2020 年 53 巻 1 号 p. 69-76
症例は39歳の女性で,健康診断で肝機能障害を指摘され施行した画像検査で膵頭部腫瘍,膵全体に多発する囊胞性病変,右腎腫瘍を認め,当科へ紹介受診した.膵頭部腫瘍は超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診で膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor;以下,PanNETと略記)G1の診断となり,右腎腫瘍はCT所見から腎細胞癌(以下,RCCと略記)と診断した.von Hippel-Lindau病(以下,VHL病と略記)を疑い遺伝子検査を施行すると,VHL遺伝子のexon2に変異を認め,確定診断となった.治療はPanNET,RCCに対し,膵頭十二指腸切除術および右腎部分切除術を一期的に施行した.組織学的に膵頭部腫瘍はPanNET G1の診断で,領域リンパ節への転移を認めた.また,膵多発囊胞は漿液性囊胞腺腫(serous cystadenoma;以下,SCAと略記)の診断,右腎腫瘍は淡明細胞型腎細胞癌の診断であった.PanNET,SCA,RCCが併存したVHL病の報告例は少なく,まれな1例を経験したため報告する.
A 39-year-old woman was referred to our department because of a pancreatic head tumor, diffuse cystic lesions in the pancreas, and a right renal tumor detected in a medical check-up. The pancreatic head tumor was diagnosed as pancreatic neuroendocrine tumor (PanNET) G1 by endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration, and the renal tumor was clinically diagnosed as renal cell carcinoma (RCC). The patient was suspected of suffering from von Hippel-Lindau (VHL) disease. Genetic testing found mutation in exon 2 of VHL gene which resulted in definitive diagnosis of VHL disease. Pancreaticoduodenectomy and right partial nephrectomy were performed in one stage. Histopathological examinations revealed PanNET G1 with regional lymph node metastasis, serous cystadenoma (SCA), and clear cell renal cell carcinoma. Here, we describe a rare case of a VHL patient with PanNET, SCA and RCC.
2010年に刊行されたWHO分類では膵漿液性腫瘍の分類が変更され,新たにmixed serous neuroendocrine neoplasm(以下,MSNNと略記)という亜型が設けられた1).漿液性囊胞腫瘍(serous cystic neoplasm;以下,SCNと略記)と膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor;以下,PanNETと略記)が併存しているものがMSNNと定義されるが,von Hippel-Lindau病(以下,VHL病と略記)に関連することも報告されている2).
VHL病は遺伝子の異常により,複数の臓器に腫瘍性病変や囊胞性病変が生じる常染色体優性遺伝疾患である3).関連病変の発生頻度はさまざまであるが,膵病変に関してはVHL病患者の14.1%にPanNETが,40.3%に膵囊胞性病変がみられたとの報告がある4).また,腎細胞癌はVHL病患者の30%に発生するといわれている5).
今回,我々はMSNNに腎細胞癌が併存したまれなVHL病の1例を経験したので報告する.
患者:39歳,女性
主訴:なし.
既往歴:特記事項なし.
家族歴:VHL病に関連する病歴なし.
現病歴:健康診断で肝機能障害を指摘され施行した画像検査で膵頭部腫瘍,膵全体に多発する囊胞性病変,右腎腫瘍の存在が明らかになり当科を紹介受診した.
現症:身長159 cm,体重47 kg,腹部に特記所見なし.
血液検査所見:当院で施行した血液生化学検査ではAST 23 U/l,ALT 28 U/l,ALP 207 U/l,γ-GTP 33 U/l,総ビリルビン0.4 mg/dl,CEA 0.6 ng/ml,CA19-9 4 U/ml,SPAN-1 3.7 U/ml,DUPAN-2 34 U/mlと肝胆道系酵素,腫瘍マーカーともに上昇を認めなかった.
腹部造影CT所見:膵頭部に早期濃染される石灰化を伴った40 mm大の腫瘍と膵全体に大小多数の低吸収域がびまん性に存在し,右腎に造影効果を伴う厚い隔壁を有する50 mm大の多房性囊胞性腫瘍を認めた(Fig. 1).

Abdominal CT showed a pancreatic head tumor with calcification (a, arrowheads), multiple cystic lesions involved the whole pancreas diffusely (b) and a right kidney tumor with enhanced septum (c, white arrow).
腹部MRI所見: T2強調像で膵頭部腫瘤は不均一に淡い高信号を呈し,CTで膵全体に散在する低級域はT2強調像で著明な高信号を呈した.
ソマトスタチン受容体シンチグラフィ:膵頭部腫瘤に一致して高度の集積を認めた(Fig. 2).

Somatostatin receptor scintigraphy showed a strong uptake in the tumor in the pancreatic head.
膵頭部腫瘍に対し超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)を施行しPanNET,G1の診断となった.右腎腫瘍はそのCT所見から腎細胞癌を強く疑った.以上より,PanNET G1,多発膵囊胞,腎細胞癌と診断し,VHL病が疑われた.頭部MRI,眼底検査を施行したが,中枢神経血管芽腫,網膜血管腫は併存しておらず,また家族歴がないことからVHL病の臨床診断基準は満たさなかった.適切な遺伝子カウンセリングのもと遺伝子検査を施行すると,ダイレクトシークエンス法でExon2の401–404の4塩基が欠失し,134番目のグルタミン酸にフレームシフト変異を認めた.以上から,VHL遺伝子のExon2の変異によるVHL病と確定診断した.
PanNET,腎細胞癌は遠隔転移を認めず,泌尿器科と合同で亜全胃温存膵頭十二指腸切除術および腎部分切除術を施行した.手術時間616分,出血量962 mlであった.Clavien-Dindo分類Grade III以上の合併症を認めず術後20日で軽快退院となった.現在,外来で各臓器のフォローアップと家族に対する遺伝子カウンセリングを行っている.
病理組織学的検査所見:膵頭部腫瘍は肉眼的には40×35×30 mm大,硬い黄色~白色の充実性腫瘍であり,組織学的には淡明な胞体をもつ異型細胞を認め,免疫組織化学染色でsynaptophysin陽性,chromogranin A一部陽性,CD56陽性,MIB-1 index 1%であることからPanNET,G1と診断された.これらの淡明細胞はVHL病のNETにみられるclear lipid-rich cellsの所見と考えられた(Fig. 3a, b, 4).リンパ節転移を5個認め,それぞれ#13リンパ節が0.8 mm,0.4 mm,2.0 mm,7.0 mm,#17リンパ節が0.5 mmであった.

Macroscopic findings of the resected specimen of pancreaticoduodenectomy showed a pancreatic head tumor (a, arrowheads) and multiple cysts. Histological findings showed atypical cells with light cell bodies, which appeared to be “clear” or lipid-rich cells, in the tumor (b), and the cyst wall was composed of a simple cuboidal epithelial lining (c). Two microadenomas were also observed in the pancreatic specimen (d).

Immunohistochemical staining for the pancreatic head tumor was positive with chromogranin A (a) and synaptophysin (b), and MIB-1 index was 1 % (c).
多発膵囊胞は単層の立方上皮細胞に被覆され,核は異型に乏しく,細胞質は淡明でPAS反応陽性,D-PAS反応陰性であり,漿液性囊胞腺腫と診断した(Fig. 3c).
また,膵検体内にはCD56陽性,synaptophysin陽性,chromogranin Aが一部陽性である小結節が二つ存在しmicroadenomaと診断した(Fig. 3d).
右腎腫瘍は肉眼的に45×32×57 mm大の多房性囊胞性病変で黄色部分が散在していた.組織学的には,薄い壁構造をもつ多房性囊胞で囊胞壁は明るい胞体をもつ上皮に被覆され,肉眼で黄色調であった領域を中心に充実性胞巣を形成しclear cell renal cell carcinomaと診断した(Fig. 5).

Macroscopic findings of the resected specimen of partial nephrectomy showed a multilocular cystic tumor (a). Histological findings showed cyst walls lined with light cell bodies forming a solid alveolar pattern (b).
VHL病は第3番染色体短腕に存在し癌抑制遺伝子であるVHL遺伝子の異常により,複数の臓器に腫瘍性病変や囊胞性病変が生じる常染色体優性遺伝疾患である.VHL病患者では出生時にすでに片方のalleleに変異を持っており,その後対立アレルに変異が起こることでVHL遺伝子の機能が完全に消失し細胞の腫瘍化が起こるKnudson’s 2-hit model6)7)で発症するとされている3)5)8).
本邦のVHL病診療ガイドラインで定められたVHL病の臨床診断基準は家族歴の有無で異なり,家族歴が明らかな場合はVHL病関連病変が一つでも存在すればVHL病と診断され,家族歴がない場合は中枢神経系血管芽腫あるいは網膜血管腫を複数個認めるか,同病変とVHL病関連病変が併存することで診断される8).散発例では診断基準を満たさず,本症例のように遺伝子検査でVHL遺伝子異常が確認されて診断された症例や9),10年以上のフォローアップの末に新規VHL病関連病変が出現し診断となった症例もある10).VHL病関連疾患を診察した際には,家族歴がなく臨床診断基準を満たさなくともVHL病の可能性を念頭におかなければならない.
VHL病に発生する病変として中枢神経系血管芽腫,網膜血管腫,腎細胞癌,副腎褐色細胞腫,膵神経内分泌腫瘍,膵囊胞,内耳リンパ囊腫,精巣上体囊胞腺腫などが挙げられる.膵病変の合併頻度は高いといわれており,Igarashiら4)は,本邦のVHL病患者377人のうち53名(14.1%)にPanNETを認め,152名(40.3%)に膵囊胞性病変を認め,PanNETと膵囊胞性病変の両者がともに存在したのは17名(4.5%)であったと報告している.VHL病に付随する膵囊胞性病変としてserous cystadenoma(以下,SCAと略記)と単純囊胞が挙げられ,膵管内乳頭粘液性腫瘍や粘液性囊胞腫瘍の合併の報告はない.Hammelら11)は膵病変をもつVHL病患者のうち91.1%に単純囊胞,12.3%にSCAを認めたと報告するも,SCAの割合は実際よりも少なく見積もられている可能性があるとし,その理由として小型の多発真性囊胞とSCAの鑑別は困難であり,またいずれであったとしても治療方針に寄与しないため鑑別する必要性に欠けるためなどが挙げられている.すなわち,VHL病における膵囊胞性病変は悪性化することは極めてまれであり,臨床症状を呈することも少ないため,画像検査上で単純囊胞と診断され経過観察されているSCAも少なからず存在している可能性がある.病理組織学的には単純囊胞は非特異的な組織所見であり除外診断的に診断される.本症例の多発囊胞の多くが均一な類円形の核を持ち,淡明な細胞質はPAS反応陽性,D-PAS反応陰性であったことからSCAの診断となった.
また,本症例では膵検体内にmicroadenomaを認めていたが,microadenomaは小さなSCAとの鑑別がHE染色では困難なこともあるため,免疫染色検査を追加しCD56陽性,synaptophysin陽性,chromogranin A陽性を確認した.したがって,PanNETの前病変であるmicroadenomaであると診断した.
一方,2010年に膵漿液性腫瘍のWHO分類が改訂され,前版のserous microcystic adenomaがserous cystadenomaに名称が変更され,その他に四つの亜型macrocystic serous cystadenoma,solid serous adenoma,VHL-associated serous cystic neoplasm(以下,VHL-SCNと略記),mixed serous neuroendocrine neoplasm(以下,MSNNと略記)に分類された1).Macrocystic serous adenomaは前版のserous oligocystic adenomaに相当し,大型の囊胞で形成される.Solid serous adenomaは小型腺房様の構造からなり,腺腔構造の極めて乏しいものをいう.VHL-SCNはその名の通りVHL病に合併するものを指しMSNNはPanNETと併存するものを指す12).本例はVHL病の確定診断となっており,かつPanNETも併存していたため,VHL-SCNとMSNNの両方の基準を満たした.
MSNNが併存したVHL病の報告を検索(医学中央雑誌・PubMed,2001年~2017年,キーワード:「von Hippel-Lindau」,「MSNN」,「SCA」,「NET」,「islet tumor」)すると8症例のみであった(Table 1)2)10)13)~18).平均年齢は41歳と若年で,男女比は2:7と女性に多い特徴があった.SCAはびまん性に膵全体に存在するものが多く,またいずれの症例にも定型的な膵切除術が施行されていた.本例のように腎細胞癌が併存した報告は2例のみであった.
| No | Author | Year | Age | Sex | C.C. | NET (location, mm) | Ki67 | Metastasis | SCA (location) | Other tumor | Treatment |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Jung13) | 2001 | 29 | F | Abdominal distention | Head, 20 | N/A | — | Whole | Hemangioblastoma | Total pancreatectomy |
| 2 | Blandamura2) | 2007 | 31 | F | Jaundice | Head, 40 | 15% | — | Whole | Hemangioblastoma Renal cell carcinoma |
PD |
| 3 | Hsieh14) | 2009 | 28 | F | Headache | Uncinate process, 23 | N/A | Lymph node | Whole | Hemangioblastoma | PD |
| 4 | Morita10) | 2010 | 45 | M | No | Uncinate process, 35 | <1% | — | Whole | Hemangioblastoma | Middle-preserving pancreatectomy |
| 5 | Suto15) | 2013 | 60 | F | No | Head, 20 | 1–2% | — | Tail | Pheochromocytomas | Middle-preserving pancreatectomy |
| 6 | Fujiki16) | 2017 | 70 | M | Anorexia | Uncinate process, 93 | 18.50% | Lymph node | Head | Hemangioblastoma | PD |
| 7 | Maeda17) | 2017 | 39 | F | No | Tail, 40 | 1% | — | Whole | Hemangioblastoma Renal cell carcinoma |
DP |
| 8 | Yamashima18) | 2018 | 32 | F | No | Head, 30 | <2% | N/A | Whole | — | PD |
| 9 | Our case | 39 | F | No | Head, 40 | 1% | Lymph node | Whole | Renal cell carcinoma | PD |
遺伝性疾患を伴わない非機能性PanNETは基本的に手術適応とされているが19),本邦のVHL病ガイドラインではVHL病に合併したPanNETの治療方針として,腫瘍最大径≥2 cmと腫瘍倍増速度≤500日の両方を満たすものか,遠隔転移を伴うものとし,慎重に治療介入することを提案している8).これは,VHL病では腹部のサーベイランス検査が若年より開始され,一般のPanNETに比べ早期に発見されることが多いことや,PanNETが死亡原因となる症例はVHL病全体の0.3%,PanNETを合併したVHL病の1.9%にしか及ばず,予後は比較的良好であること20),PanNETの再発や腎癌合併により複数回の手術が必要となる可能性があること,などが理由である8).本症例はPanNET発見時に腫瘍径は40 mmであったが他臓器への転移は認めなかったため,本来ガイドライン上では経過観察を行い,腫瘍倍増速度が500日以内となった時点で切除適応となる.一方でPanNETを合併したVHL病の予後因子として① 腫瘍径が3 cm以上,②腫瘍倍増速度が500日以内,③ VHL病遺伝子エクソン3の変異があげられている.本症例は予後不良因子を一つ認めた(腫瘍径).VHL病の家族歴はなく,孤発性に発症したものと考えられ,右腎癌およびPanNET発見時に両方への治療希望が強かったため,遺伝子カウンセリングを行った後に,切除の方針とした.腫瘍径が40 mmであり,定型的なリンパ節郭清が必要と考え,膵頭十二指腸切除を右腎癌切除と同一視野で行った.結果として術後病理診断でリンパ節転移も5個陽性であったことから切除は妥当であったといえる.ただし,切除検体内にPanNETの前病変であるmicroadenomaを認めたことから,残膵にもmicroadenomaが存在している可能性は高いと考えられ,現在も慎重にフォローアップを行っている.
利益相反:なし