日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
肝切除後に腸間膜再発を来した肝細胞癌の1例
福岡 伴樹越川 克己真田 祥太朗澤木 康一大屋 久晴西尾 知子
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2016 年 49 巻 7 号 p. 641-648

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Abstract

肝細胞癌術後に腸間膜内に孤立して再発を来した症例はこれまでに本邦では報告されていない.今回,我々は肝切除後13年の経過の後に腸間膜に独立して再発した1例を経験したので報告する.患者は82歳の男性で,69歳時に肝細胞癌で肝右3区域切除術の既往があり,78歳時に早期胃癌に対して当院で幽門側胃切除術を施行した.肝切除術の約13年後に貧血が出現し腹部造影CTを行うと,回結腸動静脈領域の腸間膜内に多発する腫瘍を認め回結腸静脈腫瘍栓を伴っていた.支配領域の回腸に鬱血を認めたが腫瘍性病変は明らかではなかった.診断,治療の目的で外科的切除を行った.回結腸静脈内の腫瘍栓を摘出し動静脈を根部で切離,腫瘍が存在する範囲の腸間膜と支配領域の腸管の切除を行った.腫瘍は一部が回腸内腔に自潰しており貧血の原因と考えられた.切除した腫瘍は病理組織学的検査で肝細胞癌の転移であり既往の肝細胞癌の組織像と類似していた.

はじめに

肝細胞癌は日常臨床においてしばしば遭遇する腫瘍であり,手術での摘出やラジオ波焼灼術,肝動脈化学塞栓療法などの局所治療が行われる.初回治療後に多中心性発生を含めた肝内再発が2年以内に28.8%に見られると報告されており繰り返して治療が行われる1).肝外転移の中では肺や骨への転移が比較的頻度が高いといわれているが,消化管への転移は少数の報告しかなされておらず,また本邦では腸間膜に限局して転移を生じた報告はない.しかも10年以上の長期経過の後に肝外への転移を単独で来す例は極めてまれである.今回,我々は肝細胞癌に対する肝切除術の約13年後に出現した静脈内腫瘍栓を伴う小腸腸間膜への転移に対して,肉眼的根治切除を施行しえた症例を経験したため報告する.

症例

患者:82歳,男性

主訴:倦怠感

既往歴:69歳時に肝細胞癌に対して他院で肝右3区域切除術.78歳時に早期胃癌に対して当科で幽門側胃切除術.前立腺肥大.糖尿病.

現病歴:胃の手術後は補助化学療法を行わずに外来で定期検査を行っていたが,術後約4年の受診時に倦怠感,下血,食欲不振を訴え貧血の進行を認めたため精査を行った.この間の採血ではヘモグロビンは14 g/dl前後で推移しており,肝機能障害や黄疸は認めていなかった.

血液検査所見:ヘモグロビン9.4 g/dlの貧血の進行を認めた.肝腎機能障害や炎症反応の異常はみられなかった.CEA,CA19-9は正常値であり,HBs抗原,HCV抗体はいずれも陰性であった.

腹部造影CT所見:回結腸動静脈領域の腸管膜内に,不均一に造影される約20 mmまでの多発腫瘍を認め,回結腸静脈が上腸間膜静脈に流入する部位に静脈内腫瘍栓を伴っていた.回結腸動静脈の支配領域の回腸末端には鬱血,浮腫像を認めた(Fig. 1).上腸間膜静脈本幹~門脈には異常所見を認めなかった.残肝は辺縁が鈍で肝切除後の代償性肥大を認めたが明らかな占居性病変は認めなかった.

Fig. 1 

The abdominal CT scan shows multiple tumors in the mesentery (yellow arrows) and tumor emboli in the ileocolic vein (red arrows). Thickening of the wall due to congestion is observed at the end of the ileum (frame).

注腸造影検査所見:回腸末端から約15 cmまでの造影で腸管内腔に異常所見を認めなかった.

回結腸静脈腫瘍栓に起因する回腸鬱血による腸管内腔への出血が貧血の原因となっているものと判断し,貧血進行に対する対症治療として,また腸間膜腫瘍の診断も兼ねて手術を行う方針とした.さらには腫瘍が回結腸動静脈領域に限局しており,切除による根治も期待された.

手術所見:上腸間膜静脈を露出してテーピングし,ここから分岐する回結腸静脈の内腔に透見する腫瘍栓を確認した(Fig. 2).腫瘍栓を摘出しつつ回結腸動静脈を根部で切離した(Fig. 3c).肉眼的に腫瘍が確認される範囲の腸間膜を切除し,この支配領域の腸管切除を行った.切除範囲は回腸約80 cmおよび右半結腸となった(Fig. 3a).

Fig. 2 

White tumor emboli are detected within the ileocolic vein (ICV). SMV indicates the superior mesenteric vein.

Fig. 3 

a) Multiple tumors present in the mesentery. b) The tumors had been squashed by themselves within the intestinal lumen (The frame in Fig. 3 was enlarged). c) Tumor emboli.

病理組織学的検査所見:肉眼所見では,腸間膜の腫瘍の一部がバウヒン弁から約30 cmの回腸内腔に露出し,約60 mm径の中央が自潰した隆起性腫瘍を呈していた(Fig. 3b).病理組織学的検査所見では,好酸性顆粒状の広い胞体を有する腫瘍細胞が充実性に増殖し,不明瞭な太索状構造や類洞構造を示す部分を含み,偽腺管形成様構造を示唆する所見も認められた.免疫染色検査にて一部にhepatocyte陽性であり中分化型肝細胞癌の転移と診断した(Fig. 4).腫瘍は腸間膜内の静脈,リンパ管に沿って広範囲に広がり,間膜内で胞巣状構造を呈する腫瘤を多数形成していた.この腫瘤の一部が腸管沿いで増大した結果,回腸の内腔に自潰,出血したと診断された.また,腫瘍の脈管侵襲が進行して静脈腫瘍栓を形成したと考えられた.

Fig. 4 

a) HE stain ×40, b) HE stain ×200, c) hepatocyte stain ×200.

13年前の肝切除が行われた施設に問い合わせたところ,「肝右3区域に及ぶ被膜を有した膨張型発育性の巨大単発腫瘍」であり,原発性肝癌取扱い規約第4版に則って,肉眼所見は「結節型,APM,St,H3,Eq,Fc(+),Fc-Inf(–),Sf(+),S0,N0,Vp1,Vv1,B0,IM0,P0,SM(–),CH,T3N0M0,stage III,治癒度B」,病理組織学的検査所見は「中分化型肝細胞癌,索状型,多形性,背景肝に肝炎像はほとんど見られない」との報告を得た.今回切除した腫瘍は借用したプレパラートの組織像と類似しており,この再発,転移と考えられた.

術後経過:概ね順調であり術後30病日で退院した.術後5か月の腹部CTで肝左葉外側区域に早期に濃染され後期相では低吸収を示す腫瘍の出現を認め,手術から11か月後にはこれらの腫瘍が門脈腫瘍栓を形成した(Fig. 5).肝細胞癌の腫瘍マーカーは手術の2か月後から急激な上昇を認め,約1年後にはAFP 99,060.0 ng/ml,PIVKA II 696,300 mAU/mlに至っていた.特に自覚症状はなく貧血の進行も認めないことから,患者と家族がこれ以上の積極的な治療を希望せず,1年2か月後の現在,自宅で生活を送りつつ外来での定期通院を継続している.

Fig. 5 

Multiple tumors detected in the lateral segment of the liver (yellow arrows) with tumor emboli inside the portal vein (red arrows) on a CT scan performed 11 months after the operation.

考察

肝細胞癌の肝外転移経路は血行性,リンパ節転移,直接浸潤などがあり,第18回全国原発性肝癌追跡調査報告(2004~2005)によると,肝細胞癌の肝外転移としては肺,骨,副腎などに多く見られ,新規登録例19,499例のなかでそれぞれ302例(1.5%),207例(1.1%),66例(0.3%)に,剖検例238例ではそれぞれが69例(29.0%),24例(10.1%),23例(9.7%)に認められたと報告されている1).一方で腹腔内臓器への転移も一定数(新規登録例:30例(0.2%),剖検例:34例(14.3%))が報告されており,特に剖検例では肺転移に次ぐ頻度となっている(Table 1a).

Table 1  The 18th national primary liver cancer follow-up survey report (2004–2005).
a) Extrahepatic metastasis of hepatocellular carcinoma
lung bone adrenal lymph node brain peritoneum/organ in the abdominal cavity skin other
New registration:
19,499 cases
302 (1.5%)207 (1.1%)66 (0.3%)228 (1.2%)19 (0.1%)30 (0.2%)52 (0.3%)
Autopsy:
238 cases
69 (29.0%)24 (10.1%)23 (9.7%)33/161 (20.5%)1 (0.4%)34 (14.3%)2 (0.8%)20 (8.4%)
b) Cumulative survival rate after the first diagnosis of hepatocellular carcinoma (1994–2005)
1 year 2 years 3 years 5 years 10 years
All of hepatocellar carcinoma: 101,977 cases79.1%66.1%55.0%37.9%16.5%
Hepatectomy cases: 25,066 cases88.2%78.4%69.5%54.2%29.0%

医学中央雑誌において1977年~2014年の期間で肝細胞癌の消化管への転移を検索した.会議録を除くと「肝細胞癌」,「腸間膜転移」をキーワードとした検索では報告例はなかった.「肝細胞癌」,「小腸転移」をキーワードとすると2例2)3)が,「肝細胞癌」,「空腸転移」では1例4)がそれぞれ報告されているのみであった.さらには「肝細胞癌」,「胃転移」で13例5)~17),「肝細胞癌」,「大腸転移」で2例18)19),「肝細胞癌」,「結腸転移」で2例20)21)が報告されていた.

悪性リンパ腫が併発しており胃転移が悪性リンパ腫によるものであった症例9)を除く過去の報告19例をTable 22)~8),10)~21)に示した.肝細胞癌の小腸転移の3例は腸管壁内の粘膜下層や筋層に腫瘍の主座を有しており,腸管自体への血行性転移と考察されている2)~4).大腸転移の報告例でも4例中3例は腫瘍の局在の主体が粘膜下層であると記されていた18)19)21).残りの1例は内視鏡での生検で診断されており,手術や剖検も行われなかったため局在は不詳であった20).また,胃転移の報告でも,病理組織学的検査結果の詳細が記載されているものについては全例が壁内に腫瘍が存在しており,自験例のように腸間膜内が転移の主座と考えられる例は見られなかった(Table 25)~8)10)12)~17)

Table 2  Reported cases of hepatocellular carcinoma with metastasis to the digestive tract
No. Author Year Age/Sex Time to recurrence (month) Recurrence part Organization collection Layer in the intestinal tract Outcome
1 Kanai5) 1985 81/M simultaneous stomach autopsy submucosa 1.5 months dead
2 Makino6) 1986 69/M simultaneous stomach autopsy progress to mucosa 71 days dead
3 Nishio7) 1989 61/M simultaneous stomach autopsy all layers 7 months dead
4 Takagi8) 1991 62/M simultaneous stomach autopsy progress to mucosa from serosa 15 months dead
5 Kumai10) 1991 59/M simultaneous stomach operation submucosa 2 months dead
6 Sawada11) 1991 57/F 24 stomach autopsy unknown 30 months dead
7 Abe12) 1991 50/F simultaneous stomach autopsy submucosa 47 days dead
8 Koizumi13) 1992 79/M simultaneous stomach autopsy submucosa 9 days dead
9 Kurokawa4) 1994 48/F 18 jejunum (30 cm from Treitz lig.) operation sub serosa–muscular layer 18 months alive
10 Katagiri20) 2001 79/M 19 transverse colon for interposition after proximal gastrectomy endoscope unknown 6 months dead
11 Sasaki2) 2005 82/M 24 jejunum (30 cm from Treitz lig.) operation muscular layer 15 months alive
12 Miki14) 2005 70/M 41 stomach (3 lesions) operation submucosa 2 months dead
13 Okuma15) 2007 70/M 24 stomach operation mucosa–submucosa 5 months dead
14 Hatano16) 2008 68/M 24 stomach autopsy mucosa–submucosa 12 months dead
15 Asayama3) 2009 73/F 60 jejunum (10 cm from Treitz lig.) operation submucosa–muscular layer 74 days dead
16 Nishimura17) 2009 61/F 2 stomach operation sub serosa–submucosa 7 months alive
17 Matumoto21) 2009 59/M 84 ascending colon operation mucosa–sub serosa 18 days dead
18 Miyaki18) 2014 79/M 132 sigmoid colon/stomach colonoscope unknown alive
19 Yabe19) 2014 61/F 60 cecum/peritoneum in the pelvis operation submucosa 84 months alive

肝細胞癌の症例は初回治療後に,肝内再発を含めると2年で約50%,5年で約80%が再発を来すともいわれており,第18回全国原発性肝癌追跡調査報告(2004~2005)によると,肝切除症例の累積生存率は2年で78.4%,5年で54.2%,10年で29.0%と報告されている(Table 1b1).過去の消化管転移の報告例もほとんどが2年以内の再発であった.特に胃への転移例では12例中7例(58.3%)が同時性に認められていた.そのほぼ全例が短期間で死亡に至っており,1年以上の生存が得られていたものは1例のみであった8).大腸への転移例は同時性のものはなく再発までの期間が1年7か月~11年と,比較的長期であった18)~21).肝切除の5年後に盲腸転移と腹膜播種を併発していたにもかかわらず大腸転移と播種病変を同時に切除することによってその後7年の時点まで無再発生存との報告もあった19).小腸転移も同時性の報告はなく,初回治療後1年6か月~5年後の再発であり全例で手術での切除がなされていた2)~4).空腸転移と同時に肝内再発を伴っておりその進行によって74病日で死亡した例もあったが3),ほかの2例は観察期間が長期ではないもののそれぞれ1年3か月,1年6か月までは無再発生存が得られていた2)4)

また,これらの報告では,ほとんどの症例が初回治療からの経過途中,もしくは消化管再発と同時に,肝内や他部位への再発も見られていた.肝細胞癌の初回診断,治療からの全経過中で消化管への孤立性の再発の報告は空腸転移を来した2例のみであり,これらの再発までの期間はそれぞれ2年,1年6か月であった2)4).本症例の如く13年の長期経過の後に孤立性に遠隔転移を来した報告はなく,再発巣の主座が腸間膜であった症例も本邦では報告されていない.この2点において自験例は極めて稀有な経過をたどった症例と考えられる.

肝細胞癌の消化管再発は,悪性腫瘍の血行性遠隔転移であるため予後不良であることは否定ができないものの,消化管大量出血による頓死の予防や貧血進行に対する対症治療としての積極的な外科的切除の介入は許容されると考えられる.もちろん完全切除がなされた症例や全身状態が許してその後の集学的治療が可能な症例では,矢部ら19)の報告例のようにより長期にわたる生命予後やさらには根治まで期待できることもあり,耐術が可能と判断されれば切除を躊躇すべきではないと考えられた.自験例では残念ながら早期に肝臓への転移が出現したが,現在のところ貧血進行を生じず入院や輸血を必要としていないことから,対症治療としての手術は一定の効果があったものと判断している.

本症例の再発経路については,手術の時点で肝内や上腸間膜静脈本幹~門脈内に腫瘍を認めていないことから,血行性に腸間膜転移を来した可能性が高いと考えられる.術後に比較的急速に肝内再発が出現,増大しさらに腸間膜腫瘍と同様に肝内でも門脈腫瘍栓を生じており,この肝内再発巣は切除した腸間膜腫瘍と同様の性質を持っていると推測される.この点と血流の方向の点から,今回の腸間膜腫瘍が経門脈性に肝転移を生じたと考えるのが妥当であろう.

今回,我々は肝細胞癌の前回治療から非常に長期間となっていたことや,それが他院でなされた治療であったこと,また経過中に別の癌腫の治療を行っていたことなどから,肝細胞癌の腫瘍マーカーは測定を行っておらず術前に肝細胞癌再発の診断には至らなかった.10年を超える長期経過の後であっても血行性に遠隔転移を来す肝細胞癌が存在しうることを念頭に置いて診療にあたるべきであったと思われ,示唆に富んだ1例であった.

利益相反:なし

文献
 

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