日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
小腸calcifying fibrous tumorに対し腹腔鏡下小腸切除術を行った1例
仁科 勇佑森 治樹三宅 亨谷 総一郎植木 智之飯田 洋也貝田 佐知子清水 智治和田 康宏谷 眞至
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2020 年 53 巻 11 号 p. 901-907

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Abstract

症例は65歳の女性で,膀胱瘤に対する腹腔鏡下仙骨膣固定術の際に偶発的に小腸漿膜面に白色腫瘤を認めた.その後,腹部造影CT,小腸内視鏡および下部消化管内視鏡で異常所見を認めず,小腸腫瘍の診断にて腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した.病理組織学検査で膠原線維を伴う紡錘形細胞,散在する石灰化と形質細胞やリンパ球などの炎症細胞浸潤がみられた.免疫染色検査でFactor XIIIa陽性の紡錘形細胞を認め,calcifying fibrous tumor(以下,CFTと略記)と診断した.術後9か月経過した現在,無再発で外来通院中である.小腸原発のCFTの報告はまれである.

Translated Abstract

A 65-year-old woman was found to have a white mass on the serosal surface of the small intestine during laparoscopic sacral vaginal fusion for a cystocele. The patient was diagnosed with a small intestine tumor. Laparoscopic partial resection of the small intestine was performed. Histopathological examination revealed spindle-shaped cells with collagen fibers, scattered calcification, and infiltration of inflammatory cells, such as plasma cells and lymphocytes. Immunohistochemical examination of the spindle cells in the resected specimen revealed expression of factor XIIIa. Therefore, the tumor was finally diagnosed as a calcifying fibrous tumor (CFT). The patient is alive without recurrence at 9 months after surgery.

はじめに

Calcifying fibrous tumor(以下,CFTと略記)はまれな良性腫瘍であり,一般的には軟部組織原発例が多く報告されている1).本邦では胸膜や胃原発の症例報告が多く,小腸に発生した症例はまれである.今回,我々は偶発的に発見された小腸原発のCFTの1例を経験した.これまでの小腸原発のCFTの報告3例に自験例を加えて,臨床的特徴を検討したので報告する.

症例

患者:65歳,女性

主訴:なし.

家族歴,既往歴:虫垂炎(13歳時に虫垂切除術).父:前立腺癌.母:胆管癌.

現病歴:膀胱瘤に対する腹腔鏡下仙骨膣固定術時に偶発的に小腸に腫瘤を指摘され,当院泌尿器科より紹介となった(Fig. 1).

Fig. 1 

Intraperitoneal findings during urologic surgery. A 5-mm white mass was found on the serosal surface of the small intestine.

入院時現症:身長151 cm,体重60 kg.

腹部は平坦・軟で特記すべき身体所見は認めなかった.

血液検査所見:Alb 3.8 g/dlと軽度低下を認めた.腫瘍マーカーはCEA・CA19-9ともに基準値内であった.

腹部造影CT所見:小腸に腫瘤は確認できなかった.有意な腹腔内リンパ節腫大は認めず,肝臓,肺に異常所見はなかった.

小腸内視鏡検査所見:粘膜面を含め,明らかな異常所見は認めなかった.

上・下部消化管内視鏡検査所見:明らかな異常所見は認めなかった.

以上より,管外発育型小腸GISTを第一に疑い,まずは腹腔鏡下にて腹腔内を観察し,小腸部分切除術を施行する方針とした.

手術所見:バウヒン弁より100 cm口側の小腸漿膜面に約5 mmで白色調の結節性病変を認めた.全小腸を含めた腹腔内を確認したが,他に結節性病変は認めず,腫瘍近傍の腸間膜リンパ節腫大もなかったため,小腸部分切除術を切除した.手術時間は118分,出血量は0 mlであった.

摘出標本肉眼所見:検体は37×27 mmで,小腸粘膜面に異常所見は認めず,漿膜面に5×4 mmの表面平滑で境界明瞭な白色の腫瘤を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

A: Macroscopy of the resected small intestine showed a white nodular lesion in the serous membrane. B: Cross section of the smooth mass.

病理組織学的検査所見:病理組織的に腫瘍は外縦筋より外側に存在し,外側から漿膜を圧迫していた.腫瘍は豊富な線維を伴い,異型に乏しい紡錘形細胞が疎に交錯していた.腫瘍内には石灰沈着を認め,形質細胞やリンパ球が浸潤し,リンパ濾胞が形成されていた(Fig. 3).

Fig. 3 

Histological examination. A: The tumor was located in the serous membrane and had dysmorphic spindle-shaped cells with abundant fibrosis. B: A site with calcification was found inside the tumor (arrowheads). Plasma cells and lymphocytes had infiltrated to form lymphoid follicles (arrow).

免疫組織染色検査所見:desmin,S100,α-SMAおよびc-kitは陰性であった.Factor XIIIa陽性の紡錘形細胞と,IgG4陽性の形質細胞の散在を認め,CFTと診断した(Fig. 4).

Fig. 4 

Immunohistochemical tests. A: Spindle cells stained for factor XIIIa. B: Plasma cells stained for IgG4.

術後経過:術後は合併症なく経過し,術後第7病日目に退院した.術後9か月経過した現在,再発は認めていない.

考察

CFTはまれな良性病変であり,軟部組織に好発する傾向がある1).CFTは病理組織学的に石灰化および炎症性細胞の浸潤と,高密度の繊維成分を含むことを特徴とされている2).CFTは1988年にRosenthalとAbdulによって「childhood fibrous tumor with psammoma bodies」として初めて報告され3),2002年には世界保健機関により軟部組織と骨腫瘍に「calcifying fibrous tumors」として分類された4)

本邦での小腸原発CFTは報告例が少なく,その臨床像については不明な点が多い.医学中央雑誌(1964年~2019年)にて「石灰化線維性腫瘍」,「calcifying fibrous tumor」をキーワードとして検索した結果,小腸原発CFTは自験例を含め4例5)~7)の報告しかなくまれな疾患である(Table 1).鑑別疾患としては,癌の播種やgastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記),神経鞘腫,平滑筋腫,悪性中皮腫IgG4関連疾患,solitary fibrous tumor,inflammatory myofibroblastic tumorなどが挙げられる.自験例は偶発的に発見されたが,自験例以外の本邦報告の小腸CFTの3症例は,腫瘍によるイレウス症状や,CTにおける小腸腸重積所見を契機に発見された5)~7).腹腔内発生のCFTは腹痛や腸閉塞を契機として発見されることがあり8)9),自験例は腫瘍径が5 mmと小さく,漿膜下に発生していたため,術前の腹部造影CTや小腸内視鏡検査で腫瘍を同定することはできなかった.偶発的に発見されなければ腫瘍径増大に伴い,イレウス症状や腹痛を来した可能性は十分に考えられる.

Table 1  Reported cases of calcifying fibrous tumor of the small intestine in the Japanese literature and our case
Case Author Year Age/
Sex
Symptoms Location Tumor size Operation methods Surgery Location
1 Murakami5) 2006 58/F Abdominal pain, Vomitting Jejunum, (extramural growth) 18 mm Laparoscopic Laparoscopic partial resection of the jejunum Jejnum, intramural
2 Takeji6) 2013 30/F Anemia, intussusception Small intestine, (intramural) 20 mm Open Partial resection of the small intestine 60 cm from the terminal ileum, intramural
3 Minami7) 2015 69/M Abdominal pain Small intestine, (intramural) 10 mm Open Partial resection of the small intestine 200 m from Treats ligaments, intramural
4 Our case 65/F Nothing Small intestine, (serosal surface) 5 mm Laparoscopic Laparoscopic partial resection of the small intestine 100 cm from the terminal ileum, serosa

CFTの発生機序および原因は不明であり,家族発症も報告されていることから,遺伝的な要素も示唆されている10).病理学的特徴として,紡錘形細胞の疎な増生や形質細胞,リンパ球などの炎症細胞浸潤だけでなく,腫瘍内部に散在する石灰化を認めることから,石灰化を伴う腫瘍を認めた場合はCFTを鑑別に挙げる必要性がある7).CFTの診断には上記,病理学的特徴に加えて,免疫組織染色が重要であり,CFTの繊維芽細胞はvimentin,factor XIIIaが陽性で,desimin,actin,S100,ALK-1,α-SMA,CD117などは陰性と報告されている2).CD34,IgG4に関してはCFTに局所的に発現することがあると報告されている11)~13).自験例においても腫瘍内に石灰化沈着を認め,IgG4陽性の形質細胞の散在に加えて,factor XIIIa陽性の紡錘形線維芽細胞を認め,またCD34,desimin,S100,α-SMAおよびc-kitは陰性であったためCFTと診断した(Table 25)~7)

Table 2  Immunohistochemical staining of cases of calcifying fibrous tumor of the small intestine in the Japanese literature and our case
Case Author Year CD34 c-kit α-SMA desmin S-100 vimentin CD117 ALK-1 Factor XIIIa
1 Murakami5) 2006 (−) (−) (−) (−) (−)
2 Takeji6) 2013 (−) (−) (−) (−) (+) (−) (−)
3 Minami7) 2015 (+) (−) (−) (−) (+) (−) (−)
4 Our case (−) (−) (−) (−) (−) (+)

(+): positive, (−): negative

CFTはこのような特徴的な免疫組織化学の結果を示すため,上皮性腫瘍や中皮性腫瘍でなく,石灰化を伴う線維性病変と考えられ,腫瘍性病変としての起源は明らかになっていない14)

治療は手術による切除が推奨されており,以前より局所切除が行われてきた2).良性病変とされているCFTだが,頸部発症例において局所再発の報告もあり,marginを確保することの重要性が説かれている15).また,従来は腹腔内CFTに対して開腹手術が行われてきたが,腹腔鏡手術による報告例も散見される16)~18).本症例では術前検査より,管外発育型小腸GISTを疑い,腫瘍径も5 mmと比較的小さかったため腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した.腹腔鏡を用いることで十分な腹腔内の検索と低侵襲手術が可能であり,結果として本術式の選択は妥当であったと考えられる.泌尿器科手術時の際に,腫瘍が偶発的に見つかった段階で切除する方法も考えられたが,まずは内視鏡検査による消化管病変の検索や,CTなどによるリンパ節腫大および転移の有無を精査すべきと考えた.予後は良好で,Chortiら2)は平均29か月のCFTの術後follow up期間で再発は96例中10例に認めたとしている.再発10症例の内訳として,7例は局所再発,3例は腹腔内における播種再発であり,播種再発の2例は小腸CFTが原発巣で,1例は多発する腹腔内腫瘍が原発巣であった10)15)19)~24).いずれの再発症例も再発巣に対して手術切除を行い,長期生存を得たと報告しており,再発に対しても切除可能であれば手術療法が第一選択となりうると考えられる.自験例においても定期的な経過観察を行い,術後9か月経った現在で再発所見は認めていない.

疾患の希少性に加えて,種々の臓器に発生するCFTの長期予後に関しては現時点でコンセンサスが得られておらず,今後症例のさらなる蓄積によりCFTの臨床像および予後因子の解明が望まれる.

本論文の内容は第74回日本消化器外科学会総会で発表した.

利益相反:なし

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