日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
術後急速な増悪を示した原発性胆囊絨毛癌の1例
徳永 尚之稲垣 優木村 裕司北田 浩二岩垣 博巳柳井 広之
著者情報
キーワード: 絨毛癌, 腺癌, 胆囊
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2013 年 46 巻 4 号 p. 268-274

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Abstract

症例は75歳の男性で,右側腹部痛を主訴に他院受診され,腹部超音波検査(US)・CTにて急性胆囊炎を疑われ当院紹介となった.造影CTにて胆囊体部を中心に全周性壁肥厚と胆囊外への膿瘍形成が認められ,緊急胆囊摘出術が施行された.病理組織学的検査所見では異型細胞の存在が確認され,中分化~低分化型腺癌の一部に合胞状栄養膜細胞類似の多核細胞が認められた.免疫染色検査にてもhuman chorionic gonadotropin(以下,HCGと略記)が陽性を示したことから絨毛癌の混在と診断された.pT2N1M0:Stage IIIとの結果をうけ肝切除および追加リンパ節郭清の必要性を考慮し早期の再手術に踏み切ったが,既に腹膜転移・多発肝転移の出現により根治切除は不可能で約4か月で永眠された.胆囊原発の絨毛癌は非常にまれで極めて予後不良とされている.当院で経験した急速な転帰をたどった胆囊原発絨毛癌の1例を報告する.

はじめに

胆囊原発絨毛癌は非常にまれな疾患である.文献的にはその予後は通常の腺癌に比べ極めて不良であるとされているが,報告の少なさから確立された治療方針がないのが現状である1).この度,胆囊に発生した腺癌と絨毛癌の混在症例を経験したので多少の文献的考察を加え報告する.

症例

患者:75歳,男性

主訴:右季肋部痛

家族歴:特記事項なし.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:2010年9月,1週間程前から続く右季肋部痛を主訴に他院受診され腹部US・CTにて胆囊結石症,急性胆囊炎を指摘され当科紹介となった.

入院時現症:身長160 cm,体重40.6 kg.右季肋部に限局した圧痛と筋性防御反応およびMurphy徴候を認めた.

入院時検査所見:WBC 8.8×103/μl,CRP 7.18 mg/dlと炎症反応の上昇,さらにAST 45 IU/l,ALT 47 IU/l,ALP 746 IU/l,γ-GTP 306 IU/lと肝胆道系酵素の上昇を認めた.腫瘍マーカーはCEA 4.80 ng/mlと正常範囲内であったがCA19-9 395.9 U/mlと上昇を認めた.

腹部造影CT所見:胆囊体部を中心に全周性の壁肥厚と壁外への膿瘍形成が認められた.肥厚した胆囊壁には淡い造影効果が認められ,内部にlow density areaを含んでいた.胆囊底部と頸部に結石が確認され,胆囊頸部への結石嵌頓が疑われた(Fig. 1).肝内には小囊胞が散在していたが腫瘤性病変は認められなかった.

Fig. 1 

A. An enhanced CT scan shows a 10-mm stone in the neck of the gallbladder. B, C. The circumferential wall thickness in the middle third of the gallbladder (arrows) and the abcess formation outside the gallbladder wall (arrowheads) were also recognized.

MRI・MRCP所見:MRIではCT同様,胆囊体部の全周性壁肥厚と胆囊外への液体貯留および胆囊底部と頸部の結石像が指摘された.肥厚した壁内に拡張したRokitansky-Ashoff sinus(以下,RASと略記)を疑うT2強調像にてhigh intensityに描出される領域が認められた.MRCPでは上記所見に加え総肝管に狭窄像が認められ,頸部への結石嵌頓による炎症波及が強く疑われた(Fig. 2).

Fig. 2 

A. In a T2-weighted image, MRI shows strongly intense lesions like RAS into the thickened wall of gallbladder. B. MRCP revealed the irregularity of the gallbladder wall and the stenosis of common hepatic duct.

胆囊結石の頸部嵌頓に伴う急性胆囊炎および胆囊周囲膿瘍の診断で緊急開腹胆囊摘出術が施行された.

手術所見:胆囊壁に明らかな穿孔部は認められなかったが一部壊死性の変化が見られ,胆囊壁外には膿瘍形成も認められた.腹腔内に腹膜播種を疑わせる結節はなく,肝臓にも転移巣は触知されなかった.胆囊と近接した上行結腸にわずかに奨膜面に引きつれを生じる大腸癌を疑う腫瘤性病変が触知されたが,緊急性はなく二期的手術の適応と判断された.

切除標本所見:胆囊壁は体部を中心に全周性に肥厚し潰瘍性変化を伴っていた.胆囊底部の壁は壊死性変化を来していたが明らかな穿孔部は認められなかった.壁肥厚部の大きさは40×32 mmであった.内部に10 mm大の混合石が3個認められ,うち1個が胆囊頸部に嵌頓していた(Fig. 3).

Fig. 3 

Pathological examination of the specimen revealed a large ulcerative tumor mass measuring 40×32 mm with severe necrotic change.

病理組織学的検査所見:壁肥厚部において異型細胞の存在が確認され,中分化~低分化の腺癌が主体であったが,一部に合胞状栄養膜細胞類似の多核細胞が認められた.免疫染色検査にてもHCG陽性細胞が認められたことから絨毛癌の混在と診断された(Fig. 4).腫瘍は筋層(以下,mpと略記)を越え奨膜下層(以下,ssと略記)まで浸潤し同時切除された12cリンパ節にも転移が認められたため,病理組織学的には胆囊癌:Gbf,circ,結節浸潤型,4.0×3.2 cm,S1,Hinf1,H0,Binf0,PV0,A0,P0,N1,M(–),St(+),ly2,v3:pT2N1M0:Stage IIIと診断された.手術根治度はBM0,HM1,EM1:fCurBと判断された.

Fig. 4 

A, B. Microscopic examinations show a moderately or poorly differentiated adenocarcinoma mixed with multinucleated syncytial trophoblasts (arrows). C. Immunohistochemistry reveals positive staining for HCG in the trophoblastic-cell component. A H & E, ×10; B H & E, ×100; C ×100.

術後経過:術後病理診断は強い脈管浸潤傾向を示したがStage IIIであり,下部内視鏡検査にて上行結腸に術中診断通り3/5周性のType 2高分化型腺癌病変が認められたため,肝および胆囊癌所属リンパ節の予防的追加切除と大腸癌に準じたリンパ節郭清を伴う結腸切除術を同時に行う早期再手術が検討された.術後23日目には腫瘍マーカーはCEA 3.74 ng/ml,CA19-9 40.51 U/mlと改善を示したが,創部感染や遷延する発熱などから二期的手術が可能となるまでに時間を要した.二期的手術直前の血中HCG値は6.43 mU/ml(正常<0.5)と軽度上昇を示していたが尿中HCGは陰性で定量値も正常範囲内であった.初回手術後40日目に二期的手術が施行されたが既に腹腔内および肝に多発する小結節が認められ,生検後に術中迅速病理組織学的検査に提出されたが両者ともに悪性所見ありとの結果が得られたため腹膜播種および多発肝転移の診断で根治手術は不可能と判断された.腹膜播種巣および肝転移巣はいずれも低分化な腺癌細胞が主体であり胆囊癌病変と組織像が類似していた.また,免疫組織学的検査にて腹膜播種巣,肝転移巣ともにHCG陽性細胞が確認され,さらにcytokeratin(以下,CKと略記)染色にてもCK-7陽性,CK-20陰性と腸型とは逆の染色特性を示したことから,転移巣は胆囊癌原発のものと診断された.

初回手術後56日目(二期的手術より16日目)より塩酸ゲムシタビン(以下,GEMと略記)800 mg/m2 ×‍3,週1回投与,4週1クールをレジメンとした化学療法が開始されたが,腹膜および肝臓の転移巣は急速な増悪傾向を示し初回手術後125日目に他界された.

考察

胆囊原発絨毛癌は胆道癌取扱い規約第5版2)では「栄養細胞(trophoblast)に類似した癌細胞が出現する癌でHCGの血清検査や免疫組織検査を行い,さらに転移性絨毛癌を除外する必要がある」と定義されているがその報告は極めてまれであり,医学中央雑誌で1983年から2011年まで「胆囊腫瘍」,「絨毛癌」をキーワードに検索したかぎりでは2例の会議録を認めるのみであった.PubMedにて「gallbladder carcinoma」,「choriocarcinoma」,「HCG」をキーワードに同一期間で検索した結果,2010年にSatoら1)が自験例を併せた15例をまとめて報告して以降は検索しえなかった.しかし,この15例は免疫組織学的にHCGの発現が証明された胆囊原発悪性腫瘍を全て含んでおり,9例の当初未分化癌と診断された症例は組織学的な合胞状栄養膜類似細胞の存在についての記載が認められなかった.さらに,HCG以外にビメンチン,ソマトスタチン,ガストリンなどの高発現も確認されていることから,現行の取扱い規約にてもこの9例は未分化癌もしくは内分泌癌に分類されるかあるいは絨毛癌とのオーバーラップ症例である可能性が強く疑われた.残りの6例中5例と自験例を併せた6例は腺癌もしくは腺扁平上皮癌との併存例であった.年齢は平均62.8歳と通常の胆囊癌と大きな差はなく,性別は男性2例女性4例と女性に多く認められた.術前診断時の画像検査において通常の腺癌と異なる特徴的な所見の報告はなく,診断は全て術後病理組織学的検査によって確定されたものであった.6例中4例は血中もしくは尿中HCG値の上昇を伴っていた.絨毛癌症例においては血中および尿中HCG値を定期的に測定することで術後の転移再発巣の出現を早期に発見でき治療効果の判定にも有効であるとの報告を認める3)が,自験例では再発転移巣の出現と血中および尿中HCG値の間に強い相関は認められず二期的手術を回避するには至らなかった.予後は記載のあったもののうち大半が術後数週から数か月と非常に悪く,最長でも1年の生存が得られた報告を2例認めるのみであった1)3)~7).両者とも深達度はmpからssまででリンパ節転移および遠隔転移を認めない症例であった.

性腺以外を原発とする絨毛癌はまれではあるが,消化管原発なかでも胃原発絨毛癌の報告例はしばしば散見される8).その発癌機序はいまだ不明とされているが,大きくは異所性の生殖細胞もしくは全能細胞の迷入説と腺癌からの逆分化説が提唱されている8)9).これに基づき化学療法においても性腺原発絨毛癌に用いられる薬剤を使用した報告10)と通常の胃癌に準じた薬剤を使用した報告11)があるが,化学療法が奏効したとの報告は後者に多く認められる.胆囊原発絨毛癌に関しては確立された化学療法のレジメンは認められなかったが,先に述べた2例の長期生存例も1例はシスプラチン,もう1例はGEMといずれも腺癌を標的とした治療薬が選択されており自験例においても従来の胆囊癌に準じた薬剤の使用を考慮した.最終的には食欲不振・体重減少・疲労感の遷延から多剤併用および標準量での投与は困難と判断し,初期投与量800 mg/m2でのGEM単剤による治療を選択した.

胆囊摘出後に発見された胆囊癌の治療方針に関しては,日本肝胆膵外科学会により編纂された胆道癌診療ガイドライン12)にてもss以深に浸潤の及ぶものには根治的な二期的手術を考慮すべきとされている(推奨度C1).しかし,明らかな非治癒因子のないリンパ節転移陽性例に対する二期的手術の有用性については記載されていない.深達度ss症例に限ってもリンパ節転移陽性例は生存率が有意に低下するとの報告も認められる13).自験例においては胆囊と同時に切除された12cリンパ節に転移を認め初回手術後の診断はT2N1M0:Stage IIIであったが,残存リンパ節に画像上目立った腫脹もなく上行結腸癌も合併していたことから早期再手術に踏み切った.しかし,初回開腹時すでに胆囊壁外に腹腔内膿瘍を形成しており腹膜播種のリスクは高かったことや絨毛癌の予後の悪さを考えれば,二期的手術は回避し早期から化学療法を導入すべきであった可能性も否定できない.報告の少ない胆囊原発絨毛癌の治療方針ばかりでなく胆囊摘出後に偶然発見された胆囊癌に対するより細分化された治療方針の確立のためにも,より多くの症例を併せた多施設間共同研究による大規模な臨床試験が急務であると考えられた.

利益相反:なし

文献
  • 1)   Sato  S,  Ishii  M,  Fujihira  T,  Ito  E,  Ohtani  Y. Gallbladder adenocarcinoma with human chorionic gonadotropin: a case report and review of literature. Diagn Pathol. 2010;5:46.
  • 2)  日本胆道外科研究会編.胆道癌取扱い規約.第5版.東京:金原出版;2003. p. 55–61.
  • 3)   Wang  JC,  Angeles  S,  Chak  P,  Platt  AB,  Nimmagadda  N. Choriocarcinoma of the gallbladder. Treated with cisplatin-based chemotherapy. Med Oncol. 2001;18:165–169.
  • 4)   Albores-Saavedra  J,  Cruz-Ortiz  H,  Alcantara-Vazques  A,  Henson  DE. Unusual types of gallbladder carcinoma. A report of 16 cases. Arch Pathol Lab Med. 1981;105:287–293.
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  • 8)   Kobayashi  A,  Hasebe  T,  Endo  Y,  Sasaki  S,  Konishi  M,  Sugito  M, et al. Primary gastric choriocarcinoma: two case reports and a pooled analysis of 53 cases. Gastric Cancer. 2005;8:178–185.
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  • 10)   深田  伸二, 二村  雄次, 神谷  順一.興味ある組織像を呈した胃原発絨毛上皮腫の1例.日本消化器病学会雑誌.1991;88(12):2877–2882.
  • 11)   清水  喜徳, 草野  満夫, 藤森  聰, 草野  智一, 高  順一, 青木  武士,ほか.S-1/CDDPによる術前化学療法により根治術を施行し得た胃原発絨毛癌の1例.癌と化学療法.2010;37(6):1135–1138.
  • 12)  胆道癌診療ガイドライン作成出版委員会編.エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン.東京:医学図書出版;2007. p. 78–79
  • 13)   Goetze  TO,  Paolucci  V. Benefits of reoperation of T2 and more advanced incidental gallbladder carcinoma. Analysis of the German registry. Ann Surg. 2008;247:104–108.
 

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