日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
FDG-PET/CTにて高集積を示し,膵癌との鑑別に難渋した膵管内乳頭粘液性腺腫の1例
梶原 淳秋田 裕史江口 英利丸橋 繁和田 浩志森井 英一若狭 研一森 正樹土岐 祐一郎永野 浩昭
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2015 年 48 巻 12 号 p. 1007-1014

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Abstract

症例は83歳の女性で,腹部CTにて膵尾部に囊胞性病変を指摘され膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;以下,IPMNと略記)と診断された.その後経過観察されていたが,腹部MRIにて膵尾部の囊胞性病変の近傍に乏血性腫瘤が出現し,超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasound;EUS)でも囊胞内の充実成分に一部膵臓への浸潤を疑う所見を認めた.また,FDG-PET/CTにて充実成分へのFDG異常集積を認めたためIPMN由来浸潤癌と診断し膵体尾部切除術を施行した.病理組織学的診断は慢性膵炎を伴う膵管内乳頭粘液性腺腫で,悪性所見は認めなかった.IPMNは通常型膵癌と異なり手術時期に苦慮することがある.囊胞の急速増大を来し悪性を疑う所見を呈したIPMNに対しては膵炎などの影響の可能性も考慮し,慎重な手術適応の決定を行う必要があると思われた.

はじめに

膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;以下,IPMNと略記)は1982年に大橋ら1)が報告して以降,画像診断の発達とともに発見頻度が増加している2).IPMNはmalignant potentialを有するため,その手術適応の判断が重要で,特に,悪性頻度の低い分枝型においては,手術時期の決定もあわせて問題となる.

2012年に発表されたIPMNとMCN(mucinous cystic neoplasma)に関するガイドライン3)によると,分枝型IPMNの悪性頻度は平均25.5%で,浸潤癌は平均17.7%であった4).さらに,患者のほとんどが高齢者で悪性化の頻度は年率わずか2~3%であることから,切除適応については熟考する必要がある5).また,このガイドラインでは手術適応をhigh risk stigmataと悪性疑い(worrisome features)の二つに分けて考慮しているが,明確な手術時期に関する規定はされていない.IPMNの画像診断としては,CT・MRI(MRCP)・ERCP(IDUS;intraductal ultrasonography)・超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasound;以下,EUSと略記)などが有用とされるが,最近膵囊胞性疾患の治療方針決定にFDG-PET/CTが有用であるという報告もある6)~9)

今回,我々は分枝型IPMNの経過観察中に囊胞が急速に増大して充実成分を伴うようになり,FDG-PET/CTにて異常集積を認めたため,悪性を強く疑い切除を行ったが,病理組織学的検査結果にて膵管内乳頭粘液性腺腫であった1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:83歳,女性

主訴:特になし.

既往歴:慢性肝炎,胃潰瘍(胃切除術後),糖尿病,高血圧

家族歴:特になし.

嗜好歴:喫煙なし,飲酒なし.

現病歴:2003年より慢性肝炎に対して経過観察されていた.2010年11月の腹部CTにて膵尾部に囊胞性病変を指摘され,以後画像検査にて経過観察されていたが,囊胞の増大を認めたため精査・加療目的に2012年5月に当科紹介となった.

入院時現症:特記すべきことなし.

入院時血液検査所見:肝胆道系酵素正常,腎機能障害なし.膵酵素や腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)は正常,その他異常所見は認められなかった.

腹部CT所見:2010年11月の腹部CTでは膵体部に径18 mm,膵尾部に径7 mmの囊胞性腫瘤を認めた.膵尾部の腫瘤に関しては副脾として経過観察されていた.フォローアップ目的に2011年5月にCTを施行するも,膵体部・尾部の囊胞性腫瘤に変化なく,尾部の腫瘤も変化を認めなかった(Fig. 1A).2012年4月に施行したCTにて膵頭部から尾部にかけて最大径3.5 cmまでの囊胞が多発し,尾部に径27 mmの囊胞性病変が出現した(Fig. 1B).2012年6月のCTにて膵尾部の囊胞性病変は径30 mmに増大し,造影効果を伴う囊胞壁肥厚を認め,内部には充実成分を持つhypovascular massが出現した(Fig. 1C).

Fig. 1 

Change in the pancreatic cyst in abdominal CT images. (A) The size of the cyst in the pancreatic body and tail remained unchanged (May 2011). (B) The cyst in the pancreatic tail was 30 mm. The main pancreatic duct was not dilated and no nodules could be observed in the cyst (April 2012). (C) Two months later, the wall of the cyst in the pancreatic tail thickened and a mass appeared in the cyst (June 2012).

腹部MRI所見:2011年11月に施行したMRIでは膵頭部~尾部に囊胞が多発し,主膵管の軽度拡張を認めた.2012年5月の再検では主膵管との交通を有する囊胞は多発しており,膵尾部の囊胞に乏血性結節が出現し,急速な増大を認めた(Fig. 2A).MRCP上では囊胞性病変と主膵管との交通は不明であった(Fig. 2B).

Fig. 2 

Abdominal MRI and MRCP of the pancreatic cyst (May 2012). (A) The ischemic nodule appeared in the pancreatic tail. (B) Several pancreatic cysts were present in the pancreatic head and tail.

ERCP所見(2012年4月):肉眼所見にてVater乳頭部は開大しておりIPMNを示唆する所見を認めた(Fig. 3A).膵管造影にて主膵管は頭部・体部に拡張を認めた.主膵管内に粘液栓と思われる透亮像を認め,膵尾部主膵管は腫瘍部にて途絶している所見を認めた.膵液細胞診を提出しClass IIIが検出された(Fig. 3B).

Fig. 3 

ERCP findings and cytology (April 2012). (A) The papilla of Vater was dilated. (B) Cytology of pancreatic juice was classified as Class III.

EUS所見:2012年4月のEUSにて膵尾部に27 mm大の囊胞を認めた.囊胞内に結節は認めなかった(Fig. 4A).その後CT,MRIにて囊胞の増大を認めたため2012年6月に再度EUSを施行すると囊胞は30 mmまで増大していた.内腔に突出するように囊胞辺縁に充実成分を認め,充実成分の一部は膵臓への浸潤を疑う所見であった(Fig. 4B).

Fig. 4 

Pancreatic cyst on EUS images. (A) The cyst in the pancreatic tail was 27 mm. A nodule was not detected in the cyst (April 2012). (B) Two months later, the cystic lesion enlarged to 30 mm. A nodule appeared in the cyst and a part of the nodule was suspected to have invaded the pancreatic parenchyma (June 2012).

FDG-PET/CT所見: 2011年12月に施行した所見では膵内に明らかな異常集積は認めなかったが,2012年6月の再検査では膵尾部にFDGの異常集積(SUV-max=6.6)を認めた.その他の部位に異常集積を認めなかった(Fig. 5).

Fig. 5 

Abdominal FDG-PET/CT (June 2012). An abnormally high accumulation of FDG was detected in the pancreatic tail (SUV-max 6.6).

上記の経過観察中に膵炎を示唆する自覚所見および血液検査所見は認めなかった.以上より,IPMNの経過観察中に囊胞壁の辺縁から膵癌が発生し,膵実質への浸潤を伴う病変に進展したものと診断し開腹術を施行した.

手術所見:上腹部正中切開にて手術を開始した.腹腔洗浄細胞診は陰性で,明らかな遠隔転移を疑う所見はなかった.膵尾部に一部に充実性腫瘤を伴う4 cm大の囊胞性腫瘤を認めたため膵体尾部切除術を施行し,空腸への浸潤を疑い,空腸部分切除を併施した.

切除標本肉眼所見:膵体部から尾部にかけて充実部分を伴う最大径50 mmの囊胞性病変を認めた.囊胞内には壊死を伴う結節を認め一部脾静脈への浸潤を疑う所見であった(Fig. 6A).

Fig. 6 

Resected specimen and pathological findings. (A) A nodule with necrosis was observed. Invasion of the splenic vein was suspected. (B) The cystic lesion in the pancreatic tail was diagnosed as intraductal papillary mucinous adenoma. (C) Necrotic tissue, neutrophilic infiltration, and formation of granuloma-like tissue with multinucleated giant cells were observed.

病理組織学的検査所見:慢性膵炎を背景とした線維化を認めた.膵管内の細胞異型は軽度~中等度で腺腫の所見であった(Fig. 6B).膵癌を示唆する所見はなく,リンパ節転移も認めなかった.空腸への浸潤を疑った部位にも悪性所見はなかった.術前FDG-PET/CTにて異常集積を認めた部分には出血や浮腫が目立ち,壊死や著明な好中球浸潤,多核巨細胞を伴う肉芽腫様の形成を認めるのみで悪性所見はなかった(Fig. 6C).術後経過は概ね良好で,生存中である.

考察

分枝型IPMNの画像診断においては,一般的にCTやMRI(MRCP)が施行されることが多い.CTは病変の形態や局在,周囲への進展などを把握するのに有用とされ10),MRI(MRCP)でも同様に形態や局在の把握に有用とされている11).両者の比較ではIPMNを含めた膵囊胞を検出する頻度はMRIの方がCTよりも高く12)13),膵囊胞内の隔壁,結節,主膵管との交通をよりよく描出するため,ガイドラインなどでもMRIが推奨されている14).ERCPはMRCPの普及以前では膵管評価を行ううえで主要な検査で,乳頭部の観察を直接行うことができ,細胞診やエコーを行うことで良悪性の鑑別や切除範囲決定に有用とされていた.一方で,ERCPは侵襲が大きく,検査後の膵炎併発の問題もあるため,徐々に施行回数は減少傾向である.また,近年,壁在結節や浸潤癌などの悪性所見を描出するにはEUSが最も有用とされており15),CTやMRI(MRCP)にて悪性を疑う所見を認めた場合,EUSにてさらなる検索を行い,治療方針を決定することが重要である.医学中央雑誌において,1977年から2015年の期間で「膵管内乳頭粘液性腫瘍」,「膵炎」,「FDG-PET/CT」のキーワードを用いて検索(会議録を除く)し,PubMedにおいて1950年から2015年の期間で「intraductal papillary mucinous neoplasm」,「pancreatitis」,「FDG-PET/CT」のキーワードを用いて検索した結果,FDG-PET/CTの膵悪性診断における有用性の検討16)は多くはないが,従来のCTやMRIに比べて疑陽性例がなく,上皮内癌80%,浸潤癌95%の陽性例を示したという報告8)や,悪性例に対して100%の陽性率を示し,MRCPより有用であったという報告がある17).李ら18)はIPMNの良悪性診断に対する感度は100%,特異度は86%と非常に高く,治療方針の決定に難渋する症例においては有用な検査の一つであるとしている.また,SUV-max値を参考にすることで良悪性を鑑別する報告もある.Hongら19)の報告では,悪性IPMNのSUV-max値は良性IPMNに比べて有意に高いと報告されており,Takanamiら20)の報告でも同様に悪性IPMNのSUV-max値は良性に比べて高いと報告されている.当教室でもSUV-max 2.5以上の症例において悪性例が多いという報告をしており21),手術適応決定の際はSUV-max値も参考にしている.一方でFDGは糖代謝が亢進している部位に集積するため,悪性腫瘍以外にも活動性の炎症部位に集積する場合があり,偽陽性に注意する必要がある.Shreve22)の報告では,膵炎へのFDG集積に関しては約28.5%に腫瘍がなくてもFDGの高集積を認め,SUV-max 3.4から11.2と悪性を示唆するほどの高値を示したと報告している.また,自己免疫性膵炎でも活動期には病巣に一致してFDGの集積を認め,SUV-max高値になることが報告されている23).本症例では,ガイドライン上worrisome featuresであり,さらにEUSにて壁在結節や浸潤癌を疑う所見を認め,術前FDG-PET/CTにてSUV-max 6.6と高値を認めたため手術適応ありと判断した.一方で,術前の腫瘍マーカーは正常であり,他に悪性を示唆するような所見を認めなかったことから,ERCP後の急性膵炎によるFDGの異常集積の可能性も考慮したが,腹痛などの理学的所見に乏しかったこと,血液検査データにて膵炎を強く疑う所見が乏しく,アミラーゼ値が正常範囲内を推移していたことから炎症性疾患は否定的と判断し手術を行った.結果としては,開腹所見からは悪性を強く疑う所見であったが,病理組織学的検査所見からは悪性所見を認めず,ERCP後の急性膵炎によるIPMA内の肉芽腫形成が最も疑われた.以上より,分枝型IPMNの治療方針決定においては良悪性の鑑別が非常に重要であるが,本症例のように既存の画像検索では診断に難渋する症例もあり,近年提唱されている造影EUS24)などを追加し,総合的な良悪性の鑑別診断の正診率向上に対する努力が今もなお重要であると考える.

利益相反:なし

文献
 

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