抄録
症例は71歳の女性で,夜間に増強する腹痛と嘔気を認め,当院へ救急搬送された.CTでは小腸の拡張と腸間膜血管の巻き込みを認めるとともに,左横隔膜は著しく挙上し,拡張した胃や小腸が一塊となって胸腔内へ突出しているように考えられた.横隔膜ヘルニア,絞扼性イレウスの術前診断で緊急手術を施行した.術中所見では左横隔膜弛緩を認め,小腸は上腸間膜動脈を中心として時計方向に180°回転し,一塊となって左横隔膜が弛緩したためにできた大きな左横隔膜下腔へ向かって捻転していた.捻転を用手的に解除すると腸管の色調は改善したため,腸管切除は施行せず,再発予防として回盲部の後腹膜固定のみを追加した.術後経過は良好であり,術後10日目に自宅退院となった.本邦では開腹既往のない小腸軸捻転症は比較的まれな疾患である.医学中央雑誌で検索しうるかぎり横隔膜弛緩症を伴った症例は本症例が初めてであり,文献的考察を含めて報告する.