2016 年 49 巻 7 号 p. 608-616
症例は消化管ポリポーシスの家族歴のない54歳の女性で,36歳時の上部消化管内視鏡検査で初めて胃ポリープを指摘された.それ以降,胃十二指腸ポリープが出現,増大した.徐々に貧血と低蛋白血症が進行し,薬物療法が奏効せず,54歳時に手術が必要と判断した.病変は噴門部から十二指腸下行脚まで連続して存在し,空腸以下に病変を認めないため,胃全摘,十二指腸球部切除術を施行した.摘出標本では大小多数のポリープが集簇し,組織学的にCronkhite-Canada型と診断した.十二指腸に小ポリープが遺残したが,速やかに症状は改善し,術後3年6か月現在,症状は再燃していない.一般に薬物療法によるポリポーシスの根治は困難で,有症状例には外科手術が有効な症例もある.ポリープに悪性所見を認めない場合,全ての粗大ポリープを含む可及的小範囲の切除とし,術後は症状再燃に注意し,厳重経過観察することも選択肢の一つとなりうる.
消化管ポリポーシスは消化管に同一の組織像を呈するポリープが多発した状態と定義される疾患群で,ポリープの組織像・臨床徴候・遺伝子異常の違いにより細かく分類されている1).いずれも比較的まれな疾患であるが,悪性腫瘍を合併し,切除を要する症例が多数報告されている2)~4).
一方,消化管ポリポーシスに伴う貧血や低蛋白血症に対して外科切除を施行した報告例は少ない.今回,我々は内科的治療の奏効しない貧血と低蛋白血症に対して胃全摘術が有効であったCronkhite-Canada症候群を疑う1例を経験したので報告する.
症例:54歳,女性
主訴:全身倦怠感
既往歴:34歳時に盲腸癌に対して回盲部切除術を施行した.病理所見はss,n0 pStage IIであった.50歳時に十二指腸癌に対してESDを施行した.深達度m,断端陰性であった.
家族歴:特記事項なし.
現病歴:盲腸癌術後で当院外来通院中,36歳時に心窩部痛が出現した.上部消化管内視鏡検査で胃過形成性ポリープを初めて指摘された.それ以降,徐々に胃十二指腸ポリープが出現,増大していった.この後,ポリープの生検を30回ほど施行しており,48歳時にはポリープの組織学的特徴がCronkhite-Canada型であることがわかり,トラネキサム酸製剤の内服を開始した.50歳時に十二指腸癌を認めたが,胃ポリープに癌の合併を認めなかった.51歳頃から徐々に低蛋白血症と貧血が進行し始めたため,制酸剤・鉄剤・ステロイド製剤・プロスタグランジンE1製剤・5-アミノサリチル酸製剤の内服やヘリコバクター・ピロリ除菌を施行した.いずれも若干の改善を認めたが,副作用などで内服困難となり,薬剤を中止したところ急激な貧血の進行を認めた.内科的治療の限界と判断され,54歳時に外科治療を依頼された.
入院時現症:眼瞼結膜に貧血を認めた.皮膚,口腔粘膜,爪,毛髪などに異常を認めなかった.
血液検査所見:入院時,Hb 5.4 g/dl,MCV 76.6 fl,フェリチン6.0 ng/ml,TP 4.2 g/dl,ALB 2.9 g/dlと高度の鉄欠乏性貧血および低蛋白血症を認めた.入院後は,連日の鉄剤静注と第24病日にRCC 4単位を輸血したが,Hbは入院前の程度まで上昇することはなかった.TP,ALBはゆるやかに低下していった(Fig. 1).CEA,CA19-9はいずれも基準値内であった.

Clinical course of the patient. Changes of Hb, TP and ALB value.
上部消化管内視鏡検査所見:食道胃接合部直下からVater乳頭部まで大小多数のポリープが集簇していた(Fig. 2).食道にはポリープを認めなかった.胃ポリープの生検で過誤腫性ポリープと診断された.

Upper gastrointestinal endoscopy showing edematous polyp lesions at the gastric cardia (a), antrum (b), and the duodenum (c). Swollen polyps can be observed in the total stomach and bulb of the duodenum.
カプセル内視鏡検査所見:Vater乳頭以下の十二指腸および小腸にはポリープを認めなかった.
下部消化管内視鏡検査所見:大腸にポリープを認めなかった.
上部消化管造影検査所見:胃全体に小隆起性病変が密集していた.肛門側は十二指腸下行脚まで病変が存在した.また,胃体底部の雛壁肥厚を認めた(Fig. 3).

Upper gastrointestinal series showing polypoid lesions in the antrum of the stomach and bulb of the duodenum.
腹部CT所見:特に幽門付近に巨大病変が存在した(Fig. 4).

CT with coronal section showing multiple nodular lesions in the stomach.
以上より,胃十二指腸ポリポーシスによる蛋白漏出および消化吸収障害が原因の貧血および低蛋白血症と診断した.本例は約4年に及ぶ内科的治療が奏効せず,貧血および低蛋白血症の改善が見込めないため,外科手術を選択した.
手術術式と所見:胃噴門部直下よりポリープを認め,前庭部のものは特に粗大であったが,十二指腸球部からVater乳頭部に分布するポリープは比較的小さかったため,切除により期待される治療効果と手術侵襲とのバランスを考慮し,胃全摘,十二指腸球部切除術を施行した.十二指腸は可及的肛門側で切断した.術後も残存十二指腸の経過観察を容易にするため,空腸パウチ間置再建を選択した.摘出標本では,噴門から十二指腸球部まで大小多数の茎の目立たないポリープ状病変を多数認めた(Fig. 5).

Gross appearance of the resected specimen. Sessile or semipendunculated polypoid lesions can be observed in the stomach, especially near the pylorus. Duodenal bulb which was resected additionally is also indicated (arrows).
病理組織学的検査所見:ポリープ粘膜には腺管の囊胞状拡張と間質の浮腫を認め(Fig. 6),ポリープ間の介在粘膜にも同様の所見を認めた.組織学的にはCronkhite-Canada型ポリープとして矛盾ない所見であった.また,胃癌の合併は認めなかった.

Histopathological findings of the stomach. Glands of the polypoid membrane are cystically dilated and edematous stroma with inflammatory cell infiltration can be observed.
術後経過:術後合併症を認めず,経過は順調であった.術後は薬剤投与なしで,貧血・低蛋白血症は速やかに改善した(Fig. 1).現時点で胃十二指腸以外の病変は明らかではなく,Cronkhite-Canada症候群の確定診断には至っていない.
Cronkhite-Canada症候群は消化管ポリポーシスに皮膚色素沈着,脱毛,爪甲異常などの外胚葉系の異常を伴う非遺伝性の疾患である5).ポリープの組織学的特徴は腺管の囊胞状拡張,粘膜固有層の浮腫状変化と増生および炎症細胞浸潤を伴った非遺伝性の過誤腫性ポリープである6).過誤腫性ポリープが多発する疾患として鑑別すべきは,Peutz-Jeghers症候群と若年性ポリポーシスが挙げられる.
Peutz-Jeghers症候群は常染色体優性遺伝性疾患で,粘膜筋板から樹枝状に分岐した筋線維束を伴う粘膜所見を認めるポリープを組織学的に証明することが診断の必要条件である.また,本症候群は消化器外症状として口唇,口腔粘膜,眼瞼粘膜,鼻翼あるいは四肢末端部のメラニン色素斑が重要であり7),これらはいずれも本例とは一致しない.
若年性ポリポーシスは1964年にMcCollらが若年性大腸ポリポーシスとして初めて報告し8),その後,全消化管で認められる全消化管型や胃のみに限局した胃限局型が報告されている9)10).本症は常染色体優性遺伝であることが知られているが,孤発例も多い.組織学的にはCronkhite-Canada型ポリープに類似しているが,若年性ポリポーシスでは,ポリープ間の介在粘膜には腺管の囊胞状拡張や粘膜固有層の浮腫状変化と増生および炎症細胞浸潤を認めないのが特徴であり,本例とは一致しない.
一方,Cronkhite-Canada症候群は明確な診断基準は存在しないため,家族歴の有無,消化器外症状の有無,ポリープの組織学的特徴から総合的に診断することとなる.210人のCronkhite-Canada症候群患者を対象とした後ろ向き研究では,消化管ポリポーシスに随伴して70%以上に外胚葉系変化を,特に脱毛,爪甲萎縮,皮膚色素沈着のいずれかを91.3%の患者に認めると報告されているが11),本症例では比較的早期からCronkhite-Canada症候群を疑い内科的治療が行われていたため,消化器外症状が出現しなかった可能性があると考える.ポリポーシスの家族歴がないこと,ポリープの組織学的特徴はCronkhite-Canada型として矛盾しないことからCronkhite-Canada症候群が強く疑われるが,現時点では消化管以外の病変を認めないため確定診断には至っていない.
消化管ポリポーシスはポリープの組織学的特徴,臨床症状ならびに遺伝学的背景の相違などにより細かく分類されているが,共通して臨床的に問題となるのは悪性腫瘍の合併,ポリープが先進部となった腸重積やイレウス,蛋白漏出性胃腸症である.消化管ポリポーシスにおける蛋白漏出の原因はいまだ不明な点が多いが,胃腸リンパ流障害,毛細血管透過性の亢進,ヘリコバクター・ピロリ感染,胃腸粘膜上皮の炎症,局所線溶の亢進などが複合的に関与していると考えられている.したがって,内科的治療として食事・栄養療法,胃酸分泌抑制療法,ピロリ菌除菌,抗線溶療法(トラネキサム酸製剤),抗炎症療法(ステロイド製剤,5-アミノサリチル酸製剤)などが有効とされ,一定の効果が報告されている12)~16).本症例でも内科的治療にある程度の効果を認めたが,副作用などにより治療継続が困難であった.
術前に癌と診断されず,消化管ポリポーシスによる貧血または低蛋白血症の改善を主目的として切除を行った症例は,1977年から2015年10月の医学中央雑誌で,「ポリポーシス」,「貧血」,「低蛋白血症」をキーワードに検索し,さらにその関連文献を対象とすると,自験例も含めて18例存在した(Table 1)17)~32).このうち,Cronkhite-Canada型ポリポーシスは自験例を含めて3例のみであった.18例中16例で初回切除後に貧血および低蛋白血症が改善し,寛解状態が維持された.症状再燃した2例(症例3,5)は残胃に粗大ポリープが遺残もしくは再発した症例であったが,症状改善した16例中6例(本症例および症例1,2,9,10,11)もポリープが遺残していた.
| No. | Author/ Year |
Age/ Sex |
Disease | Location | Procedure | Residual polyps | Remission |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Watanabe17)/ 1979 |
13/F | Juvenile | Stomach (U/M/L) | STG | Yes | Yes |
| 2 | Uchida18)/ 1984 |
52/F | C.C | Stomach (U/M/L) Duodenum, Right colon | DG and right hemicolectomy | Yes | Yes |
| 3 | Omae19)/ 1991 |
65/F | Juvenile | Stomach (U/M/L) | DG→recurrence→TG | No→recurrence→No | Yes→recurrence→Yes |
| 4 | Hizawa20)/ 1997 |
19/F | Juvenile | Stomach (U/M/L) | TG | No | Yes |
| 5 | Hizawa20)/ 1997 |
45/F | Juvenile | Stomach (U/M/L) | PG→TG | Yes→No | No→Yes |
| 6 | Hirata21)/ 2000 |
63/F | Juvenile | Stomach (U/M/L) | TG | No | Yes |
| 7 | Harada22)/ 2001 |
49/M | Juvenile | Stomach (U/M/L) | TG | No | Yes |
| 8 | Komatsu23)/ 2004 |
60/M | Juvenile | Stomach (U/M/L) | TG | No | Yes |
| 9 | Yamaguchi24)/ 2004 |
48/M | Juvenile | Stomach (U/M/L) Duodenum | TG | Yes | Yes |
| 10 | Kabeshima25)/ 2007 |
50/F | C.C | Total tract | Ileocecal resection | Yes | Yes |
| 11 | Yamashita26)/ 2009 |
28/M | Juvenile | Stomach (U/M) Total colon | TG and polypectomy | Yes | Yes |
| 12 | Yagi27)/ 2009 |
60/F | Juvenile | Stomach (U/M/L) | TG | No | Yes |
| 13 | Tajima28)/ 2011 |
77/M | Juvenile | Stomach (L) | DG | No | Yes |
| 14 | Mizuuchi29)/ 2011 |
47/F | Juvenile | Stomach (U/M/L) | TG | No | Yes |
| 15 | Nagasue30)/ 2013 |
42/F | Juvenile | Stomach (M/L) | TG | No | Yes |
| 16 | Okubo31)/ 2013 |
42/F | Juvenile | Stomach | TG | No | Yes |
| 17 | Sato32)/ 2014 |
28/F | Juvenile | Stomach | TG | No | Yes |
| 18 | Our case | 54/F | C.C | Stomach (U/M/L) Duodenum | TG and duodenal bulb resection | Yes | Yes |
C.C: Cronkhite-Canada, DG: distal gastrectomy, PG: partial gastrectomy, STG: subtotal gastrectomy, TG: total gastrectomy
蛋白漏出はさまざまな機序が複合的に関与していると考えられているが,ポリープ部やポリープ間の介在粘膜の囊胞状に拡張した腺管から蛋白を豊富に含む粘液の分泌が亢進したり,あるいは間質が浮腫を伴うことにより正常より細胞間隙が広くなり33),そこから蛋白が漏出し,漏出量が消化管からの再吸収量を超えた場合に蛋白漏出性胃腸症としての症状が出現するという機序が一般的に考えられている.このような機序やポリープの遺残により症状再燃を来す症例(症例3,5)も存在することから,根治的な症状改善のためにはポリープを可及的に切除できる術式を選択することが最良と思われるが,どこまでの術式拡大が許容されるかに関しては現時点で一定の見解が得られていない.また,本症例や症例1,2,9,10,11のようにポリープが遺残しても症状改善する症例も存在するため,特に術前に癌の合併を診断できていない症例やポリープ自体の癌化率が低い疾患の場合,必要十分な切除範囲の決定に苦慮する可能性がある.症例1,2,9,10,11ではいずれも内視鏡所見から粗大ポリープに限定して完全切除する術式を施行することで症状改善を得ている.一方,症例3,5は粗大ポリープが遺残したため症状が再燃した.これらの症例を参考に,上述した蛋白漏出機序から考えると,粗大ポリープを可及的に切除することで,蛋白漏出表面積を著明に減少させ,漏出量を減少させることができれば,症状を改善できる可能性があると考えられる.本例でも内視鏡およびCT所見でのポリープの大きさ・分布所見と,ポリープ全切除が十二指腸乳頭部の切除を必要とすることから,粗大ポリープに限定して完全切除できる術式を選択し,貧血および低蛋白血症が改善することができた.また,症例11は蛋白漏出シンチグラフィーにより主な蛋白漏出臓器を同定し,切除範囲決定の参考としている.蛋白漏出シンチグラフィーは,術前に蛋白漏出臓器の同定を可能とする唯一の手段であり,有用とする報告34)~36)が散見されるが,核医学検査施設が必要であることや漏出部位の正診率が不明であることから,現時点では標準検査とはいいがたい.
したがって,ポリープに明らかな悪性所見を認めない症例では,全ての粗大ポリープを含む可及的小範囲の切除に止め,術後は症状再燃やポリープの悪性化の可能性を念頭に置いて厳重経過観察とすることも選択肢の一つになりうると考える.
利益相反:なし