日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
症例報告
HNF1α不活化型肝細胞腺腫の1例
山下 信吾有泉 俊一小寺 由人高橋 豊大森 亜紀子片桐 聡江川 裕人山本 雅一中野 雅行
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 51 巻 6 号 p. 415-422

詳細
Abstract

症例は33歳の男性で,既往歴はなく,肝炎ウイルスマーカーは陰性であった.人間ドックのPETにて肝S4に高度集積(SUV max of 10.4)を認めた.血液生化学検査では,異常値は認めなかった.USでは,肝S4に径4 cm,境界が明瞭な淡いhyperechoic lesionを認めた.単純CTでは低吸収であり,動脈相で等吸収,門脈相で低吸収,遅延相で低吸収であった.EOB-MRIでは,肝細胞造影相で境界明瞭な低信号,T1脂肪抑制で低信号であり脂肪成分を含む腫瘍が考えられた.初回診断時より5か月後,悪性腫瘍が否定できないため,肝部分切除を施行した.肉眼所見では,割面は弾性軟で,黄色を呈した充実性の境界明瞭な腫瘍であった.病理診断は肝細胞腺腫(hepatocellular adenoma;以下,HCAと略記)で,免疫組織学的にHNF1α不活化型と診断した.PETで高集積となるHCAは,極めてまれであるので報告する.

はじめに

肝細胞腺腫(hepatocellular adenoma;以下,HCAと略記)は,肝細胞由来の上皮性,良性肝腫瘍である1)~4).近年,HCAの研究が進み,新しい診断方法と亜型が確立した.HCAは亜型ごとに遺伝子表現型が異なるだけではなく,臨床像や画像所見にも特徴がある1)~4).今回,HNF1α不活化型 HCAの1例を経験した.画像所見や病理組織像に異なる特徴があり,貴重な症例と思われ報告する.

症例

症例:33歳,男性

人間ドックの18F-FDG-PETで高集積(Fig. 1)する肝腫瘍を指摘され当院に紹介された.既往歴に,十二指腸潰瘍がある.内服歴はない.飲酒歴は2,3回/週であった.血液生化学検査では,特記すべき異常所見はなく肝機能は正常,肝炎ウイルスマーカーは陰性であった.腫瘍マーカーAFP,PIVKA-IIは正常であった(Table 1).腹部超音波検査では,4 cmの内部均一な高エコー腫瘍を肝S4領域に認めた(Fig. 2).単純CTでは低吸収であり,動脈相で等吸収,門脈相で低吸収,遅延相で低吸収であった(Fig. 3).EOB造影MRIでは,肝細胞造影相で境界明瞭な低信号,T2強調像で等信号,T1 in phaseで高信号,T1 out of phaseで低信号,T1脂肪抑制で低信号であり脂肪成分を含む腫瘍が考えられた(Fig. 4).ダイナミックスタディは嘔吐のため撮像困難であった.脂肪成分を含み動脈優位相で乏血性の肝腫瘍のため,脂肪成分の多い肝血管筋脂肪腫,脂肪化のある肝細胞癌hepatocellular carcinoma(以下,HCCと略記)が鑑別診断にあがった.FDG-PETで高集積(Fig. 1)であり,悪性腫瘍(HCC)が否定できず肝切除を行った.

Table 1  Laboratory data on admission
​TP 7.5​ g/dl ​WBC 4,760​/μl
​Alb 5.1​ g/dl ​Hb 15.7​ g/dl
​T-bil 0.5​ mg/dl ​Ht 47​%
​D-bil <0.1​ mg/dl ​Plt 25.4​×104/μl
​AST 17​ IU/l ​PT% >100​%
​ALT 16​ IU/l ​ICG15R 4​%
​LDH 175​ IU/l
​ChE 456​ IU/l ​HCV Ab
​ALP 228​ IU/l ​HBS Ag
​γ-GTP 14​ IU/l ​HBS Ab
​Cr 0.7​ mg/dl ​AFP 2​ ng/ml
​CRP <0.04​ mg/dl ​PIVKA 24​ mAU/ml
​HbA1c 5.5​ ​CEA 3.3​ ng/ml
Fig. 1 

FDG-PET-CT shows a hot spot lesion (SUV max: 10.4) in segment 4 of the liver.

Fig. 2 

US shows a hyperechoic tumor 4 cm in diameter.

Fig. 3 

CT shows a low density tumor in the liver. The tumor was not enhanced in the arterial phase, and shows low density in portal and delay phases. A: plain CT. B: early phase. C: portal phase. D: late phase.

Fig. 4 

EOB-MRI shows a low intensity in the hepatobiliary phase. This tumor shows a high intensity in the T1-weighted in phase, a low intensity in the T1-weighted out of phase, and a low intensity in T1-weighted fat suppression. A: T1WI in phase. B: T1WI out of phase. C: T1 WI MRI fat saturation. D: T2 WI. E: EOB 15 min.

開腹所見では,胆囊の脇の肝表からわずかに突出する腫瘤を認めた.腫瘍は弾性軟,やや明るい褐色を呈していた.非腫瘍肝実質は,弾性軟,赤色であり,正常肝であった.手術は,肝部分切除(S4一区画切除)を施行した(手術時間200分,出血量412 ml)(Fig. 5).術後7日で合併症なく退院した.

Fig. 5 

The tumor was located on the liver surface in segment 4 (A). We performed number 4 segmentectomy (B).

切除標本肉眼所見,病理組織学的検査所見:肉眼所見は,4 cmの境界明瞭で被膜のない軟らかい腫瘍であった.内部は黄色の脂肪様成分を多く含む腫瘍であった(Fig. 6).組織学的には脂肪化を伴った異型のない肝細胞が索状に配列していた.内部に既存の門脈域はないが所々に門脈と肝動脈が残存していた.肝細胞に異型はなくGlypican 3陰性であるため,HCAと診断した.亜型については,liver fatty acid binding protein(以下,LFABPと略記)が非腫瘍部は陽性だが腫瘍部は陰性であった.その他のβカテニン染色陰性,glutamine synthetase(以下,GSと略記)染色陰性,CRP染色陰性,serum amyloid A染色陰性であり,HNF1α不活化型と診断した(Fig. 7).さらに,PAS染色と消化PAS染色は,腫瘍内は豊富なグリコーゲンを認めた(Fig. 7).周囲肝組織には軽度の脂肪沈着を認めた.本症例は術後3年現在,無再発生存中である.

Fig. 6 

Macroscopic findings show a yellowish tumor.

Fig. 7 

Microscopic findings show hepatocytes with steatotic changes (A, B). The tumor does not stain for L-FABP (C). The tumor shows glycogen-rich cells (red) for PAS and digestion-PAS stains (D).

考察

HCA は,正常肝に発生する肝細胞由来の良性腫瘍であり,本邦ではこれまでに約100例の報告がある1)~5).20~40歳代の女性に好発し,経口避妊薬,蛋白同化ホルモン,糖原病との関連が報告されている1)~4).腫瘍出血や破裂の合併が約20~25%あり,HCCの合併も約4~8%と報告されている1)4)6)~8).CTやMRIの動脈優位相で高吸収(多血性)となるために9),限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia;以下,FNHと略記)やHCCと類似し,病理組織像も類似しているため鑑別が困難なことも多かった.

近年,HCAの研究が進み新しい診断方法や亜型の存在が示された.HCAは,遺伝子・表現型により四つの亜型に分類される.HNF1α不活化型は,免疫染色LFABPが欠損しているもの(非腫瘍部では陽性だが腫瘍部が陰性なもの),β-catenin 活性化型 は,GSがび漫性に陽性でβ-cateninが核内に陽性となるもの,炎症型は,serum amyloid AまたはCRP染色が陽性なもの,分類不能型はいずれにも該当しないものである.この新しい診断方法は,FNHとの鑑別を明確にしただけではなく,亜型ごとの臨床像や病理組織像にも特徴があることが判明した1).最も頻度が高いのは炎症型であり,臨床上問題となる腫瘍出血や破裂が多い4)10).β-catenin活性化型は,頻度は少ないがHCC合併が多い.HNF1α不活化型は,HCC合併は少なく,組織学的に著明な脂肪沈着のあることが特徴と報告されている1)4).画像所見は,いずれの亜型も動脈優位相で腫瘍内部が高吸収となるが,HNF1α不活化型では脂肪沈着のためMRI T1強調像でsignal drop-off像が報告されている1)4).本症例は,腹部エコーとMRI T1強調像の脂肪抑制像から腫瘍内部に脂肪沈着があることが推測され,実際に組織所見で著明な脂肪沈着を認めた.肝細胞腺腫の治療方針についてNaultら11)は,性別,経口避妊薬内服歴,腫瘍径,MRI所見に着目している.経口避妊薬内服中の女性で,画像所見が典型的な直径5 cm未満のHNF1α不活性型の場合,経過観察が可能としている.しかしながら,男性,HNF1α不活性型以外または,5 cm以上のHCAについては,切除を含めた治療の必要性を報告している.また,経口避妊薬の中止により,腫瘍径の縮小,消失12),腫瘍の増大,悪化を認めなかったという報告もある13)14)

FDG-PETは,悪性腫瘍の診断にすぐれ,細胞内におけるグリコーゲンの取り込み(SUVmax)を測定することで,良・悪性の鑑別診断に用いられる15)~18).Delbeke ら15)は,悪性肝腫瘍のSUVmax(7.8±4.5)は,良性肝腫瘍(2.0±1.7,P<0.001)より有意に高値であることを報告している.PubMedで,新たなWHO基準が発表された2010年から2016年12月の範囲にて,「hepatocellular adenoma」,「PET」をキーワードにて検索した結果,これまでにFDG-PETが高集積となるHCAが6例報告されており,本症例が7例目であった(Table 2).いずれもSUVmaxが5以上と高かった.7例中5例は脂肪沈着があり,4例はHNF1α不活化型であった19)~24).グリコーゲンを多く含むHCAについての報告もあり25)本症例も豊富なグリコーゲンを認めた.何故,HCAでFDG-PETが集積するのかは不明であるが,豊富なグリコーゲンを含むHCAがFDG-PETの高集積と関連があると思われた.今回,HNF1α不活化型HCAの1例を経験した.画像所見に異なる特徴があり貴重な症例と思われ報告した.

Table 2  Seven cases of hepatocellular adenoma with uptake of 18FDG by a hepatic adenoma on PET (2010–)
No Author Year Age Sex Tumor number Size (mm) Vascularity PET-SUV max Pathology HCC HCA classification Therapy
Fat
1 Buc19) 2010 65 F multiple 30 hyper positive + HNF1α resection
2 Stephenson20) 2011 34 F multiple 20–30 hypo 3.9 No data No data biopsy
3 Sanli21) 2012 52 F multiple No data hypo 4.1–9.8 No data No data resection
4 Sumiyoshi22) 2012 37 F single 33 hypo 5 + HNF1α resection
5 Fosse23) 2013 44 F single 30 hyper 6.2 + No data resection
6 Lim24) 2013 44 F single 23 hypo 7.9 + HNF1α resection
7 Our case 34 M single 30 hypo 10.4 + HNF1α resection

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top