日本消化器外科学会雑誌
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52 巻, 9 号
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原著
  • 盛 直生, 櫻井 直樹, 飯澤 肇
    原稿種別: 原著
    2019 年 52 巻 9 号 p. 485-493
    発行日: 2019/09/01
    公開日: 2019/09/27
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    目的:術前CT解析における予定残膵/脾臓CT値比(以下,予定残膵P/S比と略記)が膵体尾部切除術(distal pancreatectomy;以下,DPと略記)後の膵液漏(pancreatic fistula;以下,PFと略記)発生を予測しうるかどうかを検討する.方法:2007~2017年に当科でDPを施行した52症例について,術前因子を年齢,性別,術前アルブミン値,prognostic nutritional index(PNI),糖尿病の有無,body mass index(BMI)に加えて,術前CT画像で測定した,内臓脂肪面積,皮下脂肪面積,腹部縦径,切離線における膵臓の厚さ,予定残膵におけるCT値(以下,予定残膵CT値と略記),予定残膵P/S比とし,術中因子を出血量,手術時間,術中輸血の有無,膵断端の処理法と定義し,術後のPFの発生(Clavien-Dindo分類II度以上)にかかわる因子について後方視的に検討した.結果:術後PFの発生は52例中14例(26.9%)に認め,術後在院日数中央値は19日(9~71日)であった.単変量解析では,PFの発生は,年齢が低い(P=0.006),残膵CT値が高値(P=0.0313),予定残膵P/S比が高値(P=0.0187)において有意に多かった.病理学的な検討でも,切除断端における膵臓の脂肪化と,残膵CT値および予定残膵P/S比には有意な関連がみられた.結語:予定残膵P/S比の測定は,DP後のPF発生を予測しうる可能性がある.

  • 田中 侑哉, 磯邉 太郎, 藤田 文彦, 主藤 朝也, 加来 秀彰, 南 泰山, 村上 直孝, 青柳 慶史朗, 赤木 由人
    原稿種別: 原著
    2019 年 52 巻 9 号 p. 494-503
    発行日: 2019/09/01
    公開日: 2019/09/27
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    目的:胃上部早期癌に対する噴門側胃切除(proximal gastrectomy;以下,PGと略記)は,術後の逆流やそれに続く体重減少,QOLの低下が問題であり,胃全摘術(total gastrectomy;以下,TGと略記)との選択はいまだに見解が分かれる.PG後の観音開き再建法(double-flap technique;以下,DFTと略記)は術後逆流や縫合不全が低率であることが期待されており,TGと比較し有用性を検討した.方法:2014年1月~2016年12月までに胃上部早期癌に対し(L)PG+DFTを施行した19例と(L)TG+Roux-Y再建16例を比較し周術期合併症,術後内視鏡検査での逆流性食道炎の有無,栄養状態,骨格筋減少量の短期成績を検討した.結果:(L)PG+DFT群は(L)TG+Roux-Y群と比較し高齢であったが,縫合不全や膵液漏,術後膿瘍などの周術期合併症はなく,術後逆流性食道炎は有意に低率であった(P=0.0368).栄養面では,血清総蛋白量(TP),アルブミン値(Alb),血色素値(Hb)の推移に有意差はなかったが,1年後体重減少率(P=0.0165),骨格筋減少率(P=0.0345)は(L)PG+DFT群で有意に低かった.結語:胃上部早期癌に対する(L)PG+DFTは(L)TG+Roux-Y再建と比較し,術後逆流性食道炎の出現,栄養,骨格筋維持の面で優れている術式であった.(L)PG+DFTは術後QOL維持に寄与する術式と考えられる.

症例報告
  • 佐藤 明史, 市川 宏文, 初貝 和明, 乙供 茂, 福富 俊明, 梶原 大輝, 原田 哲嗣
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 9 号 p. 504-512
    発行日: 2019/09/01
    公開日: 2019/09/27
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    外傷性膵十二指腸損傷において膵頭十二指腸切除(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)が必要となる症例は,重篤な全身状態を呈することが多く,複数回の手術が必要となることも少なくない.症例は39歳の男性で,大型ミキサーにはさまれ,胸腹部に多発外傷を負い当院へ救急搬送された.当初はdamage control surgery(DCS)を行ったが,遅発性に十二指腸壊死・穿孔を生じた.PDを行ったものの,著明な腸管浮腫のため,一期的な消化管再建が施行できず,膵管と胆管は完全外瘻とし,約18週後に消化管再建術を施行した.膵臓および胆管断端は瘢痕組織に覆われ,剥離後の再建による膵液瘻の発生が危惧されたため,外瘻としていたtubeを空腸に内瘻化した.膵液漏の発生なく,自宅退院となったが,頻回の胆道感染や膵外分泌機能不全を生じたため,受傷日から591日目に消化管再々建術を行った.PD後の二期再建の報告は散見されるが,稀有な臨床経過をたどった貴重な症例と考え,ここに報告する.

  • 吉田 俊彦, 吉田 佐智子, 山岸 農, 山根 秘我, 松本 拓, 小林 杏奈, 藤野 泰宏, 富永 正寛
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 9 号 p. 513-520
    発行日: 2019/09/01
    公開日: 2019/09/27
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    肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;以下,HCCと略記)の中には淡明な細胞質を有する淡明細胞型が存在するが,本邦では比較的まれとされている.今回,我々は自然壊死を伴う大型の淡明細胞型HCCを経験した.症例は71歳の女性で,3年前より肝右葉に巨大な囊胞性腫瘤を認めたが,生検で悪性所見が得られなかったため経過観察となっていた.今回フォロー中に腫瘤は増大し周囲に複数の結節影が出現したため再度腫瘍生検を行い,悪性所見を認めたため精査治療目的に紹介となり肝右葉切除術を行った.腫瘍径は10 cm,肉眼型は単純結節周囲増殖型であり,主腫瘍中心部の囊胞性部分は凝固壊死に陥っていた.また,囊胞壁および周囲の複数の結節は大部分が肝細胞由来の淡明細胞癌であった.背景肝に炎症や線維化は認めなかった.大型の淡明細胞型HCCの報告はまれであり,かつ自然経過での凝固壊死を伴っていることも含め示唆に富む症例と考えられた.

  • 田中 希世, 宮本 敦史, 浅岡 忠史, 前田 栄, 濱 直樹, 西川 和宏, 池田 正孝, 平尾 素宏, 関本 貢嗣, 中森 正二
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 9 号 p. 521-527
    発行日: 2019/09/01
    公開日: 2019/09/27
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    症例は74歳の女性で,徐々に増大する膵頭部囊胞性腫瘍を指摘され当科を紹介受診した.血液検査にて肝胆道系酵素の異常はなかったが,腹部CTで膵頭部に35 mm大の分葉状の囊胞性病変を認め,内部に20 mm大の造影効果を伴う壁在結節を認めた.MRIで主膵管との交通も疑われたことから,high-risk stigmataを伴う分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍と診断し,手術の方針となったが,術前造影CTでは上腸間膜動脈に伴走する通常の位置に上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;以下,SMVと略記)に相当する脈管を確認できなかった.手術は膵頭十二指腸切除術を行った.術中所見では門脈本幹に続くSMVの走行は確認できず,拡張した脾静脈のほか膵頭部から肝十二指腸間膜周囲にかけて著明な静脈路の発達を認め,SMV欠損症と診断した.

  • 倉田 徹, 寺田 逸郎, 片野 薫, 萩野 茂太, 庄司 泰弘, 佐々木 省三, 吉川 朱実, 北川 裕久, 藤村 隆, 齋藤 勝彦
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 9 号 p. 528-535
    発行日: 2019/09/01
    公開日: 2019/09/27
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    症例は82歳の女性で,6年前に上行結腸癌に対し,開腹回盲部切除,D3郭清を施行され,病理結果は,T1b(tub2-tub1)N1M0 pStage IIIaであった.3年前に腹壁瘢痕ヘルニアに対し,腹腔鏡下ヘルニア修復術(メッシュ留置)が施行されたが,腹腔内に明らかな再発所見は認めなかった.今回,癌検診としてのPET-CTで,メッシュ上の腹壁にFDGの異常集積を指摘された.精査にて上行結腸癌の孤立性腹壁再発を疑い,腹壁腫瘍を切除した.病理学的には,メッシュ直上の腹壁脂肪織に境界不明瞭な結節を形成し,間質線維増生を伴って周囲に浸潤増殖する腫瘍細胞を認め,免疫染色検査から腹膜中皮腫と診断した.側方断端は一部で陽性となったが,追加治療はせずに1年6か月無再発生存中である.メッシュ留置による異物反応により,ヘルニア内の腹膜中皮細胞が悪性転化し,浸潤増殖した可能性が示唆された.

  • 久保 祐人, 水島 恒和, 三吉 範克, 高橋 秀和, 原口 直紹, 畑 泰司, 松田 宙, 土岐 祐一郎, 森 正樹
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 9 号 p. 536-543
    発行日: 2019/09/01
    公開日: 2019/09/27
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    潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下,UCと略記)に対する大腸全摘・回腸囊肛門(管)吻合術術後は腸閉塞の合併頻度が高く,特有な原因として回腸囊口側腸管の屈曲・捻転によるafferent limb syndrome(以下,ALSと略記)が報告されている.本邦での報告例はまれであり,妊娠・分娩を契機に発症した報告はない.症例は25歳の女性で,挙児希望を考慮し,内科的治療が不良のUCに対し,大腸全摘・回腸囊肛門管吻合術を施行した.術後42か月目に自然分娩で出産し,分娩後3か月目に腸閉塞を発症した.保存的加療で改善するも,繰り返し発症するため,癒着を疑い腹腔鏡手術の方針となった.術中所見で癒着はなく,回腸囊の口側腸管が骨盤腔に落ち込み屈曲していた.ALSと診断し,回腸囊口側腸管を腹壁に吊り上げて固定した.本症例は分娩後に子宮が縮小してできた骨盤内の空間で回腸囊が移動し,輸入脚に強い屈曲をもたらしたことがALSの原因と考えられた.

  • 渡邊 勇人, 沼田 幸司, 上岡 祐人, 加藤 綾, 土田 知史, 佐伯 博行, 松川 博史, 河野 尚美, 利野 靖, 益田 宗孝
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 9 号 p. 544-550
    発行日: 2019/09/01
    公開日: 2019/09/27
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    症例は73歳の女性で,CTで虫垂遠位部に25 mm大の多房性腫瘤を認め,虫垂粘液腫または虫垂癌の診断で手術を行った.手術は腹腔鏡下に行い,虫垂根部に腫瘤および周囲への浸潤所見も認めず,虫垂切除を行った.迅速診断は虫垂粘液腺腫であり,追加切除は行わなかった.永久標本で低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendiceal mucinous neoplasm;以下,LAMNと略記)および杯細胞カルチノイド(goblet cell carcinoid;以下,GCCと略記)の診断を得たため,追加切除の方針とし,腹腔鏡下回盲部切除,D3郭清を施行した.最終病理診断はLAMN(pTis,N0,M0 p-Stage 0)とGCC(pT3,N0,M0 p-Stage IIA)の併存であった.術後補助化学療法は施行せず,術後1年無再発生存中である.虫垂GCCとLAMNとの合併例はまれであるため,報告する.

編集後記
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