2015 年 48 巻 1 号 p. 53-59
症例は13歳の男性で,腹痛,嘔吐を主訴に受診した.上腹部,右下腹部に腹膜刺激症状を伴う圧痛を認め,血液検査では炎症反応の上昇を認めた.腹部CTでは小腸の拡張像と下腹部から骨盤内に約12×12×6 cmのニボー像を伴う拡張した囊状の腸管像を認め,この腸管壁の造影効果は不明瞭であった.絞扼性イレウスを疑い開腹術を行った.手術では膿性腹水と骨盤内に囊状に拡張し壊死した腸管を認めた.この腸管はBauhin弁より約60 cm口側の回腸の腸間膜接合部より発生し,その基部で360°捻転し絞扼壊死していた.絞扼した腸管は回腸と共通の腸間膜を有しており,腸管重複症捻転と診断した.正常腸管も含め,絞扼壊死した腸管重複症を切除した.腸管重複症自体の捻転の報告は少なく,まれな病態であると考えられ,文献的考察を加えて報告する.
腸管重複症は舌根部から肛門までの全消化管に発症しうる比較的まれな先天性疾患で,その発生部位,形態により多彩な病態を示す1).今回,回腸腸管重複症が捻転し,絞扼壊死を来した1例を経験した.腸管重複症の捻転は非常にまれであり,文献的考察を加えて報告する.
患者:13歳,男性
主訴:腹痛,嘔吐
既往歴:喘息性気管支炎
現病歴:体育の授業終了後の昼食時より吐き気が生じ,夕より腹痛,嘔吐を主訴に当院を受診したが,胃炎が疑われ,点滴加療を受け帰宅した.翌日になっても症状の改善がないため近医を受診し,急性虫垂炎が疑われたため当科紹介受診した.
身体所見:身長167.0 cm,体重58.6 kg,体温39.1°C,心拍数113回/分,血圧124/60 mmHg,SpO2 98%(room air),腹部は平坦.右下腹部に自発痛と腹膜刺激症状を伴う圧痛を認め,上腹部にも圧痛を認めた.
血液検査所見:WBC 16,780/μl,CRP 4.19 mg/dlと炎症反応の上昇を認めた(Table 1).
Peripheral blood cell count | Blood chemistry | ||
---|---|---|---|
WBC | 16,780/μl | TP | 7.6 g/dl |
RBC | 507×104/μl | Alb | 5.2 g/dl |
Hb | 14.5 g/dl | AST | 20 IU/l |
Ht | 41.4% | ALT | 18 IU/l |
Plt | 18.1×104/μl | LDH | 239 IU/l |
ALP | 578 IU/l | ||
Coagulation test | γ-GTP | 16 IU/l | |
PT (sec) | 13.3 sec | CK | 170 IU/l |
PT (%) | 57.5% | BUN | 14.0 mg/dl |
PT-INR | 1.27 IU/l | Cr | 0.65 mg/dl |
APTT | 31.0 sec | T. Bil | 0.65 mg/dl |
Na | 138 mEq/l | ||
K | 3.7 mEq/l | ||
Cl | 103 mEq/l | ||
CRP | 4.19 mg/dl |
腹部造影CT所見:小腸の拡張があり腸閉塞の所見で,腹水も認められた(Fig. 1).下腹部から骨盤内に約12×12×6 cmの内部にガスと腸液を伴う囊腫様に拡張した腸管像も認め,壁の造影効果は不明瞭であった(Fig. 1).術後,後視方的に評価すると,この拡張した腸管の基部では腸管が捻転しているように観察できた(Fig. 1).虫垂の腫大は明らかではなかった.
Enhanced abdominal CT. A, B: horizontal section, C: coronal section, D: sagittal section. Abdominal enhanced CT shows ileus with ascites. There is a dilated and saccular intestine about 12×12×6 cm in size with niveau formation in the lower abdomen and pelvis. The enhancement of the intestine was reduced (*). Torsion at a top of the dilated and saccular intestine can be seen (arrows).
以上の所見より,絞扼性イレウスを疑い開腹術を行った.
手術所見:開腹時,膿性腹水と骨盤内に暗赤色に拡張した腸管を認めた.この腸管はBauhin弁より約60 cm口側の回腸と連続し,その基部で360°捻転し(Fig. 2矢印),血流障害を来し絞扼壊死していた.絞扼した腸管は回腸と共通の腸間膜を有し,回腸の腸間膜付着部付近より発生していた(Fig. 3矢印)ことからMeckel憩室ではなく,腸管重複症捻転と診断した.正常腸管も含め,絞扼壊死した腸管重複を切除,回腸を吻合した.回腸から空腸の拡張も認めたが,腸閉塞を来す器質的原因はなく,麻痺性腸閉塞と診断した.
Operative findings at laparotomy. A dilated and necrotized intestine. The intestine communicated to the ileum on the mesenteric side at 60 cm oral to the Bauhin valve and was strangulated, and developed a 360° volvulus at its base (arrow).
Operative findings after detorsion of the duplication cyst. The strangulated intestine shared a common smooth muscle wall and blood supply with the adjacent ileum (arrow).
切除標本:重複腸管の壁は暗赤色に変色,菲薄化し,壊死に陥っていた.重複腸管と連続する回腸には異常は認めなかった(Fig. 4).
Macroscopic findings of the resected specimen. The wall of the duplication cyst was dilated and became necrotic.
病理組織学的検査所見:切除した重複腸管全層が壊死に陥り,著明な出血も認められた.さらに,血管は拡張し,血栓様物質も認められ,出血性梗塞の所見であった.
術後経過:術後4日目より経口摂取を開始した.術後9日目に腸閉塞を発症したが保存的に軽快し,術後16日目に退院した.
腸管重複症は,さまざまな呼び名で記載されていた一連の疾患に対し,1940年Laddら2)により総称された疾患である.腸管重複症の存在部位は舌根部より肛門までの全消化管にわたって発症し,「消化管に隣接する」,「平滑筋を有する」,「内面に消化管上皮を認める」,以上の三つの条件で定義づけられる.付着する消化管の腸間膜側に存在し,共通の血管を所有することが多い.
消化管重複症は先天性疾患であり,部位,大きさ,形態が多様であることから,成因としてさまざまな説が提唱されている.その中でも脊索腸管分離障害説(spilit notochord説)が有力で,消化管重複症が①脊椎奇形の合併が多いこと,②腸間膜側に発生することを説明しやすいとされる3).
発生頻度は,剖検例で1/4,500であり1),有症状をもっての発症年齢は,新生児から成人まで各年齢に認められるが,2歳未満例は74%,1歳までに65%が発症するとの報告4)もあり,そのほとんどが乳幼児期に発症する.
腸管重複症はその形態から球状型,管状型に分類される.球状型は食道,小腸に多く,管状型の発生部位は中腸由来の消化管が50%,その中でも,回腸が35%と最も多く5),小腸,回盲部が好発部位である.球状型は全体の92%と腸管重複症のほとんどを占める6).球状型は漿膜,筋層が正常腸管と共有されていることが多く,腸管重複症は内部の貯留液により腫大し,直接,隣接する正常腸管内腔を圧迫して腸閉塞を来したり,内腔への突出腫瘤が先進部となって腸重積を発症することもある.さらに,新生児,乳幼児においては腫瘤を中心として,腸管軸捻転をじゃっ起し消化管閉塞の原因となるが7),自験例のような腸管重複症自体の捻転とは区別されると考えられる.一方で正常腸管と交通している管状型では,腸管との交通があり,長期間無症状で経過して異所性胃組織による潰瘍形成,出血,穿孔で発症することもある.隣接腸管と近位側や遠位側,その他の部位に複数の交通を有することがあり,その形態はさまざまである4).通常は隣接する腸管の腸間膜側で,腸管膜間に挟まれるように存在し,筋層と支配血管は隣接する正常腸管と共有することが多い.また,隣接腸管と同じ粘膜を有することが多いが,異所性胃粘膜,膵組織を10~30%に認めるとされる8).
回腸の腸管重複症の場合では真性憩室であるMeckel憩室との鑑別が重要である.Meckel憩室は腸間膜付着部の対側に存在し,憩室先端には卵黄腸管遺残物である線維性の索状物や卵黄動静脈の遺残(mesodiverticular band)を認め,そこから血行を得ていることもある9).消化管重複症は一般に腸間膜対側に付着し,隣接する消化管との共通の血行支配および共通の筋層を有する点よりMeckel憩室と鑑別されるが,必ずしも容易ではないこともある.しかし,自験例は捻転した腸管は回腸腸間膜付着側に存在していたこと,回腸と平滑筋を共有していたこと,さらに栄養血管は回腸腸間膜と共有されており,前述したようなMeckel憩室の際に認められる卵黄動脈の遺残や,それが線維化したmesodiverticular bandを有する所見ではなかったことから,回腸腸管重複症と診断しえた.
腸管重複症では腸管重複症を軸として腸管が捻転したり,時に中腸軸捻転を発症することはある7)が,腸管重複症自体の捻転は非常にまれである.PubMedで「duplication」,「volvulus」,「torsion」をキーワードに1950年から2014年までの全年で検索すると,腸管重複症の捻転は2例認めた10)11).1例は1歳児で,完全孤立性の回腸腸管重複症が捻転した症例で,別に存在した回腸腸管重複症が関連していた.もう1例は2歳児で,結腸重複腸管が連続した不完全型虫垂重複腸管の周囲を捻転していた症例である.自験例とは異なり,この2例とも腸管重複症としては特殊な形態であり,捻転した腸管重複症とは別の部位の腸管重複症が捻転に関与していた.医学中央雑誌で1983年から2013年まで,「腸管重複症」,「捻転」,「絞扼」をキーワードに会議録を含めて検索した結果,本邦ではこれまでに会議録で2例の報告があるのみであった(Table 2)12)13).自験例を含め,いずれも捻転腸管は小腸であった.年齢は10歳から15歳の小児であり,捻転した腸管重複症は10 cm大程度で,内部に液体とairを含む囊胞状の画像所見を示したのが特徴的である.さらに,これまでの報告例ではバスの移動中,腹部打撲の後の腹痛,嘔吐で発症している.自験例では体育の授業の後であり,腸管重複症捻転との関連は不明であるものの,激しい体動や,腹部圧迫が誘因となる可能性もある.
Case | Author | Year | Age | Sex | Chief complaint | Peritoneal irritation | CT findings size | Form of duplication cyst | Location | Operation |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Shimojima12) | 2004 | 14 | M | abdominal pain, vomitting | + | cystic lesion containing air 10 cm |
tubular | jejunum | partial resection of jejunum |
2 | Takahashi13) | 2009 | 11 | F | abdominal pain, vomitting | + | cystic lesion containing air 10 cm |
cystic | ileum | partial resection of ileum |
3 | Our case | 13 | M | abdominal pain, vomitting | + | cystic lesion containing air 12×12×6 cm | tubular | ileum | partial resection of ileum |
腸管重複症の捻転は腸管の血流障害を引き起こし,絞扼性イレウスの1型であると考えられる.このため消化器外科における緊急性を要する疾患の一つで,迅速な診断と外科的手術が重要である.
星ら14)は2002年までの本邦報告例285例を検討し,小腸での腸管重複症は腸重積,腫瘍,腸閉塞と術前診断されることが多く,術前診断率は11.2%であったと報告し,腸管重複症を術前に正診することは困難であることが多い. 一方で,これまでの腸管重複症捻転2例の報告,自験例ともに腹部CTでは,大きさは10 cm大,ガスと腸液を含む囊腫様病変として指摘されており,同所見が診断の一助となる可能性がある.
治療は腸管の絞扼から腹膜炎を発症しており,捻転,絞扼した腸管重複症の迅速な切除が重要である.一般に腸管重複症は正常腸管の腸間膜接合部に存在することが多く,正常腸管と共通の血行を受けるため重複腸管のみの切除は困難な場合が多いため,切除が可能であれば,腸管重複症と隣接する正常腸管を含めて切除を行うのが原則である.
なお,本文の要旨は第75回日本臨床外科学会総会(2013年11月,名古屋)において発表した.
利益相反:なし