日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
局所進行胆囊癌に対して全身化学療法を施行した後にR0切除を達成しえた1例
小田切 理石戸 圭之輔豊木 嘉一工藤 大輔木村 憲央脇屋 太一堤 伸二若狭 悠介津谷 亮佑袴田 健一
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2016 年 49 巻 12 号 p. 1214-1221

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Abstract

症例は65歳の女性で,2014年6月に前医で肝外胆管,総肝動脈,および膵頭部への浸潤を有する切除不能局所進行胆囊癌の診断となり,gemcitabine+S-1併用療法が開始された.8コース施行後の腹部CTで上記浸潤所見が消失したため,2015年1月手術目的に当科紹介となった.拡大肝右葉切除術,肝外胆管切除術,総肝動脈合併切除術を施行し,病理組織学的診断は胆囊体部を主座とする中~高分化型管状線癌で,pT3N1M0,Stage IIIB,R0切除を達成した.S-1による術後補助化学療法を施行し,術後8か月間の無再発生存が得られている.化学療法が奏効し非切除因子が消失した局所進行胆囊癌の治療法について一定の見解は存在しない.しかし,conversion surgeryにより良好な予後を得られる可能性があり,化学療法中も外科的切除の可能性を定期的に追求することが重要であると思われた.

はじめに

胆囊癌は早期発見が難しく,初診時に約3割の症例が非切除と診断されている1).今回,我々は切除不能局所進行胆囊癌に対してgemcitabine(以下,GEMと略記)+S-1併用療法(以下,GS療法と略記)が奏効し,根治切除しえた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:65歳,女性

主訴:腹部不快感

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2014年6月腹部不快感を主訴に前医を受診した.腹部CTで肝臓,肝外胆管,総肝動脈,および膵頭部への浸潤と,領域リンパ節転移を伴う切除不能局所進行胆囊癌(cT4b,cN1,cM0,cStage IVa)と診断された.同年8月から21日間を1コースとするGS療法(GEM: 700 mg/m2,day 1,8/S-1: 70 mg/m2,day 1~14)が開始された.8コース施行後の評価で,血清CA19-9値が14,279 U/mlから104 U/mlまで減少した.また,腹部CTで原発巣,領域リンパ節転移,肝浸潤は縮小し,肝外胆管,総肝動脈,および膵頭部への浸潤は消失した.Response Evaluation Criteria in Solid Tumors基準2)による効果判定は部分奏効と判断され,2015年1月手術目的に当科紹介となった.

身体所見:身長150 cm,体重51 kg,腹部は平坦,軟で圧痛を認めず,腫瘤を触知しなかった.

血液検査所見:血算,生化学に異常を認めなかった.腫瘍マーカーはCA19-9 38 U/ml,PIVKA-II 53 mAU/mlと軽度の上昇を認めた.肝予備能検査はICG 15分値9%,ICG K値0.18であった.

腹部CT所見:化学療法施行前のCTでは,肝臓,肝外胆管,総肝動脈へと浸潤する胆囊腫瘍を認めた(Fig. 1).また,腫瘍と膵頭部との境界が不明瞭化し,浸潤が強く疑われた(Fig. 1b, c).化学療法施行後のCTでは胆囊腫瘍の著明な縮小を認め,肝外胆管,総肝動脈,膵頭部への浸潤も消失した(Fig. 2).腫瘍が右肝動脈,右肝管と近接していたこと,左胃動脈より置換左肝動脈が分岐していたことから,拡大肝右葉切除術,肝外胆管切除術,総肝動脈合併切除術によって根治性が確保できると判断した.上記術式を施行した場合,予測機能的残肝率33.2%であった.

Fig. 1 

a–d: Abdominal CT before chemotherapy showed the gallbladder cancer with direct invasion to the liver, the extrahepatic bile duct, the common hepatic artery (arrowheads), and the head of the pancreas (arrows).

Fig. 2 

a–d: Abdominal CT after 8 courses of chemotherapy. The size of the main lesion decreased (arrowheads) and the invasion to the adjacent organs disappeared (arrows).

以上の所見より,当科の肝切除基準である予測機能的残肝率35%を下回ったため,経皮経肝右門脈塞栓術(percutaneous transhepatic portal embolization;以下,PTPEと略記)を先行した.PTPE後30日目の評価でICG 15分値3%,ICG K値0.24,予測機能的残肝率47.3%が得られた.予定術式への耐術性を有すると判断し,PTPE後39日目に手術を行った.

手術所見:右肋弓下切開にて開腹した.肝転移,腹膜播種,傍大動脈リンパ節転移を認めなかった.腫瘍は胆囊全体を占居し,胆囊床から肝臓へと浸潤していた.また,総肝動脈周囲の血管鞘が肥厚しており,神経浸潤が疑われた.しかし,膵頭部への直接浸潤を認めず,周囲との線維性癒着も認めなかった.したがって,化学療法開始前の腹部CT所見で強く疑われた膵臓への浸潤は,当初から存在しなかった可能性も考えられた.以上の所見より,予定術式通りに総肝動脈,胃十二指腸動脈を根部で結紮切離し,総肝動脈および右肝動脈を一括切除した.一部S4aを切除する形で拡大肝右葉切除術,肝外胆管切除術を施行し,結腸後経路の左肝管空腸吻合で再建した.胆管断端の術中迅速組織診断は,肝側,十二指腸側いずれも腫瘍細胞浸潤陰性であった.手術時間380分,出血量900 mlであった.

切除標本所見:標本重量525 gであった.胆囊のほぼ全体が腫瘍で占居され,胆囊床から肝実質へと浸潤していた(Fig. 3a).

Fig. 3 

a: The resected specimen. The tumor occupied the gallbladder almost entirely and invaded the liver through the gallbladder bed (arrowheads). b, c: Histological appearance of the tumor. The tumor composed of moderately differentiated tubular adenocarcinoma. The viable adenocarcinoma cells comprised over two-thirds of the tumor.

病理組織学的検査所見:Adenocarcinoma of gallbladder,GbGf,hep,flat-infiltrating type,31×22 mm,tub2>tub1>>SCC,pT3a(liver),int,INFb,ly2,v2,ne1,pN1,CM0,EM0,PV0,A0,R0であり,pT3aN1M0 Stage IIIBの診断を得た.化学療法の組織学的効果判定はGrade 1aであった(Fig. 3b, c).

術後経過:術後7日目に門脈血栓症を発症し,ワーファリン内服による抗凝固療法を開始した.その結果INRの上昇を認めたが,血清総ビリルビン値は正常範囲内のまま経過し,International Study Group of Liver Surgery基準3)を満たす肝切除後肝不全を認めなかった.Clavien-Dindo分類4)Grade IIIaの胆汁漏を生じたものの軽快し,術後29日目に自宅退院された.手術から3か月後,前医外来で術後補助化学療法としてGS療法が開始され,day 1のGEMによる好中球・血小板減少のため,1コース目の完遂を待たずにS-1単剤療法(2週投与・1週休薬法)へと変更された.現在も外来でS-1単剤内服を継続しており,術後8か月間画像上の再発なく生存している.

考察

胆囊癌は自覚症状に乏しいことから早期発見が困難であり,初診時に切除不能と診断されることが少なくない.本邦における胆道癌登録集計(1998年から2004年)の結果によると,胆囊癌症例の31.2%は切除不能と診断されている1).一方で,局所進行胆囊癌を切除不能と診断する基準について明確なコンセンサスは存在しない5).自験例は紹介医初診時に,R0切除達成のために少なくとも拡大肝右葉切除術+膵頭十二指腸切除術(hepatopancreatoduodenectomy;以下,HPDと略記)が必要であると判断された.胆囊癌に対するHPDは報告により差異はあるものの,周術期死亡率0~30%および5年生存率0~25%と報告されており6)~11),周術期死亡率の高さと予後改善効果の低さが示唆されている.胆囊癌におけるR0切除達成のためのHPDの意義についてはいまだ議論の余地があり,自験例ではその点を考慮して切除不能局所進行胆囊癌と判断され,初期治療として化学療法が選択された.

胆道癌診療ガイドライン5)では,切除不能胆道癌に対するfirst lineの化学療法として,ABC-02試験12)およびBT-22試験13)の結果を踏まえて,GEM+cisplatin(以下,CDDPと略記)併用療法(以下,GC療法と略記)が推奨されている.一方で,Sasakiら14),Kanaiら15)はGS療法単一群の第II相試験を,Morizaneら16)はGS療法群とS-1単独療法群との第II相比較試験を行い,GS療法によってGC療法とほぼ同等の奏効率,生存期間中央値が得られたことを報告している(Table 1).GS療法はCDDPの催吐性に起因する有害事象を回避できる点や,点滴静注時間の短縮により患者の身体的・時間的苦痛を軽減できる点で,有用な治療法であると考えられる.本症例は以上の点を考慮してGS療法を選択し,著明な腫瘍縮小を得ることができた.本邦ではGS療法とGC療法の第III相比較試験(JCOG1113)が進行中であり17),GS療法に関するさらなるエビデンスの構築が待たれる.

Table 1  Clinical trials of GEM+CDDP or GEM+S-1 combination therapy for patients with advanced biliary tract cancer
No. Author Year Trial Regimen No. of patients RR (%) Median PFS (months) Median OS (months)
1 Valle12) 2010 ABC-02 GC 204 26 8 11.7
2 Okusaka13) 2010 BT-22 GC 42 20 5.8 11.2
3 Sasaki14) 2010 ND GS 35 34 5.9* 11.6
4 Kanai15) 2011 ND GS 25 30 ND 12.7
5 Morizane16) 2013 JCOG0805 GS 51 36 7.1 12.5

GC, GEM+CDDP; GS, GEM+S-1; OS, overall survival; PFS, progression-free survival; RR, response rate; ND, not described. * Median time to progression.

Table 2  Reported cases of conversion therapy for initially unresectable locally advanced gallbladder cancer
No. Author Year Age Sex Reasons for unresectability Chemotherapy Operation methods Vascular resection Stage Curability Survival after surgery (months) Status
1 Ajiki21) 2012 68 F Arterial invasion Locally advanced GEM+low dose FP S4a+S5, BDR, PRD HA ND R1 17 Dead
2 Ajiki21) 2012 75 F Locally advanced GEM GBR none ND R1 6 Alive
3 Kato22) 2013 57 F Arterial invasion GEM RH, CL, BDR none IVa R0 42 Alive
4 Kato22) 2013 57 F Arterial invasion GEM RH, CL, BDR none IVa R1 18 Dead
5 Kato22) 2013 57 F Arterial invasion Portal vein invasion GEM S4a+S5, BDR none IVa R1 19 Dead
6 Kato22) 2013 61 M Arterial invasion GEM S4a+S5, BDR none IVa R1 8 Dead
7 Einama23) 2014 60 F Arterial invasion S-1 RH, BDR none ND R0 30 Alive
8 Kato24) 2015 62 F Arterial invasion Duodenal invasion GEM+CDDP R3H, BDR, PRD, PRTC none ND R0 ND ND
9 Our case 65 F Arterial invasion Pancreatic invasion GEM+S-1 ERH, BDR CHA IIIb R0 8 Alive

GBR, gallbladder bed resection; S4a+S5, central inferior hepatectomy; RH, right hepatectomy; ERH, extended right hepatectomy; R3H, right trisectionectomy; CL, caudate lobectomy; BDR, bile duct resection; PRD, partial resection of the duodenum; PRTC, partial resection of the transverse colon; HA, hepatic artery; CHA, common hepatic artery; ND, not described

近年,化学療法あるいは化学放射線療法が奏効した切除不能消化器癌症例に対して外科的切除を施行する,いわゆるconversion surgeryが注目を集めており,Adamら18)は切除不能大腸癌肝転移症例,Wangら19)は傍大動脈リンパ節転移を有する胃癌症例,Satoiら20)は切除不能膵癌症例において,それぞれconversion surgeryの有用性を報告している.胆囊癌のconversion surgeryにおける明確なコンセンサスは存在しないが,PubMedで1950年から2015年12月の期間で「gallbladder cancer」,「chemotherapy」,「resection」をキーワードとして,さらに医学中央雑誌で1977年から2015年12月の期間で「胆囊癌」,「化学療法」,「切除」をキーワードとして検索(会議録を除く)した結果,切除不能局所進行胆囊癌に対する全身化学療法が奏効し,切除が可能となった症例は自験例を含めて9例存在した(Table 221)~24).R0切除は自験例を含め4例(44%),他はR1切除であり(56%),Kaplan-Meier法によって求められた生存期間中央値は19か月であった.化学療法後にR0切除を達成した症例では術後30か月から42か月間の無再発生存が得られており22)23),conversion surgeryにおいてもR0切除を達成することが重要であると考えられた.GS療法後にconversion surgeryを施行しえた症例は自験例のみであり,切除不能局所進行胆囊癌のconversion surgeryにおける,GS療法の新たな可能性を示唆する結果であった.一方で,化学放射線療法後のconversion surgeryについても有用性が報告されている25)~27).どちらの治療方針を選択すべきかについては,エビデンスが少なくコンセンサスを得るに至っていないものの,両者とも局所進行胆囊癌の治療成績向上に期待が持たれる治療法といえるだろう.

自験例では腹部CT所見で肝外胆管,総肝動脈,および膵臓への浸潤が消失したことと,血清CA19-9値が著減したことを受けてconversion surgeryを選択した.胆囊癌のconversion surgeryについては明確な適応がなく,各施設で造影CTの所見,腫瘍マーカーの推移などを踏まえて,総合的に化学療法の効果を判定し手術を決定しているのが現状である.Zhuら28)はGEM+oxaliplatin+bevacizumab併用療法を施行した進行胆道癌症例のうち,無再発生存期間6か月以上の症例と全生存期間12か月以上の症例において,FDG-PETの原発巣standardized uptake value最大値(以下,SUVmaxと略記)減少量が有意に大きかったことを報告している.また,膵癌では術前の血清CA19-9値が100 U/ml以上の症例やSUVmax値が6.0以上の症例において,有意に術後の早期再発率が高く,生存期間が短いという報告も存在する29)30).したがって,conversion surgeryにおいては解剖学的な切除可能性のみならず,腫瘍生物学的な切除可能性の検討も重要であると思われる.自験例はGS療法後の効果判定にFDG-PETを施行しておらず,今後は化学療法後の効果判定にFDG-PETを併用し,切除後の予後予測因子も含めたうえでconversion surgeryの是非を検討するべきであろう.

化学療法が奏効し非切除因子が消失した局所進行胆囊癌に対して,外科的切除を行うべきか,化学療法を継続すべきか,一定の見解は存在しない.しかし,奏効が得られたとしても癌細胞の耐性獲得や有害事象によって,化学療法を継続できなくなるケースをしばしば経験する.さらなる症例の蓄積と検討を要するものの,conversion surgeryにより良好な予後を得られる可能性があり,切除不能局所進行胆囊癌の化学療法中は,定期的な腫瘍学的評価によって外科的切除の可能性を追求することが重要であると思われた.

利益相反:なし

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