2017 年 50 巻 11 号 p. 857-865
目的:diverting stoma は直腸癌術後合併症の軽減のために造設されるが,その閉鎖部には新たな瘢痕創が生じるため,整容性の向上が期待される腹腔鏡手術の利点を損なう可能性がある.腹腔鏡手術において,臍創は病巣摘出のために拡大されるため,同部位にdiverting stomaを造設することで創の追加を防ぐことができると考えられた.我々は21例において臍部人工肛門を造設し,臍部人工肛門の有用性について検討した.方法:創延長を行った臍部から腸管を挙上した.挙上回腸の口側を尾側とし,脱落防止目的に筋層と固定した.口側腸管は反転固定するとともに,翻転させた臍底部をストーマ腸管の“股”部分に固定して腸管挙上の補助とした.結果:主な術後合併症は,outlet obstructionの1例のみであった.また,翻転した臍皮膚でびらんが顕著であったが,処置の工夫で管理継続は可能であった.閉鎖時は,腸管と筋組織の癒着は小範囲であった.また,閉鎖後の感染症は認めなかった.結語:臍部人工肛門は整容性に優れるのみでなく,人工肛門に関連した合併症の予防にもつながると考えられた.

直腸疾患に対する腹腔鏡手術の普及に伴い腹部の高い整容性が得られるとともに,肛門周囲の解剖が解明されることで肛門温存の手技が確立しつつある1)2).また,腫瘍学的にもintersphincteric resection(ISR)とabdominoperineal resection(APR)での有意差がないことも指摘されている3)~5).また,直腸癌術後合併症に起因する在院日数延長の短縮と死亡率の低下に寄与するものとしてdiverting ileostomyが比較的安全な方法とされており6),本邦でも第26回日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会総会のアンケート7)ではileostomyの割合が多かった.
そこで,腹腔鏡手術において病巣摘出のために開大した臍創にdiverting ileostomyを造設することで創の追加を防ぎ,さらにileostomy閉鎖創の瘢痕を目立たなくすることができれば,腹腔鏡手術の利点である整容性がより維持できると考えられた.
本稿では当院における腹腔鏡下手術における臍部人工肛門造設における工夫と,人工肛門に関連した合併症について検討し,その有用性について考察する.
2014年4月から2016年3月までに腹腔鏡下前方切除術を受けた患者で,臍部にdiverting ileostomyを造設した21症例である.予定手術においては,術前にdiverting ileostomyのinformed consentを確認し,皮膚・排泄ケア認定看護師(wound ostomy and continence nursing;以下,WOCNと略記)による通常の位置へのストーママーキングを行った.
2. ストーマ造設術手術は5ポートで,二酸化炭素による気腹(10 mmHg)で施行した.栄養血管は下腸間膜動脈(inferior mesenteric artery;以下,IMAと略記)根部で結紮切離し,リンパ節はD3廓清を施行した.臍創は病巣摘出のため創開大を行った.腹直筋前鞘を十分に露出し,臍底部の皮膚を翻転挙上できるようにしておく(Fig. 1A).体外操作終了後は,腹腔内でdouble stapling technique(DST)再建もしくは肛門側からの結腸肛門管の手縫い吻合を行った.IMA根部に癒着防止シートを貼付し,回腸末端から約40 cm口側を挙上回腸とした.全例,骨盤内と肛門管内にドレーンを留置した.

A: Exposed in the anterior sheath of rectus abdominis muscle (a). At this time, we separated an umbilicus bottom (b) and a fascia, next, elevated an umbilical bottom. B: Fixed intestine and a fascia (c), with elevation of an intestine in an umbilical bottom (d).
創延長を行った臍部筋膜は開口部が約5 cm程度となるよう結節縫合で縮小した.臍周囲に癒着防止フィルムを貼付した後に,人工肛門の高さが皮膚面から約5 cm確保できるように十分に腸管を挙上した.挙上回腸の口側を尾側とし,脱落防止目的に筋層と固定した.肛門側2:1の部位を横切開して開口した.口側腸管は反転固定するとともに,翻転させた臍底部をストーマ腸管の“股”部分に固定して腸管挙上の補助とした(Fig. 1B).
3. 術後管理2病日より水分摂取を開始し,3病日より粥食とした.ストーマ管理は2病日よりWOCNに介入を依頼し,装具固定のサポートを受けた.術後1週間からは可能なかぎり患者本人によるパウチ交換とした.退院後は体型の変化に合わせて装具の変更を行った(Fig. 2).

Many patients mounted with a drain pouch with which a belt was attached.
粘膜面を仮閉鎖した後に,粘膜辺縁から約5 mm程度の距離をとり,翻転した臍を含めて円形に皮膚切開を行った.挙上腸管を損傷しないように腹壁から剥離して腹壁外に引き出し,可能なかぎり腸間膜は温存して吻合部腸管を自動縫合器で切離した.腸管は機能的端端吻合で再建し,股部は2針補強した.漿膜縫合を追加し,腸間膜を縫合閉鎖して体内へ返納した.
創直下に癒着防止フィルムを貼付し,腹壁筋層はモノフィラメント糸を用いて連続縫合で閉鎖した.皮膚は新たな臍が凹となるように皮下を1~2針のみ筋層に固定し,上下の皮下および皮内縫合は施行せず,open drainageとした(Fig. 3).

A: Closed intestine roughly first (a), makes an incision of skin in the orbicular. B: Followed by continuous suture of a fascia. C: Fixes the epidermis and a fascia at the center of wound of the umbilicus. D: Top and bottom of wound do not require a skin suture (open drainage).
患者背景(年齢,性別,病理学的な病期分類),人工肛門造設術後の合併症の有無と在院日数,人工肛門管理期間,ストーマ閉鎖術の手術時間,術後の絶食期間,排ガスまでの期間,在院日数,合併症の有無を検討した.
症例は男性15例,女性6例である.年齢は平均69±10歳.原疾患は直腸癌15例,うち2例は上行結腸癌との重複癌であった.S状結腸癌2例,直腸穿孔1例,直腸カルチノイド1例,S状結腸癌骨盤内再発1例,癌性腹膜炎1例であった(Table 1).
| Age (year±SD) | 69±10 | |
| Gender | male | 15 |
| female | 6 | |
| Disease | Sigmoid colon cancer | 2 |
| Rectal cancer | 15 | |
| Perforation of rectum | 1 | |
| other | 3 | |
| Primary cancer | 17 | |
| Stage | I | 4 |
| II | 6 | |
| III (A/B) | 6 | |
| IV | 1 |
術後在院日数は平均21±9日であった.術後合併症は入院中にoutlet obstructionを1例認めたが,人工肛門からチューブを挿入することで3日間で改善した.退院後に,ストーマ周囲の皮膚びらんを3例認めた.そのうちストーマ陥没を伴った1例で入院加療を要したが,WOCNの介入によりパウチの交換期間を適正化することで,保存的に改善した.その他,ストーマ脱出2例,high output syndrome 1例を認めた.腸閉塞および傍ストーマヘルニアは認めなかった(Table 2).
| Length of hospital stay (days±SD) | 21±9 | |
| Complication | ||
| During hospitalization | Outlet obstruction | 1 |
| After a discharge | Erosion | 3(1*) |
| Prolapse | 2 | |
| Collapse | 1(*) | |
| High output syndrome | 1 | |
| Occlusion | 0 | |
*: followed in readmission
現在までに21例中,15例に閉鎖術を施行した.ストーマ管理期間は平均120±41日であった.腹腔内における挙上腸管周囲の癒着はほとんど認めなかった.手術時間は95±25分,術後在院日数は10±4日であった.他の6例においても今後閉鎖予定である(Table 3).
| Underwent stoma closure | 15 |
| Days with stoma | 120±41 |
| Operation time (min) | 95±25 |
| Fasting periods (day, median) | 2 |
| Bowels open (day, median) | 2 |
| Hospital stay (days±SD) | 10±4 |
| Complication | 0 |
創部培養にて6例で細菌の存在が確認されたが,創部の発赤および膿瘍形成は認めなかった.腸閉塞の発症は認めなかった.人工肛門閉鎖創の治癒は良好であり,腹壁の鉗子用ポート創4か所も目立ちにくく,術後の整容性は良好であった(Fig. 4).

A: One week later, most of the effusion it is not found. B: One month later, the wound looks like the umbilicus.
臍は長らく避けて切開するのが開腹術の通例であったが,臍をembryonic natural orificeの一つとして考えられるようになり,腹腔鏡手術の普及とともにembryonic natural orifice transumbilical endoscopic surgery(E-NOTES)8),transumbilical single-port surgery(TSPS)9)や single incision laparoscopic surgery(SILS)10)11)などが報告され,臍切開は通常の手技でも利用されるようになってきた12).
腹腔鏡下大腸手術ではカメラポートである臍創は病巣の摘出のために開大して用いられる.開大した臍創にdiverting ileostomyを造設することで創の追加を防ぎ,さらにileostomy閉鎖創の瘢痕を目立たなくすることができれば,腹腔鏡手術の利点である整容性を維持できると考えられた.
医学中央雑誌で1977年から2015年12月の期間で「臍」,「ストーマ(=人工肛門造設術)」で検索すると,小児領域および泌尿器科領域での報告がほとんどで,成人における消化器領域での報告は田中ら13)が臍部人工肛門の合併症とストーマケアの検討を行い,その合併症の少なさから一時的回腸ストーマ造設として臍部人工肛門の有用性を報告しているのみであった.
Ileostomyは一般的に高さが確保されているほど管理がしやすいとされている.今回,我々は挙上腸管を皮膚面から約5 cmとし,さらに臍底部を翻転させ,ストーマ腸管の“股”部分を挙上するように固定することで,挙上した臍底部で土手を形成した.臍部人工肛門は体幹の正中に位置しているため,ストーマの頭尾側方向および左右方向がほぼ対称となり,体位によらず排液の流れがスムーズとなり,臍周囲への腸液の貯留を予防しうると考えられた.
Ileostomyの合併症の一つとしてoutlet obstructionがある14).腹直筋の厚さが1 cm以上の部位でのストーマ造設で多く,小腸内圧と腹直筋収縮圧の格差による相対的な狭窄が原因とされているほか,創部の腹膜と筋膜,皮下脂肪,皮膚の位置が気腹によりずれが生じることも要因の一つと考えられている.自験例でのoutlet obstructionは1例のみであり,腸管が腹膜,腹直筋を貫通しないため腹直筋の厚さや筋肉の圧力差の影響が少ないと考えられた.
ストーマ管理において,従来のストーマとの大きな違いとしては,翻転した臍底部のびらんの発生があげられる.翻転した臍底部は周囲皮膚と比べて腸液に接触している時間が長くなることが要因の一つと考えられたが,翻転部に保護剤を貼付することで,びらんの増悪は回避可能であった.また,初回のパウチ交換から保護剤を貼付した症例では,びらんの発生は認められなかった.
初期の症例では,平面パウチを利用していたが,どれだけ補正具を調整しても便の潜り込みを防ぐことができない症例が続いた.しかしながら,凸面パウチを使用することで3~4日程度は安定したパウチの固定が可能になり,現在は初回交換時から凸面パウチを使用している.凸面パウチの形状が面板を固定する圧力をほどよく分散して,よりよい粘着面を形成していると考えられた.
皮膚びらんに対して入院加療を要した1例は,排泄物の処理を簡略化するために独自に尿取りパッドをストーマにかぶせていた症例であった.そのため,腸液がストーマ周囲に広がることとなり,広範囲にびらんを生じていた.誤ったストーマ管理によるトラブルであり,臍部人工肛門による合併症ではないと考えている.
ストーマ部がベルトラインとなるため,着衣の工夫が必要な場合があったが,多くは尾側にベルトラインを下げてもらい,サスペンダなどでズボン・スカートをつり下げてもらうことで解決可能であった.Diverting ileostomyであり,閉鎖までの限られた期間であることを十分に説明し,患者の理解と協力を得ることが重要であり,早期からWOCNの介入により手技を確立することで対応可能と考えられた.その他,臍部を横断する皺を有する場合はパウチの固定が不十分となる可能性があるが,今回の対象患者には含まれなかった.
今回,我々は臍部人工肛門の閉鎖を15例経験した.医中誌およびPubMedを検索したかぎりでは臍部人工肛門の閉鎖に関する報告は見当たらなかった.
従来のileostomyでは挙上腸管が腹直筋を貫いているため,これらからの剥離に難渋し,時には腸管損傷を来していた.臍部人工肛門では,挙上腸管の周囲には皮下脂肪と筋膜しか認めず,CTでもその様子が確認できた.
今回,我々は腹壁筋層の閉鎖にモノフィラメント糸による連続縫合を行った.筋膜切除を伴う人工肛門閉鎖術は臨床的に腹壁瘢痕ヘルニアの治療に類似しており,連続縫合は糸の各刺入点に張力を分散するため,創離開の予防に有効と報告されている15)16).また,創感染予防にも有効とする報告が多い.肥満者などで緊張が強い場合は結節縫合でより確実との報告もある17).
ストーマ周囲の皮膚は腸液に暴露されており,従来のileostomyにおいてもその閉鎖創の感染が問題となっている.従来のileostomyの閉鎖では,十分な洗浄後の閉鎖よりも,環状縫合により創を半閉鎖に止めておくことで創感染の発生が低下し,在院期間の短縮が得られたとされている18)~21)が,創部は色素沈着を伴いほぼ平坦となる.臍部で環状縫合を行った場合,術後早期は自然な臍陥凹のように見えるが,治癒後は平坦化してしまう可能性が考えられた.
我々は,臍底部を含めた周囲皮膚を切除し,その左右の皮膚を筋膜に固定して引き込むことで,臍形成を行った.初期の症例では固定糸は1本のみ使用していたが,術後早期に固定糸が破綻したために臍陥凹が消失した症例を経験した.筋膜と皮膚の癒合が不十分なうちに糸が吸収されても同様に形成した臍陥凹が消失する可能性があるため,現在では固定糸を2本用いることにしている.さらに,形成した臍の上下を半閉鎖に止めておくことで環状縫合と同様のdrainage効果を期待している.
本検討において,我々は術中にドレープおよびグローブの交換を4回施行している.平均手術時間が90分を超えており,やや時間を要しているが,ileostomyの閉鎖時の感染率の低下のためにも省くことのできない手技と考えている.
Diverting ileostomyでは約6~12か月程度でストーマ閉鎖が行われているが,約3~15%が転移性病変の増悪や吻合部の通過不全のために永久人工肛門として閉鎖されずにいる22)~24).Ileostomyのまま永久人工肛門となった場合はその管理は煩雑であり,high output syndromeによる全身状態の悪化が懸念される.また,一旦diverting stomaを閉鎖した後にも,局所再発や腹腔内膿瘍などにより人工肛門再造設が必要となったときには初回のstoma siteに再造設できるとは限らない.一方,臍部人工肛門であれば一旦閉鎖し,クリーブランドクリニックの原則25)に従った部位へ永久人工肛門を新規に造設できる利点があると考えられた.
現在は縫合不全の危険性が高い症例をdiverting ileostomyの適応としている.患者に不要な侵襲を付加しないことに論を俟たないが,臍部人工肛門とすることで人工肛門に関連した合併症の軽減と閉鎖後の問題点が解決可能なのであれば,今後はdiverting ileostomyとしての臍部人工肛門の適応を拡大しても良いと考えられた.
なお,臍部人工肛門を造設する際にも,我々は必ずWOCNとともに通常の位置へのストーママーキングを行っている.癌病勢の進行や術中トラブルにより直腸切断術に移行する場合,マーキングがないために不適当な位置に永久人工肛門を造設する危険性を回避するためであり,臍部人工肛門造設を予定していても欠くことのできない術前準備であると考えている.
利益相反:なし