日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
総胆管結石治療用バスケット鉗子嵌頓に対し胆道ブジーが奏効した1例
地主 皓一清水 潤三山下 雅史能浦 真吾川瀬 朋乃今村 博司冨田 尚裕堂野 恵三
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2022 年 55 巻 9 号 p. 568-574

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Abstract

症例は80歳の男性で,胆石性胆管炎の診断で内視鏡的結石除去術を試みたところ総胆管結石が固く,砕石できずにバスケット鉗子が総胆管内の乳頭直上に嵌頓した.透視下にエンドトリプターなどを使用するも嵌頓の解除は困難であり,嵌頓解除目的に当科に紹介となった.手術は開腹後,胆管切開し,鉗子で採石具の把持を試みるも困難であったため,胆道ブジーを行う方針とした.胆道ブジーにて乳頭部を拡張させると,採石具と結石は十二指腸内に落ち込み摘出することに成功した.Tチューブを留置し,閉腹した.バスケット鉗子嵌頓の発生率は0.8~5.9%と報告されている.胆管切開からバスケット鉗子を引き出せない場合は,胆道ブジーは有用な手段と考えられた.

Translated Abstract

A 80-year-old man was admitted to our hospital with a diagnosis of choledocholithiasis and underwent endoscopic retrograde cholangiopancreatography. Stone removal with a basket failed and the wires of the basket fractured and impacted in the common bile duct, together with the stone. The patient was referred to our department because of the difficulty of retrieval of the impacted basket from the common bile duct. Open surgery was performed, in which we first tried to remove the basket through a longitudinal choledochotomy, but this was unsuccessful. Next, a papillary bougienage was performed and the basket was successfully released. A T-tube was inserted and the choledochotomy was closed. Impaction of the basket during endoscopic removal of common bile duct stones occurs in 0.8–5.9% of cases. In these cases, papillary bougienage may be a safe and effective method for basket removal.

はじめに

総胆管結石に対する内視鏡的結石除去術は,第一選択とされる広く普及した治療法である1).しかし,総胆管結石が固く,砕石できずにバスケット鉗子が総胆管内に嵌頓することがある.バスケット鉗子嵌頓の発生率は0.8~5.9%と比較的まれ1)2)であるが,その対処に難渋する場合は多く,内視鏡的に解除できない場合は手術を行うことがある3).今回,採石用バスケット鉗子嵌頓を解除できず胆管切開と胆道ブジーを併用して嵌頓を解除した1例を経験したため報告する.

症例

患者:80歳,男性

主訴:心窩部違和感,褐色尿

既往歴:膵体部囊胞,高血圧,糖尿病,脂質異常症,横行結腸癌術後

現病歴:上記主訴を自覚し,当院の消化器内科を受診された.血液検査にて肝胆道系酵素の上昇を認め,造影CTで径20×15 mmの総胆管結石と肝内胆管の拡張を認め,胆石性胆管炎の診断で入院となった.

内服歴:エンパグリフロジン,アムロジピンベシル酸塩,ペマフィブラート

家族歴:母 大腸癌.

飲酒歴:ビール500ml×2缶/日.

喫煙歴:なし.

アレルギー歴:なし.

入院時現症:身長163 cm,体重61.9 kg,意識清明,血圧157/104 mmHg,脈拍77回/分・整,体温36.8°C,眼球結膜黄染あり,眼瞼結膜貧血なし,心音・呼吸音異常なし,腹部は平坦軟右で自発痛,圧痛ともになし.臍部に3.5 cmの瘢痕と右下腹部,左上下腹部の3か所に小瘢痕を認めた.

入院時臨床検査所見:白血球13,100/μl,総ビリルビン5.4 mg/dl,AST 542 U/l,ALT 489 U/l,ALP 364 U/l,γ-GTP 903 U/l,CRP 3.23 mg/dlと肝胆道系酵素の上昇を認めた.

MRCPおよびMRI T2強調画像所見(入院14日前):膵囊胞フォロー目的に外来で撮像された.胆囊管の総胆管合流部近傍内に結石を認め,胆囊管は拡張していた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal MRI performed 14 days prior to admission for follow-up of pancreatic cyst. a: MRCP 3D image. b: T2-weighted image. MRI revealed a gallstone in the cystic duct (arrow). The cystic duct was dilated.

腹部単純CT所見:総胆管に径20×15 mm大の結石を認め,総胆管から肝内胆管に拡張を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal enhanced CT on admission revealed a stone of 20×15 mm in diameter in the common bile duct (arrow). The intrahepatic bile duct was dilated.

入院後経過:発熱や腹痛などの症状ないため抗菌薬で保存的加療とし,待機的にERCPおよび切石術の方針となった.入院第6病日にERCPを施行し,内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy;以下,ESTと略記)と採石用バスケット鉗子(437+クラッシャーOlympas Litho Crush 437)にて採石術が試みられた.結石を把持し,砕石を試みるもワイヤーが結石に噛みこんだまま動かなくなり,外すことも砕石することも困難となった.エンドトリプター,Olympus Litho Crush 237,ゼメックス タイコ3線の使用,ESTの追加も嵌頓解除は困難であった.内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation;以下,EPLBDと略記)は乳頭直上の嵌頓であったため困難であった.ワイヤーを残し,内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;以下,ENBDと略記)チューブを留置し,処置終了とした(Fig. 3).その後,胆管炎の治療を優先する方針とし,ENBDチューブによる減圧で炎症と肝胆道系酵素は低下傾向であったため,入院第14病日に再度嵌頓の解除目的にERCPが施行された.前回結石を把持したままのバスケット鉗子を総胆管内に押し上げることを試みられたが,これも困難であり内視鏡での除去は困難と判断され当科に手術での摘出目的に紹介となった.入院第16病日に総胆管結石,胆囊結石,採石具嵌頓に対して胆管切開結石摘出術,採石具除去術,胆囊摘出術を施行した.

Fig. 3 

(a) ERCP showing a stone and an impacted basket in the common bile duct. (b) A basket with an impacted stone in the lower common bile duct. (c) An ENBD tube was placed.

手術所見:14 cmの右季肋下切開にて,開腹した.横行結腸癌術後であったが,術野に明らかな癒着は認めなかった.肝十二指腸間膜は炎症によりやや肥厚していた.下部総胆管に採石具と結石が触知できた.Calot三角にもやや炎症を認めたが,比較的剥離は容易であった.胆囊漿膜を切開後,胆囊と胆囊床を剥離し胆囊動脈を結紮切離した.肝十二指腸間膜を切開し,総胆管の全面を露出させた.胆囊管の合流部のレベルで4-0PDSで支持糸を置き,胆管に1 cmの縦切開を置いた.鉗子にて胆管内に嵌頓した採石具を把持試みるもENBDチューブがつかめるだけでバスケット鉗子の把持は困難であった.胆道鏡で観察すると下部総胆管に採石具の嵌頓を確認できた.胆道消息子でのブジーにて徐々に(Fig. 4①②③の順に)乳頭部を拡張させる(Fig. 5)と採石具と結石の嵌頓は解除され十二指腸内に落ち込み,それを胆道鏡にて確認した.採石具を鼻から引き上げ口から摘出した.バスケット鉗子内に結石は認められず,引き出す途中で落下したと考えられた.また,バスケット鉗子にはENBDチューブも絡みついており,同時に抜去した.胆道鏡にて肝内胆管を確認すると左肝内胆管に結石を認めたため胆道匙で摘出した.胆囊を胆囊管で切離し,胆囊管は4-0PDSを用いて連続縫合で閉鎖した.総胆管はTチューブを留置し,切開部の両端を5-0PDSを用いて単結紮で縫合閉鎖した.ウィンスローに19 Frブレイクドレーンを留置して手術終了とした.

Fig. 4 

Biliary bougie: ① 3 mm, ② 4 mm, ③ 6 mm.

Fig. 5 

(a) Papillary bougienage was performed and the basket was successfully released. (b) Schematic of a papillary bougienage.

摘出物所見:バスケット鉗子にENBDチューブが絡みついていた(Fig. 6).胆囊は壁肥厚認め,内部には5 mm大の胆石を二つ認めた.

Fig. 6 

The ENBD tube became caught in wires of the basket.

術後経過:術後経過は良好で,術後16日目に退院となった.術後2か月で再入院のうえTチューブを抜去した.術後6か月の現在肝機能異常は認めていない.

考察

総胆管結石の治療は内視鏡的結石除去術が第一選択であり,EST後にバスケット鉗子やバルーンカテーテルを使用した場合の結石除去率は90%に及ぶ4).内視鏡処置による偶発症としては,出血,膵炎,敗血症,胆管炎,穿孔そして時にバスケット鉗子嵌頓がある3).バスケット鉗子嵌頓とはバスケット鉗子で把持した結石が胆管末端~乳頭部に嵌頓し,十二指腸へ除去できずにバスケットワイヤーを外せないまま固定された状態のことである5).バスケット鉗子嵌頓の発生率は5.9%と報告されていたが,内視鏡治療の発展により0.8%に減少したとの報告がある6)

医学中央雑誌(1964年~2021年)およびPubMed(1950年~2021年)で「バスケット鉗子」,「嵌頓」をキーワードとして検索したところ,バスケット鉗子嵌頓を来した際の対処法としては,さまざまな方法が報告されている.バスケット鉗子にて把持された結石を破砕する方法として,エンドトリプター7),体外衝撃波破砕装置(extracorporeal shock wave lithotripsy;以下,ESWLと略記)1),電気水圧衝撃波結石破砕装置(electronic hydraulic lithotripsy;以下,EHLと略記)8),ホルミウムYAGレーザー9)などが報告されている.一般のエンドトリプターは,内視鏡を一旦抜去し,結石の破砕はX線透視下のみで行う必要があり,内視鏡下の観察が行えないため,出血や穿孔などの偶発症のリスクを有する.ESWL,EHL,ホルミウムYAGレーザーは常備しておらず使用できない施設が多い.また,十二指腸乳頭部を開大させる方法としてEPLBDの報告もある10)11).O’Broenら12)の報告によるとバスケット鉗子嵌頓過去報告症例83例中,ESWL 22例(27%),EPLBD 18例(22%),開腹手術9例(11%),エンドトリプター5例(6%)であった.我々が調べられるかぎりでは開腹手術の報告例は8例であった.7例は胆管切開を置き,切開創から嵌頓したバスケット鉗子を引き出していた3)13).残り1例は胆管切開を置いたものの,本症例と同様に引き出すことができず,十二指腸切開後に乳頭切開を延長し,乳頭より嵌頓したバスケット鉗子を除去し,胆汁漏予防目的に胃腸吻合をしていた14).また,腹腔鏡を用いた報告例は4例あった.2例は胆管切開を置き,切開部から引き出していた15).残り2例は胆道鏡を用いて胆管切開部より挿入し,バスケット鉗子を通して結石を除去するものであった12)16).Tチューブを置いた症例は開腹手術の2例であり,他の症例は全て1次縫合していた.

我々が検索した範囲では胆道ブジーでの嵌頓解除の報告はなかった.本症例のように乳頭に嵌頓した場合,胆管切開部よりバスケット鉗子を把持することができないことがある.その場合は胆道ブジーでの解除も一つの方法として挙げることができた.当施設では胆道消息子(Fig. 4)は3 mm,4 mm,6 mmのサイズがあり,本症例では細いものから通過させていき,6 mmが通過した時点で嵌頓が解除された.嵌頓していた結石が短径15 mmであったことを考えると20 mm程度に拡張されたと考えられる.EPLBDでは12~20 mmのバルーンを用いて乳頭を拡張させているため,それを考慮すると安全も確保されていると考えられる17).ブジーをしたことによる影響は乳頭浮腫による術後胆道内圧の上昇がある.また,総胆管切開を置いたことで総胆管のコンプライアンス低下も加わって,内圧の上昇が生じる.術後1週目までは内圧上昇が起き,2週目より低下する18).そのため本症例のように術前から胆管炎を併発している場合は,1次縫合ではなくTチューブなどにより内圧を減少させることが必要と思われた.バスケット鉗子嵌頓に対する手術は安全性が最優先されるべきであり,胆管切開部からバスケット鉗子を引き出せない場合には,胆道ブジーは有用な手段と考えられた.

本症例の経験より,サイズが大きく固い総胆管結石はバスケット鉗子嵌頓のリスクが増える.このような総胆管結石症例では治療の第一選択を手術にすることでバスケット鉗子嵌頓を予防できる可能性がある.

利益相反:なし

文献
 

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