日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
Cowden病を合併する妊婦に発症した小腸lipomatosisに起因する腸重積の1例
辻尾 元青松 直撥内間 恭武栗原 重明平川 俊基岩内 武彦森本 純也中澤 一憲保坂 直樹竹内 一浩
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2020 年 53 巻 1 号 p. 30-35

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Abstract

症例は23歳の女性で,中毒性多結節性甲状腺腫,多発乳腺腫瘍,扁桃腫瘍の既往およびCowden病の家族歴を有する.受診時妊娠20週であり腹痛,嘔吐を主訴に当院受診となった.腹部超音波検査およびMRIにて小腸に重積像および口側腸管の拡張を認めた.小腸重積の診断とし,緊急手術の方針とした.Treitz靭帯より約250 cmの小腸から約20 cmに渡り腸重積像を認めた.Hutchinson手技にて重積を解除,内腔に約2 cm大の腫瘍を触知し,重積部の小腸を部分切除した.摘出標本を確認したところ黄色のポリープが多発しており,病理組織学的検査において脂肪腫の診断となった.Cowden病の家族歴に加えて脂肪腫および甲状腺病変を認めることからCowden病の確定診断とした.

Translated Abstract

A 23-year-old pregnant woman with a history of toxic multinodular goiter, multiple mammary and tonsillar tumors, and a family history of Cowden disease presented with abdominal pain and vomiting. Abdominal US and MRI revealed intussusception with small intestinal obstruction. We performed emergency surgery under the diagnosis of intestinal intussusception. Intraoperatively, we identified ileo-ileal intussusception (20 cm in length), which was reduced using the Hutchinson’s maneuver. A 2-cm sized mass was detected in the proximal part; therefore, the intussuscepted portion of the ileum was resected. Gross examination of the resected specimen showed multiple yellow polyps, and the lesion was diagnosed as a lipoma based on histopathological findings. Based on the detection of a lipoma and her history of goiter, in addition to a family history of Cowden disease, this patient was definitively given a diagnosis of Cowden disease.

はじめに

手術既往のない妊婦のイレウスは10万分娩に1例程度とまれな疾患であり,中でも腸重積の占める割合は5%程度とされている1).本症例では加えてCowden病患者の小腸lipomatosisに起因した腸重積であり,貴重な1例を経験したため多少の文献的考察を加え報告する.

症例

患者:23歳,女性

主訴:腹痛,嘔吐

既往歴・家族歴:父:Cowden病,消化管ポリポーシス,非機能性多発性甲状腺腫にて甲状腺摘出.長女(本人):中毒性多結節性甲状腺腫にて甲状腺亜全摘,多発乳腺腫瘍,扁桃腫瘍にて扁桃摘出.次女:非機能性多発性甲状腺腫.三女:中毒性多結節性甲状腺腫にて甲状腺摘出,多発乳腺腫瘍.

アレルギー:特記すべきことなし.

現病歴:妊娠20週にて当院通院中であった.前日からの間欠的な腹痛および頻回の嘔吐を主訴に当院受診となった.

来院時現症:身長:164 cm,体重:60 kg,BMI:22.3 kg/m2

体温:36.6°C,血圧:114/68 mmHg,心拍数:94回/分.

腹部は妊娠のため膨隆,軟,左側腹部に圧痛認めるも腹膜刺激兆候は認めなかった.顔面および四肢に丘疹が散在していた.

血液検査所見:白血球12,100/μl,CRP 3.12 mg/mlと炎症反応の軽度上昇を認めた.その他特記すべき異常所見は認めなかった.

腹部超音波検査所見:左側腹部の小腸にtarget-signを認め(Fig. 1a),腸重積を疑った.先進部に明らかな腫瘍性病変やリンパ節腫大などは認めなかった.

Fig. 1 

Abdominal US showed a target sign (a). Abdominal MRI showed intussusception (arrow) on T1-weighted image (b).

腹部MRI所見:T1強調画像にて左側腹部の小腸が長軸方向に約20 cmの範囲で重積を認めていた(Fig. 1b).同部位より口側腸管の拡張を認めた.重積の先進部に明らかな腫瘍性病変やリンパ節腫大などは認めなかった.以上の所見から,小腸重積と診断し緊急手術の方針とした.

手術所見:Treitz靭帯より約250 cmの小腸から約20 cmに渡り腸重積像を認めた(Fig. 2a).Hutchinson手技にて重積を解除したところ腸管の色調は良好であった.用手的に重積部を確認したところ内腔に約2 cm大の腫瘍を二つ触知,術中超音波検査においても同様の所見を認め,再発予防目的に重積部の小腸を部分切除した(Fig. 2b).摘出標本を確認したところ2~3 cm大の黄色のポリープが多発しており,加えて2~3 mm大の小ポリープも散見された(Fig. 2c).さらに,全小腸を術中超音波も併用しつつ用手的に確認したところ小隆起性病変の散在を認めたが,重積部病変が最大の腫瘤であり,さらなる小腸の切除は行わなかった.

Fig. 2 

Intraoperative findings showed a ileo-ileal intussusception 20 cm in length (a). Intraoperative US showed two tumors, 2 cm in diameter, in the small intestinal lumen (b). Gross examination showed multiple yellow polyps 2–3 cm in diameter, and multiple small polyps 2–3 mm in diameter (c).

病理組織学的検査所見:病理組織学的検査では黄色ポリープ部分では成熟した脂肪組織の増殖を認め脂肪腫と診断され,小ポリープ部分では鋸歯状過形成を認め過形成ポリープと診断された(Fig. 3a, b).

Fig. 3 

Histopathological examination showed growth of mature adipose tissue (a) and serrated lesions (b).

Cowden病の家族歴に加えて皮膚病変,脂肪腫および甲状腺病変を認めることから診断基準2)を満たし,この時点でCowden病の確定診断とした.

術後経過:術後経過は問題なく退院,妊娠40週3日に男児を経膣分娩にて無事出産した.術後約3年現在再発なく経過している.

考察

妊婦に発症する急性腹症の頻度は約500~635分娩に1例3)とされるがその大半は婦人科疾患である.消化器疾患としては急性虫垂炎(1,500分娩に1人)4),急性胆囊炎(1,500~10,000分娩に1人)5),イレウス(3,000~10,000分娩に1人)6)7)の順に多いとされておりイレウスの頻度は比較的低い.中でも開腹歴のない妊婦のイレウスの発症は10万分娩に1人と報告されており極めてまれである1).開腹歴のない妊婦に発症するイレウスの原因としては腸重積の他に炎症性疾患(RA,異所性子宮内膜症,人工妊娠中絶,Meckel憩室炎,卵管炎)や内ヘルニア,Ogilvie症候群が挙げられている8)

妊婦に生じるイレウスは①腹痛・悪心・嘔吐などの症状が妊娠悪阻や子宮増大・収縮に伴う症状と類似すること,②妊娠子宮により正確な腹部理学所見が得にくいこと,③胎児への放射線被曝を考慮しX線検査が敬遠されがちなどの理由により診断が遅れやすい.上記の理由もあり妊婦に発症するイレウスは胎児死亡率20~50%,母体死亡率10~20%と予後不良である9)10).本症例においては胎児への影響を考慮し腹部超音波検査およびMRIにより診断し早期に手術を施行したことにより母胎ともに救命しえた.米国産婦人科学会のガイドラインにおいて50 mGy以下の被曝は有害事象を来さないとされている11).1回の腹部CTでの胎児被曝量は8~25 mGy程度とされており,イレウスを含めた急性腹症を疑い母児救命に必要と判断した場合はCTも躊躇すべきでないと考える.

Cowden病は1963年にLloydら12)によってはじめて報告された常染色体顕性遺伝疾患であり,Cowdenという家系の名前から命名された.顔面小丘疹,口腔粘膜乳頭腫,四肢末端の角化症など特徴的な皮膚病変を呈し,食道から直腸に至る全消化管に過誤腫性や過形成性のポリポーシスを高率に合併する13).また,乳腺,甲状腺,子宮など多臓器の悪性腫瘍を合併することも少なくない.診断基準は2000年にInternational Cowden Consortiumによって提唱され14),本邦では米国のNational Comprehensive Cancer Network(MCCN)が2008年に改定を加えたものが広く用いられている2).有病率は20~25万人に1人といわれているが,診断の難しさから実際の有病率はさらに多いことが予想される13).原因としては癌抑制遺伝子であるphosphatase and tensin homolog deleted on chromosome 10(以下,PTENと略記)遺伝子変異が原因と報告されており,Cowden病におけるPTEN遺伝子変異の陽性率は80%と報告されている2)15)

一般的に成人の腸重積は小児を含めた全腸重積症の5%程度と比較的まれな疾患であり,原因としては良性腫瘍35.0%,悪性腫瘍52.6%と大半が腫瘍性病変に起因している16).特に小腸脂肪腫においてはその50%以上が腸重積を合併するとされている17).その理由として脂肪腫自体が柔らかく,筋層に固定されていないことに加え,小腸の活発な蠕動運動が大きく影響していると報告されている18).一方で診断基準2)にも記載されている通りCowden病と脂肪腫の関連は報告されているにもかかわらず,Cowden病患者の小腸脂肪腫に起因する腸重積の報告は過去に認めない.理由としては前述したCowden病の診断の難しさに起因するものと推測されるが定かではない.

小腸脂肪腫の中でも本症例のように小腸に多発する脂肪腫を認める状態を小腸lipomatosisと呼び非常にまれな疾患である19).馬場ら20)は1983年以降の本邦における小腸lipomatosis 22例に関して集計している.年齢は20歳代から70歳代と幅広く,性差は認めず,腸重積は22例中14例に認めた.症状を有するlipomatosisに対しては部分切除が第一選択であるが,無症状病変に対する治療方針は確立しておらず,病変が広範囲に及んでおり責任病変のみを切除した報告も認める21).本症例においても病変部を全て切除することによる短腸症候群が危惧されたため責任病変のみを切除した.切除範囲の決定には術中超音波検査が有用であった.

小腸lipomatosisには遺伝性疾患の報告や22),結腸脂肪腫の3例に1例はCowden病に関連しているとの報告もある23).本症例ではCowden病の診断基準を満たしており小腸lipomatosisにおいてもCowden病との関連が示唆されたため,育児が落ち着けば遺伝子カウンセリングを含め,専門病院コンサルトを予定している.過去にCowden病に小腸lipomatosisを合併した報告は認めないもののCowden病の概念や診断基準の浸透および小腸内視鏡やカプセル内視鏡の普及に伴い報告が増加する可能性も考えられた.

妊婦に発症する腸重積はまれな疾患であるが,診断が遅れると胎児に影響を及ぼす場合がある.本症例では早期診断および早期治療を行うことで母胎ともに救命することができ,躊躇ない早期診断が重要であると思われた.加えて,腸重積が小腸lipomatosisに起因し,Cowden病との関与も疑われた.医学中央雑誌(1964年~2019年)およびPubMed(1950年~2019年)で「妊婦」,「Cowden病」,「小腸lipomatosis」,「腸重積」をキーワードして検索したが(会議録除く),検索しうるかぎり過去に同様の報告は認めず,極めてまれな1例と考えられたため報告した.

利益相反:なし

文献
 

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
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