2013 年 46 巻 2 号 p. 136-142
症例は65歳の女性で,右下腹部鈍痛にて来院された.CTにて回盲部の腸重積を認め,緊急手術を施行した.横行結腸中央に達する腸重積があり,徒手整復すると盲腸に腫瘍を認めた.リンパ節転移を伴う盲腸癌と診断し,D3リンパ節郭清を伴う結腸右半切除術を施行した.切除標本にて盲腸に4.5×3.8 cm大の2型腫瘍を認めた.病理組織学的検査所見ではdesmin,S-100,CD34は陰性,c-kitが強陽性で,盲腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記),リンパ節転移陽性と診断された.術後8週目からイマチニブを開始したが,1か月後のCTにて多発性肝転移,腹腔内リンパ節転移を認めた.スニチニブに変更し部分奏効をえるも,術後5か月半で死亡した.リンパ節転移を伴った盲腸GISTは非常にまれで,いまだ本邦報告例はない.
消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor;以下,GISTと略記)は,主に消化管の粘膜下に発生する間葉系腫瘍である.大腸GISTは胃や小腸のGISTと比較すると少なく,発生率は全GISTの約10%とされている1).また,GISTの転移様式は血行性転移および腹膜播種が多く,リンパ行性転移はまれである2).今回,我々は腸重積で発症したリンパ節転移を伴う盲腸GISTを切除し,術後5か月半で肝転移により死亡した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
患者:65歳,女性
主訴:右下腹部鈍痛
既往歴:14歳時に虫垂切除術.33歳時に子宮筋腫核出術.45歳時に腹式単純子宮摘出術.
家族歴:父親が大腸癌にて死亡.母親は大腸癌の治療歴あり.
現病歴:2011年5月下旬より右下腹部に鈍痛が出現し,軽快と増悪を繰り返した.発症より3週間後に,近医にて胃腸炎を疑われ投薬を受けた.その2日後に腹痛が増悪し,近医にて腸閉塞を疑われ当科を受診した.
入院時現症:身長153.3 cm,体重51.8 Kg,体温37.3°C,血圧149/58 mmHg,脈拍66回/分・整.
腹部所見:腸蠕動音は減弱し,上腹部中心にやや鼓音を呈していた.触診にて右下腹部に限局した圧痛と腫瘤を触知したが,筋性防御や反跳痛は認めなかった.
血液生化学検査所見:WBC 5,340/μl,CRP 0.545 mg/dlと軽度上昇していたが,肝機能や腎機能に異常所見は認めなかった.また,CEA,CA19-9も正常範囲内であった.
腹部造影CT所見:横断像にて右下腹部に腫瘤があり,腸管の層状構造を認めたことより腸重積と診断した(Fig. 1a).冠状断では回盲部の腫瘍を先進部とし,横行結腸中央にまで達する重積像を認めた(Fig. 1b).なお,明瞭な肝転移は認めなかった(Fig. 1c).

a: Contrast-enhanced CT showed a mass (arrow) in the lower right abdomen. b: Contrast-enhanced CT (coronal section) showed intussusception (arrow) in the transverse colon. c: Contrast-enhanced CT performed before emergency surgery showed no hepatic metastases. Arrowheads indicate hepatic cysts.
以上より,回盲部腫瘍による腸重積症と診断し,緊急手術を施行した.
手術所見:腹腔鏡にて腹腔内を観察すると,回盲部が横行結腸に重積していた.そこで開腹へ移行し,腸重積をHutchinson手技にて整復した.盲腸漿膜に露出した腫瘍を認め,腫瘍近傍のリンパ節が数個硬く触知した.肝転移や腹膜播種はなく,ダグラス窩の洗浄水細胞診ではclass IIであった.リンパ節転移を伴う盲腸癌と診断し,D3リンパ節郭清を伴う結腸右半切除術を施行した.
切除標本所見:盲腸に4.5×3.8 cmの2型腫瘍を認めた(Fig. 2).

The resected right hemicolectomy specimen showed a type 2 tumor (arrow) in the cecum.
病理組織学的検査所見:大腸癌取扱い規約3)に準じると,C,type 2,4.5×3.8 cm,GIST and tubular adenoma with moderate atypia,pSE,INFb,ly3,v1,pN2(9/45),pPM0,pDM0,pRM0,sH0,sP0,Cy0,cM0,fStage IIIbであった.盲腸壁全層が間葉系腫瘍に占められ,腫瘍直上の潰瘍部以外の部位は腺腫で覆われていた(Fig. 3a).腫瘍細胞は高度な異型性を示し,間葉系腫瘍に多い紡錘形細胞や類上皮細胞型とは明らかに異なっていた(Fig. 3b).核分裂数は72個/30視野であった.CD34は陰性だが,c-kit,vimentinおよびKi-67が強陽性を示した(Fig. 3c).免疫染色検査ではdesmin(–),S100(–),CD34(–),c-kit(3+),vimentin(3+),Ki-67(3+)であった.c-kit遺伝子変異検査では,exon 9,exon 11,exon 13,exon 17に変異を認めなかった.

a: Histological examination showed a stromal tumor extending through all layers of the cecal wall with adenoma covering the surface of the tumor (Hematoxylin and eosin stain, ×20). b: The tumor cells were highly atypical cells (Hematoxylin and eosin stain, ×400). c: Immunohistochemical staining showed a positive response for c-kit (×400).
術後経過:合併症はなく,術後17日目に退院した.手術8週間後より補助化学療法としてイマチニブ400 mg/日を開始した.しかし,投与1か月後のCTにて多発性肝転移や腹腔内リンパ節転移を認めた.イマチニブ増量を勧めたが拒否され,同量のままイマチニブを継続した.さらに,1か月後のCTでは肝転移が増悪したため,スニチニブ50 mg/日(4週投与2週休薬)に変更した(Fig. 4a).スニチニブ投与3週間後にGrade 2の血小板減少が出現して休薬したが,CTで肝転移巣には中心壊死と思われる造影不染域を認めた(Fig. 4b).2週間の休薬後にスニチニブを37.5 mg/日(2週投与1週休薬)に減量して再開したが,再投与2週間後より腹部膨満が著明となった.また,CTで肝転移の再増悪と腹水貯留が確認され,術後5か月半に死亡した.

a: Contrast-enhanced CT performed after imatinib treatment had been given for one more month showed exacerbation of multiple hepatic metastases and the hepatic cysts (arrowheads). b: Contrast-enhanced CT performed after sunitinib treatment showed central necrosis of the multiple hepatic metastases and the hepatic cysts (arrowheads).
GISTは主に消化管の粘膜下に発生する間葉系腫瘍で,従来は平滑筋由来と考えられ平滑筋腫や平滑筋肉腫などと診断されていた.しかし,現在では,GISTはc-kit遺伝子もしくはplatelet-derived growth factor receptor α(以下,PDGFRAと略記)遺伝子の機能獲得性突然変異が原因で発生するCajar介在細胞由来の間葉系腫瘍と定義されている1)4)5).疫学的にGISTは年間10万人に2人程度の発症率で,性差はない.本邦における臓器別発生頻度は,胃50~70%,小腸20~30%,大腸10%,食道はまれで,大網や腸間膜での発生頻度は低い1).DeMatteoら2)はGIST患者200症例での転移様式を検討し,肝転移31%,腹膜播種10%,リンパ節転移3%と報告している.このことから一般的にGISTは血行性転移(肝転移)や腹膜播種が多く,リンパ節転移はまれとされている.
医学中央雑誌で「リンパ節転移」と「GIST」をキーワードに検索したところ,1983~2012年に44例の報告(会議録も含む,重複を除く)があった.食道・胃・小腸原発でのリンパ節転移例が39例に対し,大腸原発でのリンパ節転移例は5例のみであった(Table 1)6)~10).占居部位は横行結腸1例6),上行結腸2例7)8),直腸2例9)10)であった.自験例を含む3例が1年以内に死亡したが,症例2は同時性肝転移例,症例3は切除断端陽性例であった.症例数が少ないためリンパ節転移例での再発形式の特徴は明らかではなく,今後の症例集積が必要と考えられる.なお,盲腸原発のGISTは5例11)~15)のみで,リンパ節転移を伴った報告は自験例の1例のみであった.
| Case | Author/ Year |
Age/Sex | Origin | Curative resction | Hematogenous meta. | Tumor size | Mitotic count | Histlogical cell type | Genetic test | Adjuvant therapy | Recurrence | Prognosis |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Kamo6) 2007 |
62/M | T | YES | NO | 3 cm | 5–6/50HPF | ND | ND | NO | NO | 20m/alive |
| 2 | Shono7) 2007 |
81/M | A | NO | YES: liver | ND | ND | ND | ND | imatinib | peritoneal/liver | 2m/dead |
| 3 | Yamaguchi8) 2008 |
46/M | A | NO: surgical margin | NO | 8 cm | 30/50HPF | epithelioid | NO | imatinib | local | 10m/dead |
| 4 | Matoba9) 2009 |
57/M | Rb | YES | NO | 8 cm | 5–6/10HPF | spindle | ND | imatinib | liver/lung | 4y6m/dead |
| 5 | Dabanaka10) 2009 |
79/F | Rb | YES | NO | 5.5 cm | 27/20HPF | spindle | ND | NO | NO | 6m/alive |
| 6 | Our case | 63/F | C | YES | NO | 4.5 cm | 72/30HPF | atypical | c-kit exon 9/11/13/17 all negative | imatinib snitinib | liver/lung/lymph node | 5.5m/dead |
meta.: metastasis, M: male, F: female, T: transverse colon, A: ascending colon, Rb: rectum (below the peritoneal reflection), C: cecum, ND: not described, HPF: high power field, m: months, y: years
原発GISTの治療は外科治療が第一選択とされる1).リンパ節郭清はGIST診療ガイドラインでは推奨度Cで,リンパ節の系統的かつ予防的郭清が予後を改善するという報告はなく,転移を疑うリンパ節のpick-up郭清で十分と考えられている1).しかし,大腸GISTのリンパ節転移例が少なく,郭清の意義についてはいまだ議論の余地がある.自験例では盲腸癌に準じた系統的リンパ節郭清(D3郭清)を施行したが,郭清の意義は乏しかった.
GISTで術後補助療法を行う際には再発リスクの評価が重要であり,腫瘍径5 cm以上,核分裂数5個以上/50視野,大腸などの腫瘍発生部位は悪性度が高いとされている1).また,周囲浸潤,同時性転移,腹膜播種,腫瘍破裂などを伴う場合は,clinically malignant GISTと評価されている1)16).自験例は腫瘍径4.5 cm,核分裂数72個/30視野,Ki-67(3+),発生部位は盲腸であり,再発リスクは高リスクに分類された.また,リンパ節転移を伴っておりclinically malignant GISTと考えられた.なお,clinically malignant GISTでは,再発率が80%以上と極めて高く,術後補助化学療法の絶対的適応との意見もある16).
現在本邦で使用できる薬物療法はイマチニブおよびスニチニブで,奏効率とc-kitやPDGFRA遺伝子の変異部位が関係することが知られている17).c-kit遺伝子のexon 11に変異がある場合はイマチニブ投与でPRが83.5%.exon 9変異の場合でPR 47.8%とされている.また,c-kit遺伝子変異を認めずPDGFRA遺伝子変異を認めたGISTでは,PDGFRA遺伝子のexon 12に変異がある場合はイマチニブが奏効し,exon 18変異の場合は無効であると報告されている17).また,c-kit遺伝子にもPDGFRA遺伝子にも変異を認めないGISTでは,イマチニブでのPRは0%とされている18).遺伝子変異部位は現時点ではリスク分類には反映されていないが,治療効果に大きく影響を与えることから今後ガイドラインに反映される可能性がある.
自験例ではc-kitのexon 9,11,13,17には全て変異を認めなかった.PDGFRA遺伝子変異検査は施行していないが,イマチニブ感受性が低い可能性が示唆された.自験例において一次耐性の可能性があるイマチニブを補助療法として行うべきか否かは議論のあるところだが,副作用の点からスニチニブを一次治療には選択しなかった.しかし,結果的にイマチニブに抵抗性であり,部分奏効を示したスニチニブを早期に開始していれば,より長期生存できた可能性があった.今後はGISTの遺伝子変異部位評価を行うことにより,イマチニブとスニチニブとの優先度が検討されるものと思われた.
GISTにおいて類上皮型および混合型は,紡錘細胞型と比べ5年生存率が低いとの報告がある19).自験例は上記のどれにも属さない組織型で,術後3か月で多発肝転移が出現し,5か月半で死亡するという急速な経過をたどった.したがって,自験例のような非典型的な細胞型やc-kit遺伝子変異を有しない症例は,悪性度の高い可能性が示唆された.
利益相反:なし