日本消化器外科学会雑誌
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編集後記
編集後記
上野 秀樹
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2020 年 53 巻 3 号 p. en3-

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新型コロナウイルスの世界的な感染拡大には収束の気配が見えず,3月11日には世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言したと報道されました.ウイルス感染は南極を除く全大陸で確認され,その感染者は11万人を越え4000人以上の方が他界されたとのことですので,世界的な視野でも近年まれに見る一大事です.厚生労働省が対ウイルス対策の基本方針を打ち出す中,私の勤務する病院でも今後の感染患者数の増加などを見据え,外科病棟の縮小が図られております.手術制限の可能性も囁かれており,入院待ちの患者さんの数を睨みつつ不安を募らせている現状です.

一方,新型コロナウイルスは医療以外にも思わぬ影響を与えています.日本中で各種のイベントが自粛される中,私の予定帳にも学会・研究会などに「中止」「延期」の印が目白押しです.先日の新聞にテレワークに関する記事が掲載されていました.働き方改革の一環として政府がこの普及を推進する方向性には賛否両論ありましょうが,政府の思惑とは別に,テレワークの導入が一気に加速する気配もあるそうです.目下のウイルス禍の思わぬ産物である「時間の余裕」に戸惑いつつも,ご家族との会話や,腰を落ち着けて文字を目で追う時間を享受されている先生方も多くおられるのではないでしょうか.

さて,今月の第53巻3号には症例報告8編と特別企画「オペレコを極める」の原稿4編が掲載されています.各ご施設の先生方が渾身の力を込めて書き上げられ,複数の編集委員が全力で査読をさせていただいた力作ばかりです.「一押し論文」として,『回腸瘻造設と腸管洗浄で救命した横行結腸癌および胃癌術後劇症型Clostridium difficile腸炎の1例』を選ばせていただきました.一生に一度経験するかどうかといった症例報告が並ぶ中,CD腸炎は消化器疾患を専門とする医師にとっては縁遠い疾患ではありません.その劇症型を手術適応と判断せざるをえない場面に直面した際,この症例報告は我々外科医の選択の引き出しを増やしてくれる教育的な内容であると思います.ぜひ,ご一読ください.

1995年に公開された映画「アウトブレイク」ではダスティン・ホフマン演じるサム・ダニエルズ大佐が単独の英雄的行為でサルの血清から抗ウイルス薬を完成させるわけですが,新型コロナウイルスに対しては世界中の研究者が治療法の開発に尽力されており,近く抗COVID-19ワクチンの臨床試験も始まる見通しとのことです.特効薬が登場し,街のコンビニに見慣れたマスクが並ぶ平穏な日々が戻るまで,皆様,くれぐれも健康にご留意のうえお過ごしください.

 

(上野 秀樹)

2020年3月16日

 

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