2013 年 46 巻 9 号 p. 686-691
今回,我々は上行結腸癌術後,右外腸骨動脈周囲リンパ節転移に対する外科治療にて良好な結果を得た症例を経験した.症例は66歳の女性で,2002年2月最大径6 cmの1型上行結腸癌に対して右半結腸切除術を施行した.病理組織学的には中分化型から低分化型腺癌,pSEで,201番リンパ節に1個転移があり,pN1,pStage IIIaであった.2003年1月骨盤部CTにて右外腸骨動静脈の腹側に大きさ3 cmの腫瘤を認めた.右外腸骨動脈周囲リンパ節再発と診断した.他に転移を認めなかったため,右外腸骨静脈を含めリンパ節を摘出した.摘出標本は割面の表面が平滑で,病理組織学的検査の結果,上行結腸癌のリンパ節再発と診断した.術後9年9か月の現在再発の徴候は認めていない.このような転移再発形式は極めてまれであるため報告し,今後の症例蓄積と転移ルート解析を期待したい.
大腸癌の再発形式として肝転移,腹膜播種,局所再発,リンパ節再発などが一般的である1).今回,我々は上行結腸癌に対する右半結腸切除後11か月後に右外腸骨動脈周囲リンパ節転移を来し,外科手術により良好な結果を得た極めてまれな1例を経験したので報告する.
患者:66歳,女性
主訴:特記すべきことなし.
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴:2002年2月上行結腸癌に対して右半結腸切除術(D3郭清)を施行した.術前の腹部造影CTでは上行結腸から盲腸にかけて大きさ6.3×5.5 cmの腫瘤を認めた(Fig. 1).手術所見では上行結腸から盲腸にかけて前壁から右側壁にかけて最大径6 cmの1型腫瘍を認め,前壁から右側壁の腹膜に癒着していたが,後腹膜への浸潤は認められなかった.そのため,腹膜を含めて腹壁の一部を合併切除した.また,肝転移,腹膜転移は認めなかった(Fig. 2).病理組織学的には中分化型から低分化型腺癌,pSE,ly3,v2で,201番リンパ節に1個転移があり,pN1,pStage IIIaであった.腹膜や腹壁への浸潤は認めなかった(Fig. 3).術後補助化学療法としてtegafur・uracilの内服を10か月間行った.
Abdominal CT scan showing a 6.3-cm mass from the ascending colon to cecum (arrow).
Initial resected specimen in February 2002 showing a type 1 tumor from the ascending colon to cecum.
Histological findings of the ascending colon tumor showing moderately to poorly differentiated adenocarcinoma (a: moderately differentiated adenocarcinoma. b: poorly differentiated adenocarcinoma. HE objective magnification ×10).
現病歴:2003年1月腹部・骨盤部CTにて右外腸骨動脈周囲に大きさ3 cm腫瘤を認めた.右外腸骨動脈周囲リンパ節転移と診断にて入院となった.
入院時理学所見:胸部:心音,呼吸音:異常なし.腹部:平坦・軟,圧痛なし.正中部に手術瘢痕を認めた.
入院時検査所見:血液,生化学検査で異常値を認めず,CEA,CA19-9の腫瘍マーカーも正常範囲内であった.
腹部・骨盤部CT所見:右外腸骨動静脈の腹側に大きさ3 cmの腫瘤を認めた(Fig. 4).肝転移,腹部大動脈周囲リンパ節腫大,腹水は認めなかった.
Pelvic CT scan showing a 3-cm mass on the abdominal side of the right external iliac vessels (arrow).
胸部CTでも肺転移,縦隔リンパ節転移を認めなかった.
以上の検査所見より,上行結腸癌の孤立性右外腸骨動脈周囲リンパ節再発と診断し,再手術を施行した.
手術所見:2003年1月右下腹部傍腹直筋切開で開腹した.右外腸骨動静脈の腹側に大きさ約3 cmの表面平滑な腫瘤を認めた.右外腸骨静脈に浸潤していると判断したため,右外腸骨静脈を含め合併切除した.
切除標本肉眼検査所見:最大径が3 cmで腫瘍の表面は平滑であった.
病理組織学的検査所見:低分化型腺癌のリンパ節転移であり初回手術である上行結腸癌の組織像と類似していた(Fig. 5).
Histological findings of the resected specimen confirming lymph node recurrence of the ascending colon cancer (poorly differentiated adenocarcinoma) (HE objective magnification ×10).
以上より,上行結腸癌の右外腸骨動脈周囲リンパ節再発と診断した.
術後アイソボリン/5-FU療法を3クール施行した.術後9年9か月の現在再発の徴候は認めていない.
本症例は上行結腸癌術後,11か月目に右外腸骨動脈周囲リンパ節転移を来した極めてまれな1例である.医学中央雑誌で「結腸癌」,「腸骨」,「リンパ節」をキーワードで1983年から2012年まで検索したところ上行結腸癌による右外腸骨動脈周囲リンパ節転移の症例は自験例を含めて5例のみであった(Table 1)2)~5).男性が3例,女性が2例,平均年齢61歳(41~76歳)であった.同時性右外腸骨動脈周囲リンパ節転移は2例で,異時性は3例であった.異時性の3例は初回手術から3か月,11か月,4年後に転移巣の切除術が行われていた.病理組織学的検査所見は自験例の転移巣が低分化型腺癌であったため,低分化型腺癌が4例,中分化型腺癌が1例で低分化型腺癌が多いように思われた.深達度はpSSが3例,pSEが2例であった.
Case | Author | Year | Age | Sex | Simultaneity or asynchronism | Histological findings |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | Tooyama2) | 1998 | 41 | M | asynchronism | tub2, pSS, ly0, v0 |
2 | Ishii3) | 2008 | 60 | M | simultaneity | por, pSS, ly2, v1 |
3 | Takasaka4) | 2009 | 76 | F | asynchronism | por, pSS, ly2, v1 |
4 | Hashimoto5) | 2009 | 60 | M | simultaneity | por1>tub2, pSE, ly3, v1 |
5 | Our case | 66 | F | asynchronism | tub2>por, pSE, ly3, v2 |
結腸癌術後の再発として,肝転移7.6%,腹膜播種3.1%,局所再発1.7%,肺転移1.7%,リンパ節転移が1.1%,およびその他の再発形式1.1%で,肝転移再発が主で,リンパ節再発の頻度は非常に低い1).これについては本邦で1977年に大腸癌取扱い規約が作成され,初回手術時にリンパ節郭清が結腸癌に対して適正に行われてきたことが大きく影響していると考えられる.
結腸癌のリンパ流は支配動脈に沿った中枢方向の流れと辺縁動脈に沿った腸管軸方向の流れに大別される6).岸本ら7)によると上行結腸癌のリンパ節転移率は腫瘍傍で37.3%を示し,中枢側方向は右結腸動脈中間リンパ節に8.2%,主リンパ節に4.5%の転移率を示したのに対し,口側5 cm以内では11.8%,口側10 cm以内では0.9%であった.また,回結腸動脈中間リンパ節に5.5%,主リンパ節に2.7%の転移を認めた.一方,肛門側は5 cm以内で8.2%,10 cm以内で1.8%であり,中結腸動脈中間リンパ節および主リンパ節がそれぞれ4.5%と,広範囲にわたるリンパ節転移状況を示したと報告している.また,特殊な転移症例として広範囲なリンパ節転移が認められなかったにもかかわらず,所属リンパ節以外の後腹膜腔に転移を来した6例を報告している.いずれも進行盲腸癌あるいは盲腸に浸潤した上行結腸癌で,右外腸骨動脈周囲リンパ節転移したものが3例で,下大静脈前面のリンパ節転移が3例であったとしている.自験例も盲腸に浸潤した上行結腸癌であった.また,坂口ら8)は上行結腸癌の術後に右内,外腸骨動脈周囲リンパ節転移による尿管狭窄症例を報告している.このような転移ルートについて左側結腸ではSlanetzら9)によりS状結腸動脈周囲から傍大動脈周囲リンパ節に至る直接的なリンパ路の存在が指摘されているが,右側結腸では後腹膜へのリンパ流は確認されていない.このリンパ流の存在の解明は今後の重要な課題であると思われる.
リンパ節転移を来しやすい病理組織学的要因としては組織型,壁深達度,静脈侵襲,リンパ管侵襲などが示唆されているが,いまだ結論は出ていない10)~12).盲腸癌および盲腸に浸潤した上行結腸癌の高リスク群では後腹膜腔への転移再発の可能性を考慮し,follow upに注意が必要である.また,自験例の結果より,上行結腸癌術後,右外腸骨動脈周囲リンパ節転移を来しても他に転移がなければ,外科治療の適応の可能性があると思われた.
利益相反:なし