日本消化器外科学会雑誌
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研究速報
生体肝移植におけるhigh mobility group box-1の動態解析
貞森 裕佐藤 康晴西堀 正洋佐藤 太祐信岡 大輔杉原 正大八木 孝仁藤原 俊義
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キーワード: high mobility group box-1
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2013 年 46 巻 3 号 p. 232-235

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Abstract

はじめに

High mobility group box-1(以下,HMGB1と略記)は,細胞核内に局在するクロマチン結合性の非ヒストン蛋白として同定され,クロマチン機能の維持や転写活性調節に重要な働きをするとともに,メディエーターとして炎症性疾患の病態に関与している.臓器移植においては,阻血再灌流障害の増悪因子1)であるとともに,同種移植片に対する急性拒絶反応への関与が動物実験モデルにおいて報告されている2)が,ヒト肝移植における拒絶反応でのHMGB1の動態は解明されていない.本研究においては,生体肝移植後に急性拒絶反応あるいはC型肝炎再発と組織診断された肝生検検体を用いて,肝細胞におけるHMGB1の動態を検討した.

方法

2004年1月から2010年12月の期間に当科にて生体肝移植を施行した88症例から採取した移植肝生検104検体を対象とし,抗HMGB1モノクローナル抗体を用いて免疫組織化学染色検査を行った.肝細胞におけるHMGB1の核内発現はhorseradish peroxidase標識抗体を用いて評価し,grade分類としては,0,<10% cells positive;1+,11–30% cells positive;2+,31–70% cells positive;and 3+,>71% cells positiveとした.肝細胞におけるHMGB1の細胞質へのtranslocationはalkaline phosphatase標識抗体を用いて評価し,grade分類としては,0,<10% cells positive;1+,11–50% cells positive;and 2+,>51% cells positive cellsとした.Hematoxylin-eosin染色による組織診断の内訳は,moderate-to-severe acute cellular rejection(以下,ACRと略記)24検体,mild ACR 27検体,C型肝炎再発 34検体,その他合併症 19検体であり,肝細胞におけるHMGB1の核内発現と細胞質へのtranslocationをそれら4群で検討した.また,ACRと診断された肝生検51検体において,HMGB1免疫染色検査のgradeとrejection activity index(以下,RAIと略記)との相関関係を検討した.

結果

Moderate-to-severe ACRにおけるHMGB1の肝細胞核内発現の陽性率は,mild ACR,C型肝炎再発およびその他合併症に比べ有意に高い傾向を認めた(Fig. 1).さらに,肝細胞におけるHMGB1の細胞質へのtranslocationもmoderate-to-severe ACRにおいて有意に強かった.また,ACRと診断された肝生検51検体での検討では,HMGB1核内発現grade 3のRAIは5.1±1.1であり,grade 0(3.0±0.8)およびgrade 1(4.1±1.1)に比べ有意に高く,RAIとHMGB1の核内発現gradeとの間に有意な相関関係を認めた(P<0.01;n=0.41)(Fig. 2).

Fig. 1 

Immunohistochemical grading of intra-nuclear HMGB1 in four different post-transplant conditions. #: ‍P<0.001, *: P<0.01, ACR, acute cellular rejection.

Fig. 2 

The grades of intra-nuclear HMGB1 expression and rejection activity index. #: P<0.001, *: P<0.01

考察

本研究では,肝移植後のmild ACRおよびC型肝炎再発に比べmoderate-to-severe ACRにおいてHMGB1の肝細胞核内発現と細胞質へのtranslocationが有意に強い傾向を認めた.阻血再灌流障害や急性炎症などによって肝細胞が酸化的ストレスを受けた場合には,HMGB1の核内から細胞質へのtranslocationが起こると報告されている1)~3).肝移植後のC型肝炎再発では小葉内の肝細胞が標的となるが,ACRでは門脈域と中心静脈に炎症細胞の浸潤を認め,肝細胞が直接的な標的となることは少ない4).そのためC型肝炎再発においてHMGB1の強い動態変化を予想したが,本研究での肝細胞におけるHMGB1の動態解析結果からは,moderate-to-severe ACRにおいて移植肝の肝細胞が広範かつ高度な酸化的ストレスを受けていると推察された.また,近年Tangら5)は,細胞質にtranslocationしたHMGB1がautophagyを介してcell survival とapoptosisの両面に関与していることを報告しており,本研究におけるHMGB1の細胞内動態がmoderate-to-severe ACRにおける肝細胞のsurvivalに寄与している可能性も考えられる.HMGB1の動態解析によって,肝移植後の各種病態における肝細胞への酸化的ストレスを評価しえるとともに,今後は細胞質内HMGB1の機能解析が重要と考えている.

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