日本消化器外科学会雑誌第50巻第2号をお届けいたします.本号は計10編の論文を掲載していますが,うち2編は原著論文です.1編は,下部直腸・肛門管腺癌に対する鼠径リンパ節郭清の治療成績を検討し,その遠隔再発率の高さから集学的治療の必要性を述べたもので,もう1編は急性虫垂炎における保存的治療困難で手術へ移行すべき症例の予測因子を291例の経験から検討を加えた報告です.和文論文ではありますが,非常に示唆に富んだ意義深い報告であり,我々編集部としては今後も広く我が国の消化器外科医に周知すべき内容を,本和文誌を通じて報告していただければと思っています.
本編集委員会の基本姿勢は,投稿されてきた論文を如何に採用に導くかです.若い消化器外科医が先輩外科医の指導の下に一生懸命論文をまとめ上げて投稿してきたのですから,我々編集委員もその思いは受け止めつつ査読をさせていただきます.しかし,我が国で最もレベルの高い和文誌としてその論文の内容や完成度は十分に吟味しなければなりません.どのように修正すればより良い論文になるか,各委員の先生方は毎回多くの時間を割いて検討し,非常に多くの,細かいコメントを著者らに返していると思います.これも,筆頭著者が今後立派なacademic surgeonへと成長してほしいという願いと期待を込めているからこそと思います.その気持ちをご理解いただき,指導される先生方におかれましても同様にきめ細かな指導と基本的な論文形式や投稿規程のチェックなどをよろしくお願いいたします.
さて,先月は1月20日にドナルド・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領に就任し,世界は今後どうなっていくのか予想もつかない状況です.各国が自国の利益を第一主義に掲げて相手の立場に配慮しなくなれば,他の宗教や宗派を認めない過激宗教思想は更に助長し,世界はさまざまな対立の構図で埋め尽くされてさらに混迷を深めていくのではと懸念します.常に患者の気持ちを考え,患者のためにベストを提供するという医療の精神は,政治の世界ではどこに行ってしまったのでしょうか.国境のない世界の実現は悠か遠い先のようですね.
ところで本学会も和文誌だけでなく,いよいよこの4月,「Annals of Gastroenterological Surgery」が創刊されます.日本の質の高い外科治療を世界に知らしめるには格好の英文誌と思います.ただ,今の世界のように英文誌,和文誌で対立するのではなく,世界に発信する英文誌,若手育成ならびに国内の外科医療の質と安全性の向上のために周知すべき情報発信を目的とする和文誌と各々の立つ位置を見極めて,和と洋の両面から日本の,そして世界をリードする学会へとさらに飛躍していくことを祈念しています.今後も私たち編集委員を驚かせるような論文をお待ちしています.
(安田 卓司)
2017年2月1日