日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
胆管空腸吻合部静脈瘤出血に対して脾摘,脾・左腎静脈シャント術により救命し長期健存している1例
松井 淳一瀧川 穣河又 寛城戸 啓篠崎 浩治小倉 正治浅原 史卓原田 裕久
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2016 年 49 巻 7 号 p. 673-682

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Abstract

症例は58歳の女性で,2001年膵頭部膵管内乳頭粘液腺癌に対して幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus-preserving pancreatoduodenectomy;以下,PPPDと略記),今永法再建を施行した.2005年吐下血があり緊急入院となった.今永法再建術後では内視鏡により胆管空腸吻合部を観察できるため緊急内視鏡検査を行い同部の静脈瘤からの出血を認めた.術後門脈閉塞,門脈圧亢進症が原因の異所性静脈瘤と診断した.内視鏡治療,門脈ステント留置,静脈塞栓術などを行ったが静脈瘤出血を繰り返した.最終的に2006年脾摘,脾・左腎静脈シャント術を行い静脈瘤は消失した.シャント術後約9年間静脈瘤の再燃や肝性脳症を認めず健存中である.PPPD術後門脈閉塞による胆管空腸静脈瘤出血を内視鏡的に診断しえた症例であり,手術後の本症に対して本シャント術は安全,有用な治療選択肢の一つと考えられた.

はじめに

腹部消化器手術後の肝外門脈閉塞(extrahepatic portal vein obstruction;以下,EHOと略記),門脈圧亢進症に伴う小腸異所性静脈瘤の報告は少なく,特に肝胆道膵手術や肝移植術などの胆道再建術後に生じる胆管空腸吻合部静脈瘤では,挙上再建小腸脚への内視鏡挿入が困難なためにその診断,治療に難渋することが多い1)2).膵頭十二指腸切除術(pancreatoduodenectomy;以下,PDと略記)や幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus-preserving pancreatoduodenectomy;以下,PPPDと略記)の今永法再建では術後,上部消化管内視鏡検査で膵臓や胆管空腸吻合部を観察,処置できる3)~5)

今回,PPPD今永法術後4年にEHOから胆管空腸吻合部静脈瘤出血を来し,内視鏡診断・治療,門脈内治療を行ったが出血を繰り返し,最終的に術後5年目に脾摘,近位脾・左腎静脈シャント術(central end-to-side splenorenal shunt;以下,CSRSと略記)を施行し止血が得られ,その後約9年間静脈瘤再発や肝性脳症なく健存中の症例を経験した.

症例

患者:58歳,女性

主訴:吐・下血

家族歴・既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:50歳時より腹痛発作,高アミラーゼ血症を繰り返し急性膵炎と診断されていた.2001年2月呼吸困難,右胸痛のため内科緊急入院,右肺動脈塞栓症と診断され抗凝固・血栓溶解療法で軽快しワーファリン内服を開始した.その際のCTで膵頭部腫瘍を指摘され,精査の結果,内部に充実成分を伴う最大径40 mmの混合型膵管内乳頭粘液腺癌と診断され手術目的に外科転科した.

PPPD今永法再建施行(2001年3月):術前ヘパリン化を行い開腹すると,膵臓は随伴性膵炎のためにやや硬く,左胃静脈を根部で切離し上腸間膜静脈~門脈を損傷せず剥離,膵臓を門脈左縁に沿い切離した.膵断端に病変の遺残ないことを迅速病理で確認しD2郭清によるPPPDを施行した.再建は,空腸を後結腸的に挙上し,順に十二指腸・空腸端々層々吻合,膵管・空腸粘膜吻合法による膵・空腸端側吻合,総肝管・空腸端側全層1層吻合を行った.病理組織学的に膵管内乳頭粘液腺癌,minimally invasive,s0,rp0,n(–),ly0,v0,R0と診断された(Fig. 1).

Fig. 1 

Microscopic view of a resected specimen of the head of the pancreas shows minimally invasive intraductal papillary mucinous carcinoma.

初回術後経過:縫合不全はなく胃排泄遅延のため術後20病日食事とワーファリン内服を開始し30病日退院した.術後1か月半造影CTで門脈は描出されていた(Fig. 2).術後半年CTの際にヨード造影剤ショックを来し以後造影剤が使えなくなった.ワーファリンは術後1年まで内服した.術後2年まで上部内視鏡検査で食道,胆管空腸吻合部に異常を認めなかった.

Fig. 2 

A CT scan from September 2001 shows no obstruction or stenosis of the portal vein.

2005年4月(術後4年1か月),吐下血,貧血(Hb:6.3 g/dl)のため入院し,緊急内視鏡検査で胆管空腸吻合部に静脈瘤出血を認めクリッピング止血した.食道にも軽度の静脈瘤を認めた(Fig. 3).止血を確認し退院したが黒色便のため同年5月再入院した.ステロイド投与下の造影CT,腹部動脈造影検査で門脈本幹閉塞,挙上空腸脚を介した肝門部側副血行を認めた(Fig. 4).硬膜外麻酔,ステロイド投与下に小開腹,回腸静脈経由で門脈本幹から左右枝に径8 mmのイージーウォールステントをY字状に挿入しウロキナーゼで血栓溶解して門脈血流を再開通させた.側副血流である空腸脚の静脈瘤3本をコイル塞栓(trans-ileocolic vein obliteration of varices;以下,TIOと略記)した(Fig. 4).

Fig. 3 

Endoscopy, performed in April 2005, reveals bleeding from the varices around the choledocho­jejunostomy site (a) and submucosal telangioectasis in the esophagus (b).

Fig. 4 

In May 2005, portography via the superior mesenteric arteriography (a) and iliac vein (b) reveals portal vein obstruction and markedly dilated collateral vessels through the jejunal veins. After a Y-shape metal stent was placed from the main trunk into the right and left intrahepatic branches of the portal vein, selective jejunal venography reveals residual remarkable collateral venous flow at the choledochojejunostomy site (c). Finally, after coil embolization of the jejunal veins, portography reveals portal vein recanalization and complete disappearance of the jejunal collateral flows (d).

術直後からステント再閉塞防止のためヘパリン投与を開始した.門脈ステント留置5日,および18日後内視鏡検査で胆管空腸吻合部静脈瘤は著明に縮小し,TIOのコイルを粘膜下に確認できた(Fig. 5).ワーファリン内服再開し退院した.その後,出血なく経過していたが,2005年11月(ステント留置半年後)MR angiography(以下,MRAと略記)で門脈本幹の狭小化を認めた.胆管空腸吻合部静脈瘤は軽度であったが食道静脈瘤が増悪していたため(Fig. 6),内視鏡的に静脈瘤結紮,アルゴンプラズマ焼灼を行い静脈瘤はほぼ消失した.2006年1月再び胆管吻合部静脈瘤が増悪し出血し,ワーファリン中止し内視鏡的クリッピング,静脈内アロンアルファ®注入,硬化療法で止血したが出血を繰り返した.4か月間累計で内視鏡的処置16回,輸血32単位を要し,胆管空腸吻合部の変形や潰瘍が出現し(Fig. 7),内視鏡的治療は限界でありportosystemic shunt(以下,PSSと略記)の適応と考えられた.

Fig. 5 

Eighteen days after metal stent replacement in the portal vein, endoscopy reveals both the absence of dilated collateral veins around the choledochojejunostomy site (a) and the intravenous coil under the jejunal mucosa near the choledochojejunostomy (b).

Fig. 6 

Magnetic resonance angiography data from 6 months after metal stent replacement in the portal vein show recurrent portal vein obstruction at the hepatic hilus (a); endoscopy reveals marked esophageal varices (b and c) and slightly dilated veins around the choledochojejunostomy site (d).

Fig. 7 

Endoscopy, performed in January 2006, reveals telangioectasis in the esophagus (a), bleeding into the jejunum (b), ulceration after endoscopic sclerotherapy (c), and migration of a jejunal vein coil into the jejunum (d) around the choledochojejunostomy site.

脾摘,CSRS施行(2006年6月):開腹すると再発,胃周囲や腸間膜の静脈怒張はなく,肝臓,脾臓,膵空腸吻合部に異常を認めなかった.胃大彎血行郭清,胃脾間膜切離し脾臓と膵尾部を授動,左腎静脈を剥離し著明に拡張した左副腎静脈,左卵巣静脈を温存した.脾静脈圧を測定すると19~22 mmHgと門脈圧亢進を示していた.脾静脈を可及的長く温存し脾摘した.脾静脈を斜めに切離し左腎静脈と端側に5-0プロリン®連続縫合した(Fig. 8).吻合完了後脾静脈圧は6~11 mmHgに低下し脾静脈から腎静脈への血流が確認された.

Fig. 8 

In June 2006, splenectomy was performed, following exposure of the splenic vein (S) and left renal vein (R). End-to-side anastomosis of the splenic vein to the left renal vein was performed using a continuous 5-0 polypropylene suture. Free portal venous pressure was measured at 19–22 mmHg before splenectomy and 6–11 mmHg after splenectomy and shunting. P: posterior side of the pancreas. A: left adrenal vein.

CSRS術後経過:第22病日内視鏡検査で静脈瘤は著明に縮小し,ワーファリン内服再開し24病日退院となった.2007年3月MRAで脾・左腎静脈シャントは良好に描出され胆管空腸吻合部や食道周囲の静脈の拡張は認めなかった.なお,ワーファリン内服は2007年4月までで中止した.

PPPD術後10年目右肺癌が診断され胸腔鏡下肺部分切除術を行い,原発性肺腺癌,stage Iと診断された.PPPD術後14年,CSRS術後8年7か月の現在,癌再発なく,血清アンモニア値は術後3か月に103 μg/dlと一過性に上昇したのみであり,血小板減少,脾腫,肝性脳症などは認めず,内視鏡検査で胆管空腸吻合部,食道などに静脈瘤の再燃を認めていない(Fig. 9).

Fig. 9 

In June 2014, endoscopy reveals no varices around the choledochojejunostomy site (a) and in the esophagus (b).

考察

EHOにより小腸などに生じる異所性静脈瘤出血は,診断,治療が困難で致命的合併症の一つである1)2)6)7).これまでPD,あるいはPPPD(以下,PD/PPPDと略記)術後のEHOからの胆管空腸吻合部静脈瘤の報告は少ない.医学中央雑誌(1977~2014年)で「膵頭十二指腸切除」,「門脈閉塞」,「異所性/空腸/小腸/胆管空腸吻合部静脈瘤」,PubMed(1950~2014年)で「pancreatoduodenectomy」,「choledochojejunostomy」,「varices」をキーワードとして検索し,その中から小児,肝移植,肝硬変の症例を除いた.PD/PPPD術後にEHO,胆管空腸吻合部静脈瘤出血が診断されたのは7例のみであり8)~14),門脈再建などの原因,誘因を6例で認め,術後発症まで5~36か月であった.本例と合わせて表にまとめた(Table 1).他に再建小腸や膵空腸吻合部の異所性静脈瘤出血が報告されている6)7)15)~24).PD/PPPD術後4年と最も遅く発症したEHO,胆管空腸吻合部静脈瘤出血に対して,各種治療後最終的に脾摘,CSRSを行い術後約9年間,静脈瘤再燃と門脈圧亢進症を認めず追跡できた報告は本例が最初であった.

Table 1  A summary of eight cases in which successful hemostasis was achieved for bleeding from varices around the choledochojejunostomy site after PD or PPPD
No. Author/
Year
Age (years)/Sex Primary disease Surgical procedure/reconstruction Cause and relation Duration from surgery to bleeding (months) Site of PV obstruction Endoscopic approach Treatment Duration of no bleeding (months)
1 Koike8)/
2002
39/F Pancreatic neuroendocrine tumor PPPD/(unknown) PV reconstruction 5 PV PV metal stenting (Percutaneous transhepatic) 21
2 Kosono9)/
2009
49/M Pancreatic cancer PPPD/Child Post-op irradiation 24 PV trunk diagnosis PV metal stenting (Percutaneous transhepatic) 36
3 Yamamoto10)/
2009
61/M Pancreatic cancer PD/Child Post-op pancreatitis 18 PV trunk Splenic-intrahepatic left portal shunt 12
4 Hirota11)/
2010
63/F Bile duct cancer PD/Child PV reconstruction (local recurrence) 13 PV trunk diagnosis PV metal stenting (Trans-ileocolic vein) 3
5 Senda12)/
2010
73/F Pancreatic cancer PPPD/Child PV reconstruction 11 PV trunk intervention Endoscopic sclerotherapy 18
6 Kubo13)/
2013
49/F Pancreatic cancer PPPD/Child PV reconstruction (local recurrence) 20 PV trunk (stenosis) PV metal stenting (Trans-ileocolic vein) (unknown)
7 Saeki14)/
2013
59/M Duodenal osteoclastic giant cell tumor PD/(Roux-en-‍Y) 36 PV TIO 12
8 Our case 58/F Intraductal papillary mucinous carcinoma PPPD/Imanaga 48 PV trunk intervention Splenectomy and CSRS 96

PD: pancreatoduodenectomy, PPPD: pylorus-preserving pancreatoduodenectomy, PV: portal vein, TIO: trans-ileocolic vein obliteration of varices, CSRS: central splenorenal shunt

EHOは,肝門部以遠の門脈の閉塞から門脈圧亢進症を来す病態で,原因不明の一次性と,血液疾患25)26),腫瘍,胆道炎,膵炎,臍炎,手術などが原因となる二次性に分けられ,二次性の約35%で腹部消化器手術既往がある27).EHOの約70%に消化管出血が見られ,腹部消化器手術既往例では食道・胃静脈瘤出血以外の異所性静脈瘤からの出血が多い1)

肝硬変による門脈圧亢進症に伴う静脈瘤は遠肝性静脈瘤が多い.しかし,術後EHOでは,閉塞した門脈の遠位から肝十二指腸靭帯や十二指腸などに沿い肝門部までcavernous transformationを呈する求肝性静脈瘤が生じる.肝胆道膵手術では肝十二指腸靭帯郭清により主要血管のみが残り,胆管が離断され胆管空腸吻合が行われる.そこに術後EHOが生じると門脈血流は挙上再建小腸脚から胆管空腸吻合部の静脈叢を側副血行路として求肝性に流入し,吻合部粘膜下の静脈瘤が発達して破裂,大量出血しやすくなる.

肝胆道膵術後EHOの異所性静脈瘤出血までの期間は最短2日17)から最長15年19)までさまざまであり,手術時の門脈合併切除・再建15)17),放射線治療9)24),術後の縫合不全22),癌再発11)13)などの原因が明らかな例もあるが不明なことが多い.PPPD術後の本例は,門脈再建,照射,術後縫合不全や胆管炎などの合併症はなく術後4年目に突然発症した.特発性肺塞栓症の既往があることから血液凝固系異常の関与が疑われたが,血液内科的各種検索を行ったが異常は認められず,EHOの原因,誘因は明らかではなかった.

術後EHOの診断には造影CT,US,門脈造影が行われ,最近ではmultidetector CTが有用とされている.一方,PD/PPPD術後EHOによる消化管出血では挙上再建小腸脚への内視鏡挿入が困難なため異所性静脈瘤の部位が明らかにできないことが多い.これまでPD/PPPD術後の胆管空腸吻合部静脈瘤出血を内視鏡的に診断した報告は,上部消化管内視鏡2例,小腸バルーン内視鏡1例の計3例のみであった9)11)12).本例では今永法術後の定期的内視鏡検査により術後2年目まで胆管空腸吻合部に異常のないことを確認していたが,術後4年目の吐下血に対して内視鏡的に胆管空腸吻合部静脈瘤を診断しクリッピング止血に成功した.また,PD/PPPD術後異所性静脈瘤出血をCTなどの画像検査の前に内視鏡的に診断,治療した報告は本例が最初であった.

千田ら12)は約5か月間に4回内視鏡治療を繰り返し,EHOによる求肝性空腸静脈瘤の内視鏡的止血効果は肝硬変の際の遠肝性食道静脈瘤とは異なり止血効果は短期間であり他の止血手段が必要としている.Otaら23)や古橋ら21)もPD術後食道静脈瘤を内視鏡治療した後に空腸静脈瘤出血を来している.本例でも門脈ステント再閉塞後,胆管空腸吻合部静脈瘤を内視鏡治療すると求肝性血流が遠肝性に変わり食道静脈瘤が増悪し,その食道静脈瘤を内視鏡治療すると逆に胆管空腸吻合部静脈瘤が再燃し,静脈瘤出血を繰り返した.術後EHOによる異所性静脈瘤,あるいは食道静脈瘤の内視鏡治療後には,他部位の静脈瘤発生に注意が必要である.

最近,interventional radiology(以下,IVRと略記)が進歩し,PD/PPPD術後EHO,静脈瘤出血に対して門脈系IVRが行われている.TIOを行い2年止血継続している報告20)の他,門脈ステント留置の報告が多く,開腹下経回腸静脈的あるいは経皮経肝的に門脈ステント留置に成功している2)7)~9)11)23)24).これらのうち門脈本幹~肝内分枝の不完全閉塞例では門脈バルーン拡張,ステント留置が比較的容易で開存性も良好で,PD/PPPD術後門脈ステントの最長開存は7年である24).しかし,多くは開存期間が2年未満で不成功例の報告も見られる16)17).本例では経回腸静脈的に門脈再開通,門脈ステント留置,TIOを行い,静脈瘤は消失したが6か月後にはステント再閉塞し静脈瘤から再出血した.以上から,術後EHOに対する門脈ステント留置は,長期成績がいまだ明らかとは言いがたく,十分なICの上で実施するべきと考えられる.

このように術後異所性静脈瘤は術後合併症の中でも治療困難な病態であり,内視鏡,あるいは最近進歩している門脈IVRによる治療は奏効しても効果が一時的に終わる可能性がある.本例でも頻回の内視鏡治療と門脈IVRを行っている間に結果的に大量輸血を要したことは反省すべきであった.

これまでPD/PPPD術後EHOに対するPSSの中でportocaval shuntの成績は不良であり,自家静脈graftによる上腸間膜静脈下大静脈シャントが奏効し8か月間肝性脳症なく止血している報告が1編あるだけである21).Orloffら28)は40年間のEHO 200例の閉塞部位は脾静脈より肝側の門脈本幹が134例(67%)と最も多く,門脈の閉塞部位に応じてPSSを行い本例と同様な脾摘とCSRSを40例に行っている.その結果,再出血は2.5%,肝性脳症は0%とEHOによる消化管出血に対するPSSの成績が良好なことを報告している.胆管空腸RY吻合術後15年の挙上空腸静脈瘤出血に対してsubtotal splenectomyとCSRSで止血に成功しshunt術後2年間再発を認めていないとする報告がある29).一方,PD/PPPDでも脾静脈非再建例や上腸間膜静脈・脾静脈合流部以下の閉塞から遠肝性の左側門脈圧亢進症,食道胃静脈瘤や膵空腸吻合部静脈瘤出血に対してはCSRSではなく遠位脾腎静脈吻合術が行われる15)

本例では,門脈本幹の閉塞であり上腸間膜静脈から脾静脈は開存していること,胃大彎血行郭清による食道静脈瘤治療も兼ねることを考え,PSSを行う際に脾摘とCSRSを選択した.門脈圧は正常値5~10 mmHgで14.7 mmHg以上が門脈圧亢進症と定義されるが,本例では脾摘,CSRS施行後に門脈圧が正常化した.術後も胆管空腸吻合部や食道の静脈瘤再燃や門脈圧亢進症状を認めず約9年健存しており,定期的に内視鏡で胆管空腸吻合部に異常のないことを確認している.

PD/PPPD術後のEHOからの小腸や胆管空腸吻合部などの異所性静脈瘤出血は致死的な合併症で,肝硬変症の食道静脈瘤とは血行動態の異なる求肝性静脈瘤である.本症に対しては,内視鏡的治療,門脈のIVRやステント留置により止血を図ることが可能と考えられる.しかし,止血に成功しても長期間の成績は不明であり,静脈瘤再出血の可能性に備えるべきであり,EHOの部位に応じたPSSの実施を念頭に置くことが肝要である.本例のような脾静脈合流部より肝側の門脈本幹のEHOに対しては脾摘,CSRSが有用な選択肢になると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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