日本人の約半数ががんに罹患するが,がんは未だにストレスフルな体験であり,うつ病を合併すると生活の質がさらに低下する。近年の研究手法の発達に伴い,うつ病の病態が明らかとなりつつある。しかし,がんおよびその治療と関連するうつ病の病態に,身体的に健康なうつ病患者から得られる知見が適応できるとは限らない。実際,身体的に健康なうつ病患者で報告されている炎症やω-3不飽和脂肪酸,脳由来神経栄養因子といった生物学的マーカーは,がん患者のうつ病では関連が認められない。一方で,脳画像研究では,他のうつ病で認められた一部の知見が,がん患者のうつ病においても認められるものもある。がん患者のうつ病に限っても,がん種,病期,治療などさまざまな状況があるため,がん以外のうつ病で得られた知見と比較しながら,それぞれの状況におけるがん患者のうつ病の病態研究を進める必要がある。