日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
編集後記
編集後記
竹内 裕也
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 52 巻 9 号 p. en9-

詳細

ある日同僚に,「術後合併症をゼロにするにはどうしたらよいか?」と聞かれたことがあります.私は答えに詰まり,考え込んでしまいました.すると彼は驚くべき回答をしました.「手術をしないことである」.

たしかにそれは正しい.手術をする以上は術後合併症をゼロにすることはできない.一方で己の手で患者さんを救う仕事は外科医にしかできないものです.ならば,術後合併症一例一例から学び,合併症を少なくする工夫や予測する工夫,早く見つける工夫をすべきであると気づかされたのです.

今回,第52巻9号に掲載された原著論文「術前CT画像で測定した予定残膵/脾臓CT値比による膵体尾部切除術後膵液漏発生の予測」は,術前CTによる残膵/脾臓CT値比が膵体尾部切除後の膵液漏発生予測に有用である,という術後合併症に関する大変興味深い論文です.切除標本の組織学的検討も含め,「残膵のCT値が正常に近く膵外分泌能の高い症例が,膵液漏のハイリスク症例になる」という事象を明らかにしています.単施設の後ろ向き検討でありますし,膵臓外科医には当たり前に思うことかもしれませんが,これをCTという簡便な検査で予測できることを証明したという点では秀逸といえます.

このような「術後合併症学」の出発点となるClinical Question (CQ)は,消化器外科のどの領域にもあるはずです.普段何気なくみている採血結果や画像所見,患者さんの身体所見にヒントは隠れています.このCQに気づくことができれば,今まで何となく外科医が直感として感じていたことを科学的に証明できるのです.和文,英文どちらでもかまいません.論文にすることで,過去から未来に連綿とつながるサイエンスという道のマイルストーンになるのです(できれば本誌に投稿お願いします).

術後合併症学,ぜひお勧めいたします.

 

(竹内 裕也)

2019年9月1日

 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top