日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
膵・胆管合流異常に合併した共通管内乳頭状腫瘍の1例
幕谷 悠介松本 逸平大本 俊介筑後 孝章川口 晃平松本 正孝村瀬 貴昭亀井 敬子里井 俊平中居 卓也竹中 完工藤 正俊竹山 宜典
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2018 年 51 巻 2 号 p. 114-121

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Abstract

膵・胆管合流異常に合併した共通管内乳頭状腫瘍の1例を報告する.症例は75歳の男性で,6か月間に2度の急性膵炎を発症し保存的加療で軽快した.急性膵炎の原因精査および加療目的で当院へ紹介となった.ERCPでは膵・胆管合流異常を認め,共通管内に7 mmの結節様陰影欠損像を認めた.上部内視鏡検査では乳頭部からの粘液排出は認めず,超音波内視鏡検査では共通管内に乳頭状の腫瘍が描出された.造影CTでは膵頭部に拡張した共通管と内部に増強効果を持つ8 mmの腫瘤を認めた.尾側の主膵管の拡張は認めなかった.膵・胆管合流異常に合併した共通管内乳頭状腫瘍と診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理肉眼所見では共通管内に発育する有茎性の乳頭状腫瘍で,組織像は管状構造増生を主体とする腺腫であった.免疫組織学的染色ではMUC1,MUC2陰性,MUC5AC陽性で胃型腺腫と最終診断した.

はじめに

膵・胆管合流異常は解剖学的に膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天性の形成異常と定義されている1).膵液の胆道系への逆流による慢性炎症に伴う粘膜上皮障害と修復が繰り返され,高率に胆道癌を発症する2)3)

一方,胆管内腔に乳頭状増殖を示す胆管上皮性腫瘍である胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasm of the bile duct;以下,IPNBと略記)は,胆道癌の前癌病変および早期癌病変として位置付けられている4)

しかし,膵・胆管合流異常に合併したIPNBの報告例は検索しえた範囲では認めなかった.

今回,膵・胆管合流異常の共通管内に乳頭状発育を呈した極めてまれな1例を経験したので報告する.

症例

患者:75歳,男性

主訴:上腹部痛

現病歴:2015年8月,突然の上腹部痛を自覚し,前医を受診した.急性膵炎と診断され保存的治療で軽快した.2か月後に急性膵炎の再燃を認めたため,急性膵炎の原因検索が行われた.膵・胆管合流異常および共通管内に腫瘤性病変を指摘され,精査加療目的で当院へ紹介となった.

既往歴:15歳時に急性虫垂炎に対し手術加療を受けた.30歳時に十二指腸潰瘍に対し保存的加療を受けた.

入院時身体所見:身長169.4 cm,体重54.2 kg,体温36.5°C,血圧135/86 mmHg,脈拍78回/分,腹部は平坦,軟で圧痛はなかった.

初診時血液生化学検査所見:炎症反応の上昇を認めず,AMY 103 IU/lと膵酵素およびT-Bil 0.9 mg/dl,AST 20 IU/l,ALT 14 IU/l,ALP 258 IU/lと肝胆道系酵素にも異常所見は認めなかった.CEA 1.8 ng/ml,CA19-9 12 U/ml,SPAN-1 9.2 U/ml,DUPAN-2<25 U/mlであり,腫瘍マーカーも基準値内であった.

造影CT所見:膵頭部に拡張した共通管が10 mm大に囊胞様に描出された.共通管内に早期相より造影される8.0×6.0 mm大の腫瘤性病変を認めた(Fig. 1A, B).肝外胆管は軽度拡張を認めたが,主膵管の拡張は認めなかった.

Fig. 1 

Contrast enhanced CT. A: axial images, B: a coronal image. Contrast enhanced CT shows an 8.0×6.0 mm tumor in a dilated common channel 10 mm in diameter (white arrows) which was enhanced at the early stage of the arterial phase.

MRI/MRCP所見:MRIでは,腫瘤性病変はT1強調画像でやや高信号,T2強調画像では低信号,T1脂肪抑制画像で低信号を呈した.MRCPでは総胆管は軽度拡張を認め,囊胞状に拡張した共通管を有する膵・胆管合流異常が疑われた.共通管内に腫瘤性病変による陰影欠損像を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

MRCP. MRCP demonstrates a pan­creaticobiliary maljunction with a dilated common channel. A filling defect can be seen in the common channel (white arrow).

超音波内視鏡検査所見:共通管内に乳頭状に発育する7.9×7.5 mmの結節病変を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

Endoscopic US. Endoscopic US shows a 7.9×7.5 mm pedunculated papillary tumor (white arrow) in the common channel (white arrowheads).

上部消化管内視鏡検査所見:乳頭の形態は正常で,粘液の排出は認めなかった.

ERCP所見:囊胞状に拡張した共通管を介し,総胆管および主膵管が造影され,膵・胆管合流異常と診断した(Fig. 4A).共通管内に腫瘤性病変による陰影欠損像を認めた(Fig. 4B).採取した胆汁中のアミラーゼ値は53,562 IU/lであった.共通管内の擦過細胞診を施行したが,悪性所見はなかった.後日実施したENBDチューブからの造影では,主膵管が造影され,共通管内に腫瘤性病変による陰影欠損像を認めた(Fig. 4C).

Fig. 4 

ERCP. A: ERCP shows a pancreaticobiliary maljunction (white arrow). B: An irregular-shaped filling defect in a dilated common channel can be seen (white arrow). C: Cholangiography via an endoscopic nasobiliary drainage tube shows the reflux of the contrast medium to the main pancreatic duct. The filling defect in the dilated common channel can be seen (white arrow).

以上の所見から,膵・胆管合流異常と共通管内の乳頭状腫瘍と診断し,手術を行った.

手術所見:腹水,腹膜播種,肝転移は認めなかった.急性膵炎の既往があったが,腹腔内の癒着は比較的軽度で,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.手術時間は3時間31分,出血量は628 mlであった.

標本造影所見:膵切離断端からの標本造影では,囊胞状拡張した共通管内に7 mm大の乳頭状腫瘤による陰影欠損像を認めた(Fig. 5).

Fig. 5 

Pancreatography of the resected specimen. Pancreatography of the resected specimen via the main pancreatic duct of the pancreatic stump shows a 7-mm filling defect in a dilated common channel (white arrow).

摘出標本肉眼所見:共通管内に有茎性の8 mmの乳頭状腫瘍を認めた(Fig. 6A, B).

Fig. 6 

A, B: Macroscopic findings of the resected specimen. A pedunculated papillary tumor 8-mm in diameter in the common channel can be seen (red arrows; common bile duct and common channel, blue circles; main pancreatic duct).

病理組織学的検査所見:線維性芯を有する腫瘍であったが,組織学的には乳頭状増生より腺管状増生が主体であった.類円形核と好酸性で粘液産生を伴う胞体からなる円柱状の異型細胞が増生し,核は基底側に配列し,異型は軽度であった(Fig. 7A~C).核分裂像はほとんど認めず,MIB-1 indexは10~20%であった.免疫組織学的染色検査では,CK7(+),CK20(一部で+),cyclinD1(−),p16(+)であった.粘液染色検査ではMUC1(−),MUC2(−),MUC5AC(+),MUC6(+)であった(Fig. 8).以上より,膵・胆管合流異常の共通管内に発症した胃型腺腫と最終診断した.

Fig. 7 

Microscopic findings. A: A pedunculated papillary tumor with fine fibrovascular core in the common channel (HE ×40). B: The tumor is predominantly tubular in growth rather than papillary (HE ×200). C: The tumor is diagnosed as intraductal papillary adenoma of the common channel (HE ×800).

Fig. 8 

Immunohistochemical findings. Immunohistochemical findings are negative for MUC1 and MUC2 and positive for MUC5AC and MUC6.

術後経過:経過は良好で,術後病日19日で退院した.術後12か月無再発生存中である.

考察

繰り返す急性膵炎で発症した,膵・胆管合流異常に合併した共通管内乳頭状腫瘍の1例を経験した.膵・胆管合流異常では急性膵炎を高率に合併するが,日本膵・胆管合流異常研究会の登録症例の検討では,その頻度は小児では約28~43.6%であるのに対し,成人では約9%と報告されている5).発生要因として,共通管の拡張,膵管の拡張,膵頭部膵管の複雑な走行異常,蛋白栓などが指摘されている6).本例は,過去に急性膵炎の既往がなく,高齢での急性膵炎発症であったことより,拡張した共通管内の腫瘍増大による,膵液の鬱滞や流出障害が要因であると推察された.合併する急性膵炎は一過性のものや,軽症で再発性のものが多く,画像検査で膵腫大や,膵周囲への炎症の波及は見られないことが多いとされている7).本例でも,開腹時の所見では,腹腔内の癒着は比較的軽度であり,通常通り亜全胃温存膵頭十二指腸切除術が施行可能で,術後合併症なく経過した.

膵・胆管合流異常は胆道癌を高率に合併することが報告されている3).成人における胆道癌合併頻度は,先天性胆道拡張症では21.6%,胆管非拡張型膵胆管合流異常では42.4%と非常に高率で,局在の割合は先天性胆道拡張症では胆囊癌62.3%,胆管癌32.1%で,胆管非拡張型膵胆管合流異常では胆囊癌88.1%,胆管癌7.3%である8).膵・胆管合流異常における胆道癌の発癌メカニズムは,膵液の胆道系への逆流による慢性炎症を基盤にするhyperplasia-dysplasia-carcinoma sequenceとされ,通常の胆道癌のadenoma-carcinoma-sequenceやde novo発癌と異なると考えられている9)10).また,膵・胆管合流異常では,膵液逆流に起因する慢性炎症により胆道上皮の変性と脱落,引き続く上皮の再生と増殖が招来され,この繰り返しの過程で,過形成を主体とする粘膜上皮の変性やK-ras,p53などの遺伝子異常などが生じ,発癌に至ると報告されている11)

本例の腫瘍は共通管に発生していたが,膵・胆管の合流形態から本例における共通管について考察を行った.膵・胆管合流異常の型分類はさまざま報告されているが,本例は旧古味分類12)ではb型,すなわち胆道拡張は伴わないか,拡張が軽度で紡錘型や円筒型を呈し,胆管と膵管の合流角度が鋭角の型に分類される.さらに,共通管拡張の有無を取り入れた新古味分類13)ではType IIbと分類される.旧古味分類b型は総胆管に主膵管が合流したように見える型とほぼ相当するとされるが,本例では画像上,いわゆる膵管合流型か胆管合流型かの判断は困難であった.松本ら14)は造影上,膵管が胆管に合流しているように見える合流異常形態でも共通の導管は膵管であった症例を報告している.本例では,共通管上皮は標本固定の過程で脱落しており,病理学的に検討することはできなかった.また,膵・胆管合流異常は腹側膵管と胆管の発生異常が原因と考えられており,囊胞状拡張などで見られる胆管末端狭小部は腹側膵管由来で,左腹側膵管の遺残あるいは腹側膵管の分枝で,本来存在すべき総胆管末端部が消失した結果,胆管が左腹側膵管あるいは腹側膵管分枝と交通したものとされている14)~16).一方,右腹側膵管が消失した場合,あまり胆管拡張のない膵・胆管合流異常が発生する.共通管に関しては前者では膵管,後者では胆管となり,本例では総胆管末端部に明らかな狭窄部がないこと,胆管拡張が軽度であることから,胆管である可能性が高いのではないかと考える.

胆管内腔に乳頭状増殖を示す胆管上皮性腫瘍であるIPNBは,胆道癌の前癌病変および早期癌病変として位置付けられている.「膵・胆管合流異常」と「IPNBまたは胆管内乳頭状腫瘍」をキーワードとして,1970年から2016年12月までの医学中央雑誌で検索したところ,膵・胆管合流異常とIPNBとの合併例の論文報告は認めなかった.膵・胆管合流異常は高率に胆道癌を合併するにもかかわらず,胆道癌の前癌病変および早期癌病変として位置付けられているIPNBの合併例を認めなかった要因として,IPNBが比較的新しい疾患概念であることや発癌のメカニズムに相違があることなどが推察されるが,現時点では不明である.

一方,膵・胆管合流異常の共通管に発生した膵管内乳頭粘液性腫瘍は2例報告されている.本多ら17)の報告では,下部胆管内から乳頭,および主膵管内へと進展する4.5 cmの乳頭状腫瘍に対し遠位胆管癌の診断で手術を行い,切除後標本の検索で拡張した共通管を伴う合流異常と診断している.腫瘍の主座が共通管から主膵管であったことにより,膵管内乳頭粘液性腺癌(intraductal papillary mucinous carcinoma;以下,IPMCと略記)と診断している.新倉ら18)は切除後の標本造影を行い,共通管から膵管分枝が造影されたことによりIPMCと診断している.本例でもERCPに加え,標本造影を行ったが,共通管から分枝膵管は描出されなかった.

本例における腫瘍は,肉眼的に有茎の乳頭状腫瘍であり,組織学的に線維性血管芯を有しておりIPNBと類似していた.しかし,腫瘍増生の形態は,乳頭状増生より腺管状増生が主体で,異型は軽度であり,IPNBとは異なる特徴を有していた.また,肉眼的には粘液産生を認めなかったが,組織学的には粘液産生を認め,粘液形質の免疫組織学的染色検査では,MUC1陰性,MUC2陰性,MUC5AC陽性,MUC6陽性であり,最終的に胃型腺腫と診断した.IPNBは組織学的には線維性芯を有する胆管内乳頭状増生を特徴とする.IPNBは腺腫,上皮内癌,浸潤癌へと多段階発癌を示すが,腺癌が多くその頻度は63%と報告されている19).また,44%の症例に胆管内粘液産生を認め,亜型としては腸型(39%),膵胆管型(36%)が多く,胃型は17%と少ない19).本例では腺管状増生が主体であること,胃型腺腫であることは,典型的なIPNBと合致しない所見であった.

膵・胆管合流異常の共通管内に発生した乳頭状腫瘍の極めてまれな症例を経験した.今後の症例集積により,膵・胆管合流異常に合併する胆道癌の前癌病変とIPNBの関係が明らかになることを期待したい.

本論文の要旨は第78回日本臨床外科学会総会(2016年11月,品川)で発表した.

利益相反:なし

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