日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
腸重積を来した回腸pyogenic granulomaの1手術例
武田 光正中島 紳太郎宇野 能子衛藤 謙小村 伸朗澤田 亮一加藤 智弘田尻 久雄池上 雅博矢永 勝彦
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キーワード: pyogenic granuloma, 腸重積, 回腸
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2015 年 48 巻 1 号 p. 46-52

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Abstract

症例は67歳の女性で,下血の精査目的に他院で上部および下部消化管内視鏡検査が施行されたが異常所見を認めなかった.当院でカプセル内視鏡を施行したところ回腸に易出血性の隆起性病変を認め,質的診断の目的で小腸内視鏡検査を予定していたが,腹部CTで回腸遠位部から上行結腸に重積を認めていたため外科的切除を行った.開腹したところ,回腸が約10 cm上行結腸に重積し,用手整復を試みたが困難であったため回盲部切除を施行した.摘出標本で終末回腸に20 mm大の隆起性病変を認め,これが先進部となって重積を発症したと判断した.病理組織学的検査で回腸pyogenic granulomaの診断に至った.Pyogenic granulomaは皮膚や口腔粘膜に好発するが,消化管に発生することは極めてまれであり,これによる腸重積の報告は和文・英文を合わせて4例目であった.

はじめに

Pyogenic granuloma(化膿性肉芽種)は皮膚や口腔に好発する血管腫の一種で,血管内皮細胞の腫大を伴う毛細血管の分葉状増生を特徴とし,小腸に発生するものは極めてまれである1).今回,我々は回腸に発生したpyogenic granulomaによる腸重積に対して回盲部切除術を施行した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

症例

症例:67歳,女性

主訴:貧血

既往歴:14歳急性虫垂炎で切除術,65歳糖尿病(食餌と運動でコントロール中)

現病歴:2013年8月,下血を主訴に前医を受診した.上部消化管内視鏡検査では潰瘍をはじめ出血源と成りえる病変はなかった.下部消化管内視鏡検査ではBauhin弁から約5 cm口側まで内視鏡を挿入して観察したが,同部から盲腸および全結腸・直腸・肛門に粗大病変や血液成分の貯留を認めなかった.その後,経過観察となったが症状の改善がみられず,精査の目的で当院に紹介となり,カプセル内視鏡検査を施行したところ回腸末端部に易出血性の隆起性病変を認め当科に紹介となった.

初診時現症:意識清明で,身長151 cm,体重40.6 kg,体温36.2°C,血圧108/63 mmHg,心拍66回/分,整.眼瞼結膜に貧血を認め,眼球結膜に黄疸を認めず.胸部に明らかな心雑音,ラ音は認めなかった.右下腹部に腫瘤を触知したが,圧痛は軽度で排ガスおよび排便は継続していた.

初診時血液・生化学検査所見:RBC 3.31×106/μl,Hb 8.6 g/dl,Ht 26.4%,と貧血を認めた.腫瘍マーカーはCEA,CA19-9とも正常範囲内であった.

カプセル内視鏡検査所見:胃通過時間13分,小腸通過時間303分で全小腸の観察が可能であった.遠位回腸に血液成分を認め,発赤と出血を伴う亜有茎性の隆起性病変を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Capsule endoscopic findings. A small protruding tumor with oozing was demon­strated in the distal ileum.

腹部造影CT所見:回腸遠位部から上行結腸にかけて重積を認めた.先進部と考えられる部位で早期に造影効果を伴う小結節を認め,GISTやneuroendocrine tumor,小腸癌,leiomyomaなどが疑われた.腸管壁の造影効果の低下や腹水は認めず,血流障害は否定的であった(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal enhanced CT. Ileo-cecal intussusception and a small nodule with contrast enhancement was seen in the early phase at the anal part (white arrow). No ascites or other intestinal ischemic findings were present.

質的診断の目的で小腸内視鏡検査を検討したが,腹部造影CTで回腸重積を認めたため施行しなかった.血流障害を示唆する理学的所見や生化学的所見を認めなかったため,待機的に手術を行った.

手術所見:仰臥位で体位を固定し,臍下から5 cmで開腹した.腹腔内には反応性腹水が少量貯留し,上行結腸の固定は不良で,約10 cm程度の回腸結腸型の重積を認めたが,漿膜面の血流は良好であった(Fig. 3).用手的に整復を試みたが3 cm程度しか整復できず,回盲部切除を施行した.この際,悪性腫瘍が否定できなかったため,回結腸動静脈を上腸間膜動静脈からの起始部で処理し,腸管を切離した.再建は三角吻合で行った.手術時間は1時間25分,出血量は少量であった.

Fig. 3 

Intraoperative findings. Ileo-cecal intussusception (white arrow), 10 cm proximal to the Bauhinvalve was seen. The color of the intestine was normal. The intussusception was extensive, and therefore ileocecal resection was performed.

切除標本肉眼的所見:Bauhin弁から10 cm口側の回腸に直径20×15×10 mm大の亜有茎性病変を認めた.同部の漿膜側にはdelleを認め,病変は弾性硬で,表面にびらんと炎症物質が付着していた(Fig. 4A, B).

Fig. 4 

Resected specimen. A) Macroscopically, the tumor was 20 mm in diameter and originated from the ileum. B) The surface of the tumor was reddish with erosion and white inflammatory exudates.

病理組織学的検査所見:病変部表面はびらんと潰瘍形成により炎症性浸出物で覆われ,さらにその深部組織(粘膜下層内)では軽度の核腫大を伴う内皮細胞を有する毛細血管が著明に増生していた(Fig. 5A, B).隆起性病変周囲の粘膜下層~漿膜下で線維化や炎症性肉芽組織の形成,リンパ球,形質細胞主体の慢性炎症細胞浸潤が認められ,腸重積に伴う変化と考えられた.増生した毛細血管は免疫染色検査でCD31(+),D2-40(–)で,pyogenic granulomaと診断した(Fig. 6A, B).

Fig. 5 

Pathlogical findings (HE staining). A) A low-power view of the tumor in the ileum. The tumor protruded into the ileal lumen. B) The capillary with mild nuclear swelling exhibited a hyperplasia in the submucosa. Fibrosis and inflammatory granulation tissue with lymphocytes were seen between the submucosa and serosa of the polypoid lesion. (original magnification, ×4)

Fig. 6 

Immunohistochemical findings. A) CD31 immunoperioxidase staining was positive for the endothelial cells. (original magnification, ×40) B) D2-40 immunoperioxidase staining of the endothelial cells was negative. (original magnification, ×40)

術後の経過は良好で,術8日目に退院した.

考察

成人腸重積症は小児を含めた腸重積全体の5%を占め,病因としては小児では特発性が90%を占めるのに対し,成人では腸管の器質的病変が先進部となって発症するものが90%とされ2),Felixら3)は成人腸重積の集計で63%の症例で腫瘍が原因となっていると報告している.この中では悪性リンパ腫27%,脂肪腫20%,ポリープ13%の順に多く,原発性小腸癌の占める割合は4.6%と比較的少ない4).このような器質的疾患の合併から,成人では診断と治療の目的での手術治療が選択される.自験例でもカプセル内視鏡検査で小腸病変は確認されていたが確定診断が得られず,腸重積解除の目的で行われた手術後に小腸pyogenic granulomaの診断に至った.

Pyogenic granulomaは皮膚や粘膜の結合織に由来するポリープ状の無痛性・易出血性の毛細血管腫で,1897年にPancetら5)によってBotryomyces菌感染による二次性変化に由来するbotryomycosis humaineとして初めて報告された.その後,炎症細胞浸潤や潰瘍形成を伴わないものがあり,組織学的に毛細血管腫の像に一致することから感染説は否定され,1904年にHartzell6)によって血管腫の一種であるpyogenic granulomaと命名された.その発症は感染や炎症に起因するものではなく,良性血管腫が外傷,慢性刺激,感染,妊娠などによる二次的な変化によって肉芽様組織を形成するものと考えられ,肉芽組織型血管腫とも表現される1).病理組織学的には表層では炎症細胞浸潤を伴った毛細血管の増生と拡張,基底部では毛細血管の分葉状増殖と浮腫性間質を呈する特徴があり,幼弱なうちは細血管の増生と拡張が著明な肉芽様組織であるが,慢性化すると結合織を中心に線維化が進むと報告されている1).特に皮膚や口腔外科領域に多く発生し,歯肉,舌,頬粘膜,口唇,硬口蓋に認めることが多く,食道以下の消化管での発症は極めてまれである1).口腔内での発症要因としては義歯の不適合,咬傷,歯牙鋭縁などによる慢性刺激の既往がある症例に多いとされている7).一方,消化管ではBarret食道や逆流性食道炎のような慢性刺激以外に魚骨や刺激物などの食餌による粘膜障害やキャンピロバクター腸炎をリスクとして挙げている報告7)8)もあるが,Millsら9)は外傷をはじめ特定の誘因がなくても発症するとしており,これらの因果関係は不明である.

今回,我々が医学中央雑誌Webで1983年から2014年1月の範囲で「pyogenic granuloma」,「化膿性肉芽腫瘍」,さらにPubMedで1950年から2014年の範囲で「pyogenic granuloma」をキーワードに検索し,小腸に発症した症例を抽出したところ,22例を認めるのみであった(Table 17)8)10)~27).小腸pyogenic granulomaの平均年齢は57歳(13~79歳)で男女比は11:12とほぼ同等であった.病変の局在は十二指腸2例(9%),空腸5例(23%),回腸13例(59%),記載なし2例であった.下血や貧血などの出血に由来する症状で発見された症例は17例(77%)と大半を占め,出血によってショックに陥った症例や緊急手術を施行した症例も認められた.小腸pyogenic granulomaが先進部となって腸重積を合併した症例は自験例を含め4例のみであり8)21)27),非常にまれな病態であるといえる.病変の形態は記載のあった20例中,広基性6例,亜有茎性11例,有茎性3例であり,平均サイズは18 mm(2~60 mm)であったが,本橋ら7)によると消化管原発のpyogenic granulomaは30 mm以下であることが多いとされ,これに一致していたものであったが,腸重積を発症した症例の平均サイズは34 mmと比較的大きい傾向があった.小腸発症例ではカプセル内視鏡検査や小腸内視鏡検査が有用であり,表面に白苔を有する特徴的な所見を有していれば診断は可能であるが,経過中に表面性状や形態が変化することがあり,前述の所見を有さない時期であれば乳頭腫や線維腫の鑑別が必要となる.そもそも,pyogenic granulomaは血管腫に起因する病変であり生検自体が出血のリスクとなるため,これを回避し表面性状の拡大観察などから診断を行う方法も検討される.しかし,病変が十二指腸では可能であっても深部小腸では困難な場合もあり,診断を兼ねた切除も検討されるべきである.自験例はカプセル内視鏡検査で病変が発見され,診断のために小腸鏡が検討されたが重積のため未実施のまま外科的切除を行った.過去5例の内視鏡的切除の報告(再発に対して外科切除を追加1例を含む)があるが15)16)19)23)26),小腸病変は出血時の処置が困難であることなどから小腸鏡の手技に習熟した施設以外では外科的切除が推奨されている.また,不完全切除の場合は再発や切除が刺激となって急速に遺残病変が増大することがあり,悪性腫瘍と同様に完全切除が必要とされる.

Table 1 Reported cases of pyogenic granuloma originated from the small bowel
No Author/Year Age/Sex Complaint Location Operation Maximal size (mm) Gross appearance
1 Payson8)/1967 45/M abdominal pain ileum surgical resection 60 sessile
2 Meuwissen10)/1986 37/M No complaint Ileum (ileostomy) laser therapy ND sessile
3 Iwakubo11)/1989 30/F melena, anemia ileum surgical resection 8 sessile
4 Hizawa12)/1993 26/F ND ileum surgical resection ND ND
5 Makie13)/1994 71/F melena ileum surgical resection 20 subpedunculated
6 Yao14)/1995 71/F melena ileum surgical resection 25 pedunculated
7 Yao14)/1995 56/M melena jejenum surgical resection 20 subpedunculated
8 Hirakawa15)/1998 60/M anemia duodenum endoscopic resection 8 pedunculated
9 Motohashi7)/1999 58/M melena ileum surgical resection 30 pedunculated
10 Maki16)/2001 64/F No complaint duodenum endoscopic resection
⇒surgical resection (PD)
18 subpedunculated
11 Nakamura17)/2004 49/M melena jejenum surgical resection (Lap) 2sessile
12 van Eeden18)/2004 55/F melena ileum surgical resection 9 subpedunculated
13 Shirakawa19)/2007 72/M blleding ND endoscopic resection ND subpedunculated
14 Tanaka20)/2007 75/F anemia ileum surgical resection 11 sessile
15 Stojsic21)/2008 13/F abdominal pain ileum surgical resection (ileostomy) 40 subpedunculated
16 Isobe22)/2008 79/F anemia jejenum surgical resection 20 subpedunculated
17 Kuga23)/2009 55/M anemia jejenum endoscopic resection 4 sessile
18 Moffatt24)/2009 78/M anemia jejenum surgical resection 20 subpedunculated
19 Chou25)/2009 58/M melena ileum surgical resection 10 ND
20 Nagoya26)/2010 63/F anemia ileum endoscopic resection 7 subpedunculated
21 Yamashita27)/2013 61/M melena, anemia ND surgical resection 15 subpedunculated
22 Our case 67/F melena ileum surgical resection 20 subpedunculated

ND: not detected

利益相反:なし

文献
 

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