日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
それぞれの肉眼的胆管内進展が肝内で衝突した二つの直腸癌肝転移の1切除例
山口 直哉久留宮 康浩
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キーワード: 胆管内進展, 衝突, 大腸癌
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2015 年 48 巻 12 号 p. 1001-1006

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Abstract

それぞれ胆管内進展を伴う複数の直腸癌肝転移の切除例を経験したので報告する.症例は2004年に直腸癌手術歴のある71歳の男性である.CTでS5とS7に低吸収域を示す腫瘍を認め,それぞれの下流胆管に拡張と異常造影効果を認めた.ERCPでは右肝管が途絶する像を認めた.胆管内進展を伴う直腸癌肝転移を強く疑い,肝右葉切除・肝外胆管切除を施行した.切除標本の検討では,二つの転移巣からそれぞれ胆管内進展を認め右肝管内で衝突していた.病理組織学的に胆管内進展を伴う直腸癌肝転移と診断した.同時性に複数の肝転移から胆管内進展を来す症例はまれである.肉眼的胆管内進展を来す大腸癌肝転移は予後良好な因子として報告されているが,本例でも術後長期無再発期間を得ており,これらの結果を裏付けるものとなった.胆管内進展を伴う大腸癌肝転移を完全切除するためには,胆管断端陰性を確保し安全に行える術式を検討することが重要と考えられた.

はじめに

肉眼的胆管内進展を認める大腸癌肝転移は,大腸癌肝転移全体の10%程度と少なくないが,複数の転移病巣から胆管内進展を認める症例は少ない1)2).今回,複数の肝転移巣からそれぞれ胆管内進展を来し右肝管で衝突した症例に対して肝切除を行い,長期無再発生存中の1例を経験したので報告する.

症例

症例:71歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:63歳時,当院において直腸癌に対して腹会陰式直腸切断術を施行された.病理組織学的検査所見はwell,mp,n0,v0,ly1であり,大腸癌取扱い規約第7版に基づくとStage Iであった.術後5年間は当院で経過観察し再発を認めなかったため,定期受診を終了していた.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:腹痛を主訴に当院を受診した.腹部CTにて肝腫瘍を指摘され入院となった.

入院時現症:身長153 cm,体重60 kg.体温36.1°C,血圧137/73 mmHg,脈拍72回/分・整であった.下腹部正中には手術痕を認め,臍左部には単孔式人工肛門を認めた.腹部は平坦軟であった.眼球結膜・眼瞼結膜に異常を認めなかった.

入院時血液所見:AST 55 U/l,ALT 74 U/l,ALP 617 U/l,T-bil 1.0 mg/dl,D-bil 0.5 mg/dlと肝機能悪化を認めた.腫瘍マーカーについてはCEA 7.4 ng/ml,CA19-9 15 U/ml,AFP 2.9 ng/ml,PIVKA-II 26 mAU/ml未満であり,CEAの上昇を認めた.肝炎ウィルスなどの感染症を認めなかった.

腹部単純X線検査所見:特記すべき異常所見なし.

腹部dynamic CT所見:S5とS7に低吸収域を示す不整な病変を認めた.長径はそれぞれ4 cmであった.両病変部から続く肝内胆管下流に拡張を認め,肝門まで連続していた.拡張胆管内部には不均一な異常造影効果を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

a, b, c, d) Abdominal enhanced CT; axial slices in the order from head to tail. CT revealed poorly enhanced, ill-demarcated tumors (arrows) in S5 and S7 regions. The intrabiliary tumor extending from both tumors to the hepatic hilus was also detected (arrowheads).

ERCP所見:左右肝管合流部近傍で右肝管内に乳頭状隆起性病変による陰影欠損による急峻な途絶像を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

ERC showed a filling defect in the right hepatic duct near the confluence of hepatic ducts caused by a papillary component (arrow).

腹部血管造影検査所見:腫瘍はともにhypervascularでそれぞれ右肝動脈前枝,後枝から栄養されていた.

以上の検査結果と既往歴から,右肝管内まで胆管内進展したS5とS7の直腸癌肝転移,もしくは肝内胆管癌を疑った.肝右葉切除・肝外胆管切除を予定し,術前に経皮経肝門脈塞栓術(percutaneous transhepatic portal vein embolization;以下,PTPEと略記)を施行した.無水エタノールで門脈右枝本幹まで塞栓させた.肝逸脱酵素の一時的な上昇を認めたが軽快し,CT-volumetryで切除率は64%から54%まで減少した.塞栓後のICG-15分値は17.9%,ICG-k値は0.114であった.

手術所見:右季肋骨下に皮膚切開を行った.腹腔内は癒着が厳しかったが剥離可能であった.肝表面は平滑で,左葉はPTPEのため代償性の腫大を認めた.Pringle法を用いて肝右葉切除・肝外胆管切除術を施行した.拡張や壁肥厚所見のない左肝管を上流側胆管切離断端とし,術中迅速病理組織学的診断にて陰性と診断されたため,その左肝管断端を挙上空腸と吻合し胆道再建を行った.手術時間は7時間20分,出血量は4,683 gであった.

摘出標本所見:腫瘍はS5,S7に存在しそれぞれ長径4.0 cm,4.4 cmであった.腫瘍に明らかな被膜は認めなかった.それぞれの腫瘍は胆管内進展を呈し,右肝管内で衝突していた(Fig. 3).左肝管断端には腫瘍を認めなかった.

Fig. 3 

In the resected specimen, the tumors were 4.0 cm (S5) and 4.4 cm (S7) in diameter, respectively. Macroscopic intrabiliary components (arrowheads) extended toward the confluence of hepatic ducts and collided with each other in the right hepatic duct. APV: anterior portal vein; CHD: common hepatic duct; LHD: left hepatic duct; MHV: middle hepatic vein; RHD: right hepatic duct.

病理組織学的検査所見:どちらの肝腫瘍も高分化腺癌であり,既往の直腸癌の病理組織学的所見と合致した.免疫染色検査ではcytokeratin(以下,CKと略記)7染色は陰性,CK20染色は陽性であり,これらも直腸癌原発巣と同様の結果であった(Fig. 4).それぞれの腫瘍部位からは胆管内進展を認め,右肝管内で合流した部位が先進部であった.また,腫瘍の進展形式は管腔内進展だけでなく,胆管上皮内進展も認めた(Fig. 5).先進部である右肝管部における免疫染色検査でも,主腫瘍と同様にCK7陰性,CK20陽性を呈していた.左肝管切離断端には腫瘍を認めなかった.胆管内発育を認めた直腸癌肝転移と診断した.

Fig. 4 

Histopathological study revealed the liver tumors were well-differentiated adenocarcinoma with CK7-negative and CK20-positive findings, which was consistent with the findings of the rectal primary tumor.

Fig. 5 

Histopathological findings of the intrabiliary tumor growth at the right hepatic duct revealed not only the intraluminal tumor extension but also the intraepithelial extension (arrows). Immunostaining study at the intrabiliary tumor growth showed CK7-negative and CK20-positive findings, as well as the rectal cancer and liver tumors.

術後経過:肝切離面からの胆汁漏を認めたが保存的に改善し,術後37日目に退院した.術後化学療法は施行していない.肝切除術後から3年2か月経過するが,再発兆候を認めず生存中である.

考察

大腸癌肝転移のうち肉眼的胆管内進展を来すのは10%程度であり1)2),複数の腫瘍から胆管内進展を有するものはまれである.Okanoら1)の報告によると,複数の腫瘍からそれぞれ肉眼的胆管内進展を認めたのは大腸癌肝転移149例中6例(4%)であった.胆管内進展を伴う大腸癌肝転移の切除例で個々の詳細な記載がある報告を,医学中央雑誌を用いて1977年から2014年で「大腸癌」と「胆管」のキーワードで検索したところ24例認めたが,このうち複数の肝転移巣から胆管内進展を認めた症例は1例のみであった3).この伊神ら3)の症例は三つの肝転移巣全てから胆管内腫瘍栓を伴っていたという興味深い症例ではあるが,胆管内腫瘍栓が肝内で合流していたという記載はなく,位置の離れた全ての肝転移巣から胆管内進展を呈しそれが肝内で衝突するという所見を有した症例の報告は本例が本邦初と思われる.

胆管内進展を伴う大腸癌肝転移は画像上肝内胆管癌との鑑別が問題となることが多い.胆管内進展を伴う大腸癌肝転移の画像所見としては,CTにて肝内胆管拡張,楔状の造影領域出現などが指摘されている1).自験例では胆管拡張所見を認めたもののその他の所見は認めなかった.既往歴,胆管内病変だけでなく腫瘤性病変を認めたこと,同時期に複数病変を認めたことなどから直腸癌肝転移を強く疑って治療に望んだ.病理組織学的にはCK染色が有用であり,大腸癌肝転移はCK7が陰性,CK20が陽性であることが多く,一方胆管癌はCK7が陽性,CK20が陰性もしくは陽性であることが多いと報告されている4).自験例も病理組織学的に原発直腸癌と類似していたことと,CK染色の結果から直腸癌肝転移と診断した.

Okanoら1)は大腸肝転移において肉眼的・顕微鏡的胆管内進展を有する症例と有しない症例を比較検討している.胆管内進展を認めない症例の5年生存率が57%,顕微鏡的胆管内進展を認める症例の5年生存率が48%であるのに対し,肉眼的胆管内進展を認める症例の5年生存率が80%と有意に高く,大腸癌肝転移において肉眼的胆管内進展は独立した予後良好な特徴であると報告している.Kuboら2)も,肉眼的胆管内進展を認めた大腸癌肝転移は,胆管内進展を認めない肝転移と顕微鏡的胆管内進展を認める肝転移と比べて,高分化腺癌が多いことや静脈浸潤が少ないことなど低侵襲的な生物学的特徴を挙げ,肉眼的胆管内進展を良好因子であると報告している.本例では直腸切断術後8年という長期経過後再発が発覚し,肝切除術後から現在までに3年2か月という比較的長い無再発期間を有している.これらは,Kuboら2),Okanoら1)も述べているように,高分化度・低脈管侵襲性といった悪性度の低い生物学的特徴を反映しているものと考えられ,大腸癌肝転移における肉眼的胆管内進展が予後良好因子であるという報告を裏付けるものと考えられた.

Sugiuraら5)は,肉眼的胆管内進展を有する大腸癌肝転移6例中全てに,胆管内進展と上皮内進展双方の胆管内進展成分を認めたと報告している.上皮内進展が管腔内進展を超えて進展した症例はなく,両者の差は4~10mmであったと報告している.本例では左右肝管合流部まで肉眼的に胆管内進展していると術前診断したため,左肝管を切離線とし,その結果完全切除しえた.

肝切除術は一般的に侵襲の大きい手術であるため,適切かつ安全な術式を選択することが必要となる6)7).また,高いグリソン親和性により切除断端からの再発を認め,再切除を施行されている報告5)8)も散見され,術後長期生存を得るためにはsurgical marginを確保することが重要である1)9).本例のような術前に胆管内進展を強く疑う症例では,特に胆管断端を陽性にしないように注意を払わなければならない10).大腸癌肝転移において胆管内進展がまれではないため,必要十分な術前検査を行い,胆管内進展などの有無を診断し,断端陰性かつ安全に施行できる適切な術式を検討することが重要と考えられた.また,Okanoら1)は大腸癌肝転移に対して肝切除を受けた149人のうち,21人に肝内再発を認め2回目の肝切除を要したと報告している.胆管内進展を伴う大腸癌肝転移巣に対する肝切除後には,予後良好な因子であると報告されているとはいえ,常に肝内再発の可能性を考慮において厳重な経過観察をしていく必要があると考える.

利益相反:なし

文献
 

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