日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
広範な漿膜下リンパ管侵襲を呈し追加切除を要した小型0-IIc型上行結腸癌の1例
野中 健一浅井 竜一安福 至富田 弘之松橋 延壽廣瀬 善信高橋 孝夫山口 和也長田 真二吉田 和弘
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2013 年 46 巻 10 号 p. 777-783

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Abstract

症例は70歳の男性で職場の検診で下部消化管内視鏡検査を施行し上行結腸バウヒン弁対側に大きさ15×8 mm,肉眼型0-IIc型の病変を認めた.当院での下部消化管内視鏡検査で腫瘍陥凹部にVIおよびVN pit patternを認め,超音波内視鏡検査では第4層の途絶を認めた.CTを施行したところNo. 202リンパ節に転移を疑わせる腫大を認めた.腹腔鏡下回盲部切除および3群リンパ節郭清を施行したが,術後の病理組織学的検索にて口側断端近くの漿膜下リンパ管浸潤を認めたため,追加切除を施行した.切除腸管に腫瘍細胞の残存は認めなかった.腫瘍が小型であっても0-IIc型の大腸癌はde novo発癌であることが多く脈管侵襲を来しやすい.また,本症例は術前CTで中間リンパ節に転移が疑われており,リンパ管への浸潤傾向が強かったことが考えられる.このような症例は回腸も腫瘍から十分な距離を離して切離すべきであると考えられた.

はじめに

最大径2 cm以下の進行癌の割合は3.5%程度とまれである1).今回,我々は大きさ15×8 mm,バウヒン弁対側の0-IIc型上行結腸癌に対し,腹腔鏡下回盲部切除術を行った.ところが腫瘍は回腸断端付近の漿膜下リンパ管へ浸潤しており,小腸追加切除に至った.腫瘍が小型であったにもかかわらず,広範なリンパ管侵襲を呈した0-IIc型上行結腸癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:70歳,男性

主訴:特になし.

現病歴:2011年1月に職場の検診で下部消化管内視鏡検査を施行された.バウヒン弁対側に大きさ15 mm大の肉眼型0-IIc病変を認め,精査加療目的にて2月に当科を紹介された.既往歴は2008年に前立腺癌にて前立腺全摘術を施行された.また,糖尿病にて近医で内服加療を継続していた.家族歴には特記すべきことなし.

入院時現症:身長162 cm,体重64.5 kg,体温35.9°C,眼球結膜には貧血や黄疸を認めなかった.

入院時検査所見:糖尿病にて当院内科で加療中であり空腹時血糖141 mg/dl,ヘモグロビンA1Cが7.3%と上昇していた.

下部消化管内視鏡所見:上行結腸バウヒン弁対側に径15 mmの肉眼型0-IIc病変を認めた.陥凹面は全体に退色調で全体にVI pit patternを呈していた.一部VN pitを認め,SM浸潤が疑われた(Fig. 1).生検では中分化から低分化管状腺癌を認めた.

Fig. 1 

There was 0-IIc type tumor in the ascending colon opposite to the ileocecal valve. It showed general slight discoloration. The central depressed area showed a VN pit pattern.

EUS所見:第1~3層の判別は困難だが,第4層への突出を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Ultrasonic endoscopy showed the tumor had invaded into the quaternary layer of the wall of the colon.

注腸造影所見:上行結腸バウヒン弁対側に径8 mm大の弧状変形を認めた.また,中央に浅い陥凹を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

There was a small depression area of 8 mm in diameter on the ascending colon, opposite to the ileocecal valve.

造影CT所見:原発巣は指摘できなかった.No. 202リンパ節に径15 mmと径10 mmのリンパ節腫大を認めた(Fig. 4).その他,遠隔転移や腹膜播種を疑わせるような所見は認めなかった.

Fig. 4 

There were two swollen lymph nodes at No. 202 with no metastasis and peritoneal dissemination.

PET-CT上,原発巣は指摘できなかった.また,CTで指摘された腫大リンパ節に有意なFDG集積を認めなかった.その他,遠隔転移や腹膜播種を疑わせるような所見は認めなかった.

手術所見:以上より,術前診断colon cancer(A,Type 0-IIc,15 mm,cMP,cN1,cH0,cP0,cM0,cStage IIIa)(大腸癌取扱い規約第7版補訂版)と判断し,2011年3月に腹腔鏡下回盲部切除術および3群リンパ節郭清を施行した.5ポートで開始し,内側アプローチを行い,回結腸動静脈を根部でクリッピング切離し,No. 203リンパ節を郭清した.回腸は末端から5 cm口側,上行結腸は腫瘍から10 cm肛門側にて切離し,標本を摘出した.術中,上行結腸,回腸,虫垂に漿膜浸潤を疑わせるような色調の変化や壁の硬化は認めなかった.

切除標本所見:バウヒン弁対側の上行結腸に15×8 mmの0-IIc型病変を認めた.粘膜面における腫瘍の可動性は良好で,漿膜に浸潤を疑わせるような色調の変化や壁の硬化は認めなかった(Fig. 5).

Fig. 5 

There was a 0-IIc type tumor of 8×15 mm on the ascending colon with good mobility.

病理組織学的検査所見:陥凹部では上皮の表層が脱落して潰瘍を形成しており,潰瘍底を中心としてクロマチンの増生,核小体の目立つ小胞巣状篩状の異型細胞集塊が粘膜下層まで浸潤していた.腫瘍はtub2主体で上行結腸の病変から虫垂,回腸の口側断端近傍に至るまで広範なリンパ管侵襲を認めた(Fig. 6, 7).口側断端に腫瘍は露出していなかったが,断端陽性の可能性を否定できなかった(Fig. 6).免疫染色検査ではCK7(–),CK20(+),CDX2(+),PSA(–)で大腸原発の腺癌の可能性が高く,前立腺癌は否定的であった.リンパ節転移はNo. 201:4/9,No. 202:4/6,No. 203:1/3であった.病理組織学的診断はtub2,pSS,med,INFβ,ly3,v3,pPM1,pDM0,pN3で最終診断はcolon cancer(A,Type 2,15×8 mm,pSS,pN3,sH0,sP0,cM0,fStage IIIb)であった.

Fig. 6 

There were carcinoma cells close to the cut end of the intestine. Neoplasm exposure was impossible to rule out.

Fig. 7 

The tumor is present at A and has invaded the subserous lymph vessel, advancing past B in the direction shown by the arrows. Lymph vessel invasion expanded as far as the periphery of the cut end of the ileum as well as the mid-section of the vermiform appendix.

腫瘍によるリンパ管侵襲の範囲:腫瘍はバウヒン弁を超えて回腸の断端付近にまでリンパ管侵襲を来していた.また,虫垂の中ほどまで腫瘍の漿膜下リンパ管侵襲を認めた(Fig. 7).

2011年5月に小腸の追加切除を行った.標本内に悪性細胞の残存は認めなかった.

術後補助化学療法としてFOLFOXを通院にて12回投与した.現在,術後1年5か月経過し,無再発生存中である.

考察

本症例のような最大径2 cm以下の進行大腸癌の頻度は全国大腸癌登録によると進行癌中3.5%と低率である1).また,0-IIc型の大腸癌はde novo発癌であることが多く,adenoma-carcinoma sequenceの頻度が高い隆起型と比較して,病変が小さいうちから粘膜下層に浸潤し,脈管侵襲・リンパ節転移陽性率を高率に引き起こす2)~4)

2005年1月から2012年4月までの7年間に当科で経験した大腸癌症例863例のうち,腫瘍最大径が2 cm以下で病理組織学的に壁深達度がMP以深であった単発進行大腸癌について検討した(Table 1).対象症例は21例であり,全体の2.4%であった.男性12例,女性9例で,平均年齢は64.7歳であった.主訴は19例において下血あるいは便潜血陽性を認めた.一方,CEAは2例において異常値を示したのみであった.発生部位は直腸6例,S状結腸7例,横行結腸4例,上行結腸3例,下行結腸1例であった.肉眼型は2型が12例と最も多く,次いで1型が6例であった.0-IIc型は本症例のみであった.組織型はtub1が11例と最も多くtub2が9例,porとpapがそれぞれ1例ずつであった.リンパ節転移陽性例は9例に認め,そのうち8例が陥凹性の病変であった.本症例以外には広範なリンパ管侵襲を呈した例は認めなかった.

Table 1  List of the 21 patients with advanced colorectal cancer less than 2 cm in diameter we operated on from January 2005 to April 2012
No Age Sex Fecal occult blood CEA (ng/ml) Location Gross appearance Size (mm) Growth type Depth Histology ly v pN sH sP cM fStage
 1 70 M not performed 5 A 0-IIc 13×8 NPG SS tub2 3 3 3 0 0 0 IIIb *
 2 79 F (+) 0.9 S 1 20×12 NPG MP tub1 1 0 0 0 0 0 I
 3 61 M (+) 2.9 Rb 2 18×18 NPG MP tub1 1 1 0 0 0 0 I
 4 71 F (+) 1.6 S 2 10×10 NPG MP tub1 0 0 0 0 0 0 I
 5 58 M (+) 3.7 Rb 0-IIa 20×15 NPG MP tub2 0 0 0 0 0 0 I
 6 70 M (+) 8.2 S 2 18×20 NPG SS tub1 2 1 1 0 0 0 IIIa
 7 85 F (+) 4.9 S 1 17×15 NPG MP tub1 1 1 0 0 0 0 I
 8 78 M (+) 5.2 Ra 1 20×19 NPG SE tub1 0 2 0 0 0 0 II
 9 66 M (+) 3.9 T 2 17×16 NPG SS tub1 2 2 1 0 0 0 IIIa
10 46 M (+) 0.9 Rs 2 14×17 NPG SS tub2 2 0 2 0 0 0 IIIb
11 45 M (+) 1.2 T 2 15×12 NPG MP por2 3 1 2 0 3 0 IV
12 53 M (+) 1.6 A 3 16×18 NPG SS tub2 2 1 1 0 0 0 IIIa
13 68 M (+) 1.3 Rs 2 16×15 NPG SS tub2 2 1 1 0 0 0 IIIa
14 61 F (+) 2.1 S 1 18×20 NPG SS tub1 1 1 0 0 0 0 II
15 73 F (+) 3.5 T 2 17×14 NPG SS tub1 1 1 1 0 0 0 IIIa
16 45 F not performed 1.9 S 1 17×20 NPG MP tub2 1 1 1 0 0 0 IIIa
17 81 F (+) 1.3 A 2 15×15 NPG MP tub2 1 1 0 0 0 0 I
18 78 F (+) 3.4 Rb 1 14×12 NPG MP tub2 1 1 0 0 0 0 I
19 64 M (+) 6.8 S 2 18×15 NPG SS tub1 1 0 0 0 0 0 II
20 60 F (+) 2.6 T 2 13×10 NPG MP tub1 1 0 0 0 0 0 I
21 48 M (+) 1.4 D 2 18×16 NPG MP pap 1 1 0 0 0 0 I

NPG: non-polypoid growth, *: This case showed expansive lymphatic involvement

Ikegami5),Shimodaら6)は癌の発育増殖形態を腫瘍の滑面形態から粘膜内隆起性発育を呈するpolypoid growth(以下,PGと略記)群と,粘膜内隆起性発育を呈さないnon-polypoid growth(以下,NPGと略記)群に分類した(Fig. 8)が,その分類に従うと当科における2 cm以下の進行大腸癌症例は全てNPGであっ‍た.

Fig. 8 

Typical aspects of both polypoid growth and non-polypoid growth (H.E., loupe).

PG群は増殖細胞帯が粘膜の表層に存在する.このため腫瘍は表層へ向かって増殖し,細胞の損失が多いため増殖が遅い.一方,NPG群は増殖細胞帯が粘膜深層に存在する.このため腫瘍は深層へ向かって増殖し,細胞の損失も少ないため,増殖速度も速い.諸家の報告では,NPG群はPG群と比較して有意に多く7)8),小型である9)にもかかわらず脈管侵襲,リンパ節転移,肝転移の頻度が高かった7).福家8)や井上ら10)も,2 cm以下の進行大腸癌の多くは陥凹を有し,リンパ節転移が多かったと報告している.

今回,肉眼的に腸管壁の変形や漿膜の色調変化を認めず,さらに触診でも壁の硬化を認めなかったため術中・術後共に腫瘍が広範に浸潤していることが認識できなかった.これは腫瘍の浸潤のほとんどが脈管内(ほとんどがリンパ管内)にとどまっており,炎症細胞浸潤や線維化などの間質反応を来すことが無かったためと考えられる.

また,本症例は原発と思われる上行結腸の病変が15×8 mmと小さく,粘膜下層に存在する腫瘍量も少なかった.腫瘍の量はむしろ虫垂のほうが多かったため,腫瘍の原発部位が果たして上行結腸で良いか問題となったが,粘膜に腫瘍が残っている場所が上行結腸であったことが,今回上行結腸の腫瘍が原発であると診断した根拠となった.

1983年から2012年の範囲で医学中央雑誌(キーワード: 「IIc」,「大腸癌」,「リンパ管侵襲」)を用いて検索したところ,4件の報告があったが,本症例のように広範囲なリンパ管侵襲を呈した症例は認めなかった.また,海外の文献は1950年から2012年の範囲でPubMed(キーワード: 「IIc」,「colonic neoplasms」,「lymphatic invasion」)を用いて検索したが,本症例のような報告例は認めなかった.

以上より,腫瘍が小型であっても,0-IIc型の場合はde novo発癌であることが多く,脈管侵襲およびリンパ節転移を来している可能性があるため,手術の際には腫瘍から口側,肛門側共に十分距離を離して腸管を切除することと,十分なリンパ節郭清を考慮する必要がある.

利益相反:なし

文献
 

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