目的:急性虫垂炎に対する保存的治療の適応は拡大されてきたが,奏効しない例では穿孔性虫垂炎に至る危険性がある.当院における治療成績を後方視的に検討し,保存的治療が困難な症例の因子を明らかにする.方法:2012年6月から2014年9月までに当院で急性虫垂炎に対し治療を行った291例について,受診後24時間以内に手術を施行した群(早期手術群91例),24時間以上保存的治療を施行するも継続困難と判断し手術に至った群(手術移行群26例),保存的治療で軽快した群(保存的治療群174例)に分類した.手術移行群と保存的治療群の初診時臨床症状,血液検査所見(初診時・24時間以内の再検査時),CT画像所見について比較検討し,保存的治療困難例の予測因子を検索した.早期手術群と手術移行群の周術期成績を比較した.結果:初診時および再検査時の白血球数,好中球割合,好中球数,最大虫垂径が保存的治療困難例の予測因子として挙げられた.特に再検査での白血球数,好中球割合,虫垂径が手術移行と強く関連していた.早期手術群に比べ手術移行群では手術時間が延長し,合併症が増加していた.結語:手術介入が遅くなると術後合併症が増加する.虫垂径の測定と,治療開始後24時間以内に血液検査を再度行うことで,手術のタイミングを適切に判断しうる可能性が示唆された.
目的:教室における下部直腸・肛門管腺癌の鼠径リンパ節郭清(inguinal node dissection;以下,INDと略記)症例の治療成績を明らかにする.対象と方法:1992年から2009年までの,腫瘍下縁がPまたはEの下部直腸・肛門管腺癌手術症例の内,INDを施行した16例(同時性転移7例,異時性転移9例)を対象とし,術後長期成績について検討した.結果:術後合併症はリンパ漏を13例(81.3%),surgical site infection(SSI),下肢の浮腫をそれぞれ3例(18.8%)認めた.平均在院日数は27日だった.術後補助化学療法は6例(37.5%)に施行された.同時性転移7例の5年無再発生存率は28.6%,5年全生存率(overall survival;以下,OSと略記)は28.6%だった.異時性転移9例の初回手術後から鼠径リンパ節転移までの期間は中央値11か月で,IND後4年以内に全例再発を認めたが,5年OSは33.3%だった.IND後の再発例は13例(81.3%)で,初回再発部位は骨盤内が3例,肺,肝臓,対側鼠径リンパ節,大動脈周囲リンパ節,皮膚がそれぞれ2例だった.結語:鼠径リンパ節単独転移を伴う下部直腸・肛門管腺癌に対するINDは,長期生存の可能性もあり施行する意義があるかもしれないが,遠隔再発率は高くIND後の集学的治療の開発が必要であると考えられた.
症例は62歳の男性で,胸部食道癌に対し右開胸開腹食道亜全摘,3領域リンパ節郭清,胸壁前胃管再建術を受けた.術後診断はpT3N0M0 Stage II,類基底細胞癌の診断であった.術後6か月目のCTで異常は認めなかったが,術後10か月目に胸壁前再建胃管左側に小指頭大の腫瘤を自覚した.精査にて胃管大彎側のリンパ節再発あるいは腹膜播種を疑った.胸壁前経路であったため,確定診断目的に腫瘤摘出術を行った.結果は平滑筋腫の診断であった.今回,我々は食道癌術後再発との鑑別を必要とした再建胃管の大網に発生した原発性大網平滑筋腫の症例を経験したので報告する.
症例は29歳の妊婦で,2014年5月,妊娠29週に切迫早産で入院した翌日,吐血したため緊急上部消化管内視鏡検査を施行した.胃底部に噴出性出血を認め,クリップにより止血したが出血を繰り返した.胎児への影響を考慮して入院8日目に帝王切開を施行した.CT,血管造影で左下横隔動脈から胃への流入枝に太い血管の増生を,脾動脈および左腎動脈に動脈瘤を認めた.出血が持続したため入院14日目に腹腔鏡下胃部分切除術を施行した.切除標本では胃粘膜下層に異常に太い動脈の増生とその破綻を認め,左下横隔動脈領域のcaliber persistent artery(CPA)の破綻による出血と診断した.術後の頭部magnetic resonance angiographyで左内頸動脈に動脈瘤を認めた.本症例は多発内臓動脈瘤,脳動脈瘤を併存することから,病因として線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia)が示唆された.
長期生存が得られている十二指腸原発腺内分泌細胞癌の1例を報告する.症例は58歳の男性で,検診にて膵頭部腫瘤を指摘され,精査にて膵頭部腫瘍疑いとなり,PETにて悪性が疑われたため当科にて手術を施行された.病理組織学的検査所見では腫瘍の主座は十二指腸にあり,腺癌の成分に加えて神経内分泌細胞癌の成分が混在していた.当時の診断で腺内分泌細胞癌とされ,2010年WHO分類では混合型腺神経内分泌癌(mixed adenoneuroendocrine carcinoma;MANEC)に相当するものと考えられた.術後補助化学療法は施行されなかった.腺内分泌細胞癌を含め,神経内分泌細胞癌は予後不良であることが多いが本症例では7年以上の長期生存が得られている.進行腺内分泌細胞癌においても手術により根治しうる可能性が示唆された.
症例は54歳の女性で,右上腹部痛のため受診した.CTにて肝S5,S6に10 cm大の腫瘤と造影剤の血管外漏出および腹水を認めた.また,上腸間膜静脈と脾静脈は合流後に下大静脈へ合流し,肝内門脈枝は認められなかった.以上より,先天性門脈欠損症(congenital absence of the portal vein;以下,CAPVと略記)に合併した肝細胞癌,その破裂による腹腔内出血と診断した.循環動態は安定しており,TAEを施行し,以後再出血は認めなかった.根治的治療目的に肝S5,S6部分切除術を施行した.病理診断は中分化型肝細胞癌であり,門脈域では肝動脈の増生と門脈の低形成を示し,CAPVとして矛盾しない所見であった.CAPVはまれな先天異常だが,肝腫瘍を高率に合併することが知られている.肝細胞癌の合併の報告はこれまで14例あり,TAEや肝切除が安全に行われている.CAPVは肝細胞癌を合併する可能性があり,厳重なフォローアップが必要である.また,安全に肝切除を施行しうる.
症例は79歳の女性で,10年以上前から定期的な嘔吐を認めていたが,日常生活に支障はなく経過観察していた.数か月前より嘔気,嘔吐などの症状増悪を徐々に認め,近医を受診した.症状の改善なく,精査加療目的で当院に紹介となった.来院時,腹膜刺激兆候は認めず,血液検査でも炎症反応の上昇は認めなかった.腹部造影CTの所見より,腸回転異常症に伴う中腸軸捻転と診断した.検査所見,臨床所見の結果より緊急手術の適応はなく,待機的に手術を行う予定となった.手術は腹腔鏡下にて行い,捻転整復とLadd手術を行った.術後経過は良好で,退院後は異常所見の出現なく経過している.一般的に,腸回転異常症に伴う中腸軸捻転は小児期に散見し,成人例はまれである.腹腔鏡下に整復手術を行った報告は少なく,腹腔鏡下にLadd手術と軸捻転整復を完遂した症例を経験したので報告する.
症例は64歳の女性で,他院で直腸癌に対し腹腔鏡下低位前方切除術を施行,再建はdouble stapling technique(DST)が行われた.術後に膣から便汁の排出を認め,直腸膣瘻と診断された.回腸人工肛門造設術が施行されたが,子宮付属器炎を繰り返すため,精査加療目的に当施設へ紹介受診となった.下部消化管内視鏡検査で直腸吻合部の前壁に径2 cm大の膣との瘻孔を確認した.十分な説明を行い,腹腔鏡下吻合部・瘻孔切除,経肛門的再吻合,経膣的膣壁縫合閉鎖術を施行した.術後経過は良好であり,術後10日目に退院となった.低位前方切除後の直腸膣瘻に対する根治手術として薄筋筋皮弁充填術を行った報告例は散見されるが,腹腔鏡による再吻合術を報告した例は本邦ではない.今回,我々は拡大視効果を利用した腹腔鏡下吻合部・瘻孔切除術を施行した1例を経験したので報告する.
超音波検査にて診断しえた,異物による肛門周囲膿瘍を3例経験した.2例は内外肛門括約筋間に異物が穿通し肛門周囲膿瘍を形成していた.1例は坐骨直腸窩に異物が穿通し直腸周囲膿瘍を形成していた.内外肛門括約筋間に異物が穿通した2症例は肛門管と肛門皮膚に交通を認め痔瘻様の所見を呈したため,異物除去に加え痔瘻根治術を行った.異物が坐骨直腸窩に穿通していた1例は異物除去およびドレナージのみを行った.それぞれ,術後の経過は良好にて治癒した.肛門異物による肛門周囲膿瘍の報告はまれである.報告されているほとんどの症例は消化管穿孔あるいは穿通が原因であると診断されている.しかし,内外肛門括約筋間に異物が穿通した場合,痔瘻と同様の1次口を認める症例がある.その場合,痔瘻根治術も考慮する必要があり術前診断が重要であると考えられたので報告する.
早期胃癌に仙骨前面骨髄脂肪腫を併発した症例を経験した.胃癌の治療前検査中,偶然仙骨前面に4 cm径の腫瘤が指摘され,画像上脂肪肉腫が疑われた.同腫瘤は病理診断を行う目的で広範切除が施行された.病理所見は正常骨髄組織が脂肪組織内に混在する腫瘍で,悪性所見はなく,骨髄脂肪腫と診断された.仙骨前面腫瘤の確定診断後,胃癌の根治切除が施行された.仙骨前面骨髄脂肪腫は,まれな疾患であるが,脂肪成分を含有する後腹膜腫瘍で発生頻度が比較的高い脂肪肉腫との鑑別が重要である.しかし,この鑑別診断には従来のCTあるいはMRIでは限界があり,検体採取による病理組織学的診断が重要である.本症例では治療前検査としてPET-CTが施行され,同腫瘤に最高standard uptake value値1.61の異常集積が見られた.これは,これまで報告されている脂肪肉腫のそれよりも低値であった.このPET-CTは,仙骨前面の脂肪含有腫瘍の鑑別の一助となる可能性が示唆された.