日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
骨盤内後腹膜に発生した髄外形質細胞腫の1手術例
友利 賢太中島 紳太郎宇野 能子北川 和男阿南 匡小菅 誠衛藤 謙小村 伸朗小峰 多雅矢永 勝彦
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2015 年 48 巻 3 号 p. 248-254

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Abstract

髄外性形質細胞腫は形質細胞性腫瘍の一種であり,鼻咽頭や上気道に発生することが多く,後腹膜に発生することは極めてまれである.今回,我々は他疾患の治療中に無症候性で偶然に発見された骨盤内後腹膜に由来する髄外性形質細胞腫の1例を経験した.症例は51歳の男性で,胆石胆囊炎にて当院消化器内科に入院した.腹部造影CTで左腸骨窩の後腹膜に約9 cm大の充実性腫瘤を指摘された.精査の結果,骨盤内後腹膜原発の悪性リンパ腫や神経鞘腫が疑われたが,確定診断には至らなかった.このため,胆囊炎の保存的治療後に,診断と治療の目的で胆摘と同時に腫瘍切除を行った.病理組織学的検査所見でIgGκ型の後腹膜髄外性形質細胞腫の診断に至った.病理学的に完全切除が得られたので,術後の放射線療法や化学療法は施行しなかった.髄外性形質細胞腫は画像や生化学検査で特徴的な所見に乏しいため,術前診断に至らないことが多い.

はじめに

髄外性形質細胞腫(extramedullary plasmacytoma;以下,EMPと略記)は形質細胞性腫瘍の一種であり,鼻咽頭や上気道などの頭頸部に好発し,後腹膜に発生することは極めてまれである1).今回,我々は胆石胆囊炎の治療中に偶然に発見された無症候性の後腹膜髄外形質細胞腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

症例:51歳,男性

主訴:右季肋部痛

家族歴:特記すべきものなし.

既往歴:45歳,早期胃癌により胃部分切除が他院で施行された.

現病歴:2013年10月に右季肋部痛を主訴に当院消化器内科を受診し,胆石胆囊炎の診断で緊急入院となった.その際の腹部CTで左腸骨窩に直径9 cmの充実性腫瘤を指摘されたが,原疾患の治療を先行し経皮経肝胆嚢ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage;以下,PTGBDと略記)を留置し保存的に治療が行われた.胆囊炎が軽快後,診断と加療目的で当科に紹介となった.

入院時現症:身長162 cm,体重67 kg(3か月以内の体重減少なし),意識清明,血圧119/65 mmHg,脈拍66回/分・整で心雑音を認めず.上腹部正中に開腹創瘢痕を認め,右季肋部からPTGBDチューブが留置されており,腹部は軟で左下腹部に手拳大の非可動性腫瘤を触知した.表在リンパ節は触知しなかった.

血算・生化学所見:RBC 3.61×106/μl,Hb 10.8 g/dlと正球性貧血を認めた.生化学検査でChE 192 U/l,TP 6.2 g/dl,Alb 3.0 g/dlと低栄養状態であったが,それ以外に異常値はなかった.

腹部造影CT所見:左腸骨窩に約9 cm大のhypervascularで均一な造影効果を呈する境界明瞭な分葉状腫瘤を認めた.骨格筋よりも高濃度を呈し,細胞密度の高さが示唆され,内部に壊死や変性は認めなかった.後腹膜原発のリンパ腫やCastelman病などのリンパ増殖性疾患や神経鞘腫が疑われた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal enhanced CT. Abdominal enhanced CT reveals a hypervascular lobulated tumor (arrow), 9 cm in diameter, in the left iliac fossa. The tumor was contrasted uniformly and no necrotic changes or invasion were found in the surrounding tissue.

下腹部MRI所見:左腸骨窩腫瘤はT2WIでは骨格筋よりも淡い信号を呈し,DWIではADC値低下を伴う高信号を認めリンパ増殖性疾患が疑われた(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal MRI. The tumor (arrow) exhibits low intensity, which was lighter than the skeletal muscle in T2-weighted images, and high intensity with the ADC level fall on diffusion images. Therefore, a lymphonodal disease or neurogenic tumor was suspected.

Ga-67シンチグラフィ所見:骨盤内腫瘍の部位は集積欠損となっており,他部位には同様の無集積病変を認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

Gallium-67 citrate scintigraphy. The tumor in the pelvic cavity demonstrates no accumulation. There were no hot spots elsewhere.

以上の画像所見より後腹膜原発性腫瘍と診断したが,リンパ腫に多く認められるGa-67シンチグラフィでの集積や,後腹膜神経鞘腫の多くに認められる囊胞性変化や内部変性が認められなかったため確定診断には至らず,胆囊摘出と同時に診断と加療をかねて骨盤内腫瘍摘出術を行う方針とした.

手術所見:下腹部正中切開で開腹したところ,左総腸骨動脈から内外腸骨動脈分岐前面に既知の腫瘍を認めた.腫瘍は暗赤色調で弾性軟,最大径は約8 cmで可動性は比較的保たれていた.周囲との境界は明瞭で,全周にわたって腫瘍を後腹膜および血管より剥離した.腫瘍の下端は外腸骨静脈に接していたが,肉眼的に腫瘍の遺残や破綻なく完全切除を行った.手術創を剣状突起まで延長し胆囊摘出を行い,持吸式ドレーンを右側腹部からWinslow孔に留置し,手術を終了した.手術時間は362分,出血量は740 mlであった.

摘出標本所見:直径82×78×60 mm大の弾性軟な腫瘍で,内部は大半が出血で占められた充実性腫瘍であった(Fig. 4A, B).

Fig. 4 

Resected specimen. The tumor was an elastic, soft, solid tumor, which was hemorrhagic, lobulated and measuring 82×78×60 mm in size (A). The inside of the tumor was dark red (B).

病理組織学的検査所見:核の不整腫大,多核化など異形を示す形質細胞のmonotonousな増殖を認めた(Fig. 5A, B).周囲は線維性結合組織に囲まれ,一部で浸潤傾向を示すものの断端は陰性であった.免疫組織学的検査の結果,CD79α・IgG・κ鎖が陽性,CD3・CD20・CD68・λ鎖が陰性であり,IgGκ型の髄外形質細胞腫と診断した(Fig. 6A~C).

Fig. 5 

Histological findings (HE staining, A: ×40, B: ×200). Monotonous expansion of atypical plasma cells with irregular nuclear swelling or polynuclear cells can be seen.

Fig. 6 

Histological findings (Immunohistochemical stain: ×200). The tumor cells demonstrate positive staining for CD79α (A), IgG (B) and κ light chain (C).

術後の経過は良好で,術10日後に退院となった.また,診断後に術前の検体で免疫グロブリン,血清M蛋白,血清カルシウム値を確認したがいずれも異常はなく,術後の尿生化学検査でBence-Jones蛋白も陰性であった.また,胸骨骨髄生検を施行したが異形細胞を認めなかった.病理学的に完全切除であったため追加治療は行わず,術6か月が経過した現在,再発所見はなく,外来で経過観察中である.

考察

形質細胞腫はBリンパ球系細胞由来の形質細胞が腫瘍性増殖を来したものであり,Willis2)によって①多発性骨髄腫,②孤立性骨髄腫,③髄外性形質細胞腫の三つに分類される.このうち,形質細胞が骨髄内で腫瘍性に増殖する多発性骨髄腫が形質細胞腫全体の約90%を占め,主に髄外の軟部組織を原発とする髄外性形質細胞腫の頻度は約4%と比較的まれである2).しかし,多発性骨髄腫の経過中に髄外性病変が新たに出現したり,孤立性骨髄腫や髄外性形質細胞腫が多発性骨髄腫に移行することが10~30%程度あるとされ3),このような症例を加えると実際の症例数はもう少し多いと考えられる.原発部位は約70~80%と大半が鼻咽頭や上気道,次いで約10%が消化管であり,後腹膜の発生は極めてまれとされている4)5).今回,我々が1983年から2014年4月を対象期間として医学中央雑誌Webで「形質細胞腫」,「後腹膜」をキーワードに会議録を除いて検索したところ,過去に斎藤ら6)が11例の集計報告をして以降は自験例のみであった.さらに,「形質細胞腫」,「骨盤」をキーワードに検索を行い,骨盤内後腹膜発症の髄外形質細胞腫の症例を抽出したところ,自験例を含め2例のみであり,非常にまれな病態であった7).後腹膜に発生した場合,無症状で経過しているものから,尿閉や腎不全,血尿などの腎・泌尿器症状で発見されるもの,腹痛や閉塞性黄疸などの消化器症状で発見されるものなどさまざまな症状を呈するとされる8).自験例は胆石胆囊炎の治療中に偶然発見されており,それまでに明らかな自覚症状はなかった.

Soutarら9)のEMPの診断基準は,①腫瘍性形質細胞腫により髄外性腫瘍を形成,②骨髄が組織学的に正常である,③長骨に異常を認めない,④形質細胞疾患による貧血・高カルシウム血症・腎障害を認めない,⑤血清・尿中免疫グロブリン抗体の単クローン性増殖を認めないことが挙げられ,自験例は全ての項目を満たしていた.EMPも免疫グロブリンを産生するが,多発性骨髄腫と比較して腫瘍細胞数が少ないためM蛋白が証明されることはほとんどないとされる10).また,上気道原発ではIgA型が多いと報告されているが11),自験例は免疫組織学的にIgGκ型の髄外形質細胞腫と診断された.術前診断に関しては,画像検査や生化学所見では特徴的な所見に乏しく,他の形質細胞系腫瘍の既往がなければ術前診断は困難であるとされている.積極的な針生検を推奨する報告もあるが12),腎細胞癌などの悪性腫瘍が疑われる場合や部位によっては生検を行えず,術後の病理組織学的診断に頼らざるをえない.近年,FDG-PETによるEMPの診断および転移評価の有用性が散見されている13)~15).残念ながら自施設には導入されておらず施行することができなかったが,これにより診断精度をあげることが期待される.

EMPの治療は,①頭頸部では放射線治療が第一選択,②頭頸部以外では外科的切除,③不完全切除では術後化学療法とされ,さらに補助化学療法は腫瘍径が5 cm以上で検討するとされている9).頭頸部原発EPMの検討であるが,手術単独群と放射線治療併用群の比較において,非再発率および生存率は後者が優れているとの報告があるが,化学療法との併用に関しては有意差がないとされている16).EMP全体の5年生存率は79%と比較的予後は良いとされているが12),斎藤ら6)による本邦11例の後腹膜原発症例の集計報告では初診時に遠隔転移を認めたものが45.5%であった.後腹膜原発の症例は症状が発現しにくく,発見が遅れるためと考えられた.自験例は腫瘍径が約9 cmであったが,上気道以外を原発とするEMPの完全切除症例の約65%が再発を来さないとの報告もあり12),化学療法は行わずに3か月に一度の骨盤MRIにて慎重に経過観察を行っている.

利益相反:なし

文献
 

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