小腸に原発する扁平上皮癌は非常にまれな疾患であり,診断に苦慮することが多い.今回,我々は回腸原発扁平上皮癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は90歳の男性で,発熱と腹痛を主訴に受診し精査目的で入院となった.腹部造影CTで回盲部に壁肥厚を伴う腫瘤像と大動脈周囲リンパ節の腫大を認め,下部消化管内視鏡検査でも同部位に深い潰瘍を伴う亜全周性の腫瘍を認めた.大動脈周囲リンパ節転移を伴う回盲部の癌,または消化管穿孔のリスクを有する悪性リンパ腫を疑い,回盲部切除術を施行した.開腹すると腫瘍は回盲部を主座に周囲臓器を巻き込んで存在しており,それらを一括して切除した.腫瘍はバウヒン弁から回腸側に潰瘍限局型の腫瘍として認められ,病理組織学的検査所見より中分化から低分化型の回腸原発扁平上皮癌と診断された.第18病日に退院となったが,術後約10か月目に大動脈周囲のリンパ節の増大と下大静脈への浸潤を認め,術後12か月目に死亡した.