2021 年 54 巻 7 号 p. 490-496
症例は39歳の男性で,2011年に左上腕悪性黒色腫に対して腫瘍切除術を施行されており,肺・脳転移による再発に対してニボルマブにて治療されていた.2017年7月,腹痛を自覚し当院へ救急搬送された.身体所見に関しては右季肋部に圧痛を認めた.造影CTにて複数の小腸重積によるtarget signを認め緊急手術の方針とした.腹腔鏡下に観察したところ,小腸の数か所に褐色の小腫瘤と複数の小腸重積を認めた.視触診にて8か所の腫瘤と5か所の腸重積を認めた.腸重積は全て腫瘤を先進部とし,それぞれ腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行した.病理組織診断にて腫瘍の異型細胞内にメラニン顆粒を認め,免疫染色検査にてS-100,Melan-A,HMB45染色がいずれも陽性であり,皮膚悪性黒色腫の小腸転移として矛盾のない所見であった.悪性黒色腫の小腸転移により同時性に5か所の多発腸重積を来した症例は非常にまれであり報告する.
A 39-year-old man underwent tumor resection for a left upper arm malignant melanoma in 2011, and was treated with nivolumab for recurrence in the lung and brain. In July 2017, he had an emergency check-up at our hospital because of a terrible abdominal pain in his right hypochondrium. Contrast-enhanced CT showed target signs suggesting multiple small intestinal intussusceptions, so we decided to perform emergency surgery. Upon laparoscopic observation, there were brown tumors and multiple small intestinal intussusceptions in several places in the small intestine. We finally confirmed 8 brown tumors and multiple intussusceptions in 5 places by palpation. All intussusceptions occurred due to the presence of tumors, and laparoscopy-assisted partial resection of the small intestine was performed. Histopathological diagnosis revealed melanin granules in atypical cells of the tumors, and immunostaining was positive for S-100, Melan-A, and HMB45. All these findings were consistent with small intestinal metastasis of cutaneous malignant melanoma. We report this case as a rare example of malignant melanoma with small intestinal metastases resulting in 5 multiple intussusceptions.
成人の腸重積症は全腸重積のおよそ5%程度とされ,小児の罹患数とは対照的に圧倒的に少ない1).成人腸重積症のうち小腸重積の割合は38%程度であり,その半数が悪性リンパ腫や転移性小腸腫瘍などの悪性腫瘍を原因とする1)~3).悪性黒色腫はしばしば小腸転移を来すとされるが,今回,同時性に5か所の腸重積を合併した症例を経験したため報告する.
患者:39歳,男性
主訴:腹痛
現病歴:2011年,左上腕の悪性黒色腫に対して腫瘍切除術を施行されたのち当院へ紹介され,底部断端不明のため同年に拡大切除および分層植皮術を施行された.病理組織診断によりmalignant melanoma,pT4aN0M0,pStage IIc(UICC/AJCC,第7版)と診断された.術後補助化学療法としてダカルバジン,ニムスチン,ビンクリスチン併用療法およびインターフェロンβ局注療法(DAV-Feron)を施行した.2015年に多発肺転移および2016年に脳転移,左眼球虹彩転移を認めたため,脳転移に対して開頭腫瘍摘出術および全脳照射を施行後,ニボルマブを開始し継続治療中であった.2017年7月,夜間に徐々に増悪する腹痛を自覚し,同日当院へ救急搬送された.
既往歴・併存症:肝破裂(10代に交通事故)
入院時現症:身長:180.5 cm,体重:74.5 kg
体温:36.7°C,脈拍:82回/分,血圧:121/71 mmHg,経皮的酸素飽和度:98%(室内気),腹部:平坦・軟,右季肋部に圧痛あり,反跳痛なし.
血液検査所見:WBC 7,900/μl,RBC 2.92×106/μl,Hb 6.5 g/dl,Ht 22.8%,Plt 447,000/μl,T.Bil 0.4 mg/dl,AST 12 U/l,ALT 8 U/l,LDH 234 U/l,CK 50 mg/dl,Cr 0.56 mg/dl,BUN 11 mg/dl,Na 139 mEq/l,K 3.4 mEq/l,Cl 105 mEq/l,TP 5.3 g/dl,Alb 2.9 g/dl,CRP 0.46 mg/dl
腹部単純X線検査所見:鏡面像など腸閉塞を疑う所見は認めなかった.
腹部造影CT所見:3か所のtarget signを認め,いずれも先進部に小腸腫瘍を認めた.腹水は認めなかった(Fig. 1a~c).
Contrast CT revealed wall thickening and three intussusceptions (white arrows: a, b, c) of the small intestine.
入院後経過:小腸腫瘍による多発腸重積症と判断し,緊急手術の方針とした.
手術所見:腹腔鏡下にて観察後に,観察および重積解除のために小開腹創をおいた.適宜腹腔鏡補助を用いながら,小開腹創から小腸を引き出し,全長にわたり観察した.計8か所に腫瘍を触知し,うち5か所で重積を認めた.全重積部を用手的に解除した.最長のものは40 cmの重積長であり,嵌入小腸は血流障害による虚血性の色調であった.重積長は口側から順に40 cm,4 cm,4 cm,4 cmであり,先進部腫瘍径は3 cm,2 cm,2 cm,2 cmであった.8か所の腫瘤のうち最大のものは腫瘍径6 cmで黒褐色を帯び漿膜下層まで浸潤を認めていた.その他の腫瘤に関しても腸重積再発・穿孔の危険性を考慮し,虚血域を含めて全て切除するように4か所の小腸部分切除術を施行し(Fig. 2a~d),それぞれリニアステイプラーを用いた機能的端端吻合を行った.切除腸管長は合計で278 cmであったが,300 cm以上の小腸長が残存することを確認した.手術時間は206分,出血量は50 mlであった.術後経過は良好であり,術後13日目に退院となった.
Photographs showed four intussusceptions of lengths 40 cm (a), 4 cm (b), 4 cm (c), and 4 cm (d).
摘出標本・病理組織診断結果:切除標本内には肉眼的に10か所の腫瘤を認めた.異型細胞内にメラニン顆粒を認め,免疫染色検査ではS-100(+),Melan-A(+),HMB-45(+)であり,皮膚悪性黒色腫の小腸転移で矛盾しない所見であった(Fig. 3a~d).
Ten tumors were found in the resected specimen (a, b). Subserosal infiltration was observed in one of the tumors. Melanin granules were encapsulated in atypical cells (c: HE, ×40). Immunostaining with HMB-45 was positive (d, ×100).
術後経過:術後,薬物治療を再開継続されたが,腸重積を含めた腸閉塞の再燃は認めなかった.術後約12か月にて原病の進行により死亡した.
成人の腸重積症自体は腸重積症全体の約5%を占めるとされる1).小児の腸重積は回盲部に好発する特発性がそのほとんどであるのと対照的に,成人腸重積症は約70%~90%が器質的病変を原因として発生する1)2).
成人腸重積症が同時性に多発することは非常にまれである.本邦において1964年から2019年までの期間の医学中央雑誌において「多発」AND「腸重積」をキーワードで検索した(会議録は除く)ところ,医原性を除いた多発腸閉塞で詳細の明らかなものは6例のみ4)~9)であった(Table 1).原因疾患の内訳は小腸平滑筋肉腫,Peutz-Jeghers症候群,小腸悪性リンパ腫,腎細胞癌小腸転移,特発性,多発小腸脂肪腫とさまざまであり,良悪を問わず小腸の多発性腫瘍は多発腸重積を来しうる可能性があると考えられた.1964年から2019年までの期間の医学中央雑誌において「悪性黒色腫」AND「小腸転移」をキーワードに検索したところ,いずれの症例報告も同時性2か所の腸重積のみであり,腫瘍を原因とした腸重積で同時性に5か所認めた症例は見られず,本報告が初めてである.また,本邦では本症例のような皮膚悪性黒色腫の消化管転移による多発腸重積は見られなかった.PubMed(1950年~2019年)で皮膚悪性黒色腫の消化管転移について,「multiple intussusception」,「malignant melanoma」で検索したところ,多発腸重積を来した症例で詳細が明らかなものは2例のみ10)11)であった.こちらに関しても皮膚悪性黒色腫の小腸転移により生じた同時性2か所の腸重積であり,本症例のように同時性に5か所の腸重積を来した症例は見られなかった.
No. | Author | Year | Age | Sex | Preoperative diagnosis | Histopathological diagnosis | Intussusception site | Number of intussusception | Treatment |
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1 | Fukuda4) | 2002 | 80 | Female | Intussusception | Leiomyosarcoma of the small intestine | jejunum | 2 | Partial enterectomy |
2 | Watanabe5) | 2006 | 30 | Female | Intussusceptions | Peutz-Jeghers syndorome | small intestine | 2 | Partial enterectomy |
3 | Yamakawa6) | 2008 | 69 | Female | Multiple intussusception | Malignant lymphoma of the small intestine | small intestine | 2 | Partial enterectomy |
4 | Tajima7) | 2009 | 78 | Male | Multiple intussusception | Small intestinal metastasis of renal cell carcinoma | jejunum, ileocecum | 2 | Partial enterectomy |
5 | Ogata8) | 2012 | 94 | Female | Intussusception | Idiopathic intussusception | jejunum | 2 | Reducton |
6 | Nishimura9) | 2015 | 64 | Male | Intussusception | Intestinal lipoma | small intestine | 2 | Partial enterectomy |
7 | Our case | 39 | Male | Multiple intussusception | Small intestinal metastasis of cutaneous malignant melanoma | small intestine | 5 | Laparoscopic assisted partial enterectomy |
転移性小腸腫瘍はまず粘膜下から増大し,ポリープ様もしくは潰瘍を形成してbutter cup様の形態をとる12)とされる.とりわけ悪性黒色腫では本症例のようなpolypoid patternが多く,Benderら13)によるとpolypoid pattern 63%,cavitary pattern 25%,infiltrating pattern 16%,exoenteric pattern 3%とされ,その約9割が内腔に突出する隆起性病変を来す.同じ管腔臓器で重積をしばしば来す大腸癌のデータでは重積を来す腫瘍形態は進行度に関係なく内腔へ突出する0~2型の隆起性病変が約9割を占める14)15)ことを考慮すると,内腔へ突出する隆起性病変が多いことおよび小腸は腸管の移動性が高いことから,悪性黒色腫の小腸転移は重積を来しやすい形態をとるといえる.ただし,多発腸重積に対する統計学的検討は今までの報告では成されておらず,その頻度や機序さらに臨床学的意義は不明である.岩下ら16)は転移性小腸腫瘍において腫瘍の最大径と症状の間には相関が見られ,小さいうちから閉塞症状を呈する群と大きくなっても閉塞を来さず下血により初めて見つかる群に分けられるとしている.これらは病理組織学的にも相違があり閉塞群では強い間質反応または重積の痕跡が認められるとしている.本症例ではこのような病理組織学的特徴を持つおよそ同径の2~3 cmの小腸腫瘍が多発したことで,多発腸重積を来したと推測される.また,本症例では術前CTにて同定可能であった腸重積は3か所のみであったが,実際の手術所見では5か所の腸重積が見られた.そのため,悪性黒色腫の患者が腸重積を合併した際には多発小腸転移を念頭におき,責任病変が複数あることを考慮して手術に臨むべきと考えられた.
悪性黒色腫はまれに胃,小腸,結腸などへの消化管転移を来し,出血・穿孔・腸重積・腸閉塞などの症状を来す17).その中でも小腸転移の頻度が最も高い17).剖検例では遠隔転移を有する悪性黒色腫患者のおよそ60%に消化管転移が見られた17)との報告があるが,生前での診断はおよそ4%前後に留まり18),多くの消化管転移は無症候性のため発見されにくいと考えられる.遠隔転移を生じた悪性黒色腫患者の予後は極めて不良であり,Barthら19)によると消化管転移の生存期間中央値と5年生存率は12.5か月,14%と報告されている.本症例に関しても,その後薬物治療を行ったものの約12か月で死亡の転帰を辿った.悪性黒色腫の消化管転移において最も重要な予後因子は,遠隔転移が消化管転移のみであること18)と消化管転移の完全切除が期待される場合19)20)である.ただその一方で,出血・穿孔・腸閉塞などの臨床症状を認めた場合,臨床症状の改善効果は保存治療よりも病変の切除やバイパス術などの手術治療が優れている19)21)22).
本症例では他の遠隔転移が存在したものの,元々の全身状態は良好であり,腸重積の再発の可能性のほか,一部腫瘤で漿膜下への浸潤を認めたことから穿孔の可能性も考慮し,触知しうる全ての腫瘍を切除した.結果的に合計278 cmの小腸切除を行ったが残小腸長は十分であり,短腸症候群などの後遺症も見られなかった.しかしながら,ADL不良例や小腸大量切除を要し短腸症候群が懸念される症例に関しては予後を考慮し,臨床症状の原因となった部位のみの切除とするなど最低限の切除となるように心懸ける必要があると考えられる.
近年,悪性黒色腫に対して化学療法・分子標的治療薬だけでなく免疫チェックポイント阻害薬の開発が進んでおり,有効な全身治療の選択肢が増加している.予後改善に伴い本症例のような遠隔転移を有する悪性黒色腫に対する治療期間の延長が見込まれ,小腸転移により多発腸重積を来すような同様の症例が増加する可能性がある.有症状の悪性黒色腫小腸転移に対しては症状を悪化させることなく緩和手術を行い,全身治療に移行しなければならない.今後,さらに症例を蓄積し最適な治療を検討していく必要があると考える.
利益相反:なし