日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
胃癌術後に直腸転移を来した1例
萩原 清貴西川 和宏三宅 正和清川 博貴濱 直樹宮本 敦史宮崎 道彦池田 正孝平尾 素宏中森 正二関本 貢嗣
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キーワード: 胃癌, 直腸転移
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2017 年 50 巻 10 号 p. 788-795

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Abstract

症例は80歳の女性で,前庭部胃癌を指摘され,幽門側胃切除術,Roux-en-Y再建,胆囊摘出術を施行した.病理組織診断はpT4a,N2,ly2,v2,pStage IIIBであった.S-1術後補助化学療法を施行したが,好中球減少のため7コースで中止した.経過観察中に造影腹部CTで下部直腸の壁肥厚を認め,下部消化管内視鏡検査で直腸に半周性の2型病変を認め,原発性直腸癌を疑われた.生検検査は低分化腺癌で,免疫染色検査で胃癌と酷似することから胃癌直腸転移,子宮浸潤と診断し,術後14か月目に腹腔鏡下低位前方切除術,子宮全摘術を施行した.病理組織学的検査所見は低分化腺癌で,免疫染色検査結果が既往の胃癌と一致し,胃癌直腸転移と診断された.胃癌の直腸転移はまれな疾患であり,原発性直腸癌との鑑別が困難な症例も認めるが,免疫染色検査は診断に有用と考えられた.

はじめに

転移性大腸癌の頻度は全大腸癌の0.1~1%と比較的まれで1),胃癌が孤立性に直腸に転移することはまれである2).胃癌直腸転移はびまん浸潤型(4型)を呈することが多く2),鑑別が困難で術前に確定診断を得られないことも少なくない3).今回,我々は胃癌切除後に下部消化管内視鏡検査で2型腫瘍性病変を認め,内視鏡検査肉眼所見では原発性直腸癌と診断したが,免疫染色検査で胃癌直腸転移と診断し切除しえた1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:80 歳,女性

主訴:特記事項なし.

既往歴:胃癌に対し幽門側胃切除術を施行した.糖尿病,高血圧.

現病歴:2014年6月に前庭部胃癌2箇所に対し幽門側胃切除術を施行した.術中所見では腹膜播種や肝転移を認めなかった.病理組織学的検査所見は①L,Less,92×47 mm,Type 3,por1>tub2,pT4a,N2(5/44),int,INFb,ly2,v2,pPM0(59 mm),pDM0(20 mm),pStage IIIB,②L,Less,25×16 mm,Type 0-IIc,por1>por2,pT1b,N2,int,INFb,ly2,v0,pPM0(29 mm),pDM0(80 mm),pStage IAであった.術後補助化学療法としてS-1内服(80 mg/body 4週投薬,2週休薬)を行い,好中球減少を認め7コースで中断した.経過観察中の2015年6月に腹部造影CTで直腸の全周性の壁肥厚像を認め,下部消化管内視鏡検査で直腸の半周を占める2型腫瘍を認め,生検検査の結果,低分化型腺癌と診断された.精査を進め,手術目的に8月入院となった.

入院時身体所見:身長152 cm,体重42 kg.眼球結膜に貧血所見を認めず,腹部は平坦,軟で,圧痛や筋性防御を認めなかった.

血清生化学検査所見:RBC 331×104/μl,Hb 10.8 g/dlと軽度貧血所見を認めた.Alb 2.9 g/dlと低アルブミン血症を認めた.腫瘍マーカーはCEA 3.4 ng/ml(cut off値3.9 ng/ml以下),CA19-9 7 U/ml(cut off値37 U/ml以下)と基準値範囲内であった.

腹部造影CT所見:直腸の全周性の壁肥厚を認め,周囲脂肪織濃度の上昇を認めた(Fig. 1).直腸壁肥厚部が子宮に接し子宮浸潤の可能性も考えられた.径10 mm以上のリンパ節腫大を認めなかった.

Fig. 1 

Enhanced CT of the abdomen shows circumferential wall thickening of the lower rectum.

PET-CT所見:下部直腸に壁肥厚,SUV max 7.3異常集積を認めた.直腸傍リンパ節に軽度腫大,SUV max 2.0の集積を認めた.胃十二指腸吻合部および他部位に異常集積を認めなかった.

下部消化管内視鏡検査所見:第一Houston弁から口側の管腔に半周性を占める2型腫瘍を認めた(Rb)(Fig. 2).生検結果はAdenocarcinoma,por1で,免疫染色検査でCK7(+),CK20(−),p53(+/−),p16(+/−),CDX-2(+),HER2 score(+)で,胃癌の免疫染色検査結果(Fig. 3a~c)と酷似していた.p53,p16の免疫染色検査では染まっている核を認めたが,割合が非常に少なくまばらであったため,(+/−)と診断した.

Fig. 2 

Colonoscopy shows a type II hemicircumferential tumor in the lower rectum.

Fig. 3 

Pathological findings of the gastric tumor. Positive CK7 immunostaining of the tumor (a). Negative CK20 immunostaining of the tumor (b). Positive HER2 immunostaining of the tumor (c).

以上より,直腸の他に転移を認めない胃癌の転移再発と診断し,手術を施行した.

手術所見:肝転移,腹水,腹膜播種を認めなかった.大動脈周囲のリンパ節腫大も認めなかった.ダグラス窩周囲の腹膜転移も認めなかったため,治癒切除可能と判断し,腹腔鏡下低位前方切除術(D3郭清,側方郭清なし)を施行した.子宮と直腸が広範に接しており,直腸癌の子宮浸潤と診断し,直腸と一塊にして子宮全摘術を施行した.

切除標本肉眼所見:黒色調を呈する広い潰瘍底を持った2型の亜全周性の潰瘍性病変として認識される(Fig. 4a).局在はRa,Rbであった(Fig. 4b).直腸の全層性に浸潤していたが,壁外浸潤は認めなかった(Fig. 4c).

Fig. 4 

Macroscopic findings of the resected specimen includes a type II, nearly circumferential, ulcerated lesion with a large bleeding ulcer floor (a). Local existence of tumor was Ra and Rb (b). Tumor invaded all layers of the rectal wall, but not extramurally (c).

病理組織学的検査所見:明瞭な核小体を容れる卵円形~類円形に腫大した核を持った異型上皮細胞が明瞭な腺腔構造を伴わない,粗大な索状構造もしくは大小の充実性胞巣を成して増殖する像が見られ(Fig. 5a),低分化型腺癌と診断した.直腸の全層性に浸潤していた.直腸原発を示唆するような上皮内腫瘍成分や分化型粘膜病変は認めなかった.免疫染色検査でCK7(+)(Fig. 5b),CK20(−)(Fig. 5c),p53(+/−),p16(+/−),CDX-2(+),HER2 score(+)(Fig. 5d)で既往の胃癌と一致した.また,CD56(−),synaptophysin(−),chromogranin(−)であり腫瘍は神経内分泌形質を有しなかった.子宮には腫瘍細胞の浸潤を認めなかった.

Fig. 5 

Pathological findings of the resected specimen reveal atypical epithelial cells with enlarged nuclei proliferating in a solid alveolar configuration (a). Positive CK7 immunostaining of the tumor (b). Negative CK20 immunostaining of the tumor (c). Positive HER2 immunostaining of the tumor (d).

リンパ節転移を認めなかった(No. 251 0/3 No. 252 0/0 No. 253 0/14).

術後経過:術後経過は良好であった.退院後,胃癌補助化学療法中の再発であることから胃癌二次化学療法に準じRAM+PTXを2コース施行した.しかし,Grade 3の嘔気,食思不振を認め,化学療法は中止した.現在,転移性直腸癌術後12か月無再発で経過している.

考察

大腸癌全体に占める転移性大腸癌の頻度は0.1~1%と転移性大腸癌は比較的まれであり1),原発巣としては胃癌が最も多い4).胃癌が孤立性に直腸に転移することはまれであり2),複数部位での再発を伴うことが多く,再手術可能な症例は少ない5).医学中央雑誌で「胃癌」,「直腸転移」をキーワードとして検索したところ,1978年から2015年に胃癌原発の転移性直腸癌の報告は51例であった(会議録含む).そのうち,検討可能であったのは27例2)3)5)~28)で,自験例を加え28例で検討した(Table 1).平均年齢は62.8歳で,男女比は17:11であった.胃癌の特徴は,肉眼型は4型が18例中9例(10例は記載なし)と多く,組織型は低分化型腺癌が27例中22例(混合型を含む,1例は記載なし)と多かった.本症例では胃癌の肉眼型は3型で組織型はpor1であった.胃癌の深達度はT2/T3/T4a/T4b 1/6/19/2例とT4aが多かった.リンパ管浸潤はly0/ly1/ly2/ly3 3/6/8/5例(6例は記載なし),静脈浸潤はv0/v1/v2/v3 12/3/7/0例(6例は記載なし)とリンパ管侵襲陽性例が多かった.リンパ節転移はN0/N1/N2/N3 3/11/11/2例(1例は記載なし)と陽性例が多かった.胃切除時に肝転移を認めた症例はなく(4例は記載なし),腹膜播種を認めた症例は1例であった(3例は記載なし).直腸転移の局在はRa/Rb/Ra,Rb/Rs,Ra/Rs-Rb 6/12/5/3/1(1例は記載なし)で,肉眼型は2型/3型/4型/5型 4/1/19/0(4例は記載なし)であった.直腸病変の病理組織学的検査所見は胃癌の組織像と酷似し,粘膜下層を中心に増生し粘膜層は正常に保たれていたとする報告が多かった.

Table 1  Reported cases of rectal metastases from gastric cancer in Japan
No Author Year Sex Age Gastric cancer Rectal metastasis
Type Histological type T ly v N H P Location Type Histological type H P Prognosis
1 Niimi6) 1984 M 51 5 por 3 2 0 0 0 0 Ra, Rb 4 ? 0 0 9M alive
2 Inoue7) 1987 F 57 ? por 4a 2 1 1 0 0 Rb 4 ? 1 0 14M alive
3 Inoue7) 1987 M 54 4 ? 4a x x 1 0 1 Ra 4 ? 0 1 18M dead
4 Yokoyama8) 1988 F 42 3 tub2 4a 3 0 2 0 0 Rb 4 por x x 21M dead
5 Shimanuki9) 1990 M 66 3 por, sig 4a 2 2 1 0 0 Ra, Rb 4 por, sig 0 0 ?
6 Imazu10) 1999 F 53 3 por, sig 3 1 0 0 0 0 Ra 4 por, sig 0 0 6M alive
7 Okuno11) 1999 F 67 4 muc 4a 2 0 1 0 0 Ra, Rb 4 muc 0 0 ?
8 Sasaki12) 2000 M 68 3 por 4a 3 2 3 0 x Rb 3 por x 0 ?
9 Dousei13) 2002 F 60 4 por 4a 1 0 0 0 0 Ra 4 por 0 0 28M dead
10 Naga5) 2003 F 58 ? por, sig 4a 1 0 2 0 0 Ra 4 por x 1 ?
11 Mouri14) 2003 M 71 ? por 3 0 0 1 0 0 Rb 4 por 0 0 ?
12 Sakaguchi15) 2003 M 61 4 por 4a x x 2 0 0 Rb 4 por 0 0 12M dead
13 Shioiri3) 2003 M 65 0-IIc por 3 1 0 x 0 0 Rs-Rb 4 por 0 0 ?
14 Samura16) 2004 M 53 ? por 4a 3 1 2 0 0 Rb 2 por 0 1 60M alive
15 Sakashita17) 2005 M 75 4 por 4a x x 2 0 0 Rb ? ? x x 48M alive
16 Suzumura18) 2005 F 44 4 tub2 4b x x 2 0 0 Rs, Ra 4 tub2 0 1 36M dead
17 Kimoto19) 2006 M 65 ? por 3 1 0 1 0 0 Rs, Ra ? por x x ?
18 Nakano20) 2007 M 65 ? por, sig 2 0 0 1 x x Rb 4 por x x ?
19 Sakakibara21) 2008 M 57 4 por 4a 1 0 2 0 0 Rb 4 por 0 0 17M dead
20 Koyama22) 2008 M 85 ? por 4a x x 1 0 0 Rs, Ra 4 por 0 0 ?
21 Nitta23) 2008 F ? ? sig 4a x x 1 0 0 Ra 4 sig 0 0 ?
22 Yamaguchi24) 2010 M 77 ? tub2, por 4a 2 0 2 0 0 Rb 4 tub2, por 0 0 36M alive
23 Tabata2) 2010 M 69 4 por 4a 0 1 1 0 0 Rb 4 por 0 0 5M dead
24 Ushigome25) 2013 F 66 3 por 4b 2 2 2 x 0 Rectum ? por x x 11M dead
25 Chikakiyo26) 2013 M 69 3 por, sig 3 2 2 1 0 0 Ra, Rb 2 por, sig 0 0 22M alive
26 Hamasaki27) 2014 F 58 4 muc 4a 3 2 2 x 0 Ra 2 muc x 0 ?
27 Taki28) 2015 M 60 ? por, muc 4a 3 2 3 x x Rb ? por, muc x x ?
28 Our case F 80 3, 0-IIc por, tub2 4a 2 2 2 0 0 Ra, Rb 2 por, tub2 0 0 8M alive

自験例では胃癌の深達度はT4aで漿膜面に露出し,ly2,v2,N2とリンパ管侵襲,静脈侵襲,リンパ節転移も認め,再発のリスクは高かったが,直腸病変は肉眼型2型であり,原発性直腸癌か転移性直腸癌であるのか,診断に難渋した.転移性直腸癌はこれまでの報告では肉眼型は4型で粘膜面は正常に保たれていたとするものが多く,本症例は転移性直腸癌としては典型的ではなかった.直腸病変の生検結果は低分化型腺癌と,直腸原発の未分化癌も頻度は少ないが存在するため原発性直腸癌を否定できなかった.原発性か転移性かを鑑別することは,直腸の手術適応や化学療法のレジメン選択などの治療方針を決定するうえで非常に重要である.本症例では直腸腫瘍の生検組織を免疫染色し胃癌病変と染色結果が一致したため,胃癌の直腸転移と診断しえた.肉眼的に診断に難渋した際には免疫染色検査は有用である.原発性大腸癌の免疫染色検査について,原発性大腸癌70例中CK7陽性は7例(10%)で,68例中CK20陽性は52例(76.5%)で,直腸癌に限ると47例中CK20陽性は43例(91.5%)とあり29),原発性直腸癌でCK7陽性,CK20陰性となる確率は低い.ただし,免疫染色検査の結果のみで原発性直腸癌を完全には否定しえず,自験例では下部消化管内視鏡検査での肉眼所見が2型で胃癌の直腸転移としては典型的でなく,原発性直腸癌であっても問題ないよう通常の系統的郭清を含めた直腸癌手術を施行した.

胃癌の転移機序は一般的には血行性,リンパ行性,直接浸潤,腹膜播種などが挙げられる.自験例では胃癌手術時,直腸転移手術時ともに腹腔内に腹膜播種病変を認めず,ダグラス窩に腹水貯留もなく,転移部位は腹膜翻転部より肛門側の直腸(Rb)であり,胃癌の病理組織診断がly2,v2であることから,直接浸潤や播種再発より血行性もしくはリンパ行性転移が疑われた.

また,直腸転移に対する手術を行ってからの生存期間が記載されていたのは15例(文献21は直腸切除していないため除く)で,平均生存期間は22.3か月で,3年以上生存している症例は4例であった(26%).胃癌の再発形式は多彩で複数部位の再発を伴うことが多く21),手術適応については慎重に検討することが必要であるが,直腸以外の遠隔転移がなく,耐術能があり,手術により根治が望める症例において手術は考慮するべきと考える.直腸転移に対し手術を施行され,かつ予後が記載された症例のうち,手術時に腹膜播種を認めなかった症例は8例あり,そのうち直腸切除後に腹膜播種再発を4例に認めた.肉眼的に治癒切除できても組織学的には播種性転移が起こっている可能性があり13),長期生存が得られた症例報告16)もあるが,手術のみでの根治は難しく,身体状況が許せば直腸切除後に胃癌に準じた化学療法を行うことにより予後が向上する可能性があると思われた.

利益相反:なし

文献
 

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