2012 年 45 巻 2 号 p. 156-162
症例は67歳の男性で,2010年4月下旬黒色便を主訴に近医受診した.Hb 3.8g/dlと高度貧血を認め当院内科を紹介受診し,精査の結果十二指腸粘膜下腫瘍もしくは膵腫瘍十二指腸壁穿破が存在し,出血源であると考えられた.入院後も大量下血は続き,入院7日目に外科的加療目的に当科転科した.緊急血管造影を施行し,腫瘍が4本の膵十二指腸動脈と結腸間膜から血流を得ているのを確認し,4本すべての膵十二指腸動脈を塞栓し止血を得た.9日後,待機的に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.腫瘍は径7cmの内部壊死を伴う腫瘍で最終病理組織診断の結果,十二指腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)と診断された.十二指腸GISTはまれな疾患であるが,本症例は致死的な腫瘍出血に対し根治術前に選択的血管塞栓術を施行することによって安全に膵頭十二指腸切除術を施行しえた.