抄録
症例は慢性C型肝炎の既往のある56歳の男性で,食道浸潤を伴う2型進行胃癌を指摘された.術前の肝機能評価はChild-PughスコアAであった.術前化学療法を施行後,左開胸開腹胃全摘,下部食道切除術を施行した.術後より著明な腹水貯留を認め,利尿剤にて制御困難なため,術後第43病日より第84病日まで計12回,腹水濾過濃縮再静注法を施行した.腹水の減少傾向を認めたが,依然排液を必要とする状態が続き,第88病日,腹腔—静脈シャント造設術(Denver® Ascites Shunt System)を施行した.腹部膨満は消失し,第98病日退院した.難治性腹水のquality of life改善のための治療には,腹水濾過濃縮再静注法,腹腔—静脈シャント術,経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術などがあるが,術後の難治性腹水に対し,腹腔—静脈シャント術を行った報告は少ない.術後難治性腹水に対しても,各治療法の適応,有害事象を理解し,適切な時期に適切な治療法を選択することが必要と考えられた.