日本消化器外科学会雑誌
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53 巻, 11 号
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症例報告
  • 安藤 涼平, 谷山 裕亮, 福富 俊明, 岡本 宏史, 高屋 快, 佐藤 千晃, 亀井 尚
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 855-861
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    症例は80歳の女性で,前医にて食道裂孔ヘルニアに対し,腹腔鏡下Toupet手術およびメッシュ補強術を施行された.術後に食道胃接合部の狭窄が出現し,バルーン拡張術を繰り返したが,その後の上部消化管内視鏡検査にて腹部食道内腔へのメッシュ貫入・内腔狭窄を認めた.治療目的に当科紹介,手術施行となった.開腹すると食道裂孔周囲は強固に瘢痕化し,メッシュが食道右側を貫通していた.メッシュを横隔膜から剥離し,下部食道から胃噴門側を切除することで病変部を切除した.再建はdouble-tract法にて行い,開大した食道裂孔は残胃を用いて被覆した.食道裂孔ヘルニアにおけるメッシュの使用は,狭窄や穿孔などの合併症が報告されている.今回,我々は食道穿孔症例に対して下部食道・噴門側胃切除,double-tract再建を行った.本術式は瘢痕部での吻合を避けられ,残胃にて食道裂孔を閉鎖することもでき,有用である.

  • 有竹 典, 髙木 健司, 長野 菜月, 小林 龍太朗, 前田 孝, 河合 清貴, 川井 覚, 神谷 里明
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 862-870
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    症例は47歳の女性で,健診の腹部超音波検査にて肝尾状葉腹側に境界明瞭内部均一な長径43 mmの低エコー腫瘤を指摘され,精査目的に当院を受診した.腹部造影CTでは造影効果に乏しく,造影MRIではT1強調画像にて低信号,T2強調画像にて高信号であった.周囲への圧排や浸潤は認めなかった.神経鞘腫と診断し,半年ごとの画像検査によるフォローとした.初診時より2年半後までに腫瘍は経時的に増大し(56×35×23 mm),周囲脈管への圧排所見も認められたため,手術の方針とした.審査腹腔鏡にて,腫瘍が肝臓や肝十二指腸間膜と可動性があることを確認し,切除可能と判断し開腹に移行した.腫瘍は左肝動脈周囲神経叢と癒着していたが,動脈を温存し腫瘍を摘出した.腫瘍は免疫組織学的染色でS-100蛋白陽性であり神経鞘腫と診断した.左肝動脈神経叢由来の神経鞘腫は非常にまれであり報告する.

  • 豊田 純哉, 熊本 宣文, 土屋 伸広, 藪下 泰宏, 澤田 雄, 本間 祐樹, 森岡 大介, 松山 隆生, 秋山 浩利, 遠藤 格
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 871-881
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    症例は67歳の男性で,当院にて24年前に十二指腸乳頭部癌に対して全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術+術中放射線照射25 Gyを施行した.術後8年目より晩期放射線合併症と考えられる肝外門脈閉塞による求肝性側副血行路の発達を認めていた.黒色便を主訴に当院を受診され,上部消化管内視鏡検査で挙上空腸に形成された側副血行路の静脈瘤から出血を認めた.内視鏡下硬化療法を行い,根治療法としてRex shuntを施行する方針とした.右内頸静脈グラフトを用いて挙上空腸静脈-門脈臍部バイパスを作成した.術後4日目に血栓によるグラフト閉塞,腹腔内出血を認め,再手術を施行した.グラフト内の血栓を除去し,左大伏在静脈でspiral vein graftを作成し,挙上空腸静脈と内頸静脈グラフトの間に吻合し,バイパスを再作成した.術後2日目より抗凝固療法を行い,その後グラフト内に血栓の形成なく軽快退院した.

  • 中島 隆善, 生田 真一, 一瀬 規子, 笠井 明大, 浜野 郁美, 岡本 亮, 仲本 嘉彦, 相原 司, 栁 秀憲, 覚野 綾子, 山中 ...
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 882-891
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    症例は73歳の女性で,上腹部痛を契機に認められた4.5 cm大の肝内胆管癌(intrahepatic cholangiocarcinoma;以下,ICCと略記)を疑って肝右3区域切除術を施行,中分化型の腫瘤形成型ICCと診断された.再肝部分切除術は,①初回術後2年1か月,肝S1の2 cm大の単発再発,②初回術後2年9か月,肝S1の3 cm大の単発再発,③初回術後3年8か月,肝S2の1.5 cm大の単発再発,④初回術後5年9か月,肝S3の2 cm大の単発再発,⑤初回術後6年11か月,肝S2に3 cm大の単発再発,に対して行った.再切除した腫瘍はいずれも中分化型の腫瘤形成型ICCの所見で被膜浸潤および脈管侵襲を認めなかった.現在,初回手術後12年以上経過したが無再発生存中である.ICC切除例として希少な症例と考えられ報告する.

  • 小原 有一朗, 藤本 康二, 光岡 英世, 小松原 隆司, 市川 一仁, 東山 洋
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 892-900
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    近年,扁平上皮癌の診断にΔNp63(p40)の免疫染色検査が行われている.これまでに肺扁平上皮癌に対する有用性が多数報告されており,徐々にその他の癌腫における有用性も報告されている.今回,我々は膵腺扁平上皮癌の3切除例に対してΔNp63の免疫染色検査を行い,その有用性を検討した.症例1は71歳の男性で,膵体部癌の診断で膵体尾部切除を施行した.症例2は81歳の女性で,膵頭部癌の診断で幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行した.症例3は55歳の男性で,膵尾部癌の診断で膵体尾部切除を施行した.いずれの症例も病理組織学的診断は膵腺扁平上皮癌であった.全3例にΔNp63の免疫染色検査を追加し,3例とも扁平上皮癌成分が陽性となった.分化傾向が不明瞭で,HE染色では成分の判別が困難な部位でも扁平上皮癌成分の混在が認識できた.膵腺扁平上皮癌の診断においても,ΔNp63の免疫染色検査は有用と考えられた.

  • 仁科 勇佑, 森 治樹, 三宅 亨, 谷 総一郎, 植木 智之, 飯田 洋也, 貝田 佐知子, 清水 智治, 和田 康宏, 谷 眞至
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 901-907
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    症例は65歳の女性で,膀胱瘤に対する腹腔鏡下仙骨膣固定術の際に偶発的に小腸漿膜面に白色腫瘤を認めた.その後,腹部造影CT,小腸内視鏡および下部消化管内視鏡で異常所見を認めず,小腸腫瘍の診断にて腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した.病理組織学検査で膠原線維を伴う紡錘形細胞,散在する石灰化と形質細胞やリンパ球などの炎症細胞浸潤がみられた.免疫染色検査でFactor XIIIa陽性の紡錘形細胞を認め,calcifying fibrous tumor(以下,CFTと略記)と診断した.術後9か月経過した現在,無再発で外来通院中である.小腸原発のCFTの報告はまれである.

  • 足立 陽子, 鶴田 雅士, 岡林 剛史, 茂田 浩平, 清島 亮, 池端 昭慶, 森田 覚, 須河 恭敬, 亀山 香織, 北川 雄光
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 908-915
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    症例は73歳の男性で,原発性十二指腸癌(T3N1M0 Stage IIIA)に対して前医で十二指腸空腸部分切除術を施行された.術後9か月のCTにて下部直腸の右腹側に腫瘤を指摘され,3か月後の検査でも増大傾向であったため,十二指腸癌術後再発が疑われ,精査加療目的に当院に紹介受診した.当院で追加したPETでもFDGの集積を認め,十二指腸癌の再発が強く疑われたが,単発であったことから切除可能と判断し,腹腔鏡補助下低位前方切除術(D3郭清)を施行した.病理組織学的検査では,十二指腸癌の直腸転移という診断であった.十二指腸癌の他臓器転移は非常にまれであることから標準化された治療方針はない.単発であった場合に外科切除は選択の一つとして許容できるものと考えられた.

  • 家根 由典, 肥田 仁一, 幕谷 悠介, 牛嶋 北斗, 吉岡 康多, 岩本 哲好, 大東 弘治, 所 忠男, 上田 和毅, 筑後 孝章, 諸 ...
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 916-924
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    症例は56歳の男性で,15年前より痔瘻と診断され近医で加療されていた.難治性痔瘻増悪の診断で当科を紹介受診された際には,殿部から陰囊および陰茎にかけて多数の瘻孔と排膿が認められた.肛門管後壁の瘻孔からの生検にて痔瘻癌と診断した.また,腸管同士の瘻孔形成を認め,尿道・膀胱への瘻孔形成が疑われた.痔瘻は広汎かつ深部に及び,会陰部の炎症が強いため,まずS状結腸人工肛門造設術を行い,全身状態と会陰部の炎症所見を改善させたうえで,外性器を含む広汎な会陰皮膚組織切除を伴う骨盤内臓全摘を行い,会陰欠損部に対して腹直筋皮弁形成術を施行した.現在,術後19か月無再発生存中である.本例のように,腸管や尿道・膀胱への浸潤に加え,広汎な会陰部の皮膚浸潤が疑われる局所進展痔瘻癌に対しては,根治のために外性器切除を含めた広範囲の一塊切除が必要であると考えられる.

特別報告
  • 岡村 圭祐, 平野 聡
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 925-931
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    手術後に手術記録を作成することは,診療録の一部として法律上必要な書類である以外に,手術で知りえた情報を正確に残す意味がある.手術記録は医師のみならず医療スタッフにも広く情報として伝達され,理解される必要がある.手術記録には,術前のkey画像,術者,合併切除臓器や再建方法を含めた過不足ない術式,手術時間,出血量などの手術情報と,文章による手術手順の説明,イラストによる術野の描写を含むことが必須である.イラストは鉛筆による下書きの後に,製図用サインペンで描き,十分な余白に説明を書き込む.きれいな術中写真を並べたとしても,一場面の切り抜き像では臓器全体や臓器同士の重なりの認識が困難であったり,運針などの“動き”を表すことが不可能であり,イラストに勝るものではない.ドレーン挿入部や皮膚切開の位置と長さ,臓器の切離部位も文章で書くより,イラストで示すことで一目瞭然となる.誰もが読みたくなるような手術記録は,医療チームの技術や質の向上につながると考える.

  • 工藤 宏樹, 長谷川 潔
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 11 号 p. 932-943
    発行日: 2020/11/01
    公開日: 2020/11/28
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    若手の肝胆膵外科医にとって,術前にシェーマを描いて手術のシミュレーションを行っておき,手術のシェーマを術後に思い出しながら描くことを極力習慣づけることが大事である.特に肝臓は立体臓器としての側面が色濃く反映される臓器であり,肝切除においては,手術戦略上重要で個々の症例で解剖や形状が異なる要素が豊富にある.定型化した手術シェーマのみでは,手術のポイントを十分に記録に残せないこともあり,その場合は自前でシェーマを描くことが求められる.自分の担当でない手術のスケッチをする鍛錬を行い,術前,術後ともシェーマを描く作業を繰り返すことが,若手の肝胆膵外科医が熟練した肝胆膵外科医になるまでに経る研鑽の一過程であると考えられる.術前に想定したvirtualな景色が手術中に広がれば,手術がずっと楽しくなり,動的なシェーマも描けるようになり,ひいては手術そのものの技量も向上するはずである.

編集後記
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