症例は66歳の男性で,2週間前からの吐き気・食欲不振を主訴に当院救急外来を受診した.腹部超音波・CTにて,同時性肝転移を伴う小腸腫瘍を先進部とした腸重積症と診断し緊急手術を施行した.開腹するとTreitz靭帯から約100 cmの空腸に直径5 cmの腫瘤を認め,これを先進部とした約40 cmの順行性腸重積を認めた.重積を徒手整復し,約30 cmの小腸部分切除および近傍のリンパ節郭清を施行した.病理組織学的検査所見は,粘膜下層を中心とした紡錐形細胞の増殖を認め,免疫染色検査にてαSMA陽性,KIT・CD34・desmin・S-100陰性で小腸平滑筋肉腫と診断した.術後9日目に軽快退院し,1か月後同時性肝転移に対し肝部分切除術を施行した.初回手術後7か月の時点で多発残肝再発を来したが,化学療法は希望されず初回手術から1年3か月後に永眠された.
小腸平滑筋肉腫は,免疫染色検査による消化管間葉系腫瘍の分類が確立した現在,比較的まれな疾患となった1).今回,我々は先進部に小腸平滑筋肉腫を認め成人腸重積症を発症した1例を経験したため報告する.
患者:66歳,男性
主訴:吐き気,食思不振
既往歴:糖尿病,高血圧
現病歴:2週間前から吐き気・食思不振を認めており,増悪傾向にあるため当院救急外来を受診した.
入院時現症:右腹部に拡張した腸管を触知するが,圧痛・腹膜刺激症状は認めなかった.
血液検査所見:白血球9,700/μl,CRP 4.6 mg/dlと炎症反応の軽度亢進を認めたが,その他特記すべき異常を認めなかった.
腹部超音波検査所見:右腹部横走査にてtarget signを認めた(Fig. 1).

Abdominal ultrasonography demonstrated a target sign.
腹部造影CT所見:右腹部に同心円状層構造を呈する腸管を認め,その口側の腸管に拡張・浮腫を認めた.同心円状構造の中心には,重積腸管とその間膜と思われる構造があり,先進部には,辺縁不整・造影効果のある腫瘍を認めた(Fig. 2).また,肝S8・S3に造影効果の弱い辺縁不整な腫瘤を2個認めた.

Abdominal computed tomography demonstrated multiple concentric signs (arrow) and an irregularly bordered mass at the point of origination of the intussusception (arrowhead).
以上の所見から,肝転移を伴う小腸悪性腫瘍を先進部とした腸重積症と診断し緊急手術を施行した.
手術所見:Treitz靭帯から約100 cmの空腸に直径5 cmの腫瘤を認め,これを先進部とし約40 cmの順行性腸重積を認めた(Fig. 3).Hutchinson手技により整復し,リンパ節郭清を伴う約30 cmの小腸切除術を施行した.肝臓には辺縁不整な硬い腫瘤を触知し,転移巣と考えられた.

Intraoperative findings showed a jejuno-jujunal intussusception 40 cm in length.
切除標本所見:直径5 cmの不整な管内発育型腫瘍を認め(Fig. 4),割面では,被膜様構造の内部に白色充実性成分を認めた.

Macroscopic findings of the resected specimen showed a jejunal tumor 5 cm in diameter.
病理組織学的検査所見:腫瘍は粘膜下層を主体に,クロマチンの増加した大小不同を伴う異型核と紡錐形胞体を持つ腫瘍細胞が束をなして密に増殖していた.免疫染色検査では,α smooth muscle actin(以下,αSMAと略記)が陽性である以外は,KIT・CD34・desmin・S-100いずれも陰性であり平滑筋肉腫と診断した.また,核分裂像を強拡大1視野に3–5個認め高悪性度であった.リンパ節転移は認めなかった(Fig. 5).

Histological findings demonstrated that the tumor was composed of spindle cells with a fascicular pattern (HE 100×). An immunohistochemical study revealed that the tumor cells were positive for αSMA and negative for KIT and CD34.
術後経過:術後9日目に合併症なく軽快退院.同時性肝転移に対し1か月後肝部分切除術を施行した.初回手術後7か月の時点で切除不能多発残肝再発を来したが,化学療法は希望されず初回手術から1年3か月後に永眠された.
成人腸重積症は,成人腸閉塞の原因の5%を占め,小児を含めた全腸重積症の5–16%と小児期の腸閉塞に比し比較的まれな疾患である2).重積部位は小児と同様回盲部が47.5%と最多であり,小腸(44.2%),大腸(6.6%)と続く2).小児腸重積症では器質的疾患が原因となるものは10%前後なのに対し,成人腸重積症では,良性腫瘍35.0%,悪性腫瘍52.6%と,大部分が腫瘍性病変に起因している3).経過は小児とは異なり,亜急性から慢性の腸閉塞症状を呈することが多く3),以前は診断に難渋する場合もあったが,現在では,腹部超音波検査,CTにてtarget sign,multiple concentric signなど,特徴的な所見を認めることから画像診断は比較的容易となった.本症例においても,これらの特徴的な所見より診断は容易であった.
小腸悪性腫瘍は消化管悪性腫瘍の0.4–2.3%と比較的低頻度で,その内訳は腺癌30–40%,カルチノイド35–42%,悪性リンパ腫15–20%,間葉系腫瘍10–15%であり,近年はカルチノイドが増加傾向にあると報告されている4).1999年WHOのworking groupは,小腸平滑筋肉腫を間葉系腫瘍で免疫染色検査にてKIT陰性かつαSMAもしくはdesmin陽性のものと定義した5).この分類を用いてMiettinenら1)は過去の小腸間葉系腫瘍1,091例を再検討し,906例(83%)がGISTであり,平滑筋肉腫はわずか32例(3.0%)と報告している.本邦では藤田ら6)が消化管原発間葉系腫瘍88例を同様に検討し,GIST 76例(86%)で平滑筋肉腫は1例(1.1%)のみ,小腸原発では16例全例GISTと報告している.免疫染色検査が導入される以前は,小腸平滑筋肉腫は小腸腫瘍の29.1%を占めると報告されているが7),以上に示すように免疫染色検査による分類が確立した現在平滑筋肉腫は比較的まれな疾患となった.
本疾患の治療に関して現時点で放射線治療・化学療法いずれも定まった評価はなく,外科的切除が可能であれば完全切除が妥当と考えられる.切除不能であれば四肢,後腹膜,子宮原発の平滑筋肉腫に準じてdoxorubicin,ifosfamideを用いた化学療法の選択が現時点では妥当であろう8)9).
医学中央雑誌にて「小腸平滑筋肉腫」をキーワードに,WHOによる小腸平滑筋肉腫の定義がなされた1999年から2011年までの13年間で検索した症例の中で,免疫染色検査により小腸平滑筋肉腫と診断された症例は5例のみであった10)~14).この5例に自験例を加えた6例を検討すると,全例肉眼的には腫瘍の切除がなされていたが,平均観察期間16か月において6例中4例が再発死亡しており,本疾患は悪性度が高く比較的予後不良と考えられる(Table 1).また,上記6例中3例で切除標本にリンパ節転移を認めており,少数例の検討ではあるがこれはリンパ節転移を来すことは比較的まれとされるgastrointestinal stromal tumorとは異なる本疾患の特徴と思われた.ただし,リンパ節郭清の意義,郭清範囲に関しては今後の症例の集積が必要と考えられる.
| No | Author | Year | Age | Sex | Location | Size (cm) | Treatment | Lymph node dissection | Lymph node metastasis | Recurrence | Treatment after recurrence | Prognosis |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Ishihara10) | 2002 | 54 | F | Ileum | 6 | Ileal resection | Regional | None | Liver | N/A | 42 month Died of disease |
| 2 | Yoshida11) | 2003 | 67 | F | Jejunum | 9 | Jejunal resection | Regional | Multiple positive nodes | Lymph nodes | Chemotherapy* | 20 month Died of disease |
| 3 | Kubota12) | 2005 | 56 | M | Ileum | 10 | Ileal resection | N/A | None | None | — | 1 month Alive and well |
| 4 | Otaka13) | 2009 | 77 | M | Jejunum | 1.6 | Jejunal resection | Regional | Positive (number unknown) | Lymph nodes Peritoneum | N/A | 8 month Died of disease |
| 5 | Ikeda14) | 2011 | 76 | F | Jejunum | 13 | Jejunal resection | Regional | One positive node | None | — | 10 month Alive and well |
| 6 | Our case | 66 | M | Jejunum (liver**) | 5 | Jejunal resection (partial hepatectomy**) | Regional | None | Liver | Best supportive care | 15 month Died of disease |
N/A: not available, *: carboplatin, etoposide, cisplatin, pirarubicin hydrochloride, **: Partial hepatectomy was performed for synchronous liver metastases.
利益相反:なし