日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
左側方リンパ節単独転移に対し腹腔鏡下手術を施行した直腸神経内分泌腫瘍の1例
村木 隆太山本 真義石川 慎太郎川村 崇文小坂 隼人石松 久人原 竜平原田 岳倉地 清隆今野 弘之
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2017 年 50 巻 5 号 p. 409-415

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Abstract

症例は57歳の女性で,排便時の違和感を主訴に近医を受診した.直腸Rbに径10 mm大の粘膜下腫瘍を認め,同院にて内視鏡的粘膜切除術を施行した.切除標本の病理組織学的検査所見にて直腸神経内分泌腫瘍と診断され,当科紹介となった.術前に行った画像診断にて,石灰化を伴う左側方リンパ節転移が疑われたため,腹腔鏡下超低位前方切除術+左側方リンパ節郭清を施行した.摘出リンパ節の病理組織学的検査所見にて,直腸神経内分泌腫瘍G1の左側方リンパ節#263,#283への転移と診断された.自験例を加えた4例の側方リンパ節転移症例の検討から,腫瘍径や肉眼形態にかかわらず,術前のCT,MRIによる画像評価を行うことが重要であり,側方リンパ節転移が疑われる症例に対しては,直腸癌に準じた側方郭清を行うことで良好な予後が期待できるものと考えられた.

はじめに

直腸は神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;以下,NETと略記)の好発部位であり,治療として外科的切除が第一選択である1).一般的に発育は緩徐な低悪性度腫瘍とされ,10 mm以下の病変は局所切除の対象となっている.一方で腫瘍径が小さくても肝転移,リンパ節転移を来した症例も少なからず報告されている.また,リンパ節転移は傍直腸領域に多く,側方リンパ節へ転移することは少ない.今回,側方リンパ節(#263,#283lt)転移を認めた直腸NETに対して腹腔鏡下超低位前方切除術+左側方リンパ節郭清を施行した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

症例

症例:57歳,女性

主訴:排便時の違和感

既往歴・家族歴・生活歴:特記すべき事項なし.

現病歴:2013年8月上記主訴が出現し,近医にて大腸内視鏡を施行した.直腸Rbに径10 mm大の粘膜下腫瘍を認めた.同院にて内視鏡的粘膜切除術(以下,EMRと略記)を施行した.切除標本の病理組織学的検査所見にて直腸NET G1と診断され,追加切除目的に当院当科紹介受診となった.

初診時現症:身長160.1 cm,体重52.4 kg,BMI 20.5 kg/m2,腹部の理学的所見に特記すべき事項を認めなかった.

血液検査所見:特記すべき異常所見なし.CEA,CA19-9有意な上昇なし.

前医大腸内視鏡検査所見:歯状線より3 cmの直腸Rbに径10 mm大の隆起性病変があった.表面は黄色調で中心部に陥凹を伴う粘膜下腫瘍の形態を呈していた.切除標本の割面像では,内部は比較的均一であり,表面は正常粘膜上皮に覆われていた(Fig. 1).

Fig. 1 

(A) Colonoscopy reveals a 10 mm submucosal tumor at the Rb rectum 3 cm distant from the dentate line. (B) Macroscopic findings of resected specimen reveal a submucosal tumor with central depression on the top.

EMR切除標本の病理組織学的検査所見:粘膜下層を主座に,索状~リボン状,島状を呈して増生する異型細胞を認めた.免疫組織化学的には,synaptophysin(+),CD56(weakly+),chromogranin A(focal+),Ki-67(MIB-1)labeling index(以下,LIと略記)<1%.明らかな核分裂像は指摘できなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

Histological findings of resected specimen. (A) HE stain of the tumor shows neuroendocrine features such as ribbon, trabecular, and insular patterns. (B) Ki-67 staining reveals the labeling index is lower than 1%. (C, D) Positive staining of synaptophysin (C) and focal positive staining of chromogranin A (D) of the tumor.

腹部骨盤部CT所見:直腸には腫瘍性病変は腫瘤構造は指摘できなかった.左閉鎖孔領域に32×22 mm石灰化を伴うリンパ節腫大を認めたが,直腸周囲には明らかなリンパ節を認めなかった.その他肝転移,肺転移など遠隔転移を疑う所見は認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

Pelvic CT scan imaging. Lymph node swelling (32×22 mm) with calcification is found near the left obturator foramen.

骨盤部MRI所見:直腸周囲に有意なリンパ節腫大を認めなかった.左側の#263D,283リンパ節は長径31 mmに腫大していた.中心部はT1強調像,T2強調像ともに低信号を示していた.辺縁部はT2強調像で軽度高信号,拡散強調像で高信号を示し,造影効果を有していた.

FDG-PET所見:左内腸骨領域の腫大リンパ節はSUV max=3.4と高い集積を認めた.直腸周囲に集積増加を伴うリンパ節は認めなかった.

以上の所見より,直腸Rbに発生したNET G1,EMR後,左側方リンパ節転移と診断した.リンパ節郭清を伴う追加切除の方針とし,手術を施行した.

手術所見:腹腔鏡下超低位前方切除術(反転法),中枢方向D3郭清+左側方リンパ節郭清,diverting loop ileostomy造設術を施行した.吻合はdouble stapling techniqueにて行った.手術時間は7時間48分(うち左側方リンパ節郭清に要した時間は53分),出血量235 gであった.

切除標本肉眼所見:肛門側断端から7 mmの部位に5 mm大のEMR後の瘢痕を認めた(Fig. 4).

Fig. 4 

Macroscopic view of surgically resected speci­men. EMR scar is found at 7 mm distal of the anal edge of the specimen but no residual NET cell is found in the rectum.

切除標本病理組織学的検査所見:切除腸管にNET成分の遺残や,その他の悪性所見は認められなかった.

リンパ節病理組織学的検査所見:中枢側のリンパ節転移は認めなかった.左側方リンパ節#263.#283に,原発巣と同様の索状~リボン状,島状を呈して増生する異型細胞を認めた(Fig. 5).#283の転移リンパ節は32×28×25 mm大に腫大しており,著明な硝子化,石灰化,および脂肪髄を伴う骨化を認めた.免疫組織化学的には,synaptophysin(+),CD56(weakly+),chromogranin A(focal+),Ki-67(MIB-1)LIは1%未満であり,明らかな核分裂像は認めなかった.以上の所見より,NET G1の転移と診断された.

Fig. 5 

Pathological findings of the resected lateral pelvic lymph node. HE staining shows neuroendocrine tumor with ribbon, trabecular, and insular patterns similar to the primary rectal NET cells (A, B).

最終診断:直腸Rbに発生したNET G1(carcinoid),10 mm,ly0,v1,T1b,N3(#263,#283 lt),M0.大腸癌取扱い規約第8版に従いStage IIIbと診断した.

術後経過:術後の経過は良好で,第14病日に退院となった.術後3か月でileostomyを閉鎖した.術後1年6か月を経過した現在,再発所見を認めていない.

考察

NETは消化管腺窩基底部の内分泌細胞原基から発生すると考えられ,消化管では直腸に発生するものが最も多い1).近年の内視鏡検査の普及により,比較的小さい段階で発見されることが多く,10 mm以下で発見される頻度は60~90%と報告されている2)3).10 mm以下の直腸NETのリンパ節転移率は0.3~5.5%と低く3)4),EMRあるいは経肛門的な局所切除が選択されることが多いが,腫瘍径が10 mm以下でもリンパ節転移陽性例が少なからず報告されている.医学中央雑誌にて「直腸カルチノイド」,「リンパ節転移」をキーワードに1977年から2016年5月の期間で検索した結果,同時性リンパ節転移報告数は傍直腸領域,傍直腸領域から中枢方向への転移が26例,傍直腸領域から側方リンパ節転移例は3例5)~7),側方リンパ節転移単独例は本症例を含めて4例8)~10)のみであり,側方リンパ節転移は非常にまれであると考えられる(Table 1).

Table 1  Reported cases of rectal NET with only lateral pelvic lymph node metastases in Japan
No Author Year Age/Sex Origin Tumor size (mm) Central depression Depth Vessel invasion Metastasis lymph nodes Operation No recurrence
1 Yamada8) 2007 79/F Rb 8 mp ly0 283 lt Transsacral resection 30 months
v0 Metastatic lymph node dissection
2 Yamaguchi9) 2009 44/M Rb-P 16 + sm ly1 263D rt Intersphincteric resection 3 months
v0 prxD3+rt.lat
3 Ooi10) 2010 46/M Rb 12 + sm ly0 263 rt Super low anterior resection 48 months
v0 D3
4 Our case 57/F Rb 10 + sm ly0 263 lt Laparoscopic super low anterior resection 18 months
v1 283 lt prxD3+lt.lat

直腸NETの悪性所見を示唆する肉眼的所見は腫瘍径10 mm以上,中心陥凹あり,また,病理学的所見はKi-67 2%以上,核分裂像2/10 HPF以上,脈管侵襲陽性であると考えられている.岩淵ら11)による大腸NET切除標本における詳細な病理学的検討では,腫瘍径や深達度に加えて,核の異型性,多形性,核分裂像,脈管神経周囲浸潤像を悪性度の指標として重要視している.また,分子生物学的にはE-cadherinの発現低下が悪性化と相関することも報告されている12)

直腸NETの側方リンパ節単独転移に関する臨床病理学的特徴や危険因子については,症例数が少なく,これまで解析されたものはない.今回検討した4症例においては腫瘍径10 mm以下のものが2例,脈管侵襲陰性例が2例,中心陥凹を伴わないものも1例含まれており,これまで報告されている悪性所見を伴わないものが含まれている.傍直腸領域から中枢方向への転移例の中にも悪性所見を伴わない症例が報告されており13),直腸NETに対しては腫瘍径や肉眼的形態にかかわらず全例CTやMRIによる画像診断でリンパ節転移の有無を評価することが極めて重要と考えられる.治療はいずれもR0手術が施行されており,良好な経過が得られていることから,リンパ節転移が疑われる直腸NETの治療方針については,直腸癌に準じた側方リンパ節郭清を行うことが必要と考えられる.

一方,同じNETの中でも,内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma;以下,NECと略記)はKi-67指数が20%以上,または核分裂像数が20/10 HPF以上のものと定義され,特に悪性度,増殖能が高いといわれている.その組織発生起源としては,①通常の腺癌からの発生,②未分化な癌細胞を発生母地とし,そこからの腺癌とNECが分化したもの,③古典的カルチノイドからの発生,④非腫瘍性NECの腫瘍化の四つの経路が考えられているが,その中で通常の腺癌からの発生が最も多いとされ14),NET G1,G2とは起源が異なる可能性が考えられている.また,これまでの報告例をみると,NET G1,G2における側方リンパ節転移は,前述のごとく7例であるのに対し,NECにおける側方リンパ節転移例としては4例15)~18)であるが遠隔転移の報告は数多くあり,報告症例以外に多くの側方リンパ節転移を来している可能性はあるのではないかと推測される.NECに対する治療は,通常の腺癌よりも浸潤能が高く,遠隔転移率も高いため,手術単独での予後は期待できず,集学的治療が重要であるといわれている19).一方,NET G1で,肉眼的悪性所見を伴っていない症例に対しては,局所切除が選択される場合もあるが,自験例のようにリンパ節転移を来す症例もあることや,R0の手術後の予後が良好であることから,術前の画像診断を注意深く行い,リンパ節転移を疑う所見を認めた場合には,大腸癌に準じた郭清を行うことが重要であると考えられた.

自験例においては,術前CTにて転移リンパ節に石灰化が確認された.腸間膜カルチノイド腫瘍では石灰化が認められる場合が比較的多いとする報告もあるが,直腸NETにおける石灰化と転移との関連は不明である.小林ら20)は 直腸カルチノイド68例中2例(2.9%)に石灰化を認め,いずれも転移陽性であったことから,石灰化を伴うものは注意が必要である.

直腸NETの側方リンパ節転移に対し,腹腔鏡下で側方リンパ節郭清を施行した症例は,これまでに1例報告されているのみである6).直腸癌の側方リンパ節郭清に対する腹腔鏡下手術は,開腹手術では視野の確保が困難である狭骨盤症例でも比較的良好な視野と繊細な操作が可能であり,適応とする施設が増えてきている.今後直腸NET症例に対しても腹腔鏡下側方リンパ節郭清が普及してくるものと思われるが,安全性,優越性に関してはさらなる症例の蓄積による検討が必要である.

利益相反:なし

文献
 

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