,BPSDのいくつかの症状に対しても効果を認める。したがってBPSDに対して薬剤を追加する前に,まずドネペジルの効果を評価する。また抗精神病薬を使用する前に,代替治療薬の可能性を検討することも有用である。特に漢方薬はBPSDに対する有力な選択肢の一つである。
薬物療法が奏効すると,患者と家族の心理的苦痛を軽減し,家族関係の改善ももたらす。したがって安全に配慮した適切な薬物療法は認知症の診療に有用といえる。