総合病院精神医学
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総説
がん生存者のPTSDに関する海馬の神経画像
松岡 豊
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2015 年 27 巻 1 号 p. 8-12

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抄録

筆者らが実施してきたがん生存者のPTSDに関する神経画像研究の成果をまとめた。がん治療後3 年以上経過した乳がん生存者のうち,侵入症状を経験したものは,それを経験しなかったものに比して,左海馬が小さいこと,左扁桃体体積が小さいことを報告した。がん罹患前に神経画像検査を実施し,がん罹患後に精神症状を評価すれば,脳体積と侵入的な想起の関連についての因果関係は確認できるが,非現実的である。そこで,健常成人女性を対象に脳体積と情動記憶との関連を検討したところ,左海馬体積が小さいほど情動記憶が多く想起されることを見出した。これより,侵入症状を経験したがん生存者の小さな海馬は,がん罹患前に存在していた脆弱性因子である可能性が示唆された。しかし,透明中核腔の頻度には差を認めなかったことから胎生期の神経発達障害の可能性は否定的された。次にがん治療後3 〜15カ月の乳がん生存者を対象にした新たな研究を実施し,PTSDと脳体積の関連をVoxel-based morphometryにより検討した。PTSD群は非PTSD群および健常群に比して,恐怖条件付けや情動的想起の消去に関与する右側眼窩前頭前野が小さいことを見出した。またPTSD群のみ侵入症状と海馬体積が負の相関を示した。神経画像がPTSDの診たてやケアにすぐに貢献するわけではないが,これらの特徴を頭に入れておくと,精神的苦痛の病態理解や新たな介入発案に役立つかもしれない。

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© 2015 一般社団法人 日本総合病院精神医学会
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