日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
症例報告
上行結腸癌術後22年に集学的治療により非担癌状態を得た,左鎖骨上~腋窩リンパ節転移の1例
酒田 和也奥山 正樹富永 修盛小西 健西嶌 準一
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 49 巻 7 号 p. 690-697

詳細
Abstract

症例は75歳の女性で,上行結腸癌にて1987年8月右半結腸切除術を施行後,1988年,1989年に左鎖骨上リンパ節転移が出現し,それぞれ郭清術を施行した.以後約14年間再発を認めなかったが,2003年11月左鎖骨上窩および左腋窩のリンパ節再発を認めたため,従来の化学療法を5年以上行った.2009年8月で病勢制御不良となったため,bevacizumab+mFOLFOX6を施行すると転移巣が著明に縮小し,2010年3月左鎖骨上窩~腋窩を郭清した.その後,隣接した少数のリンパ節転移を2回追加郭清したが,3年8か月間再発を認めず,化学療法も5年間施行していない.大腸癌遠隔リンパ節転移について集学的治療の有効性を示す報告は少ないが,自験例のような遠隔リンパ節転移を来し長期担癌状態の後に根治的郭清術を施行した症例はまれであり,同様の報告は他に認めなかった.

はじめに

大腸癌の遠隔リンパ節転移について郭清の有効性を示す報告は比較的少なく,大腸癌治療ガイドライン(2014年版)にも「遠隔リンパ節転移の切除を考慮してよいが,明確な治療効果は示されていない」と記載されている1)

今回,我々は上行結腸癌切除術後に遠隔リンパ節転移を来したが,郭清術および抗癌剤による集学的治療が奏効し,初回手術より22年後に非担癌状態が得られた症例を経験したので報告する.

症例

患者:75歳,女性

既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:上行結腸癌にて,1987年8月(49歳時)右半結腸切除術を施行した.その手術標本の病理組織学的検査所見は,高分化型腺癌,ss,n0(0/21),ly0,v0でstage II(大腸癌取扱い規約 第4版)であった.

1988年2月および6月に左鎖骨上窩にリンパ節転移が出現し,それぞれ摘出生検を施行したのち,同年11月(初回術後1年3か月)に左鎖骨上リンパ節郭清術を施行した.郭清範囲は,外頸静脈を外縁とし,背側は僧帽筋を露出して,内側は静脈角まで至り,7個のリンパ節(最大径15 mm)を含む脂肪織をen blocに切除した.

1989年3月からはtegaful/uracil(UFT)による補助化学療法を開始したが,すぐに再度左鎖骨上窩(外頸静脈の外側)に1個のリンパ節転移が出現し,同年6月(初回術後1年10か月)には切除した.

それ以後14年5か月間再発を認めなかったが,2003年11月(初回術後16年3か月)左鎖骨上窩~左腋窩のリンパ節再発を確認し(Fig. 1),化学療法を開始した.

Fig. 1 

The Chest CT shows: (a) no swollen lymph nodes at 12 years after the first operation. (b) swollen subclavicular lymph nodes (arrow) at 16 years after the first operation. (c) swollen axillary lymph nodes (arrow) at 16 years after the first operation.

その後の経過:再発後の化学療法は,以下1)~4)を施行した.

1)5-fluorouracil/leucovorin(5-FU/LV);2003年12月~,11コース施行でprogressive disease(以下,PDと略記)となる

2)tegafur/gimeracil/oteracil potassium(S-1);2005年7月,開始直後にGrade 3の下痢,発疹などで中止した

3)5'-DFUR;2005年9月~,12か月間内服でPDとなる

4)tegaful/uracil/folinate(UFT/LV);2006年9月~2009年8月,PDとなり29コースで終了した

この時点では化学療法での制御は不良であり,いわゆる新規抗癌剤を2009年9月から導入した.大腸癌治療ガイドラインに則った新規抗癌剤については未使用であるため,レジメン選択にあたっては一次治療に相当するとみなし,まずmFOLFOX6単独で忍容性を確認してからbevacizumabを追加した(以下5)).

5)mFOLFOX6;2コース→bevacizumab+mFOLFOX6;4コース

投与後の効果判定では,PET-CT(2008年4月)では左鎖骨上窩~腋窩に無数の腫大リンパ節を認めた(Fig. 2a)のに対し,PET-CT(2010年1月)では左鎖骨上~腋窩の腫大リンパ節はいずれも著明に縮小した(Fig. 2b).

Fig. 2 

PET-CT shows: (a) many bulky metastatic left supraclavicular–axillary lymph nodes before bevacizumab+mFOLFOX6, a radical dissection was not successful then. (b) remarkably reduced metastatic lymph nodes and no other metastases after bevacizumab+mFOLFOX6, so a radical node dissection could be planned.

また,ここまでの経過を通じ,左鎖骨上~腋窩リンパ節以外の部位には転移は認めなかったため,左鎖骨上~腋窩のリンパ節を郭清すれば根治の可能性がありうると判断した.その際,鎖骨下領域のリンパ節郭清を完全に行うには左鎖骨の切離または一部切除が必要と予想した.

この手術治療計画につき,場合により良い予後が得られる可能性があるが,鎖骨の切離や切除に伴う合併症や,郭清によるリンパ漏や左上肢浮腫などの危険性があり,非定型的な手術であることも含め十分に患者に説明したところ,化学療法が長期間にわたっており,もう続けたくないという希望もあり,手術の同意を得たため,2010年3月(初回術後22年7か月),左鎖骨上・鎖骨下・腋窩リンパ節郭清術を施行した.

手術所見:まず左腋窩に約5 cm長の皮膚切開をおいた.左腋窩には空豆大以下の多数の腫大リンパ節を触知し,通常の乳癌のLevel I郭清の範囲より尾側・背側にも及ぶため,これらを含んだ脂肪織を一塊に郭清した.下胸筋神経,胸背動静脈・神経,長胸神経はそれぞれ確認・温存した.腋窩静脈周囲には若干の線維化が見られたが,Level IIまで郭清可能であった.その郭清範囲の奥に,鎖骨下静脈の尾側に沿って腫大リンパ節が続いていることを指診で確認した.

次に,左鎖骨上窩の前回術創に沿って皮膚切開をおき,左鎖骨上~鎖骨下領域の郭清を行った(Fig. 3).胸鎖乳突筋をテーピング・牽引して確認すると,左内頸静脈の外側に沿った2個の腫大リンパ節がすぐ同定でき,それらを含んだ左鎖骨上領域の脂肪織は郭清術後のため少なく,完全に郭清できた.さらに,整形外科医により左鎖骨を鎖骨角のすぐ外側で離断して両切離断端を挙上した.これにより良好な視野で鎖骨下静脈の尾側にアプローチし,腫大リンパ節を含んだ脂肪織を一塊に郭清した.ここで,先に郭清した左腋窩領域と貫通し,郭清すべき組織の残存がないことを確認した.左鎖骨は鋼線2本で修復し,手術を終了した.手術時間7時間0分,出血235 mlであった.

Fig. 3 

The diagram of the operation field (left supraclavicular–subclavicular).

手術標本所見:左鎖骨上6個,左鎖骨下6個,左腋窩28個のリンパ節が郭清された(Fig. 4).

Fig. 4 

Resected specimen. (a) Left supraclavicular; 6 lymph nodes. (b) Left subclavicular; 6 lymph nodes. (c) Left axillary; 28 lymph nodes.

術後経過:術後経過は良好で,術後第10病日に退院となった.

その後,4か月毎のCT,1年毎のPET-CTで経過観察していたが,左鎖骨上の郭清範囲に隣接した背側(僧帽筋前方)および正中側(左胸鎖乳突筋鎖骨枝背側)に異時性に少数のリンパ節腫大が出現し,それぞれ2010年8月,2011年4月(今回の郭清術後0年5か月および1年1か月)に追加郭清した.病理所見では背側5/6,正中側4/4がリンパ節転移であった.その後は再発を認めていない(2014年12月現在;初回術後27年4か月,今回の郭清術後4年9か月,最終の追加郭清術後3年8か月).術後補助化学療法は患者の希望もあり施行せず,現在で5年0か月間化学療法を施行していない.

なお,郭清術後に左上肢の浮腫やリンパ漏は出現せず,左鎖骨離断部の治癒不良により左上肢の挙上がやや困難であり,同部や左肩にも痛みがあるが軽度で,QOLを大きく損なう合併症は出現していない.

病理組織学的検査所見:今回郭清したリンパ節は,carcinoma,metastatic(左鎖骨上6/6,左鎖骨下6/6,左腋窩26/28)と診断された.

リンパ節のうち2個を除く全てに低分化型腺癌様の組織像が見られ(Fig. 5c),治療効果と思われる腫瘍細胞の変性,広範な線維化巣,壊死巣,マクロファージの集簇巣も見られる.Viableな癌細胞が見られない2個のリンパ節では,泡沫状のマクロファージを伴った壊死組織で大部分が置き換えられており,化学療法の影響で癌組織が壊死したものと考えられた.組織学的治療効果はGrade 1bと判定された.

Fig. 5 

Histopathological image. (a) Ascending colon cancer (1987). (b) Supraclavicular lymph node metastases (1988). (c) Axillary lymph node metastases (2010). Specimen (c) shows the image of metastatic carcinoma showing the effect of neoadjuvant chemotherapy; Grade 1b. A large part of (a) is well differentiated tubular adenocarcinoma, and another part is moderately to poorly differentiated carcinoma, which is similar to specimens (b) and (c).

さらに,保管されていた既往の手術標本(上行結腸(1986年),鎖骨上リンパ節(1988年2月,6月および11月))も新たにプレパラートを作製し,比較検討した(Fig. 5).今回の組織像(Fig. 5c)と既往のリンパ節転移の組織像(Fig. 5b)は,組織構築および細胞の特徴がほぼ一致しており,また,既往の上行結腸癌(Fig. 5a)の大部分は高分化型の管状腺癌であるが,一部に中~低分化型の組織構築を示す部分が含まれ,この部分の腫瘍細胞がリンパ節転移したとして矛盾しない像であった.

考察

Virchow転移などの大腸癌の遠隔リンパ節転移は,しばしば遭遇する病態ではあるが,病状進行による全身転移の一部で予後不良なことが多く,治療は主に化学療法が適応となる.また,単発の場合など切除可能と考えられる状況であっても,大腸癌治療ガイドライン(医師用 2014年版)の「Stage IV大腸癌の治療方針」には,「遠隔リンパ節転移の切除を考慮してよいが,明確な治療効果は示されていない」と記載されており1),切除の効果が明らかになっている肝転移や肺転移とは切除治療の位置づけが異なる.

しかしながら,切除術またはそれを含む集学的治療が行われた遠隔リンパ節転移例において,自験例のごとく非担癌状態が得られたり,担癌状態であっても長期の病勢制御が可能であったという報告も見られる.

大腸癌遠隔リンパ節転移後の長期経過の症例について,医中誌Webにて1977年から2014年12月までの期間で,「大腸癌」,「長期生存」,「リンパ節転移」のキーワードで本邦報告例(会議録は除く)を検索したところ,自験例のごとく20年を超える経過の症例は他に認めなかったが,集学的治療で非担癌状態が得られたとした症例や,化学療法のみでcomplete response(CR)が得られた症例の他に,病勢制御において転移リンパ節の切除に意義があったとする報告が散見された2)~20)

これらのうち,Virchow転移を切除した報告は3例のみで2)14)19),腋窩リンパ節転移の切除例も2例4)20)にすぎなかった.また,PubMedにても1950年から2014年12月までの期間で,「Virchow(supraclavicular lymph node)」,「colon(rectal)cancer」および「axillary lymph node」,「colon(rectal)cancer」のキーワードで検索したが,Virchow転移の切除は本邦から報告の1例にすぎず21),腋窩リンパ節転移の切除も本邦報告例を含む4例22)~25)のみであった.

腋窩リンパ節転移の経路は,右乳房転移を介し右腋窩リンパ節への転移があった報告20)のほか,Chiecoら23)は胸管を経由して左鎖骨上窩リンパ節へ到達して左腋窩リンパ節に向かう経路が考えられるとしているが,乳腺転移を介さない報告例で左右の明らかなものは全て左腋窩リンパ節転移であったことや,自験例の経過はこの考えを支持するものである.また,特に左鎖骨上リンパ節転移の郭清例では,左鎖骨下~腋窩へ転移する可能性があることを認識しておく必要がある.

なお,大動脈周囲リンパ節に関連した報告は大腸癌遠隔リンパ節転移のなかでは比較的多いが,大動脈周囲リンパ節陽性例の頻度はS状結腸癌で2.1%,直腸癌で1.9%26)と少なくないためであり,かつて大動脈周囲リンパ節郭清は進行結腸癌に対する拡大郭清(D4郭清)とされていた27)経緯もある.

自験例では,初回手術から2年以内に左鎖骨上リンパ節再発を繰り返した.それに対し摘出生検2回を含む計4回のリンパ節切除を行った.

うち2回目(1998年11月)は,左鎖骨上リンパ節についてはen blocに郭清されており,1989年6月にその郭清範囲外縁に遺残したリンパ節を追加切除した後,14年5か月間の無再発期間が得られた.また,その後のリンパ節再発に対して従来の5-FU系抗癌剤を使用したが,最終的には制御不良となったものの約6年間にわたり概ね病勢制御できた.途中に14年あまりの無再発期間を伴う一連の長期経過からは,自験例の腫瘍は生物学的な悪性度が低く,増大も緩徐であった可能性があるが,今回のリンパ節郭清術後に化学療法なしで経過観察した際に,隣接した領域のリンパ節転移が比較的短期間で出現したことから,従来の5-FU系抗癌剤でも病状の進行が抑制されていた可能性が高いと考える.

自験例の経過においては,これらの初期の集学的治療が結果的に長期の予後延長に寄与し,新規抗癌剤が登場するまでのいわゆるbridgeの役割を果たしたといえ,化学療法と手術のいずれが欠けても良好な予後が得られなかったと考えられる.そして,bevacizumab+mFOLFOX6療法が著効したことで遠隔リンパ節転移の根治的郭清が可能になり,初回術後27年を経た現在disease free,chemotherapy freeの状態が得られ,自験例における集学的治療の有効性には疑いがない.

しかしながら,繰り返しリンパ節転移の追加郭清を行っていることは問題点である.経過初期の1998年11月に左鎖骨上リンパ節のen blocな切除を行った7か月後にその郭清範囲の外側(左外頸静脈の外側)に1個のリンパ節転移が生じ切除を行っており,今回(2010年3月)の手術でも左鎖骨を離断して徹底的な郭清を行ったにもかかわらず,短時間で郭清範囲外の隣接した領域にリンパ節転移が出現し2度の追加郭清を要した.前者は前治療がなく,後者では化学療法著効後との違いはあるが,いずれも郭清範囲の外縁付近に再発しており,郭清すべき範囲の一部が適正に設定できていなかったことと後顧した.このことから,リンパ節郭清においては十分な郭清範囲の設定が難しいため,特に化学療法が著効した後の郭清では治療前の病変の広がりを考慮した不足のない郭清を心がけるべきであり,郭清後も慎重な経過観察が必要であると考えられた.

大腸癌遠隔リンパ節転移に対する治療において,大腸癌全体の罹患数を考えると,手術治療を含む集学的治療の有効性を示す報告はかなり少ない.この理由は,化学療法が有効であっても,郭清術の適応が得られるところまでは効かないことが多いことや,もとより郭清術の適応が考慮されず化学療法が積極的治療としてほぼ唯一の選択肢とされることが多いため,と推測されるが,自験例のごとく集学的治療が良好な経過をもたらす症例もあるため,化学療法による治療効果が得られた際には,外科医の立場からは転移リンパ節郭清を含む集学的治療の適応を積極的に検討すべきであると考える.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top