2020 年 32 巻 2 号 p. 135-143
わが国の慢性腎臓病患者は1330万人ともいわれ,透析ならびに腎移植を意味する腎代替療法を受ける患者は年々増加している。腎代替療法を行うことにより,大幅な生命予後の延長は期待できる。一方で,近年慢性腎臓病患者の高齢化や認知症患者の増加を背景として,包括的腎代替療法の必要性が再認識されてきた。慢性腎臓病患者の全人的苦痛への対処は,まず透析条件の見直しなどの身体的苦痛の緩和から行われるが,それでも不安や抑うつ・不眠などの精神心理的苦痛が残存する症例では,精神科医の関与が求められる。ただし,慢性腎臓病患者に対する向精神薬の使用に際しては,腎排泄型の薬剤を中心に十分な配慮が必要である。また,アドバンス・ケア・プランニングの観点から,腎代替療法の意思決定支援の場においても,精神科医に患者の同意能力に関しての意見を求められる事例が,今後ますます増加すると予想される。