2020 年 53 巻 7 号 p. 605-611
腹腔鏡手術では,術中の触診や俯瞰的視野を得ることが開腹と比較して困難なため,各々の症例に対する術前の正確な局所進行度診断と周囲臓器や関連血管を含めた立体的解剖の把握が大切である.よって,手術記録の図を作成する場合には各々の血管・臓器・神経の位置関係や距離感が把握しやすく立体構造として認識しやすいように,できるかぎり一連の図で俯瞰した手術記録図を描くことに留意しているとともに,術前予想と違った部位を再度画像やビデオを見て確認し,次回の症例に対してより正確な解剖を頭の中で構築できるように努めている.なお,術中の各場面の助手や術者としての手術操作については各症例を5~10分程度にまとめたビデオを作成することで整理している.
本邦での後方視的研究によると,下部直腸癌症例の16~23%に側方リンパ節転移が存在する1).また,明らかな側方リンパ節転移のない症例を対象としたJCOG0212試験で,短期成績では側方リンパ節郭清の安全性が証明され2),長期成績では直腸間膜切除(ME)の側方郭清(ME+LLND)に対するME単独療法の非劣性は証明されなかった3).『大腸癌治療ガイドライン(医師用(2019年))』では,術前または術中診断にて側方リンパ節転移陽性の場合は側方郭清を行うことを強く推奨(推奨度1),転移陰性の場合は生存改善効果は限定的ではあるものの局所再発の抑制効果が期待できるため行うことを弱く推奨(推奨度2)とされている1).現時点では側方郭清を省略できる症例の基準は明らかではない.高解像度MRIを用いた側方転移診断基準の確立に関する大腸癌研究会の多施設研究が進行中であり,この研究の成果が待たれるところではあるが,現状では側方リンパ節郭清術は習得すべき必須の手技である.当院(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター消化器外科)における側方リンパ節郭清の適応基準は①SS/A以深かつ腫瘍下縁が腹膜翻転部より肛門側,②RaであってもN1(+)の場合としている.郭清領域は,従来から本邦で行われている側方郭清は『大腸癌取扱い規約』でのNo. 263D,No. 263P,No. 273,No. 283,No. 293を対象としているが,当院ではNo. 263D,No. 263P,No. 283の一括郭清を主としている.但し術前診断で,それ以外の領域に転移リンパ節を伴う場合は郭清を追加している.
側方リンパ節転移を伴う局所進行直腸癌では,骨盤内周囲臓器や血管への癒着・浸潤を認める場合がある.手術を行わずに放射線化学療法などで治療した場合,約1年生存可能な患者は約33%4)~7)であるのに対して,根治的拡大手術を施行した患者の5年生存率は約50%8)9)と報告されている.また,米国国立がん研究所(National Cancer Institute;NCI)や米国結腸・直腸外科学会(The American Society of Colon and Rectal Surgeons;ASCRS)のガイドラインでは,腫瘍と付いている臓器を剥離すると高率に断端陽性となることや浸潤の有無を診断するのは困難であるという理由から「腫瘍と接していたり浸潤を受けている臓器を認める場合は,一括切除をすることで根治的切除を得られる」とされている10)~13).
アプローチ方法として当院では骨盤内臓全摘術を含めた全症例に対し,原則腹腔鏡下手術を適用している.腹腔鏡下手術の利点として,拡大視効果による精緻な手術手技を可能にすることと開腹手術と比較して術後合併症が減少する傾向を認めることが挙げられる14)15).
本稿では,当科で経験した左内陰部動脈合併切除,左側方郭清術を伴う腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術について概説する.
検診にて便潜血陽性のため前医受診し手術目的に当科紹介受診,病変は直腸診にてAV 3 cmの直腸前壁に存在する4 cm大の可動性良好な腫瘍であった.腫瘍下縁が歯状線よりも肛門側であったために腹会陰式直腸切断術の方針とし,術前MRIで腫瘍は外肛門括約筋に浸潤していないと判断し,外肛門括約筋外側を一部残す層で切離切開を行う方針とした.また,左内腸骨リンパ節転移疑いであったため治療的両側側方リンパ節郭清術をお薦めしたが,ご本人のご希望にて左側方リンパ節郭清術のみの方針となった.精査にて直腸癌(Rb-P,type2,40 mm,tub1>tub2,cT3N3M0,cStage IIIc)と診断した.
①ポート留置(Fig. 1)

The port placement for laparoscopic surgery.
・全硬麻下,砕石位にて手術を開始した.
・臍正中3.0 cm切開し,Lap Protector(M)を装着後,E・Zアクセス®を装着,12 mm trocar×1を挿入した.腹腔鏡は10 mm軟性鏡(オリンパス)を使用した.右下腹部に12 mm,右上腹部と左上下腹部に各々5 mm trocarをそれぞれ1本ずつ挿入した.腹腔内を観察するに肝転移や腹膜播種は認めなかった.
②S状結腸の授動と郭清
・S状結腸内側より大動脈分岐部~右直腸側溝を確認し,S状結腸から直腸の間膜を腹側に牽引した.岬角付近から直腸間膜の右側腹膜を切開した.血管茎を含んだ腸間膜を腹側に挙上しながら,下腹神経前筋膜を背側に落とし上下腹神経叢を温存するように,直腸固有筋膜と下腹神経前筋膜の間を剥離切開した.
・Inferior mesenteric artery(以下,IMAと略記)右側沿いに尾側と頭側へ切開ラインを広げ腰内臓神経を確認温存しつつ,IMAをダブルクリッピング切離した.IMAと同じ高さでinferior mesenteric vein(IMV)・left colic artery(LCA)をクリッピング切離した.腎前筋膜を背側に落とし,左尿管・左精巣動静脈を温存しつつ腸間膜背側の剥離を腹膜の折れ返りまで進めた.
・外側よりwhite lineに沿って腹膜を切開し内側アプローチの剥離層と連続させた.
③直腸授動(Fig. 2)

Perirectal fascia composition.
・S状結腸から直腸の間膜を腹側に牽引し,直腸間膜の左側腹膜を切開した.直腸固有筋膜と下腹神経前筋膜の間を尾側に広げ,左右下腹神経,上下腹神経叢は温存し,下腹神経から分岐する直腸枝は切離した.
・前壁はDenonvilliers筋膜を切離する層で剥離を行い,後方と側方は直腸固有筋膜と下腹神経前筋膜の間の層で,尾側は肛門挙筋を同定し,hiatal ligamentを切離し一部肛門挙筋を切離した.
・口側腸管切離予定部で直腸間膜を処理しEchelon Gold 60 mm®を用いて腸管切離を行った.
④会陰操作(Fig. 3)

Anal canal.
・肛門を1-0絹糸で縫合閉鎖し,両坐骨結節・会陰腱中心,尾骨の各内側を通る紡錘形の皮切をおいた.
・尾骨先端を触知し,尾骨内側で腹腔内と交通させて,肛門挙筋を同定し左右に切り上げ側壁も腹腔内と交通させた.
・S状結腸を会陰側に脱転し,浅会陰横筋,直腸尿道筋を切離し標本を肛門より摘出した.会陰創を2-0PDSと3-0vicrylで閉鎖後,4-0PDSで真皮縫合閉鎖した.
⑤左側方郭清(Fig. 4A~C)

Intraoperative view after lateral pelvic lymph node dissection (LPLD). a: Full view of the pelvis after left LPLD. b: Internal and external iliac vessels in the left pelvis. c: Dissection in the left obturator fossa.
・左右総腸骨動脈分岐部・内外腸骨動脈・左尿管を同定した.
・尿管外側を尿管下腹神経前筋膜に沿って膀胱まで剥離し,#263P/Dの内側縁を決定した.内外腸骨動脈分岐部から外腸骨動脈前面を切開露出し,輸精管を尾側剥離の指標として腹膜を切開した.外腸骨静脈の前面~内側を剥離し大腰筋・内閉鎖筋・肛門挙筋腱弓を#283外側縁とした.
・閉鎖孔付近にて閉鎖神経を温存した.坐骨神経・仙骨神経も損傷なく温存した.中枢は内外腸骨静脈の分岐部にて閉鎖神経を同定温存した.内腸骨動脈から分岐する腸腰動脈・上殿動脈を同定し,温存した.
・術前画像検査にて内腸骨動脈周囲のリンパ節転移を疑っていたために内陰部動脈合併切除の方針とし,内腸骨動脈は臍動脈索・上膀胱動脈が分岐した後でクリッピング切離し,末梢も全てクリッピング切離した.内腸骨静脈系は転移リンパ節浸潤による#263#283と癒着を認めず,閉鎖静脈以外は全て温存した.また,伴走するリンパ管もクリッピング切離し#263/283を一塊として摘出した.
・全体の俯瞰図をFig. 5に示す.

Bird’s-eye view of the anatomy.
⑥人工肛門造設・閉腹
・後腹膜経路にて単孔式S状結腸人工肛門を左下腹部に造設した.
・出血・異物のなきことを確認し創部閉創,骨盤底ドレーン留置し手術終了した.
術後診断:直腸癌(Rb-P,type 2,38×32 mm,tub1>tub2,sT2N3H0P0M0,sStage IIIb,PM0(240 mm),DM0(40 mm))
手術時間:7時間38分
出血量:40 ml
輸血:なし
局所進行直腸癌に対して腹腔鏡下骨盤内拡大手術を行う場合は,根治を目指した手術を行うべきであるため,術前の正確な局所進行度診断や自律神経・血管を含めた解剖の把握に基づいた,症例に応じた念密な切離ラインをチームで計画し遂行していくことが重要であると考えられる.
利益相反:なし