日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
十二指腸腸重積および膵炎を来した先天性十二指腸膜様狭窄症の1例
上坂 貴洋三澤 一仁大島 隆宏齋藤 健太郎寺崎 康展葛西 弘規皆川 のぞみ奥田 耕司大川 由美
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2016 年 49 巻 12 号 p. 1206-1213

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Abstract

症例は13歳の男性で,9歳時より原因不明の繰り返す膵炎にて当院通院中であった.3週間前から腹部不快感および体調不良を自覚し,1日前から腹痛と嘔吐を認めたため,当院時間外外来を受診した.腹部造影CTでは十二指腸に腸重積が認められ,これに膵頭部が巻き込まれ膵炎を発症しているものと考えられた.同日緊急入院とし,上部消化管内視鏡併用下にイレウス管を空腸まで誘導し,その後先端バルーンを膨らませたままイレウス管を口側に引き整復した.膵炎および全身状態の改善を待ち再度上部消化管内視鏡および造影検査を実施したところ,十二指腸膜様狭窄が腸重積の原因と考えられた.待機的に開腹手術を行い,十二指腸下行脚にwindsock型の膜様物を認めたため,これを切除するとともに十二指腸切開部を横方向に縫合閉鎖した.先天性十二指腸膜様狭窄が原因で膵炎および腸重積を来した報告例は本邦ではなく,まれな病態であるため報告する.

はじめに

十二指腸は元来後腹膜臓器であり,解剖学的変異がなければ,その後腹膜への固定性から腸重積は起こしにくいとされている1).これまで報告されている十二指腸腸重積の多くは,過誤腫や腫瘍性病変,憩室などの器質的疾患が原因である2).今回,我々は先天性十二指腸膜様狭窄症により膵炎および十二指腸腸重積を来したまれな症例を経験した.若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:13歳,男性

主訴:心窩部痛,嘔吐

既往歴:アトピー性皮膚炎(8歳~),膵炎(9歳~)

家族歴:父 IgA腎症

出生発育歴:出生体重3,170 g,正常分娩であった.乳児期よりたびたび嘔吐を認めていたが消化管の精査は受けたことはなく,その他発育歴に特記すべき異常はなかった.6歳頃より嘔吐と腹痛を年に数回認めるようになり,9歳時に当院小児科を紹介受診となった.血液検査および腹部造影CTにて急性膵炎と診断され保存的に治療された.その後実施されたMRIで膵管癒合不全の可能性は指摘されたものの,明らかな膵炎の原因は特定できなかった.以後もたびたび膵炎を繰り返していたが,タンパク分解酵素阻害薬内服と脂肪食制限にて経過観察となっていた.

現病歴:3週間前から腹部不快感および体調不良が持続し,1日前から腹痛および嘔吐の増悪を認めたことから当院時間外外来受診となった.

来院時現症:身長150 cm,体重33 kg.血圧119/81 mmHg,脈拍110回/分,体温35.5°C.腹部は平坦だが,心窩部に比較的強い自発痛および圧痛を認めた.

血液検査所見:CRPは2.56 mg/dlと軽度の上昇を認めたが,WBCは5,500/mm3であり上昇を認めなかった.総ビリルビン値は0.4 mg/dlで基準範囲内であったが,血清アミラーゼ値3,098 U/l,血清リパーゼ値3,251 U/lと膵酵素の上昇を認めた.

腹部造影CT所見:膵臓全体の腫大と造影効果の低下,および膵臓周囲の液体貯留を認め,急性膵炎を疑う所見であった.また,十二指腸にはVater乳頭部付近を先進部とする腸重積を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal contrast-enhanced CT. A: Axial view reveals the duodenal intussusception (arrow). B: Frontal view demonstrates the intussusception involving the head of the pancreas. The swelling of the pancreas and the peripancreatic fluid collection are also confirmed. C: Sagittal view.

以上より,十二指腸腸重積に膵頭部が巻き込まれ膵炎を発症したものと考えられた.同日緊急入院とし,上部消化管内視鏡併用下にイレウス管を挿入して重積の整復を試みた.イレウス管を重積先進部より肛門側の上部空腸まで誘導し,イレウス管先端のバルーンを膨らませた.その後,バルーンを膨らませたままイレウス管を口側に引き,重積先進部を口側に戻して整復した.また,過去の膵炎の原因が十二指腸腸重積である可能性を考慮し,全身状態および膵炎が改善した後に外科的治療を検討する方針とした.

絶食,補液などの保存的治療にて膵炎は数日で軽快し,全身状態も改善した(入院5日目の血清アミラーゼ値は168 U/l).腸重積の原因検索および術式決定のため,上部消化管内視鏡検査および造影検査を実施した.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸下行脚には膜様の構造物が付着していた.開口部は膵臓寄りに位置しており,内視鏡の通過は可能であった.Vater乳頭の同定はできなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

Upper gastrointestinal endoscope images. A: The web (arrow) is confirmed in the second portion of the duodenum. B: The orifice of the web (arrow) is on the medial aspect of the second portion of the duodenum. The ampulla of Vater is not visualized.

上部消化管造影検査所見:十二指腸下行脚の中間部付近に膜様の構造物を認め,膜の肛門側への造影剤の流出も確認された(Fig. 3).

Fig. 3 

Gastrointestinal contrast study shows the web in the lumen of the duodenum (red arrow). The contrast flows into the third portion of the duodenum through the orifice (yellow arrowhead).

これらの検査所見からwindsock型の先天性十二指腸膜様狭窄が腸重積および膵炎の原因と判断した.膵炎反復による十二指腸周囲の癒着も懸念されたため,開腹での膜切除の方針とし,待機的に手術を行った.

手術所見:十二指腸の授動を行って漿膜面を確認すると,下行脚中間部やや肛門側寄りに単軸方向のくびれが認められ,膜付着部と判断した(Fig. 4B, C).膜を跨ぐように十二指腸外側を縦切開し,内部に数ミリ程度の厚みを持つ膜を確認した(Fig. 4D, E).膜の開口部は膵頭部に近い位置に存在し,示指頭1本分程度の大きさがあった(Fig. 4F, G).胆囊を圧排すると開口部の膵頭部方向から胆汁の流出が認められ,同部位にVater乳頭があると判断した.Vater乳頭を損傷しないよう,その対側2/3周ほどの膜を切除し(Fig. 4H, I),十二指腸切開部を横方向に2層で縫合閉鎖して手術を終了した.

Fig. 4 

A: The schematic representation of the web. The orifice is located close to the ampulla of Vater. Gastroduodenal fluid flows through the orifice (red arrow). The dotted green arrow shows the direction of the duodenotomy. B, C: Before the duodenotomy. The white curve shows a dimple on the serosal surface of the duodenum, which indicates the attachment of the web. The dotted arrow shows the direction of the duodenotomy. D, E: After the duodenotomy. A catheter lifted the web (yellow area) through the orifice. The blue areas indicate the lumen of the duodenum. F, G: The web (yellow area) was lifted and the orifice (green area) was revealed by the catheter and retractors. The white circle shows the ampulla of Vater. H, I: After the excision of the web. The yellow areas indicate the remnants of the web adjacent to the ampulla.

切除標本所見:伸展性のある柔らかい膜であり,肉眼的には両面とも正常粘膜に覆われていた(Fig. 5).組織学的にも両面ともに異型のない粘膜に覆われ,内部には薄い筋層を有していた.炎症や腫瘍など特異的所見は認められなかった.

Fig. 5 

Pathological findings. A: Normal mucosa was found on both sides of the web. B: Thin muscular layer was confirmed between the mucosal layers.

術後経過は良好であり,術後13日目に退院となった.

考察

腸重積症は腸管の一部が腸管管腔内に嵌入することによって腸閉塞,急性腹症を生じる疾患であり,早期の診断と治療が必要である.先進部に器質的疾患を有する二次性と器質的疾患が証明されない特発性に分類されるが,小児期では70~90%が特発性であり,成人期では90%以上が二次性である3).二次性の原因疾患としては,小児期ではMeckel憩室やポリープ,重複腸管などが,成人期では悪性腫瘍が多い.発症は乳児期に多く,4か月~1歳未満が全体の60〜80%を占める一方,6歳以上に起こることはまれで成人期は全体の5%程度と報告されている3).成人期での腸重積発症部位は小腸が全体の51.9%であるが,そのうち十二指腸は1.5%とされており,非常にまれな病態であるといえる1).その原因疾患としては,Brunner腺過誤腫,脂肪腫,癌,憩室,絨毛腺腫,およびduplication cystなどが報告されている2)4)

先天性十二指腸狭窄および閉鎖症は出生6,000人から10,000人に1人の頻度とされる5).石田ら6)による同疾患79例の検討では閉鎖症が68%(54例/79例),狭窄症が32%(25例/79例)であり,狭窄症のうち膜様狭窄は12例と最も多く,全体の15%(12例/79例)であったとしている.また,先天性十二指腸狭窄および閉鎖症の60%前後が他の合併奇形を有するとされ,特にDown症候群の合併が30〜40%と高頻度である6)7).他,ASDなどの心奇形や腸回転異常,鎖肛,食道閉鎖,Cornelia de Lange症候群などの合併が報告されている6)7)

先天性十二指腸膜様狭窄は新生児期に診断されることが多いが,狭窄の程度によっては成人期に診断されることもあり8),その頻度は30%程度とされている9).本症例のように膜様物が肛門側腸管の内腔に突出しているものは,その形状が吹流し(windsock)に似ていることからwindsock型と呼ばれている5).発生原因としては胎生期12週頃に起きる十二指腸生理的閉塞の再開通障害が一般的とされている10).症状は膜様物の開口部の大きさによって異なるが,一般的には反復性嘔吐,腹痛および体重減少などであり,診断はこれら臨床症状と腹部超音波検査,上部消化管造影および内視鏡検査にてなされることが多い9).治療は外科的治療が選択されることが多く,十二指腸の長軸方向の切開,膜様物切除,および単軸方向の十二指腸縫合閉鎖が標準術式とされている9).近年は腹腔鏡下での膜切除や上部消化管内視鏡下での膜切除などの報告例もあり,より低侵襲な治療法が検討されている11).いずれの方法でも,Vater乳頭の温存と術野の展開が重要とされる11).上部消化管内視鏡下の方法ではVater乳頭の確認が不十分になることがあり,ERCP併用が必要との意見がある8).また,本症例のように比較的大きな膜の場合,内視鏡だけでの術野の展開は困難であることが多く,外科的切除を選択すべきとされる8).腹腔鏡下での方法では,Vater乳頭は胆囊の圧排により比較的容易に確認できるが,膜付着部位の同定と切開部位の決定,支持糸による十二指腸内腔の展開,および膜様物の牽引などが重要とされている11)

全身性の合併症がない場合,標準術式を実施した後の経過は良好であることが多く,術後の再狭窄など合併症はないとする意見が多い5)~7)12)13).これまでに報告されている術後合併症の多くは胃空腸吻合や十二指腸空腸吻合など非生理的な再建法に起因するもので,胃食道逆流や十二指腸運動機能不全,癒着性イレウス,吻合部潰瘍およびblind loop syndromeなどが挙げられている12)14).なお,先天性十二指腸狭窄症に対するもう一つの標準術式とされる十二指腸十二指腸吻合(ダイヤモンド吻合)では,術後の吻合部潰瘍に関する報告が散見される13)15).いずれにせよ,これら術後合併症に関する報告のほとんどは初回手術が新生児期〜乳児期に行われたものである.本症例のように身体的にある程度成熟した10代以降での術後合併症に関する報告はなく,再狭窄の有無も含めたフォローアップは行う必要があると思われる.

本症例は乳児期より反復性の嘔吐を認め,小学校入学の頃からは腹痛も認めるようになった.9歳時より当院にて膵炎の治療が開始となり,原因不明のまま外来にて経過観察となっていたが,乳児期からの症状および病歴,検査結果や手術所見などから総合的に判断すると,先天性十二指腸膜様狭窄とそれに伴う腸重積がこれら症状および膵炎の原因であったと考えられる.膜様物の開口部が比較的大きかったために13歳まで根本治療なしでも生活可能であったと考えられるが,膵炎初発の際に詳細な病歴聴取と上部消化管造影検査などを実施していたら診断に至った可能性は否定できない.なお,過去のMRIで膵管癒合不全を指摘されているが,これまで絶飲食とともに症状が速やかに軽快していたこと,今回の術後に膵炎の再燃は認めていないことなどから,膵炎の原因としては否定的である.

今回の入院当初は膵炎および十二指腸腸重積の原因が特定できていなかったため,初期治療として上部消化管内視鏡併用下での整復を選択したが,その妥当性については議論の余地があると思われる.過去に同様の症状で数回入院歴があるが,いずれも絶飲食のみで症状は軽快している.十二指腸腸重積を確認したのは今回が初めてであるものの,過去の症状がいずれも腸重積によるものとするならば今回も絶飲食のみで自然に整復された可能性がある.一方,緊急開腹手術による整復も選択肢に挙げられると思われるが,原因不明のために整復術のみ施行し膜切除には至らなかった可能性がある.その場合には後日再開腹が必要であり,診断を確定して確度の高い治療を行うためには今回の治療方針はある程度やむをえない選択だったと考える.

十二指腸膜様狭窄に対しては腹腔鏡下あるいは内視鏡下での治療も行われてきているが,本症例は膵炎反復による十二指腸周囲の癒着が予想されること,膜が比較的大きく柔軟性に富み内視鏡での切開は困難が予想されることなどから開腹でのアプローチを選択した.また,膜切除後の十二指腸内径は十分な大きさであり,十二指腸十二指腸吻合や十二指腸空腸吻合などの付加手術は要しなかった.

1977年から2015年12月までの医学中央雑誌で「十二指腸 腸重積」,「十二指腸腸重積」,「十二指腸重積」をキーワードに本邦報告例を検索した結果(会議録は除く),十二指腸膜様狭窄が原因で膵炎および十二指腸腸重積を来した報告例はなかった.また,1950年から2015年12月までPubMedで「duodenal intussusception」をキーワードに報告例を検索したところ,Larsenら16)による19歳の症例およびTuら17)による7歳の症例の2例のみであった.このように十二指腸膜様狭窄を原因とする十二指腸腸重積は極めてまれな病態ではあるが,適切な治療により症状が軽快する可能性が高く,比較的若年者の反復性の嘔吐や腹痛,膵炎の原因疾患として念頭におく必要があると考えられた.

利益相反:なし

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