日本消化器外科学会雑誌
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特別報告
ロボット支援下右側結腸癌手術におけるリンパ節郭清のアプローチの工夫
小澤 真由美渡邉 純千田 圭悟石部 敦士遠藤 格
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2022 年 55 巻 9 号 p. 602-603

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はじめに

右側結腸癌に対する結腸右半切除術において,D3郭清またはcomplete mesocolic excision(以下,CMEと略記)が重要とされ,embryological planeを意識した剥離や中枢側での血管処理が肝要となる1)~3).Surgical trunkやgastrocolic trunk(以下,GCTと略記)周囲の郭清では,血管のvariationや膵臓や十二指腸などの周囲臓器との関係が複雑であり,腹腔鏡手術などの低侵襲手術における難易度は高く,膵損傷や血管損傷による出血に注意が必要である.また,本邦のNational Clinical Databaseを用いた後ろ向き解析では,結腸右半切除における術後30日死亡率は1.2%,輸血は2.8%に施行されており,決して低くない頻度である4).低侵襲手術において,surgical trunkやGCT周囲の郭清精度を担保しながら,安全に施行することは極めて重要であると考えられる.また,2022年4月より保険適応となったロボット支援下結腸癌手術を本領域において,いかに安全に導入するかも喫緊の課題である.

我々はこれまでに腹腔鏡手術において尾側アプローチでリンパ節郭清を施行してきた5).Surgical trunk,GCT周囲の郭清を安全に行うために,surgical trunkの頭側で横行結腸間膜後葉を同定し,膵体部,胃間膜後葉と横行結腸間膜前葉との間の剥離を先行し,中結腸動脈右枝を切離,右胃大網静脈の走行を確認し副右結腸静脈を切離するというアプローチの工夫を行ってきた.本手技はロボット支援下手術においても応用可能であり,本手技を用いたロボット支援下結腸右半切除術の動画を供覧する.

手技

結腸右半切除術において,術前画像診断が重要であることはいうまでもない.各血管の分岐や走行を確認しておき,術中はそれを予測しながら手術を進めることが肝要である.術中におけるsurgical trunkの郭清では膵臓の下縁を確認すること,GCT周囲の郭清では右胃大網静脈を確認し,副右結腸静脈を処理することが安全な郭清につながると考えている.

1. 尾側アプローチでのリンパ節郭清

本症例では中結腸動脈の左枝を温存し,右枝を根部で切離する典型的な郭清の症例である.後腹膜アプローチで後腹膜授動の後,内側アプローチで尾側より血管処理を伴う郭清を開始する.回結腸静脈の根部でsuperior mesenteric vein(以下,SMVと略記)を同定した後,SMV左縁に沿って頭側にsurgical trunkの郭清をすすめるが,surgical trunk左側縁頭側で横行結腸間膜後葉を同定し,膵体部,胃間膜後葉と横行結腸間膜前葉との間の剥離を先行することが本手技のポイントである.

2. 横行結腸間膜の切離先行による胃間膜後葉の同定

Surgical trunk左側縁頭側で横行結腸間膜後葉の腹膜を切開し,横行結腸間膜を間膜前葉に向かい切離すると脂肪の境界から横行結腸間膜前葉と横行結腸間膜後葉との剥離が可能となる.また,症例によっては網囊内に到達する(動画1).次に頭側で同定した横行結腸間膜前葉を右側に剥離することによって,surgical trunk郭清の前に膵下縁を,GCT周囲の郭清の前に右胃大網静脈を同定することが可能となる.膵下縁を目視しながらsurgical trunkの郭清を膵下縁まで施行することによって膵損傷を回避し安全に郭清が施行できる.また,GCT周囲の郭清では右胃大網静脈が胃間膜内に走行していることを確認しながら,結腸間膜側に立ち上がる副右結腸静脈を認識し,分岐根部で切離することによって,静脈損傷を回避した安全な郭清が可能となる(動画2).

血管処理後は頭側の胃間膜後葉の剥離が進み,膵前面や十二指腸からの剥離を追加し,郭清とCMEが完遂する(動画3).

おわりに

右側結腸癌手術に対するリンパ節郭清の際に,surgical trunkとGCT周囲郭清の前に頭側の剥離を先行するアプローチを供覧した.本法は膵損傷や静脈損傷を回避するための工夫として報告した.安全で確実なリンパ節郭清を行うために,膵下縁や右胃大網静脈などのメルクマールとなる構造物を確認しつつ手術を進めることが重要であると考えている.本手技は腹腔鏡手術で施行してきたが,ロボット支援下手術にも応用可能である.結腸右半切除術のアプローチ方法は各施設によって異なるが,各施設での工夫を共有することによって手術手技の改善が期待される.

利益相反:なし

文献
 

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