日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
経皮的ドレナージで治癒した十二指腸潰瘍穿通による広範な後腹膜膿瘍の1例
川島 圭佐藤 渉石部 敦士小坂 隆司土屋 伸広佐藤 圭宮本 洋國崎 主税秋山 浩利遠藤 格
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2020 年 53 巻 12 号 p. 960-967

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Abstract

患者は62歳の男性で,5日前からの発熱,嘔吐,下痢を主訴に来院した.腹部造影CTで,十二指腸周囲の遊離ガス像と,十二指腸背側から骨盤内に及ぶ広範な液体貯留を認めた.十二指腸潰瘍穿通による後腹膜膿瘍と診断し,加療目的に入院となった.抗菌薬投与および経皮的ドレナージによる治療の方針とし,第3病日に右骨盤背側の膿瘍腔にCTガイド下にドレーンを挿入した.膿瘍腔が広範に及んでいたため,約1週間ごとのドレーン交換を必要としたが,ドレナージにより血液検査所見の改善および膿瘍腔の著明な縮小を認めた.第21病日に上部消化管造影検査により穿孔部の閉鎖を確認し,経口摂取を開始した.第42病日に施行したドレーン造影により膿瘍腔の消失を確認できたため,同日ドレーンを抜去し,第45病日に軽快退院した.十二指腸潰瘍穿通による後腹膜膿瘍は経皮的ドレナージによる保存的治療が奏効する場合もあり,治療選択肢の一つとなりうる.

Translated Abstract

A 62-year-old male presented with fever lasting for 5 days, vomiting, and diarrhea. Abdominal enhanced CT revealed intraperitoneal gas around the duodenum and abscess formation extending throughout the retroperitoneal space from the posterior of the duodenum into the pelvic. These findings led to a diagnosis of retroperitoneal abscess with duodenal ulcer penetration. Treatment with percutaneous drainage and antibiotics was used. CT-guided drainage of the abscess cavity of the right pelvic region was performed on the 3rd hospital day. Exchange of the drainage tube was needed several times because the abscess cavity was extensive, but the drainage was effective. An upper gastrointestinal series performed on the 21st hospital day showed closure of the penetration site, and oral intake was started on the same day. X-ray fluoroscopy performed on the 42nd hospital day indicated complete resolution of the abscess cavity, and the drainage tube was removed. The patient was discharged on the 45th hospital day. Conservative management for penetrating duodenal ulcer with retroperitoneal abscess formation is less invasive than surgery and may be a treatment option for patients with stable vital signs.

はじめに

さまざまな制酸薬の進歩により十二指腸潰瘍の発生頻度は減少したものの依然として日常診療で時折経験する重要な疾患である.従来は潰瘍穿孔から腹膜炎に至った症例は緊急手術の適応になることが多かったが,最近では保存的治療が選択される場合も多い1).しかし,十二指腸潰瘍穿通により後腹膜膿瘍を呈する症例は比較的まれであり2),その治療方法については一定の見解は定まっていない.今回,経皮的ドレナージにより治癒した十二指腸潰瘍穿通による広範な後腹膜膿瘍の1例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:62歳,男性

主訴:発熱,嘔吐,下痢

既往歴:約1年前に十二指腸球部潰瘍(崎田分類A1)を指摘され,Helicobacter pylori除菌治療およびproton pump inhibitor(以下,PPIと略記)投薬による加療歴があるが,今回の発症約1か月前より自己判断により休薬していた.

併存疾患:高尿酸血症,脂質異常症

内服歴:ボノプラザンフマル酸塩錠20 mg

喫煙歴:10本/日(20~30歳)

飲酒歴:機会飲酒

現病歴:5日前から続く発熱,嘔吐,および下痢を主訴に当院消化器内科を受診した.腹部造影CTでは,十二指腸周囲の遊離ガス像,十二指腸下行脚背側から右骨盤内に及ぶ広範な液体貯留を認めた(Fig. 1a, b).CT所見および臨床経過より十二指腸潰瘍穿通による後腹膜膿瘍が疑われたため,精査加療目的に当科入院となった.

Fig. 1 

Enhanced abdominal CT scans (a: coronal plane, b: axial plane)and an endoscopic image (c). a: An extensive retroperitoneal abscess extending from behind the duodenum to the right pelvic cavity (white arrowheads). b: Extraluminal air around the duodenum (white arrowheads). c: Pus was discharged from the perforation site at the posterior wall of the second portion of the duodenum (white circle).

入院時現症:体温36.8°C,血圧101/73 mmHg,脈拍111回/分.腹部は平坦で圧痛・反跳痛を認めなかった.

入院時血液検査所見:白血球数17,500/μl,CRP 17.54 mg/dlと炎症反応の上昇を認めた.また,ヘモグロビン量8.7 g/dlと貧血を認めた.その他特記すべき異常所見はみられなかった.

入院後経過:第2病日に透視下上部消化管内視鏡検査を施行したところ,明らかな憩室は存在せず十二指腸下行脚背側に穿通部位を認め,管腔内に膿汁排出を伴っていた(Fig. 1c).以上のことから,十二指腸潰瘍穿通に伴う後腹膜膿瘍と診断した.バイタルサインが安定していたことから,経皮的ドレナージ,絶飲食,抗菌薬(ピペラシリン・タゾバクタム)投与,PPI投与による保存的加療の方針とした.第3病日に,CTガイド下ドレナージを施行した.穿刺ルートの安全性を考慮し,まずは右骨盤内の膿瘍腔にピッグテールカテーテルを留置した(Fig. 2a).ドレナージは良好であり,黄白色の膿汁の排液を認めた.細菌培養検査はAerobic Gram-positive bacillus,α-hemolytic Streptococcusであった.ドレナージおよび抗菌薬投与に反応して炎症反応は速やかに改善を認め,第10病日には白血球数8,400/μl,CRP 1.19 mg/dlまで改善を得た(Fig. 3).第13病日に,穿孔部の評価を目的として,十二指腸下行脚に挿入したelemental diet(以下,EDと略記)チューブより造影を行うと,造影剤の腸管外への漏出を認めた(Fig. 2b).経腸栄養目的にEDチューブ先端を穿孔部以遠の空腸内に留置し,同日より経腸栄養を開始した.また,透視下に骨盤内の膿瘍腔からガイドワイヤーを先進させることで,穿通部位と連続する十二指腸背側の膿瘍腔内に内瘻化チューブを留置しえた(Fig. 2c).第21病日に施行した上部消化管造影検査により,穿通部の閉鎖を確認できたため同日より経口摂取を開始した.第28病日のドレーン造影では,十二指腸背側の膿瘍腔はほぼ消失しており,膿瘍腔は盲腸背側に残存するのみであった(Fig. 2d).盲腸背側の膿瘍腔に対しては,ピッグテールカテーテルの追加により膿瘍が消失したため,第42病日にはドレーンを全て抜去し,第45病日に軽快退院となった.

Fig. 2 

Fluorogram. a: A pig tail catheter was inserted into the right pelvic abscess cavity (white arrowheads). b: Leakage of the contrast medium injected through the ED tube (white circle). c: A drainage tube was placed in the abscess cavity behind the duodenum and directly connected to the perforation site (white arrowheads), and an ED tube was placed at the jejunum (white circle). d: The abscess cavity behind the duodenum disappeared and the cavity barely remained behind the cecum (white arrowheads).

Fig. 3 

Clinical course. CRP: C reactive protein, WBC: white blood cell, PIPC/TAZ: piperacillin/tazobactam, TPN: total parenteral nutrition.

考察

十二指腸潰瘍穿孔から後腹膜膿瘍形成に至る症例は比較的まれであり,Altemeierら2)は後腹膜膿瘍189例のうち十二指腸潰瘍穿孔によるものは2例(1.1%)であったと報告している.「医学中央雑誌」で1964年から2019年の期間で「十二指腸潰瘍」,「後腹膜膿瘍」をキーワードに検索しえたかぎりでは,十二指腸潰瘍による後腹膜膿瘍は本邦では自験例を含めて13例のみであった(Table 11)3)~13).年齢中央値は62歳(15歳~78歳),性別は1例を除き全て男性,穿孔の部位は記載のある12例中,球部5例(41%),上十二指腸角1例(8%),下行脚4例(33%),水平脚1例(8%),下十二指腸角1例(8%)で,後壁10例(83%),前壁2例(17%)であり,下行脚以遠のものが半数を占めていた.通常,十二指腸潰瘍穿孔の多くが球部前壁に生じるのに対し6),下行脚以遠では後壁の穿孔が多い傾向にあり,解剖学的に後腹膜膿瘍を生じやすいことが示唆された.

Table 1  Reported cases of retroperitoneal abscess due to duodenal ulcer (1964–2019)
No. Author Year Age/Sex Chief complaints Location of ulcer
Ant/Post
Portion Treatment Hospital stay
1 Suzuka3) 1994 15/M Right flank pain Post 1st Operation (DG B-II) 32
2 Meguro4) 2001 71/M Vomiting, upper abdominal pain Post 1st Operation (DG B-II) 51
3 Hutamura5) 2005 48/M Abdominal pain Ant SDA Operation (Open drainage+omental implantation) 81
4 Tsukuda6) 2007 60/M Vomiting Post 2nd Conservative treatment (Antibiotics+PPI) 17
5 Ishibashi7) 2009 64/M Upper abdominal pain Post 1st and 2nd Operation (DG B-II)
Reoperation (Open duodenostomy)
53
6 Gon8) 2009 52/M Abdominal pain Ant 1st Operation (Open omental implantation)
Reoperation (Open drainage)
49
7 Yamada9) 2012 60/M Upper abdominal pain Post 4th Operation (Open simple closure) 44
8 Fujishiro10) 2012 63/M Fever, abdominal pain Post 2nd Operation (Open drainage) 30
9 Sadatomo11) 2013 71/F Appetite loss, abdominal pain Post 3rd Operation (Open duodenectomy) 40
10 Sakurai12) 2014 57/M Upper abdominal pain, back pain Unkn Unkn Operation (Laparoscopic drainage) 30
11 Sato13) 2017 78/M Fever, upper abdominal pain Post 1st Percutaneous drainage
+Antibiotics+PPI
94
12 Kato1) 2018 64/M Right flank pain Post IDA Endoscopic drainage 21
13 Our case 62/M Fever, diarrhea Post 2nd Percutaneous drainage
+Antibiotics+PPI
45

SDA: superior duodenal angle, IDA: inferior duodenal angle, Unkn: unknown, DG: distal gastrectomy, B-II: Billroth II reconstruction, PPI: proton pump inhibitor

治療方法としては,13例中9例(69%)で手術療法が選択されており,保存的治療により治癒した症例は自験例を含めて4例(31%)であった.手術を施行した症例と,保存的治療のみの症例とで,年齢,性別,併存疾患などの患者背景については明らかな傾向は認めなかった.手術例では,穿通部位が大きく脆弱なため単純閉鎖ができずに胃切除や十二指腸切除といった比較的高侵襲な手術が行われた症例が多くみられた.また,手術施行例のうち2例(開腹幽門側胃切除施行例7)および開腹大網充填術施行例8))では,それぞれ術後腹腔内膿瘍,術後縫合不全を合併し,再開腹手術を要していた.

また,穿孔部位ごとにみると,球部および上十二指腸角での穿孔は6例中3例が胃切除術,2例が大網充填による穿孔部閉鎖であるのに対して,下行脚以遠での穿孔では6例中4例が内視鏡的,経皮的,または開腹手術によるドレナージであった.下行脚以遠の穿孔で外科的手術を選択した場合,穿孔部へのアプローチに十二指腸の授動を必要とし,穿孔部位・程度によっては縫合閉鎖が困難な場合があることから手術の難易度や侵襲が高くなることが懸念される.下行脚以遠の潰瘍穿孔の症例に対して外科的に穿孔部閉鎖を施行した報告では,穿孔部位の炎症性変化から単純閉鎖が困難で十二指腸水平脚部分切除が施行された症例14)や,穿孔部単純閉鎖術後の縫合不全に対して再手術により空腸パッチ術および幽門閉鎖術を要した症例15)など,いずれも高侵襲な手術を必要としていた.穿孔部閉鎖が困難な十二指腸穿孔の症例では,穿孔部へのアプローチではなく,経鼻胃管チューブ留置やTチューブ留置など減圧による治療が安全とする報告もあり16),下行脚以遠の潰瘍穿孔に対する治療方針選択においては念頭に置く必要があると考えられる.

入院期間中央値は,手術では44日(30~81),保存的治療では33日(17~94)と保存的治療の方が短い傾向にあった.また,発症様式について比較すると,手術施行例と保存的治療例で,発症から3日以内に受診に至った急性の経過をたどった症例は,それぞれ6例(67%),1例(25%),受診時のWBC中央値は,それぞれ12,100/μl(6,500~22,400),9,100/μl(8,100~12,600)であり,保存的治療を施行した4例は,手術施行例と比較してより緩徐に発症し,炎症反応も軽度であったと推測された.

上部消化管穿孔に対してはかつて開腹胃切除が標準治療とされており,本邦では1990年代後半頃より徐々に抗菌薬およびPPIによる保存的治療が一般的となってきた経緯がある.今回検討した13例においても,報告年の新しい症例では手術を回避した症例が多く,2009年までの6例のうち保存的治療が行われたのは1例(16%)のみであるのに対し,2010年以降の症例では7例中3例(43%)で保存的治療が行われており,interventional radiology(IVR)の発達やPPIの普及に伴う上部消化管潰瘍の標準治療の変遷を反映しているものと考えられた.現在は,十二指腸潰瘍穿孔の治療方針に関して,日本消化器病学会の指針では,①24時間以内の発症,②空腹時の発症,③重篤な合併症がなく全身状態が安定,④腹膜刺激症状が上腹部に限局,⑤腹水貯留が少量,を満たす70歳以下の症例は保存加療の適応とされる17).自験例では,膿瘍形成を伴い比較的緩徐な臨床経過であり,24時間以内の発症,空腹時の発症の2点は満たさないものの,全身状態は安定し,腹膜刺激症状を認めず,腹水貯留も明らかではなかった.加えて,穿通部位が下行脚に存在したこと,発症から時間が経過し周囲組織の脆弱化により広範囲な十二指腸切除が必要になることが危惧されたことから,保存的治療を選択した.消化性潰瘍穿孔に対する内科的治療は一般的に絶飲食,補液,抗菌薬およびPPI投与に加えて,経鼻胃管留置が行われる17).本症例でも,入院時より絶食補液管理,抗生剤投与,PPI投与を開始した.入院時に施行した造影CTで胃内容物の貯留を認めなかったこと,上部内視鏡検査所見で穿孔部が小さかったことから,経鼻胃管による持続吸引の必要性は低いと判断し,経鼻胃管の留置は行わなかった.また,絶食管理中の栄養療法に関して,本症例では第3病日にCVカテーテルによる中心静脈栄養を開始し,第13病日にEDチューブによる経腸栄養を開始し,経口摂取を開始できたのは第21病日であった.絶食患者の栄養療法に関しては,早期の経腸栄養の開始が感染症をはじめとした合併症を減少することが示されてきた18).上部消化管穿孔手術後の縫合不全症例について検討した報告では,経静脈栄養のみで管理された症例と比較して,早期に経腸栄養を開始した症例で縫合不全の閉鎖が早いことが報告されている18).本症例を振り返ると,より早期の経腸栄養開始が望ましかったと反省している.また,ダブルルーメン構造をもつW-EDチューブを使用すれば,腸管の減圧と経腸栄養を両立することも可能となる.上部消化管術後の縫合不全などにおいては,W-EDチューブの有用性が報告されており,十二指腸潰瘍穿孔に対する保存的治療においても,腸管の減圧と経腸栄養の併用を必要とする症例では選択肢となりうると考えられる19)

また,上部消化管潰瘍に対する治療として,近年,over-the-scope clip(以下,OTSCと略記)をはじめとした内視鏡的穿孔部閉鎖が選択されることもある.Weiら20)は,15 mm以下の消化性潰瘍の症例においては,OTSCによる穿孔部閉鎖が経口摂取再開までの期間短縮に有用であったと報告している.しかし,本症例では,穿孔部口側の十二指腸が瘢痕性の狭窄を来しており,9 mm径の内視鏡スコープがかろうじて通過可能な状況であった.狭窄により手技が困難であること,内視鏡的縫縮によりさらなる狭窄を来す可能性があることなどを考慮し,内視鏡的アプローチは困難と判断した.

本症例では,画像所見から,骨盤内の膿瘍腔には比較的安全にアプローチできる穿刺ルートがあったため,経皮的ドレナージの方針とした.膿瘍は広範に及んでいたが,単房性であったため,単一の刺入孔から透視下にドレーン交換を行うことで,良好なドレナージが得られた.自験例のほかにも,保存的治療を行った症例のうち2例は経皮的または経十二指腸的なドレナージによりいずれも合併症なく治癒に至っている.

一方で,十二指腸潰瘍穿通による後腹膜膿瘍は,膿瘍内に組織障害性の強い胃酸,膵液,胆汁を含みうるため,ドレナージだけでなく穿孔部閉鎖が重要とする報告もある1).また,穿刺ルートに血管や臓器が介在し,安全に経皮的ドレナージを施行できない症例や,膿瘍に隔壁があり十分なドレナージが困難な症例など,手術を回避できない症例もある.ドレナージ不良により炎症反応の増悪や全身状態の悪化を認めることもあることから,早期の外科的治療への移行が重要とする報告もある21).消化性潰瘍診療ガイドラインにおいても,保存的治療の適応を満たさない症例や,保存的治療により改善が得られない症例においては,腹腔洗浄ドレナージ,穿孔部閉鎖および大網被覆による外科的治療が推奨されている17).保存的治療を行う場合は,慎重に適応を選んだうえで施行すべきであり,ドレナージ後の経過を注意深く観察する必要があると考えられた.

十二指腸潰瘍穿通による膿瘍形成例の保存治療の適応については,症例ごとに慎重に治療方法を決定する必要があるが,全身状態が安定していること,膿瘍腔が単房性であることなどの条件を満たす症例は,経皮的ドレナージによる保存的治療により安全に治療しうると考えられた.

本論文の内容は消化器病学会関東支部第355回例会で発表したものである.

利益相反:なし

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