日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
若年者に発生した肝原発カルチノイドの1例
松田 忠和李 正煜岩藤 浩典勝部 亮一船曳 定実上川 康明和仁 洋治
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2017 年 50 巻 8 号 p. 646-655

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Abstract

症例は16歳の女性で,腹痛と発熱を主訴として近医を受診した.CTにて肝臓にspace occupying lesionを指摘され精査のため入院となった.生化学検査CEA,AFP,PIVKA-IIは正常であった.上部下部内視鏡検査は異常を認めなかった.腹部超音波検査で肝S4/8に中肝静脈に接し直径6 cmの高低エコーの混在する辺縁不正の腫瘤を認めた.腹部CTでは,肝S4/8境界部に比較的境界明瞭で不均一な漸増型の造影効果を示し,洗い出しを認めた.MRIではCTと同様に,不均一な早期濃染を示し肝細胞相では低信号となり脂肪成分は指摘できなかった.血管造影では,血流豊富な早期濃染像を呈した.生検も考えたが腹腔内播種や出血が懸念され手術となった.手術では,S4/8境界でS4よりに表面に突出したやや軟の腫瘤を認め,肝S4+切除を行った.病理にて肝カルチノイドと診断され,4年を経過した現在も他臓器にカルチノイドの出現はなく原発性と診断した.

はじめに

カルチノイド腫瘍は原腸細胞由来の細胞に発生し消化管,肺気管支などが報告されているが,肝臓にみられるものは,ほとんどが転移性で肝原発のものは極めてまれである1)~4).今回,我々は術前診断が困難であったおそらく本邦最若年症例と思われる肝原発カルチノイドの1切除例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:16歳,女性

主訴:発熱,腹痛

既往歴:2011年春頃より不明熱を繰り返し,同7月扁桃腺炎が原因として摘出術を受けたが,その後も月1回程度の発熱を繰り返していた.

現病歴:2011年秋頃に40°Cの発熱,軽度の心窩部痛があり,解熱しないため当院を受診した.このとき行われた単純CTにて肝中央天頂部に6 cm大の腫瘤影を認め,精査加療のため入院となった.

入院時現症:身長160 cm,体重60 kgと軽度の肥満を認めた.表在リンパ節腫大なし.黄疸や貧血はなく,腹部全体に軽度の圧痛があるものの,筋性防御やBlumberg徴候は認めなかった.腹水,肝脾腫なし.呼吸機能検査は正常であった.

血液生化学的検査所見:白血球11,100/mm3(Neutrophil 89.5%),CRP 16.6 g/dlと炎症所見がある以外は血液生化学検査に異常は認めなかった.AFP 1 ng/ml,PIVKA-II 33 ng/ml,CEA 1.3 ng/ml,CA19-9 84 U/mlとCA19-9の軽度上昇を認めた.血中5-hydroxyindole acetic acid(以下,5-HIAAと略記)1.8 ng/dl,尿中5-HIAA 1.2 mg/lであった(Table 1).また,肝予備能はPT 80.8%,K-ICG値0.221,R15分値3.0%と良好であった.

Table 1  Laboratory data on admission
Result value Reference value
​AST 15 10–15​ IU/l
​ALT 11 7–42​ IU/l
​ALP 134 110–360​ IU/l
​γ-GTP 19 5–40​ IU/l
​LDH 201 120–240​ IU/l
​T-Bil 0.6 0.2–1.0​ mg/dl
​ALB 4.8 3.8–5.3​ mg/dl
​PT 80.8%
​HBV Ag 0 0–0.05​ IU/ml
​HCV Ab (—)
​CEA 1.3 0–6.7​ ng/ml
​AFP 1 0–10​ ng/ml
​PIVKA II 33 0–40​ mAU/ml
​CA19-9 84 0–37​ U/ml
​WBC 111 45–85×100​/μl
​CRP 16.6 0–0.4​ mg/dl
​5-HIAA 1.8 1.6–6.1​ ng/dl

Abnormal values are depicted in bold font.

腹部超音波検査所見:肝S4/8境界部,中肝静脈前方に60 mmの境界明瞭で辺縁凹凸不正で薄い被膜を持つ高エコー腫瘤を認めた.また,内部にcysticな部分も認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal US showed a hyperechoic lesion, about 60×55 mm in size, partially cystic and locally indented between 4 and 8 of the liver.

胸部CT所見:異常所見を認めなかった.

腹部CT所見:肝S4/8境界に動脈相では早期から内部が不均一に造影され,門脈相,後期相では,ほぼ全域がややcysticな欠損像を伴い濃染する6.0×6.0 cmの腫瘤影を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

CT scan findings. A: Abdominal CT scans showed a heterogeneously stained tumor 2 in the early arterial phase. B: The mass had similar staining in the late arterial phase. C: Early washout of the contrast medium was incomplete in the portal phase. D: The tumor stain was obscured in the equilibrium phase.

腹部MRI所見:CTと同様の位置にT1強調画像でlow intensity,T2強調画像でhigh intensity,gadolinium ethoxybenzyl diethylene triamine pentaacetic acid造影MRI(以下,Gd-EOB-DTPA造影MRIと略記)肝細胞相で境界明瞭なlow intensityな腫瘤影を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

MRI findings. A: T1-weighted image showed a hypointense tumor on segment 4/8 of the liver. B: T2-weighted image showed hyperintense signal at the same location. C: Enhanced MRI with Gd-EOB-DTPA enhancement showed a well-demarcated, lobulated hypointense tumor in the hepatobiliary phase.

FDG-PET所見:異常集積を認めなかった.

腹部血管造影検査所見:S4/8にA4とA8をFeederとする,比較的均一なhypervascularな腫瘤を認めた(Fig. 4).同時に行ったCT during hepatic arteriography(以下,CTHAと略記)で高度hypervascular,CT during arterial portography(CTAP)では辺縁明瞭凹凸不整な腫瘤影を認めた.また,APシャント,肝内転移を疑う結節は認めなかった(Fig. 4).

Fig. 4 

Angiography and related imaging modality. Angiography showed tumor stain and the feeders were A4 and A8 arteries. CTAP demonstrated a partially stained mass. CTHA demonstrated an enhanced indented tumor stain that was sharply demarcated.

上部下部消化管内視鏡検査所見:異常所見を認めなかった.

以上より,肝原発性疾患を疑い2011年12月混合型肝癌,胆管細胞癌,カルチノイド腫瘍などを念頭に手術を施行した.なお肝生検は腹腔内播種を懸念し行わなかった.

手術所見:Cantlie線前方に肝表に突出する弾性軟で表面比較的平滑暗赤色の腫瘤を認めた.まずS4のGlissonを処理,内側区域と外側区域の間において離断を頭側に行い中肝静脈根部を露出しS4の背側を切離,中肝静脈と腫瘤の間を剥離S8に切り込み右側に十分マージンを確保(2 cm)Hr1+で切除した.ただし,中肝静脈に接した部分はギリギリの剥離となった(Fig. 5).切除肝重量280 g,手術時間4時間,出血量300 mlであった.

Fig. 5 

Macroscopic findings of the resected specimen. Macroscopically, a cut section of the resected specimen showed a well-circumscribed, non-encapsulated, milky-white nodular lesion that had hemorrhagic foci and small cystic lesions.

切除標本所見:腫瘍径は6.0×4.5×4.5 cmで,正常肝との境界は比較的明瞭で,割面は乳白色で,内部に出血巣を伴い,出血巣の吸収後と思われる小囊胞を認めた.

病理組織学的検査所見:腫瘍径6.0×4.5×4.8 cmの線維被膜を有さない境界明瞭な腫瘤で,辺縁に娘結節を認めた.割面に粘液を入れた小囊胞が散見された.組織学的には,HE染色で淡好酸性立方状細胞が大きく囊胞状に拡張する部分や小さな腺腔を形成し篩状の胞巣を形成しながら増殖し,偽腺管構造,索状配列像がみられた.肝芽腫にみられるような間葉成分は認めなかった.核は類円形で,比較的均一であり,核分裂像もほとんどみられない(<1/50 high power fields)(Fig. 6A).Alcian blue PAS染色でごく一部小腺腔に粘液をうかがわせる像を認めた(Fig. 6B).鍍銀染色で,胞巣周囲の銀線維の繊細な配列がみられた(Fig. 6C).免疫染色検査では,CD34により,腫瘍胞巣間には線維血管間質が明らかとなった.腫瘍細胞にはcytokeratin 7がびまん性に陽性(Fig. 6D),CA19-9陽性でHepper1は一部陽性所見を認めたのみであった.CEA,AFP,glypican 3は全て陰性であった.Chromogranin Aは陰性であったが,synaptophysinは陽性(Fig. 6E),CD56は一部陽性(Fig. 6F)となり,神経内分泌細胞への分化が窺われる.また,MIB-1 indexは1%未満であった.以上から,well differentiated neuroendocrine tumor;NET,G1.と病理学的に診断された.

Fig. 6 

Histopathological and immunochemical findings (×100). A: Proliferation of normal sized monomorphic epithelial cells collected in strings and pseudo-glandular structures on HE staining. The cells were palely eosinophilic and tended to form alveolar and cribriform lesions without high-grade cell mitosis. B: A few of the glandular cavities were positive after Alcian blue PAS staining method. C: A rgyrophil fibers were found around the cancer nests (silver impregnation by Grimelius’ method). D: Almost all of the tumor cells positively stained for cytokeratin 7. E: A few tumor cells positively stained for CD56 antibody. F: Almost all of the tumor cells were positively stained for synaptophysin.

術後経過:術後は極めて順調で 第9病日に軽快退院し,外来にて経過観察中であるが,再燃再発は認めていない.

考察

1907年にObendorferにより命名された原腸由来の臓器から発生する腫瘍であるが,肝原発と考えられるカルチノイドは極めてまれで1958年にEdmondsonにより報告されて以来1997年のNational Cancer Instituteによる8,305例の報告では肝原発カルチノイドは14例(0.17%)あったという4)~6).また,国内でも1993年の曽我7)による国内2,504例のカルチノイド腫瘍の原発部位は,直腸25%,肺気管支20%,胃18%などで肝原発カルチノイドの記載はない.また,その発症年齢も2009年のLinら2)による肝カルチノイド94例の集計では平均年齢49.8歳で男女比は男性39例女性55例と中年女性に好発しておりAndreolaら8)の報告にある症例が最年少で19歳であった.国内でも2004年の藤田ら9)の肝カルチノイドの集計では30歳が最年少で,本症例が,16歳という国内最年少症例と考えられ,また,カルチノイドには若年発症と成人発症に文献上その特徴に差違は報告されておらず,術前診断が極めて困難であったものと思われた.1983年の松本ら10)の報告が国内の初報告であり9),医学中央雑誌(1983年~2015年)で「肝」,「原発」,「カルチノイド」をキーワードとして検索したところ(会議録を除く),現在まで肝原発性カルチノイドとしては43例が報告されているのみであった(Table 29)~48)

Table 2  Primary hepatic carcinoid tumors reported in Japan
Case Author Year Age Sex Immunological examination Other diagnostics Diagnosis
G CgA SYNAP CD56 NSE
1 Matsumoto10) 1983 54 F + EM resection
2 Sugaya11) 1989 54 F EM autopsy
3 Higaki12) 1991 30 F + EM resection
4 Hashizume13) 1991 34 F + + + EM autopsy
5 Miura14) 1992 69 F resection
6 Inoue15) 1993 43 F + + EM resection
7 Yano16) 1993 56 F + EM resection
8 Kakizaki17) 1993 75 M + + EM autopsy
9 Yasoshima18) 1993 69 F + + + resection
10 Ishii19) 1993 40 F + EM resection
11 Fujimori20) 1996 68 M + resection
12 Sato21) 1998 51 F + + resection
13 Fujino22) 1998 40 F + resection
14 Asakawa23) 1999 49 F + EM resection
15 Pilichowska24) 1999 66 M + + + resection
16 Pilichowska24) 1999 39 F + + + resection
17 Pilichowska24) 1999 47 F + + + resection
18 Hashimoto25) 1999 62 M EM resection
19 Hashimoto25) 1999 59 M + EM resection
20 Miura26) 1999 53 F + + resection
21 Hidaka27) 2000 61 M + biopsy
22 Miyazaki28) 2001 72 F + + autopsy
23 Ichikawa29) 2002 47 M + + resection
24 Kim30) 2002 53 F + resection
25 Miura31) 2002 53 F + + resection
26 Fujita9) 2004 53 F + resection
27 Tohyama32) 2005 57 F + SS autopsy
28 Takahashi33) 2005 37 M + + autopsy
29 Imai34) 2006 53 M + + + + resection
30 Kato35) 2006 53 M + resection
31 Seiya36) 2006 49 M + SS biopsy
32 Nagamura37) 2007 64 M + + biopsy
33 Nakamura38) 2008 55 M + + + + resection
34 Kohara39) 2008 69 F + resection
35 Nakakimura40) 2009 71 F + + resection
36 Matsunaga41) 2010 40* M + + + + resection
37 Mima42) 2011 49 F + + resection
38 Yoshida43) 2013 38 F + + SS resection
39 Maruno44) 2013 65 M + + + resection
40 Ookusa45) 2013 49 M + + biopsy
41 Okumura46) 2014 80* M + resection
42 Kimura47) 2014 57 F + + resection
43 Sakae48) 2015 40 F + + resection
44 Our case 16 F + + + resection

Age*: according to decade. G: grimelius, CgA: chromogranin A, SYNAP: synaptophysin, NSE: neuron-specific enolase, EM: electron microscope, SS: signs and symptoms of carcinoid syndrome.

カルチノイド腫瘍は,原腸系臓器に散在するKulchitsky細胞が腫瘍化したものである.このため内分泌腫瘍としての症状を呈するといわれるがLinら2)の報告では腹痛(44%),カルチノイド症候群(16.7%),腹部腫瘤(14.3%)と必ずしも高頻度に内分泌腫瘍としての臨床症状が多いわけではない.本症例もカルチノイド症候群を思わせる臨床症状は認めなかった.

カルチノイド腫瘍の診断には,カルチノイド症候群を呈さないものでは画像診断が重要となる.腹部超音波検査では比較的均一な,高エコーの内部にのう胞状の低エコー部を認める腫瘤として描出されることが多く9)16),本症例も同様な所見であった.また,CTでは内部は造影早期相で不均一な造影効果を認める辺縁明瞭な腫瘤影を呈するものが多い2)3)9)49).MRIではT1強調像で低信号,T2強調像では内部が一部高信号のある不整形の腫瘤として描出され,Gd-EOB-DTPA造影MRIでも造影CTと同様な所見がみられた.また,血管造影像では比較的均一に造影される血管に富んだ腫瘤として造影され,CTHAでもでは極めてhypervascularな腫瘤として造影された.また,FDG-PETでは検出率があまり高くなく50),本症例でも診断的意義は認められなかった.

以上のごとく,本症例ではカルチノイド腫瘍に合致した所見が多く認められたが年齢や疾患の希少性から,画像のみで断定は困難であった.鑑別診断としては年齢を鑑みて,発熱が当初あったため肝膿瘍や,腫瘍病変としてはfibrolameller hepatocellular carcinoma(HCC)や多臓器原発の転移病巣などが考えられた.このためまとまった組織が得られるならば生検が最も有効な診断法であるが,本症例は年齢が若く,血流豊富な腫瘤であることから腹膜播種,出血などの合併症が懸念され施行しなかった.

カルチノイドは,HE染色において,通常の悪性腫瘍に比較し,類円形核を有し,リボン状,索状,ロゼット形成といった特徴的な細胞配列を示す.本症例においても同様であった.また,本症例のようにGrimelius染色で染まるものが多い.診断には免疫組織化学染色検査が必要で,chromogranin A,synaptophysin,CD56の発現が知られている46).本症例ではchromogranin Aは陰性であったが,腫瘍細胞内の内分泌顆粒の多寡によってchromogranin Aが陰性になった可能性を想定している.さらに,本症例はcytokeratin7,CA19-9でも染色され胆管への分化傾向も疑われたが,鍍銀染色,HEでの細胞配列,その他の免疫染色検査の結果から神経内分泌細胞への分化傾向は否定しがたく,肝原発カルチノイドと最終診断された.

治療法については肝原発のカルチノイドであれば外科切除が推奨され,Modlinら5)によれば5年生存率は74%,再発率は18%,切除率85%以上で,またKnoxら51)によれば10年生存率68%で比較的良好な予後が得られており積極的切除が望ましいと考えられた.切除術式の選択では,年齢が若く,肝予備能は良好で拡大葉切除も考慮したが,単発,境界明瞭で術中,中肝静脈との剥離が容易でS4を主体としたHr1+切除で根治可能と考え,可及的に非腫瘍部を温存した.

今井ら34)によれば原発性肝カルチノイドと診断するには,肝臓以外にカルチノイド病変がなく,さらに少なくとも術後3年は他臓器にカルチノイド病変の出現がないことを確認する必要があると指摘しており,これがそのまま肝原発カルチノイドと肝転移性カルチノイドの鑑別点になると思われる.本症例は術後4年超を経過し再発は確認されていないため肝原発カルチノイドと判断したが,今後も定期的に厳重な経過観察を行っていく予定である.

利益相反:なし

文献
 

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